72 魔術科指南3日目 大広間まで
俺とローズクォーツで6階『白銀の回廊』に上がり、魔術科まで続く『門』へ一緒に入る。
俺は『学生証』を取り出して、
「ブリッツシュラークか?悪いな、遅くなって。もう大広間の方へ移動したか?」
俺がローズクォーツの手を引きゆっくり歩きながら、問いかける。
『おお~!レグっち無事終わったか~!うん。全員大広間の方へ移動したよ~!あと兜さんもいるから~!』
…あの兜野郎、やっぱり来てやがってか。
だが、ローズクォーツの元までのやり取りでは、どうにも完全に嫌味だけの奴でもないみたいだが…。
「了解だ。すぐに向かう。後は分かっているとは思うがもう一人連れて来たから。」
『おお~!!レグっち~!昨日言ってた女の子だね~!!うんうん、じゃあ待ってるよ~!!』
そう言って通話を切ったが、…やめろ、恥ずかしい!
俺だって啖呵切ってローズクォーツを連れてきたが、戸惑いの方が強いんだからなぁ。
「今のは、ローズクォーツも試合で見ただろうが、俺と共に出た『微笑む災厄』のアトリア・ディ・ブリッツシュラークだ。まぁ能天気でハチャメチャやらかすが、根は良い奴だから怯えなくて平気だ。ま、『宝玉階梯:ダイアモンド』の規格外の力を持った魔術師ではあるがな。」
最初は薄暗くて日差しが殆ど入らない、アーチ状の石造りの廊下に、唯一の明かりが、壁の青い炎の灯る『永炎の燭台』。
湿っぽい雰囲気の廊下だとしか思ってなかったが…けっ!何だか遺跡探検しているようで…デートしてる気分だ。
「うふふ。ブリッツシュラーク様のお力には正直怖さしかありませんでしたが…レグルス公爵様が優しい人だと言うのなら、私も安心できます。
…魔術科様の廊下はとても癒されますね。とても静かです。上流科の煌びやかさも悪くはないですが…この程よい暗さが、とても心地良いです…。」
俺たちはゆっくり進んで歩く。
はっ!魔術科の指南をしに行かなきゃなんねぇのに…俺も、もう少しゆっくりと歩いて、この心地よさを味わっていてえな。
「俺は最初、初めてここに来た時なんざ、陰湿な場所としか思っていなかったがなぁ…。ああ。今はローズクォーツと同じ感想だ。これくらいの暗さが心地良い。」
ギュッと手をお互い握って歩く。
「デートしている気分だ。」
「デートしている気分でございますね。」
おい、ハモったじゃねえかよ…。
ちょっと気まずいだろうが…。
チラリと見れば…ローズクォーツの顔が赤くなってるし…。
「…ああその通りだ!デートをしているんだ!ま、大広間までだがな。…なあ、ムート侯爵領に今日は帰っちまうのか?」
もっと長く一緒にいたい。
明日も会えるが、もう少し長く一緒の時を過ごしてえだろ?
「…そうでございますね。私のお兄様は2年燦爛クラスで、尚且つ生徒会の会計をやっておりますから…。一緒に帰る事になりますね…。」
は?ローズクォーツの兄が燦爛クラスで?しかも生徒会のメンバー!?
「おい…マジか。ローズクォーツの兄になんて説明したら…。流石にグラオザーム家に嫁ぐのは反対されるんじゃねえか?」
…やめてくれよな。
そういう後出し情報…。
まぁ、どうであれ納得させるがなぁ…。
「ご心配なされずとも大丈夫です。レグルス公爵様。私が決めた事に口を挟んでくる人でもないですから。…あ、あ、あの…もし良ければ、えっと…」
「…グラオザーム家に今日は泊まりに来てほしいな。執行人の家系だからと言って、俺の両親も、あと妹のチタニアって名前だが、怖い人たちじゃねえ。まぁ、俺が思った以上に心が弱かったせいで…醜い奴ら共を相手にしている内に、口が悪くなっちまっただけだからなぁ。」
…ローズクォーツが言い悩んでいるのを好機と見たから、俺から誘った。
女に無理やり言わせる事じゃねえ。
「で、では…お言葉に甘えさせていただきます…。」
正直言って…心が躍った。
まぁ…それと同時に、ローズクォーツを闇の道に引きずり込む事を、罪悪感もある。
だが、もう悪いが一緒に俺と最後まで歩んでくれ。
俺らがデート気分で[アウグストゥス大広間]に到着すると、既に『赤曜の魔術師団』達の指導が始まってやがった。
「おお、流石にもう指南始まってるな。はっ!初日の湿っぽい雰囲気はどこへやら。下位、中位クラス全員活気に満ちてやがる。ああ、いいぞ。やっぱりてめえらは才能に満ちてやがったんだ。」
そもそもの話、『第1階梯』で初歩魔術、『第2階梯』が一般魔術、そして『第3階梯』の魔術で中級レベルであり、ここまで使えれば十分一人前の魔術師だろうさ。
「『第3階梯:炎:フォイアーパイチェ』!ぜえ…はぁ…。」
「『第3階梯:大地:ラオプシュナイデン』!…かなり疲れますね…。」
下位クラスの1人が火の鞭を作りだしバシュウン!と音を響かせているな。
