49 蒸し暑い夜2
ま~た夜10時頃~。
天井近くを幾つか、ふわりふわりと漂う『光球』を、あのスピカと共に過ごしていた時と同じく、暖色系にして、もう蝋燭程度の灯りにしている。
寝る時間だし。
あ~、あっつい。
『空調石』?だからこの前のデートでもポーション買っちまったから、金欠で使えるだけの余裕がないのさ!
今日はノートと仲直り?が出来て良かったかな…。
正直もうダメかと思っていた。
好きな女の子に嫌われたまま、気まずい学園生活を送るのかと…。
で~もなぁ…悪いことをしたしたのは俺だし、今だって二股を続けている。
本当によく、こんな俺を許してくれたと思うよ。
安心と同時に…罪悪感しかない。
あんなに良くしがみついてきて、そして俺もまた良くからかって遊んでて…お互いあれだけ両想いだったのに、裏切っちゃった…。
なんで裏切っちゃったかって、そりゃまぁ…騎士の風上にもおけない騎士科に滅茶苦茶避けられて…ウンシュルト家での居心地の悪さ、そして逃げ出した2年間の孤独感を再び思い出してた時に…スピカ。
魔眼持ち同士の傷の舐め合いの流れで…そのまま恋してた事を思い出してしまった。
…スピカのおかげでもうレグンの幻聴、怨嗟は多少はましになったか。
レグンはあの家で平気なのだろうか?
出来れば仲直りしたいなぁ…。
兄さん?とか言いたくねえけど、長男も次男もな~に考えてんのか分かんねぇ奴らだったからなぁ!
俺マジであの2人苦手だもん!
…窓に映る俺の紅い眼光。
なんだろうなぁ~?
輝いてるだけなら良いんだが、中心の瞳孔は黒く、その周りの虹彩が深紅色に鈍く光っていて、少し、こう…僅かに渦を巻くように、ちと揺らめいてんだよなー。
…自分でも思うわ、怖!何これ?
ま、もういいや。
明日はノートと一緒に過ごす休日。
…何しよう?
「キンコ~ン」
…へ?チャイム?何で?スピカ?
「キンコ~ン」
むむむ!?怖いぞ?
出てみるしかないか!
玄関の扉を開けると…さぁ!
「…ノート!?ななな、何でここに!?ヴァールハイト家は!?」
いつもの制服の姿のままに、いつもの長い綺麗な銀髪で…いつもの『空間拡張学生鞄』を持って、もじもじして立っていた。
「お、お、お、お邪魔でしたましたでしょうかぁ!?」
…おい、可愛い過ぎかな?
今朝の俺がノートと仲直りできるか、もう冷や汗たっぷりの時に不意で声かけられたときみたいじゃん?
あ、今の俺の姿と言えば、軽い紺色の短パンに白のシャツ1枚と、女の子に会うにはかーなり微妙。
「うんうん、そんな姿が可愛い…ではなくて、ああいや、全くそんな事はないぞ。でも一体どうやってここまで?」
俺が聞くともじもじ(相変わらず可愛いぞ!)しながら、
「シリウスお兄様と一緒にここまで。夜中でしたが、家臣の者に4頭馬車を引いていただきました。あ、あ、あの…上がっても…い、い、良いですますかあ!?」
…何これ?超可愛い。
きちんと喋れてない辺りとか~。
「当然だよ。あ~、でも少し待って!今『空調石』つけてなくて、凄く暑い…」
「そそそ、それが良いんですわぁ!?」
…お帰り、ドジっ子なノート!
超可愛い!
「フフッ。そっかそっかぁ。入って。」
そう言うと、ノートはきょどりながらも、入ってくれた。
もの珍し気に俺の部屋を眺めてるノート。
まぁ、殆ど何もない部屋だからなぁ。
敢えて言うなら、ポーション店のフランツの親父が言う通り、部屋の荷物棚にポーションが、ずらーと並んでるくらいか。
流石にサファイア級は手が出せる代物ではないため、ノートのお兄さん、シリウスさんから分けてもらった6本ほどだけ置いてあるくらい…。
ああ!そう考えると、ノートに不誠実な対応をしてしまったという事は、シリウスさんにも同様の真似をしたという事!
