50 『星見の湖』『水の聖堂』
「うんっ……。」
ああ…いつものように、うざったくて、いや、夏だからより一層うざったい日差しが、俺の紅い魔眼をつぶしてきますなぁ!
つか、相変わらずあち~…。
金欠でまともにそこの壁に埋まり込んでいる蒼い『空調石』…まともに使えた事あったかぁ?
……。
「(―なぁ…。2日間見なかったから、今日も来ないと思ったのに…。―)」
「(―あの人…『雷滅の鬼神』の弟なんでしょ?怖いよ…。―)」
「(―だよなぁ…弟だけならまだしも、眼光がどうも禍々しくて…―)」
「(―魔眼持ちって、なんだか不気味だよなぁ。―)」
ちっ…。
言いたい放題言いやがって…。
さて、ああ…身体が鉛のように相変わらず重たいけど、起き…
「んっ…。ふひぁ…。」
………あああ!!ノートがいるんだった!!
そうだよ!今日休みもらって何処行くか~とか、何をしようかな~とか考えてたじゃん!
………ぐへへ、この無防備な寝顔が可愛い過ぎるうう!!
さてさてそんなノートの寝顔をもう少し拝ませていただこうかのぉ…ぐへへ。
起こそうとした身体をノートの方に向けて、しばーらく眺めていると…
「んにゃ?ふえ?」
…ノートの目が覚めたはいいが、寝ぼけて状況判断に少し時間がかかっている模様…。
うへへ、眼福眼福っと。
「…ふぇ!?はれ?クラートさん!?あ、あ、あれれれれ!???」
…反応が一々可愛いすぎるんだよなぁ~。
「うん。おはよう。ここはとても暑苦しい俺の部屋でーす。」
いつものように…ああ…本当にここ2ヶ月近くこんな感じでからかって遊んでいたなぁ…。
本当になんで裏切っちゃったんだ…。
うう!!楽しい!!歪な関係になってしまったけど、嬉しい!!
ぐへへ。
「ひゃい!おおお、おはようようござごいますますなのですわぁ!?」
がばっと起き上がるノート。
混乱し過ぎてて全然上手く喋れてないし!
うんうん、これこそノートのドジっ子の一面で可愛いんだ!
ま、とは言え今日どうしようか特に決めてねえんだよなぁ~。
流石に『空調石』を使おう。
「うん。改めておはよう。流石に暑いからちょっと待ってね。」
そう俺が立ち、『空調石』を起動させると同時に…これから登校中の生徒の喧騒の中に、聞こえてきてしまった…。
「〔ねえ…。そう言えば、あの紅い眼の人…寮に住んでいるんでしょ?〕」
「〔あまり気にした事なかったけど…そう言えば、確かに。〕」
「〔なんで貴族の人がここの寮にいるのかな…?〕」
「〔噂じゃ、確か聞いた事があるぞ?『紅眼の魔人』のヤバい話。〕」
…ここの寮の部屋には、扉を閉めれば、廊下の喧騒も、隣室の物音も、聞こえなくなる遮音結界の術式刻印が刻まれているが…それも10日分で、補充するのにも銀貨5枚必要だったので、全く使っていなかった。
それが仇となり、聞きたくない言葉が耳に入ってきてしまった。
あらあらまあまあ…しくじったね。
稽古場に行って騒ぎを起こし、2日目、3日目と目立つ登校をしたんだ…。
バレてしまったか。
寮に住んでいた事が…。
とりわけ、平民出身の学生は騎士科が一番多いんだった…。
おいおい!勘弁してしてくれい!
まさか住み着いてる居場所すら失うのかい!?
「クラートさん…。今は…。忘れましょう。」
つい固まって動けていなかった、俺の背に背後から抱きしめてくれている。
はぁ…ま~じでこんなのばっか。
ノートがいてくれたおかげで、どうにかなってはいるが…。
「そうだねぇ~。…今はどうにもならないからねぇ~。」
少し日も落ちかけ始めた頃合いに、学園の喧騒を離れ、俺とノートの2人であまり誰も知られてない、落ち葉が積もった小道を歩いているんだわ。
やがて視界が開け、まるで時が止まったかのように静かな湖が姿を現したなぁ~。
その湖のど真ん中に聖堂がポツンと1つ、建っているんだよね~。
それが、学園の敷地内にある、忘れられたように静かな『星見の湖』と、その中央に浮かぶ小さな『水の聖堂』なんだとさ。
まあ、最高の秘密スポット…的な感じ?
そんで、『水の聖堂』に向かうための湖のほとりには、誰でも自由に使える、小さな手漕ぎボートが一つだけ繋がれているんだわさ。
「ありゃりゃ、まさか本当にこんな場所があったとはねえ…。」
俺が静かすぎて、ちっとばかし呆然と『星見の湖』と中央の『水の聖堂』とやらを眺めていると…、
「ええ。私も半信半疑でしたが…シリウスお兄様がこの場所を知っていたので…。」
流石は4年生の燦爛クラスすら上回る実力者!
このルミナス王立学園でトップを維持できるだけあって、博識かよ!
