61 庶務 兼 風紀委員2
回れ右してからエルナトは慣れたように、ヴァールハイト邸の家臣、執事さんに軽食を依頼。
2人で黙々と食べて時間を潰し、さらに食べ終わってから、『談話室・サロン』で、数人がゆったりと腰掛けられる、大きな布張りのソファに座って、美しい木彫りが施された、重厚なチーク材のローテーブルで暇をさらに潰していた。
もはやあの状態は…俺の自室?なのかあれは?にもあった『大理石の冷暖炉』と、『万象の噴水』までありましたわ~。
…夕食の時間までお互い頭を抱えておりましたよ。
「(―クラート!お前、あれどうするのだ!?あんな状態にまで篭絡したのか!?特にスピカ!?なんなのだ!?―)」
「(―本当にどうしようねぇ!?今日の深夜にもう強襲してきて、拒絶しないという約束しちゃったんだよ!?逃げれなかったんです!!ぅえ?今後もずーっと続くの!?ヤバいです!?―)」
「(―いや、元はと言えば、お前の女たらしが原因だろう!?流石にマズイだろう!?ええ!?流石に私でもサポートするには限度があるぞ!?明日は普通に登校なんだぞ!?―)」
「(―本当にそうだよねー!?ヤバいんだよ!?いや…平日だったら流石に来ないか!?いや、あの雰囲気だとまた強襲されちゃいそうなんですが!?―)」
「(―私も毎回ヴァールハイト邸に来れるわけではないのだぞ!?お前、庶務 兼 風紀委員だろ!?めちゃくちゃ風紀が乱れに乱れているではないか!?―)」
などと言うドタバタ会話劇があり現在です。
昨日と同じく磨き上げられた、一枚板の黒曜石でできた、どこまでも長い長テーブルに、深緑色のビロードが張られた、椅子に腰かけています。
しかし…スピカとノートに挟まれる形になっているのですが、その向かい側に救いのエルナト様がおられますので、どうにか昨日のように押し倒される事は今のところないが…。
なぜでございましょう?俺氏、生まれてから、全く安息の地帯に恵まれたことがありません!
今だってしがみついてこられたままなのです!
もう冷や汗が止まりません!ヴァールハイト家の皆様!風紀が乱れておりますよ!?
「本日より、クラートと、エルナト殿下には生徒会のメンバーとして加入していただいた。役職は庶務 兼 風紀委員だ。ここ最近、人出不足によりルミナス王立学園の全体的な風紀の乱れ、横行が広まりつつある。取り分け上流科の方でだ。それをクラート、エルナト殿下で対処してもらう事となった。本日は1名、顔合わせをしたが、明日から生徒会のメンバー全員との顔合わせ及び、活動をしていただく事となった。そのため2人は今後さらに忙しくなるだろう。今後より場合によっては荒事への実力行使で粛清してもらう場面も増える。
まぁ、流石に休日はあるし、毎日ではないにせよ、疲労が増える場面もあるだろう。スピカ、ノート、家族としてクラートと、エルナト殿下のサポートも頼みたい。
あまりクラートに甘えてはいけないよ?」
シリウスお兄様!流石ですわ!俺だって、スピカとノートは大好きで大事で、2人には救われる場面も多かったよ?
スピカには何があろうと拒絶と突き放す事をしないと、言った手前、可能な限り全てを受け止める必要がある!
ノートには深く傷つけてしまった罰もあるにも関わらず、こうして新たな居場所までもらえています!
…でも毎回の男女の身体のスキンシップは流石に、無理ですぅ~!!
そうするとですね、ジト目で俺たち3人をエルナトが見つめて、
「ああ…。その通りだ。クラートが元はと言えば悪いにせよ、流石に可哀そうだから、これ以上は追い詰めてやるな。ノート…お前あんなになってしまったのか!?そしてスピカ!?一体何がお前をそこまで変えてしまったのだ!?さ、さ、流石にクラスメイト 兼 友人として見過ごせないぞ!?」
めちゃくちゃパニックを起こしております!エルナト殿下!
「あらあら?もうそんな関係に?うふふ。若いっていいわねぇ。ね?クラート君♪」
何を楽しそうに頬をスリスリしているんですか!?スノトラさん!?
「あっはっは!!我が家に来たその日にやったか!!面白いぞぉ~!!」
何も面白くありません!!テュール公爵様!!
