51 『紅眼の魔人』vs『雷滅の鬼神』
稽古最終日、俺は今、稽古終わり直前まで、最近の第2の住処と言ってもいい、[カエルス演習場]近くの談話室で暇を潰してる。
『万象の噴水』前で『どんな飲み物がご希望ですか?』とまあ、最早聞きなれてしまった響き声に、
「…紅茶で。んで、あとアイスコーヒーもお願い。」
そう言うと、『かしこまりました。』と響き受け皿に置いたゴブレット2つにそれぞれ、妖精が持つ水瓶から、注がれる。
…どちらの飲み物も2人の好みの物だ。
「(―…クラートさん。後日、シリウスお兄様に頼んでみましょうか?ヴァールハイト家にお住みになりますか?―)」
…昨日のノートの提案にできれば甘えたいが…う~ん、まあ、どっちみちあちらの返答次第。
それによって答えは変わるだろう。
万が一受け入れたら…スピカ…。
スピカをまた傷つけてしまうかもしれない…。
それにしても憂鬱だよ。
昨日と言い、今日の登校の時と言い、なーんで畏怖の視線で見られるんだよ!
『紅眼の魔人』って言うな!
ぼけぇ!!かつての二つ名だ、って言って…ませんね。
いやいやそれでも魔人でも怪物でも何でもないわい!!
騎士団の面々と姉さんに挨拶済ませて、ちゃっちゃとここに退散させていただきましたよ!
つか何!?
「(―うーん…なら稽古の最終日、その終わり頃に私がクラートのお相手を務めましょうか。喧嘩ではなく模擬戦方式の真剣勝負を。女の子をたぶらかした罰として☆―)」
これを騎士科の目の前でやるのぉ!?
マージで姉さん強いからねぇ!?
ていうかもう、俺が悪役じゃんか!?
…まぁ、浮気性の大馬鹿者の時点で確かに悪、かな…。
こうなったら、とことん悪を貫いて姉さんに倒されようかなぁ…。
もう寮に住んでる事バレてるし、どうせ騎士の風上にもおけん騎士科の事だから、グチグチ言う事しか出来ないだろうからなぁ!
もうどうでもいいや…。
スピカもノートもエルナトも、今日も上手く指南出来てるのかな?
最初の挨拶時に俺含め4人全員で[カエルス演習場]まで来たけど…。
そんでもって俺だけ避難避難っと。
…おかしいな?指南の手伝いがなぜ、避難と言う良く分からない状況になってんだ?
…まだまだ時間は始まったばかり。
少し…眠るとするかな…。
俺はビロード張りの、ふかふかした長椅子に腰かけて、円型のダイニングテーブルに二つのゴブレットを置き…目を瞑った。
「んっ…。うあ?」
眠りについてどんくらい経ったか?
そういや、まだ飲み物にも手を付けてなかったなぁ。
何だか俺の座ってた長椅子の左右から温もりを感じるのだが…?
「起きたかしら?クラート。もうそろそろ時間よ。」
んあ?スピカ?左から声が聞こえたのだが?
「そそそ、そうですよ!くく、クラートさん!もう間もなくです!」
右からドジっ子めいたノートの元気な声…。
は?あれ?寝ぼけてる!?
「んぁ!?え!?あれ!?何で2人共ここに!?」
大混乱起こしてます!
どういう事!?
なんかいつの間にか2人の間に俺、挟まれているんだが!?
「クラートが去ってから…ノートさんとずっとここにいたの。」
「うへへ…。く、クラートさんのね、寝顔拝めて…ぐへへ。」
おい、スピカはまともに答えを返してくれたが、ノートさん?相変わらずのドジっ子みたいな反応をするじゃないか!!
うへへ…最高の状況だ!!
しかしそうか…ずっと一緒にいてくれたか…。
本当に…本当にありがたい。
「そうか…本当にありがとう…。浮気性の大馬鹿者にも関わらず、俺は幸せ者だ。では行くとするかねぇ…。姉さんとの模擬戦の名を被った真剣勝負の場に。」
気付けば俺が『万象の噴水』で頼んだ飲み物は無くなっていた。
稽古終わり間近の[カエルス演習場]の、巨大な大扉の前。
そこまで着くまで2人と共に手をつなぎ、ここまで来た。
あぁ…とても長かったように感じる一週間だった。
その最後、騎士科の前で俺は姉さんと本気の戦いをする。
「フフッ。俺が悪役か…。では行くとするか!」
2人はそんな事はないという風な顔をしているが…化け物のように畏怖され…、浮気性の大馬鹿者の時点で「悪」だろう。
そして…扉を開けた。
稽古の終わり、騎士科の面々が騎士団たちの前で並ぶように立っている。
もう終わりだと、晴れ晴れとした顔をしている中での、俺とノートとスピカのご入場だ。
急に現れた俺に、何だか微妙そうな視線しかないが、知った事ではない。
くっくっく…。
ああ…悪いが俺も散々お前たちに嫌な思いをさせられたんでな。
甘んじて受け入れてもらおうか?
