64 魔術科指南 『赤曜の魔術師団』
石が赤くなり、煙を立てながら、俺の魔術で穴を開けてしまった壁を見ていると、ぞろぞろと足音が聞こえて、この辛気臭え教室に10名ほどの魔術師団が入ってきた。
「え~とぉ?一体何があったのかな?何だかとても雰囲気が悪いわよ?」
振り返って、あの揺らめく撫子色の長い髪、金色の瞳…明るさとミステリアスさが合わさったあの女性こそ、『赤曜の魔術師団』団長…アストリッド・モルゲンシュテルンだ。
第6位の魔術師団でありながら、『宝玉階梯:ルビー』と、俺と同じだ。
魔術師団の服装か?
上質な赤いビロードの丈の長いローブ。ローブの裏地が黒であったり、襟や袖口に、銀糸で星の刺繍が施されていたりもするんだがな。
ローブの内側には、ポーション瓶や、魔術の触媒となる水晶などを収納するための、無数の隠しポケットが、機能的に配置されているんだとよ。
師団長のアストリッドには、肩の部分に団の紋章が刻まれた、銀の肩当てがついて、団長だと分かるようになってんな。
ついでに言えばローブの裾に、金糸で、複雑な防御魔術の紋様が刺繍されているぜ。
肩当ては副団長にもあるが、これは団長のみしか施されてねえな。
「レグっちが~!魔銃をぶっ放して~、ここの皆を恫喝したんだよ~!!」
おい、明るく話す内容でもねえだろ。
あー面倒くせ、アストリッドの師団長が俺をジト目で見つめてきやがった。
「え~!!?何やってんの!?レグルス君!!ダメじゃない!どうせいつもの癇癪でも、起こしたんでしょ?」
「ちっ!まぁ、感情的にはなっちまったがな。ここの連中のやる気があるんだかないんだかの、顔を見ていたら腹が立ってきたんだよ。ま、八つ当たりだな。悪かったとは思ってるがよ。」
どうにもアストリッド師団長には強気に出る事が出来ない…。
何というか、面倒見がいいから心が和むんだよな。
「はぁ…あ~、レグルス公爵が失礼したわね。一先ずはあなた方、下位、及び中位クラスの魔術戦闘指南をしに参りました、『赤曜の魔術師団』団長、アストリッド・モルゲンシュテルンです!まぁ、レグルス公爵の家、グラオザーム家は、代々光の属性魔術を継いでいて、後は…そうね~。とても非道な悪い人たちを…まぁ裏で処刑している家系なのよ~。だからかな。そんな悪者がどれだけ怖い存在で、強者なのかをとても理解しているのね?
まぁ、要は君たちも強くなりなさい、自分の身は自分で守りなさい、って恫喝という不器用な方法で叱咤したんだと思います。」
…流石は俺の事をよく分かってやがる。
裏社会の住人の屑共、影の権力者、裏に潜む闇組織、とにかく魑魅魍魎が跋扈する世界を嫌というほど見て来た。
大概そう言うのは狡猾で尚且つ強い。
そんな物にずっと当てられたせいで、気付けば俺が暴力的になってるってんだから笑えねえ。
殺して殺して、とにかく殺しまくって、殺しが当たり前になって…付いた異名が『無慈悲な閃光』たぁ、誰のせいで無慈悲にならなきゃならねえと思ってやがる。
「ま、こいつらもこのルミナス王都にある学園に、入学できる実力はあるはずなのに、クソみてぇな等級分けするクラス分けのせいで、こいつらの中で劣等感、諦めが透けてやがる。この3日間でこいつらに自信をつけさなきゃならねえ。
全く、なんでそんな事を俺たちがやらなきゃならねえのか。」
「そう言う事は恫喝じゃなくて、言葉で言いなさいな!レグルス君!」
「言葉にしたら無反応だから、魔術ぶっ放してビビらせたんだよ!!なんか喋ろや、ってな。」
けっ!ビビられる、畏怖される事には慣れてんだ。
何片手を頭に乗せて呆れてんだよ…アストリッド師団長さんよ!
「はぁ…とにかく[アウグストゥス大広間]に行きましょう!」
大広間へと向かう道のりも、相変わらずアーチ状の石造りの廊下で暗く、壁に青い炎の灯る魔法の燭台が不気味に辺りを照らしているだけ。
遺跡かよ。
そんでもって到着した場所は…縦に長い長方形型の大広間。
高い吹き抜けの天井に、壁際には白い大理石の柱が並び、んでこれまた大理石上の床が、大広間全てに広がってやがる。
壁そのものは相変わらずの石造りだが、合間合間にステンドグラスが差し込まれてんな。
壁に差し込まれた巨大なステンドグラス自体が魔術刻印が埋め込まれていて発光、床に七色の模様を描き出してんな。
これはあれか?噂の『水の聖堂』っていう小さな教会が、この学園のどこかにあるらしいじゃねえか。
そしてこの広間全体には俺らの教室と同じ魔術や物理を無力化する魔導具、『至高に栄光あれ』『宝玉等級:ルビー』による防護結界が広がっていて『第6階梯』の魔術すら完全に受け付けない…。
演習場という訓練の為だけでなく、多目的に使われるのが、この場[アウグストゥス大広間]。
そこまで広くねえから『至高に栄光あれ』なんて言う物を使えたんだろうけどよお?
