74 『冷酷なる雨音』
『隠蔽の兜』により、『緋色の魔術師団』の緋色のビロードのロングコートに近い形状、動きやすさを重視し、前は開いてる…くらいまでしか分からず、全体像がぼやけて霞がかっていたが…、兜が破壊されたことにより、腰まで届きそうな長い亜麻色の髪が、フワッと出てきて、長くカールしたまつ毛、可憐で儚く、艶の良い人形のような端整な外見をした美少女が姿を現す。
今まで霞んで分からなかったが、緋色のコートの下が…ハイネックで身体にぴったりとフィットする、『漆黒』の丈の短いジャケット。
胸元には、『銀糸』で、小さく師団の紋章が刺繍されて、ボタンやファスナーも、全て艶消しの銀で統一かよ。
ああ…これは要はあれだ!イメージとして、腹のへそよりちょい下までの丈の長さの、真っ黒な革のライダースジャケットって感じだ。
ああ!?メタ発言だぁ!?うるせえ!
動きやすいように、丈の長いコートの深いスリットから、引き締まった黒いジョッパーズ風のパンツと、ロングブーツが見えて戦士風の衣装なんだがよ、身体のラインが見えちまって…はぁ?めっちゃ足が細長く綺麗何だが?
…『緋色の魔術師団』らしく防御力や機動性を上げる魔術刻印が刻まれた、全身漆黒のガチな戦闘着何だが、首筋から胸元にかけて危うい魅力を醸し出している…。
なるほどな。
これは、確かにあのクラートの妹だわ。
なんじゃこりゃ。
見た目こんな繊細な雰囲気だったのかよ…。
はぁ…俺はこんな奴に苦戦してたのか…。
今まで不気味さで嫌煙されていたが…『隠蔽の兜』が無くなり、その中からこれが出てきたら、まぁ…。
だよなぁ…。
魔術科共め、完全にそのギャップやらで困惑と共に、顔が一目ぼれしたような表情をしてやがるぞ?おい。
ちったぁ俺の怪我の心配をしろや!
んでそのレグンが顔を上げ、周りを見渡して…
「…なんですか。全員そんなボケっとした間抜け面を晒して。私、まだ15なんですけれど?情欲してるんですか?ロリコンですか?」
こいつ…やっぱり嫌味な奴だわ。
「おいこら。てめえクラートの妹だからって、あんま舐めた口利いてんじゃねえぞ?大体てめえ、どうやって『緋色の魔術師団』に入団しやがったんだ?」
少しムスっとした表情で立ち上がる…何でムスっとしてんだ!
「…ふん。そんな生意気な小娘な私よりも、殆どが弱いじゃないですか。全員年上のくせに。どうやって入団したかなんて『隠蔽の兜』を被って、師団長以外をボコってやって実力を示しただけの事です。」
ああ?マジかこいつ。
かなり脳筋じゃねえかよ。
「んで?ウンシュルト家の方は良いのかよ?侯爵領にいながら魔術師団なんて、併用は厳しいんじゃねえか?特にてめえの年なら尚更な。」
俺が聞くとやや難しそうな顔をする小生意気なレグン。
「はぁ…。私が末っ子だからって良いように使いまわすあの家にはうんざりです。だからこっそり魔術師団に入団した後は、さっさとおさらばしてきました。どうせ魔眼にしか興味のない家系です。お兄様も2人いますし、家督問題とか私がいなくても平気でしょう。それにしても、『緋色の魔術師団』は給料が良いですねえ。師団長の呼びかけには参じないといけませんが、後は適当にお宿に泊まりながら生活してますが。」
こいつ…兜が破壊されてから、小生意気な本性を隠さなくなりやがったな…。
だが、こいつも苦労してたっぽいな。
クラートの奴が家を飛び出るくらいだから、ウンシュルト家ってのは大分ねじ曲がってるのかもしれねえな。
「だがよ、魔術師団にいる以上、最低限の仕事があるだろうが。それはどうしてんだ?」
「一々言わないといけないんですか?放任されてるって言ったじゃないですか。ま、師団長から、やれ魔物を討伐して来いなど、やれ貴族の汚職について調べてこいなど、稀に面倒くさい指示には従ってますが。」
こいつ、俺のゼロ距離射撃をもろに浴びて、ローブを手でパンパンと叩きながら平然と立ちやがる。
クラートと言い、どうなってんだ?こいつら兄妹は。
てかおい、俺の左腕…ポーション誰かくれねえか?