「…この終わり頃に何でまた来たんだよ。」
「はぁ…お願いだから不気味だから来ないでもらいたかった…。」
「相変わらず眼も紅くて嫌…。」
「最初はそんな眼も良いし顔も良いから好みだったけれど…。」
あらあらまあまあ!随分な言いようじゃないの~?あっはっはっは!!ざまぁ!!
だから…俺はこいつらに言うのです。
「あ?黙れよ?騎士科の癖して騎士道精神の欠片も持ち合わせていねえ雑魚共がよお?たかだかタネが分からないから怖い、それだけの理由で俺と言う1人を随分と苛めてくれたなぁ?ええ?おい。俺よぉ…『紅眼の魔人』って地雷ワード何だよねえ?お前ら俺の魔眼に随分とひそひそ話してくれたじゃん?誰がどんな風に言いやがったか…。顔、覚えてるからさぁ?痛い目に遭いたくなきゃ、全員精々そこで大人しくしとけ?ぼけえ!!」
「「「「…っ!!」」」」
くっく…あっはっはっは!!!震えあがってるじゃんか?おい?まあもう良いや。
少しは気も晴れたわ。
目の前には姉さん、エルナト、フォルカー団長、『琥珀騎士団』の団員達。
「おやや?来たね~!この浮気者!でもクラート?ちょっと脅し過ぎかな?ま、でも良いけどね?さ~て、お仕置きの時間だよ?」
そんな風にニヤリと笑う姉さん。
そしてフォルカー団長が『翠玉水晶』を持ち、騎士科の面々の前で演説、宣言する。
「騎士科の諸君ら、一週間の稽古をよくぞ耐え抜いた。とても誇らしいだろう。しかし最後に諸君らには目の前で、本当の強者、恐ろしさをその目でよく焼き付けてもらう…。これより、『紅蓮騎士団』オスカー・ウンシュルト団長と、そして諸君らが畏怖し続けてきたクラート・ウンシュルトの真剣勝負を行う。
この対決を見て、果たして諸君らがどう感じるのかは分からない。しかし、この対決を見て本当に誇らしげに感じれるのか、今一度、諸君ら騎士科には自身の心に問いかけてもらおう。
では!!これより強者同士の最後の命の奪い合いの対決を行う!!!良く、その目に焼き付けよ!!!」
フフッ。
流石はノートが憧れを抱くだけの人物、フォルカー団長だ…。
騎士科の面々が動揺をしているのが良く感じられるよ…。
さて、姉さん…。
お仕置きの時間だね…。
だが、ノートとスピカが少しだけ傍に来て…。
「「ご武運を。」」
ああ…本当に2人には感謝している。
「ありがとう。俺を好きになってくれて。…行ってくる。」
俺が歩き出し、姉さんまで向かうまでに、エルナトも近づいてきて、すれ違い様に、
「…クラート、私も言わせてもらおう。武運を祈る。」
「…エルナトにも本当に感謝しているよ。ありがとう。」
そしてすれ違い俺はまた歩き出す。
エルナトには…ノートとの間を取り持ってくれた恩義がある。
皆に助けられた。
だから…。
「…クラート。元はと言えば、私が原因で孤立をさせちゃったわね。本当に謝るわ。ごめんね…。
ま~それはそれとして!女の子を泣かせたお仕置きは受けてもらうわよ~?」
そう言いながら魔刀、『震霆雷轟』『宝玉等級:ダイアモンド+』を抜刀する。
漆黒の刀身に赤黒い雷がバチン!バチン!と纏われいる。
姉さんの目が引き締まり、細く俺を見据えている。
「ああ…姉さん。俺へのお仕置きの時間だな!!!」
戦技が来る!
「フフッ。なら~手始めに~『稲妻剣術:雷ノ壱:迅雷一閃』!!」
とんでもない速度での本気の攻撃だな!!!
しかし予測済み、屈んで神速の一閃を躱し、右足を軸にしたグウオオオン!!っと左裏回し蹴りをぶっ放す!
「甘いわ!!『稲妻剣術:雷ノ参:雷光紫電』!!」
姉さんが紫電を纏い、ドン!と飛び跳ねながら俺の蹴りを躱す。
そのままぐるりと空中で一回転し、俺の背後にバチイイン!!と雷の音を轟かせて着地。
それも予測済み。
「そら!喰らえ!姉さん!!」
戦技で回避、俺の背後に着地した際に出来たクレーターの中で、まだ背中を見せてる姉さんに向けて、左裏回し蹴りした勢いのまま、今度は左足を軸に右回し蹴りブウンっ!と放つ!