とは言え…このままでは2人を追い込んでしまう。
仕方あるめぇ。
「こほん。スピカ、ノート…大好きだよ?ふふ。突撃してくれて…ああ…よりもっと大事になった。ありがとうね?」
恥ずかしい!!何を皆様の目の前で言っておるのだ!!俺は!!
さ~て、制服に仕込んだトパーズ級のポーションを、キュポンっと音を鳴らして蓋を開けゴクリと流し込む…。
ぷはあ…沁みるわぁ。
うんうん、今日もやれるだけの事は達成と。
「クラート…。お前、本当に律儀だな…。本当に苦労の絶えない男だよ。とは言え…あまりそう言う言葉が女たらしの原因の一つなのだから、気を付けろよ?明日は登校するのだ。きちんとしてくれ。」
片手を頭に乗せてやれやれとしております、エルナト殿下!
「そ、そうね。悪かったわねクラート。少し迷惑をかけてしまったわ。」
「そそそ、そうですね!ごめんなさいなのですなのでわぁ!?」
…う~ん、相変わらず上手く喋れてないぞ!可愛いぞノート!!
そしてスピカもあの積極性…とても魅力的だ。
「スピカ、ノート。謝る必要なんてないからね?エルナトも言っている通り、元はと言えば俺が悪いからねぇ~。2人共とっても魅力的!!よしよし~なでなで~…ってはっ!!」
ついぞうっかりいつもの癖が!!
「ぐへ、ぐへへ。ク、クラートさん好きぃ~。」
「…もっと撫でてほしい。」
あ、やべ~めっちゃ恥ずかしい事を無意識でやってしまったわ?
だって仕方あるめぇ。
いつの間にか俺の身体が2人を必要としていたのだから!?
「おい!?こらクラート!!これ以上は甘やかすなら助けないぞ!?そもそもさっきも言ったが、お前は庶務 兼 風紀委員だろうがぁ!!お前が風紀を乱してどうするのだぁ!?」
「ま、誠に申し訳ございません!!」
流石に正論過ぎるので、平謝りをしましたよ…。
ドタバタ劇の夕食も終えて、もう就寝の時間。
…今日はどうしようか。
いざ一人の状態になると、どうしても快適空間って嫌になるんだよね~。
ウンシュルト家で苦しかった日々を思い出すからなんだが。
だから今日もまた、昨日と同じく、『大理石の冷暖炉』を切り、床で寝転んでる。
まぁ、ベッドの上に行くと昨日のスキンシップをなんか思い出しもして…ウンシュルトから逃げた俺に、そんな褒美?と言えばいいのか分からないけど、それはダメでしょ…。
余計にふかふかベッドに行きたくない。
目を開くと、壁掛け自室にある、ランプや、少し小ぶりな『光石』が付いてるシャンデリアは就寝用でかなり暗くしているが…それでも公爵邸の部屋の風景が視界に入り、ウンシュルト家の個室の情景が思い浮かんでしまう。
「(―あなたは!!魔眼という特別な天恵を持っているにも関わらず!!クラートお兄様はそれを活かすことなく逃げたんですよ!!私の気持ちが!!あなたは分かっているんですかぁ!!?―)」
「(―魔眼持ちって、なんだか不気味だよなぁ。―)」
「(―本当に心から欲しくて欲しくてたまらなかった物は全てクラートお兄様に持っていかれた!!―)」
「(―噂じゃ、確か聞いた事があるぞ?『紅眼の魔人』のヤバい話。―)」
「(―ええ、その紅く輝く眼光…本当に妬ましいですわ、クラートお兄様?―)」
「(―2日間見なかったから、今日も来ないと思ったのに…。―)」
「(―毎日…毎日毎日毎日毎日い!!腹立たしいと思っていましたからねぇ!!―)」
「(―ねえ…。そう言えば、あの紅い眼の人…寮に住んでいるんでしょ?―)」
「(―俺の魔眼の名は…『救済の魔眼』。君の孤独を救おう。―)」
「(―家から逃げるくらいであれば、私にその紅い魔眼を下さいよ!!―)」
「っ!!!がはぁ!!はぁ…はぁ…はぁ…。すう…もう、朝か。今日から登校開始か…。」
窓からは朝日が差し込んでいた。