血まみれなんだが。
したら、ローズクォーツは駆け寄ってくれている。
「レグルス公爵様…。お怪我は大丈夫ですか?私自身も魔術師。たまにポーションを使います。アメシスト級ではありますが…。」
は…やっぱり中々気が利くな。
「ああ。ありがとうな。ローズクォーツ。俺の…婚約者。」
ああ、やっぱりその赤く染まった顔も綺麗だな。
上品さの中に、その可憐な少女が垣間見える姿が俺は、気に入っている。
「こほん。ではえ~と、『霞みの隠者』様ならぬ、レグン・ウンシュルト様?今回はどのような意図があって、魔術科の指南に来訪されたのですか?」
アストリッド師団長がレグンの傍まで行き、俺も気になっていた事を聞く。
「はぁ…。今、『琥珀騎士団』とあなた方『赤曜の魔術師団』が、この王都の学園で指南に行くと聞いたので、師団長に私も行きたいと嘆願してみました。クラートお兄様に…話したい事、謝りたい事、色々とあったので。じゃあその代わりに、魔術科指南に来ているであろう、1年の燦爛クラスの魔術師の実力が如何ほどのものか、確かめてこいと。まぁ、将来有望な方をいつかスカウトでもしたいのでは?
とは言っても、『無慈悲な閃光』や『微笑む災厄』のブリッツシュラーク様は稼業で厳しいだろうから、本命はヴァールハイト家のご令嬢、『静謐なる支配者』でしょうね。生憎とここには、いらっしゃらないようですが。」
なるほどな。
知り合いにどう接したら良いか分からない、とはクラートの事かい。
そして、それと同時にヴァールハイトの奴を調べてこい、ってか。
そして小生意気なレグンが俺の前までトコトコやって来て、あ?なんだそのムスっとした顔は!?
「ちぇ~。まさか私が敗北するなんて…。『霞みの隠者』の名折れです。それにしても誰も『無慈悲な閃光』さんの傷に隣の人以外にだ~れも駆け寄ってくれないなんて。可哀そうですね~。…はいこれ。サファイア級ポーションです。完全に治ると思いますよ。」
何故こいつは俺に、一々嫌味が含まれてやがる…。
「おお~!!クラっちの妹だったのか~!!道理で強いわけだね~!!でも~、クラっちもそうだけど~、やっぱり可愛いね~!!流石は兄妹だ~!!あっはっはっは!!」
「うえあ!!?ふぇ!?い、いつの間に?ブリッツシュラーク様?びっくりさせないでください…。」
「けっ!いい気味だぜ。何でか知らねえが、てめえ、随分と俺には嫌味たっぷりだからなぁ。」
「は?あらあら?ならポーション返してもらいましょうかね~?」
しっかしブリッツシュラークめ、いつの間にやらレグンを覗き込むようにして、無駄に相手を困惑させる絡み方…。
流石としか言いようがないが。
「んでブリッツシュラーク。てめえ、いつの間に気づかないうちに一瞬で来やがったんだ?」
相変わらず長いロッドの魔杖でくるくると遊びながら、のほほんとしてんなぁ。
「ん~?それは~、『第3階梯:雷:ブリッツシュネル』での超高速移動してきた~。」
良く見ると、確かにブリッツシュラークの奴、全身に青い稲妻が少しバチバチと纏われてやがる。
相変わらずの規格外っぷりだなぁ…。
そんな時、ローズクォーツが口を開いた。
「私、爵位が侯爵ですから、王都外の貴族領にいることもありまして、クラート侯爵様の『紅眼の魔人』の異名も有名ですが…かのウンシュルト侯爵様のレグン様の異名も、良くお聞きになった事がありますよ。『冷酷なる雨音』と。お姿は見たことがありませんでしたが、レグン様がこれ程可憐ですのに、あまり見た目とそぐわない異名ですね…。」
それを聞いたレグンが少し嫌そうな顔をして、
「それ、私が貴族領街の近くの学園に所属してた時の話です~。寄ってたかってくるうざったい、男子のハエ共を近寄らせないよう配慮して、やんわりと誘いを全て断ってたのに…。余りにもしつこくて流石にキレて全員叩きのめした話からの異名ですよ?
酷くないですか?私が被害者だって言うのに!」
…こいつ嫌味たらしいが、大変だなぁ。
なんだか憎めねえ。