「うひひ!甘~い!!ひょいっと。」
だが、姉さんはズドオオンっ!と大きな音と共に高く飛び上がり回避、俺の右回し蹴りが空ぶる。
姉さんが飛び上がった影響で、更に深く地面のクレーターが広がりめくれ上がる!
「クラート!!くたばりなさ~い!!『稲妻剣術:雷ノ弐:落雷下斬』!!」
そして高く飛び上がった状態からの、雷を纏いながらの落雷するがごとく上空から神速の上段斬り!
だが…もう分かっている。
既に右回し蹴りした勢いのまま、そこからさらに左回転しながらのヒュン!と裏左回し蹴りで上段斬りを迎撃。
刀身に蹴りが当たり、ズガアアアン!!と周りにさらに地面が捲れ上がる。
本来ならな、もうそれで刀は吹き飛ぶんだが、如何せん姉さんは膨大な魔力でフィジカルが桁外れ。
全く手から刀が吹き飛ばない。
更に『震霆雷轟』の纏う『第4階梯』級の雷が俺の身体にダメージを入れる。
「ぐううっ!!だが、少し体勢が崩れたな!おらぁ!!」
だが吹き飛ばせないものの、少し刀がずれて、姉さんが着地してくるタイミングでドン!と左足を踏み込み、グウウン!と右の正拳突きが姉さんに放つ!
しかし…
「ひょいっと。『基本剣術:弐ノ防:空蝉』。『稲妻剣術:雷ノ肆:渦雷滅閃』!!」
戦技で姉さんがシュウンっと右に動きながら突きを回避、俺の左側に回って広範囲の雷の渦を作りながらの、ズガガガアンっ!!と右回旋斬りを放ってきやがる!
俺はズガアアンっ!と、地面を抉りながらのとバク宙でどうにか回避、しかし…もう次の戦技、あれが来る!!
くそ!予測はできるが、『稲妻剣術:雷ノ参:雷光紫電』も相まって、動きが余りにも速すぎるんだよ!
「さ~すが!!けど…。『稲妻剣術:雷ノ陸:飛電雷切』!!」
『稲妻剣術:雷ノ壱:迅雷一閃』の上位互換、ズガアアアン!と、とんでもない音を鳴らし、俺の着地を狙った最早何も見えない雷の一閃。
「ここぉ!!!」
予測で姉さんの刀が振り斬られる前に、俺の右の内受けで姉さんの肘に当て防御!
ドゴオオン!!と爆発音が鳴り響く。
「そらあ!姉さああん!!」
防御した右腕で強引に腕を掴み、振り払って姉さんを吹き飛ばす。
そしてそのままズガアアン!と戦技の縮地の如く吹き飛ぶ姉さんに接近。
そして右足をズドン!と踏み込み左縦拳!!
「にひ~!甘~い!『基本剣術:参ノ防:鉄塊』!!『基本剣術:応ノ弐:闘気』!!」
防御力を引き上げ、さらに自身にバフの戦技で、姉さんが左手で俺の拳を真正面から受け止める!
その影響でズガアアアン!!とさらに爆音が響き地面が捲れ上がる。
「ちっ!!流石は姉さんだわ!!だから本当にやり合いたくねえ…なあああ!!おらぁ!!」
振り払おうとしても、バフと防御力の上乗せで、俺の身体能力を上回り簡単には振り払えない。
とは言え…まだ!左膝蹴りを姉さんの鳩尾にドゴオオンと、入れる!!
そのまま姉さんが少し吹き飛ぶ!
「ぐふっ…はぁ、はぁ、本当にやるわね!クラート!!」
少し息を切らす姉さん。
とは言えここまで粘られると俺も息切れを少し起こす。
「はぁ、はぁ、姉さんもな!!」
[カエルス演習場]は、もう滅茶苦茶に地面が荒地の状態と化しているが…まだお互いそれでも戦える…!
また戦技が来る!!
「…『稲妻剣術:雷ノ伍:鳴神万雷』!!」
漆黒の雷を纏い、鳥が鳴くようなピイイインと、音を鳴り響かせながら神速の刺突が迫る。
だが既に左に飛び跳ね、そのまま姉さんの右側から正拳突き…まずい!
俺は攻撃をやめ、ドン!と上空に飛び上がったと同時に…
「『稲妻剣術:雷ノ肆:渦雷滅閃』!!!」
ズガガガアン!!と、音と共に広範囲の雷の渦を纏った右回旋の薙ぎ払い!
ならばこの状態から攻撃するのみ。
「喰らえ!!姉さん!!」
上空からのズゴオン!と空気を切る音と共に、刀を振りきった姉さんに向けて、右かかと落としを放つ!