あ!でも待ってください!
あのお方、いつ俺を闇でくるんで拉致してくるかわからないんでした!!
そんで人通りの少ない、静かな湖の周りを、俺たちは手をつないでゆっくりと歩く。
ふえ~…。
夏とは思えない程、なんだか涼しく感じるわぁ~。
『星見の湖』はさ~、昼間でも、湖の底から星屑のような淡い光が明滅していて、まだ日は落ち切ってないけどキラキラしているわい。
んで手漕ぎボートまで到着~。
俺とノートで乗り込み、おぼつかない手つきでボートを漕ぎ、湖の中央に浮かぶ、白亜の小さな聖堂へと向かっております。
…いや、本当に案外ムズイんだわさ。
『深紅の魔眼』で大体はできるはずなんだけどね~。
オールが水をかく、規則正しい「ちゃぷん、ちゃぷん」という音と、遠ざかっていく岸と、少しずつ近づいてくる白亜の聖堂が見えてきております!
あともう少しです!
「やっと着いたなぁ…。へぇーでもやっぱり小さいね。この聖堂。」
俺が関心しながら見ていると、ノートがしがみついてきて…。
「ろ、ろろ、ロマンチック…ですわねですね!?」
…おい、やっぱり可愛い過ぎか?
扉をギイーと言う音を立てながら開けると…聖堂の中は、ひんやりとした静寂に満ちているなー。
夏とは思えん程、何だか涼しいです!
壁一面のステンドグラスから差し込む光が、床に七色の模様を描き出し、その中を、小さな光の粒がキラキラと舞っている…。
は?神秘的過ぎんか?
ほぼ誰にも使われていない、静かに並ぶ木製の長椅子に俺たちは並んで座り込む。
さ~てもたれかかろ~。
「わひゃ!?うへ、ぐへへ。」
相変わらずのヘンテコな反応だ!
ああ…落ち着く~。
ノートも俺にゆったりと肩にもたれかかってくれている。
もう、2人の大事な女の子に救済と、許しをもらえた…。
こんな浮気性の大馬鹿者は…ああ…幸せ者だ。
この関係性は歪過ぎる…。
でもやっぱり、どちらを切り捨てる事が俺には出来なかった。
本当にどっちの女の子にも失礼極まりないのだが…
そうこうしているうちに、段々と日が暮れて、俺とノートしかいない聖堂の一画に、俺の魔眼の紅い輝きが照らし出す。
「…ノート。俺の魔眼はそんなにも禍々しくて怖いのかな?…まさか、騎士科の手伝いで来た事がこんなにも大袈裟な事態に発展するなんてさ~。どうしようか~。寮に…帰りづらくなっちゃった。」
これは、浮気性の大馬鹿者への罰なんだろうかねぇ~。
「…いいえ!その禍々しさにわ、わ、私は一目惚れしたんででで、ですわです!!?」
とっても面白い反応だ!
可愛い過ぎだ!なでなで~
「ふひぁ!?ふぐ!?ぐへへ。」
顔が真っ赤で可愛いくて…とってもヘンテコな顔を浮かべています!
それがまたいい!!
「ノートは…覚えているかな?入学初日の魔物の森での災害を。」
「はい…覚えています。暗殺者の死体、魔物が寄り付かなくなるほどの惨事だったとか…。誰かと誰かが争った結果とか…。もう察しはついています。…争ったのは…クラートさん…ですよね?」
そうか…流石だな。
ドジっ子ではあるが、やはり天才だ。
「その通りだよ。アトリアのおバカにカバンを吹っ飛ばされたからさ、魔物狩りをあの場で行っていた。その時に俺の家…。ウンシュルト家の追ってが4人俺を捕らえに来た。暗殺者は…俺が殺した。初めての人殺しさ。まあ、姉さんは立場上何度も悪人を切り捨ててるだろうけど。
そんで最後の1人が俺の妹だったんだ。姉さんを見ていれば分かると思うけど…妹も…あ~これをノートに言って良いのか分からないけど…『第6階梯』の水の魔術を極めていて、とんでもなく強くてね。俺の持つこの魔眼に対して怨嗟の声をぶつけながら攻撃してきた。それがあの結果さ。はぁ…。何処まで行ってもこの魔眼にい…っ!!!」
この魔眼に嫌気がさす、と言おうとしたら、ノートがこれ以上は言わなくても良いとばかりに、強い口付けをしてきた。
「んっ…!んっ…。はぁ…。私はその魔眼が好きです。先ほども言いましたけど…クラートさんが禍々しいというその瞳に一目惚れをしたのですから…。」
フフッ。そう言えば、昨日のあの談話室でもそんな事を言っていたか…。
「あらあらまあまあ、そうか…また救われてしまったね。君を傷つけてしまったのに…。本当にありがとう…。好きな女の子にこの魔眼を受け入れてもらって…救われた…。」
「…クラートさん。後日、シリウスお兄様に頼んでみましょうか?ヴァールハイト家にお住みになりますか?」
…ぅえ?マジで?
闇でくるんで拉致されない?