「さて、全員到着しましたね!確か35名だったわね。では、魔術戦闘指南を開始します!本当は私たち『赤曜の魔術師団』だけでしたが、まぁ皆さんを怖がらせしまっていましたが、燦爛クラスのレグルス・アフ・グラオザーム君に?そして、アトリア・ディ・ブリッツシュラーク様にも来ていただいております。ですから軽い模擬戦でもしましょうか?ね?レグルス君?」
「そうですかい。互いに光の魔術師同士。俺が適任だろうな。このきかん防のブリッツシュラークじゃド派手過ぎて何をしでかすか分かんねえしなぁ。」
横のブリッツシュラークは興味深げにずっとキョロキョロしてるし。
流石に俺と、アストリッド師団長の会話の内容、やり取りで魔術科の連中共も多少は和み始めたか。
「え~!?でもでも~、最初に恫喝して~、魔術をぶっ放したのは~、レグっち~!!あっはっはっは!!ごヴぇ!?」
「うるせえ!いやその通りだがな!まさかてめえに正論言われるとは思わなかったがよ!?」
腹抱えて笑いこけてるブリッツシュラークの頭を小突いちまったじゃねえか!
とは言え…アストリッド師団長は流石に強いがな。
この国主力とは言え、第6位の『赤曜の魔術師団』の団長とは思えねえ。
『宝玉階梯:ルビー』なら第2位の『緋色の魔術師団』まで行けるのに、わざわざ『赤曜の魔術師団』で師団長をやっている。
ま、とにかく人数が多いからな。
これくらいの器のある人物と実力者でもなきゃ、務まらないんだろう。
「はいはい!喧嘩しない!さぁ~レグルス君?恫喝したお仕置きだよ~?」
「…お仕置きって、ったく。はいよ。俺も感情的になっちまったしなぁ…。」
別にここの連中共が悪いわけじゃない。
まだ入学3か月の1年生だ。
まだまだ弱くても当たり前。
それに思春期だろうし、遊びてえ気持ちは良く分かる…。
急遽指南に加わった俺たち燦爛クラス…強者を目の前にして、ポカンとしてしまう気持ちも分かる。
…苛ついただけ、そう、俺が裏でどうしようもない程の醜さを持つ、人間とは思えんゴミ屑共に当てられ過ぎて…羨ましいと思っちまっただけだ。
「お~い!?レグっち~?な~にをボーっとしてるの~?」
…手綱を握らなきゃならねえと思っていた、ブリッツシュラークのこの無駄な明るさに助けられるなんてな。
「いや、単なる考え事だ。さて、アストリッド師団長か…。魔銃は『宝玉等級:ルビー』の『煌きの星』を使うか。」
制服の腰の部分から新たな魔銃を抜き取る。
拳銃型の魔術媒介だが、全体的に赤と銀の色で覆われて、グリップに鮮やかな赤色の小さなルビーの魔石が埋め込まれている。
「うんうん、本気で結構です!なら私も、それなりの魔術媒介を使わせてもらうわよ?」
…ガチンコ対決かよ。
アストリッド師団長のローブ内側にあるポケットから、ワンド式の杖を取り出す。
ありゃ、『黄金の篝火』かい。
黒いワンド式で、金色の炎が揺らめくような丸い小さな水晶が先端から、浮かんでいる…。
おいおい、あれも『宝玉等級:ルビー』じゃねえか。
「俺も一品物を出しちまったがよ、まさか本気でやり合うわけじゃねえだろうな?アストリッド師団長?流石にここでは勘弁してもらいたいんだが…?」
「フフッ。あまり大きくない場所で本当の真剣勝負なんてやりません!魔術科の皆さんに、少しだけ本場の空気感を感じてもらいたいだけよ?」
妙に掴みどころのない人だ。
こんな感じの人だから、あまり荒ぶった感情が湧かねえ。
「静かだね~!!いっつも~、プンスカしてるのに~!!あっはっはっは!そんなレグっちもいいね~!!」
「ブリッツシュラーク…お前本当にどこでも元気だよな…。ったく。」
ま、こんな感じだからこいつにも遠慮なく、怒鳴っては楽しませてもらってるんだがね。
さて、まぁ模擬戦の開始と行くかね。
「ブリッツシュラーク様は本当に元気よね~。レグルス君も見習ったら?ま、それはそうと、軽く模擬戦と、あと軽いお仕置きです!」
互いに前に出て、軽い戦闘が開始される。