だが…
「飛ぶと思ったわ!!クラート!!『稲妻剣術:雷ノ壱:迅雷一閃』!!」
しかし姉さんもまた、上空に飛び跳ねバチイン!!と雷の神速の一閃で、俺のかかと落としを迎撃する。
漆黒の刀身に纏う赤黒い雷が、再び俺にダメージが入る。
「がはっ!…ぐおおおお!!」
感電、血を吐きながらも、しかし強引にかかと落としを続けて姉さんを地面に叩きつける!
ドゴオオン!と、再び地面が抉れる。
「ぶはっ!っ!!!『稲妻剣術:雷ノ参:雷光紫電』!!」
姉さんも血を吐いたが、俺が姉さん目掛けて左正拳を放っていたので、紫電を纏い神速で回避される。
ズゴオオンっ!!と空ぶった俺の突きが、回避された地面を抉る!
…そのまま縦横無尽に神速で俺の周りを動き続ける姉さん。
速すぎる…!予測がなければ一瞬で決着はついているだろうな…!!
「そこだ!」
最適解を見つけ、神速で動く姉さんの僅かな着地地点に目掛けて駆け出し、
「喰らえや!!姉さん!!」
着地する瞬間を目掛けて、右足刀を姉さんに叩きもうとするも…
「お見通し!『稲妻剣術:雷ノ陸:飛電雷切』!!」
俺の右足刀に、戦技による神速の雷の一閃の戦技がぶつかり、地面がまたまた捲れ上がる。
刀の赤黒い雷が俺の全身を襲いながらも、お互い力勝負に入る!
「ぐふっ!げほっ!ぐううおおお!!吹き飛べ!!おらぁ!!」
何度も血を吐き続ける俺。
もう気合いだ、強引に姉さんを蹴り飛ばし、姉さんが思いっきり吹き飛び地面を転がる。
「っ!!がはぁっ!!はぁ…はぁ…さ、さすが、ね。クラート!!」
姉さんもまた、吹き飛び地面に強く叩きつけられた衝撃で、血を吐いている。
「はぁ…姉さん…も、な。はぁ…。」
まさか、ここまでお互い満身創痍になるとはねぇ~…。
強い…本当に強すぎる。
「「………」」
次がもうお互い最後だろうなぁ…。
姉さんも分かっているんだろう…。
最短最適ルート…現状の深刻なダメージのままでは…でもやるしかないか…。
あの…戦技が来るこのルートを…。
「すう…では、いざ!!」
俺がズガアアン!と、地面を抉り全力で駆け出す。
「そうね…。では…『稲妻剣術:雷ノ奥義:百雷滅断・絶』!!!」
同時に姉さんも駆け出し、超高速移動をしながら突っ込んでくる。
正に…百の雷が何度も落ちるかの如く、高速で駆けながら無数の雷の斬撃をズバババン!幾度も切り裂き、飛来させ空間を切り裂いてるかの様…。
だが、そのままお互いに接近…。
予測はあっても無数の斬撃は完全回避は不可能。
だが…それでも致命傷となる斬撃は避けて避けて、だが何度も何度も切り刻まれる。
でも、それでも潜り抜けて…
「最後!姉さん!」
何度も切り刻まれて血だらけになった俺が、姉さんの鳩尾に渾身の正拳突きを叩き込む…。
ズガガガアン!!!と言う音と共に、
「さ、さす、がは、自慢…の、弟…ね。」
俺にもたれかかり…そしてそのまま膝から崩れ落ちる姉さんを、俺がどうにか抱え止める…。
「「はぁ…ここまで。」」
はは…お互いに姉弟の異次元の真剣勝負は幕を落とした。
『琥珀騎士団』の団員達が大急ぎで満身創痍の俺たちに、サファイア級のポーションを飲ませる。
サファイア級ともなれば、致命傷すらも回復可能な超高価な代物。
そりゃまぁ…1本で金貨4枚もするよなぁ…。
はは…。
辺り一面が滅茶苦茶だわ~。
[カエルス演習場]上空を無数に飛び回る『宝玉等級:ルビー』の『紅玉石』による修復は暫く時間がかかるな~、こりゃ。
フォルカー団長が『翠玉水晶』を持ち、呆然と立ち尽くしている騎士の風上にもおけない騎士科に演説する。
「…諸君らが目指そうとしているのは…こう言う命の奪い合いだ…。諸君らはクラート・ウンシュルトを畏怖していたが…いざこのような強者を前にした時、そのように呆然としているようでは一瞬で命が消し飛ぶ。恐れて仲間内でひそひそと、嫌がっているようでは…まだ騎士には余りにも遠いぞ?心も追いついていない…。この光景を目にし、今一度自身の心に問いかけよ。果たして自分は誇り高い騎士を目指せるかと。
…では一週間の稽古はこれにて終了。解散せよ。」
静かなフォルカー団長の演説が鳴り響いていた…。