そして同じく下位クラスの1人も鋭く切り裂く木の葉を生み出し、ヒュウウン!と空気を裂く音がする。
下位クラスでもざっと見れば『第3階梯』の魔術を1~2発程度なら使えてやがる。
『第3階梯』の魔術からかなり魔力使うからなぁ。
上流科の貴族連中共は、貴族の血筋で男爵程度でも魔力量が多いからな。
だからこそ、わんさかと適当に魔術をぶっ放せるわけだが…
「これが本当に、魔術科様の下位クラスと中位クラスでございますか?一般家庭のご出身でありながら、『第3階梯』の魔術を少しでも使えますとは…。お強い方々です。」
ローズクォーツの驚きの感想に俺も同意だ。
「そうだろう?最初は余計なクラス分けのせいで、自分たちは下だと劣等感やらで、あまりやる気がなさそうだったがな。ま、今は活気に満ちてて結構な事だ。」
よく見ると兜野郎も少し指導してるじゃねえか。
「【無駄に身体を力むから、余計な魔力を持ってかれるんです。雑念を取っ払って、平常心、心を落ち着かせてもう一回、『第3階梯』の魔術を使ってみてください。今まで1~2回程度だったものが、4回くらいは魔術を行使できますよ。ポーションを渡しますから、魔力も戻るでしょう。】」
ほ~ん、昨日の嫌味はどこへやら。
普通に懇切丁寧じゃねえかよ。
んでブリッツシュラークは…
「おお~!!君は炎か~!!なら~もっと激しくド~ン!!と燃やした熱々の~ご飯が作れる~!!あっはっはっは!!」
…あいつは何を言ってやがんだ…めっちゃドン引きされてるだろうが…。
「ぶ、ブリッツシュラーク様は…とてもユニークなお方なのですね…。」
…ローズクォーツも大困惑してるしよぉ。
「…あ~、まぁああいうおバカだが、実力は規格外だし、さっきも言ったが根は良い奴だ。ああいうムードメーカーもいた方が楽しいだろ。」
「うふふ。燦爛クラスの皆様はとても楽しい方々ばかりでしたからね。」
そうかぁ?エルナトにしろ、ヴァールハイトにしろ当初は面倒くさかったがな…。
そんな事を思っていると、アストリッド師団長が俺達の方までやってきた。
「レグルス君ようやく来たわね!そして~、ふっふっふ~、な~るほど!そのとても上品でとっても綺麗な子が、昨日の約束してた女の子ね?ここまで連れて来ちゃうなんて、なーにがあったのかしらぁ?」
…ちっ、からかってきやがってなぁ。
どうであれ突っぱねるはずだったのに…気づけばデート気分で楽しみながら歩いて来たからなぁ。
「…2ヵ月前から気にかけてた子だ。気高く品があって将来有望だろうと思ってた、ローズクォーツ・ムート侯爵だ。」
クソったれめぇ!!アストリッド師団長!何をニヤリと笑ってやがる!
「ほうほう…。あの能面のような顔をしていたレグルス君が~女の子と手を繋いじゃって~!!
…まぁ、どうやらいい答えなのかは分かりませんが、得られる物があったようで何よりです。
初めまして。ムート侯爵様。私が『赤曜の魔術師団』師団長、アストリッド・モルゲンシュテルンです。レグルス君を支えてあげてくださいね。」
「初めまして…。アストリッド・モルゲンシュテルン師団長様。改めまして私がローズクォーツ・ムートと申します。少しの間、私も魔術科様の指南に参加いたしますわ。どちらかと言うと、私が指南を受ける側かもしれませんけれども。よろしくお願いいたします。」
相変わらずだ。
上品な立ち振る舞いに、言葉遣い、口のきたねえ俺には勿体ない子だなぁ。
「ほ~う。とても本当に美しいですねぇ…。ムート侯爵様と言うと、とにかく幻想的なお姿に、礼儀やマナーが著しく綺麗と有名ですからねぇ。主に後方支援、味方のサポートをする魔術を得意とするお家系でしたね。うんうん、レグルス君!いい子捕まえたじゃない!指南中にイチャイチャしちゃうなんて!
!」
「なっ!おい!やめろ!!恥ずかしい!!」
ローズクォーツも恥ずかしがってるだろうがぁ!!
さて、指南も大詰め、間もなく終わる。
これで下位クラスと中位クラスの指南は終わり、明日から上位と最上位クラスか。
さて、どんな奴らかねえ…
…兜野郎も今回は大人しく、指導してたしな。
「【(―…私自身も何がしたいのか良く分からないんですよ。―)】」
…知り合い。
誰の事だ?知り合いが一般生徒側にいるから、こっちに来てるのか…。
考え込んでいると、アストリッド師団長が
「魔術科の皆様、この3日間お疲れ様でした。今回の指南でより一層、気高くなられましたね。その心をどうか忘れないで下さい。そしてこれは私と『霞みの隠者』様でお話をしておりまして、魔術師の高見を改めて見ていただくため、最後にもう一度、模擬戦を見ていただきます。
レグルス君!『霞みの隠者』様と模擬戦してください!遅れた事と~、イチャイチャしてた罰です!」
…は?何で俺なんだよ!?