あの人、時たま俺のいる1年区画の場所で話す機会がよくあるけどさ、俺の魔眼が言うてるわけ。
この人…あかん、ガチヤバの最高レベルの魔術師だ、って。
「あ~あのさ…ノート。シリウスさん、怒ってなかった…?」
恐る恐るノートに聞いてみる俺。
ノートが俺の異次元の身体能力を物ともせず、ガチヤバのダメージを入れるくらいのとんでも魔術師。
そのシリウスさんの魔術は…ごめん、流石に甘んじて受け入れたら、普通に死にます。
「へ?シリウスお兄様ですか?全然怒ってないですよ。フフッ。4年生の燦爛クラスを超える実力者がそんな簡単に心を乱す事はありませんからね。安心しました?」
あっぶね~。
怒ってないかぁ…。
「うん。正直めっちゃホッとしてる。現状、怒らせたらいけない人トップ1。ああいや、ごめん。ノートもこれ以上、怒らせたくないな。嫌われたくない。好きな女の子だからねえ…。」
これは本当にそう。
ま、こんな事言っといて二股してる俺の神経はどうなっているのやら。
どの口で言っているのか。
…あれ?反応が返ってこないな?
「ノート?どうしたの?大丈夫ううってあああ!!」
思いっきりしがみついてきて、俺のベッドの方まで引っ張られています!!
「すすすスピカさんともベッドでキスするなんて~ズルいです!!だだ、だから私もクラートさんと…。うう…。」
なーるほど。
スピカとのコソコソと何か話していたのはこう言う事だったか…。
スピカには気を遣わせてしまったなぁ…。
引っ張りながらも顔が真っ赤だ。
ふむふむ、可愛いぞ!
「ノート…。まぁ、暑いし俺のベッドの上はちょっと汗で滲んでるけど…。それでも良いなら座って。」
そのまま一緒に2人でベッドの上に。
顔が赤いなぁ…。
もじもじしている。
…よく、ここまで仲を修復できたなぁ…。
そのままノートの肩にもたれかかると…。
「ひゃい!えへ、うへへ。」
そうそう、これだ。
この可愛い反応が心地良いんだ。
ノートも寄りかかってくれた。
「…本当に今日はありがとう。こんな大馬鹿な俺を…まだ好きでいてくれて…。本当に怖かったからねぇ…。今朝はどんな風に…ノートに向き合えばいいか分からなくて。1度裏切ってしまった信頼を取り戻すのは、相当の時間がいるはずなのに。」
本当に感謝しかない。
こんな俺をすぐに許してくれて…。
「いいえ、今日の騎士科の演習場に行って、改めてクラートさんの孤立している場面を見て…何でもっと早くにその事に気づいてあげられなかったんだろう…って。だから…許します。凄く…心の底からクラートさんが好きだから…。」
そうか…懐の深い優しい女の子だ。
だからこそ…そんな子を傷つけてしまった罪の重さは計り知れないかなぁ…。
「クラートさん…まだ罪の意識があるのでしたら、それはもう…えっと~…その…私の怒りに身を任せた魔術攻撃でもう帳消しになっています。あの痛みの中でなお、誠実に謝ってくれてもいましたから…。」
帳消し…その言葉はスピカにもデートの最中に俺も言った台詞だ。
「そっか…。そう言ってもらえて俺は救われた…。明日は何をしようか?何処か行く?まぁ、精々が城下町くらいだけど。」
「何処でも。クラートさんのお部屋で過ごしても。何でも。」
…隣にもたれかかる、ノートをそのまま抱きしめる。
「ふひぁ!?えへ、ぐへへ。」
可愛い反応だ!
抱きしめたままノートの顔を覗き込むようにして…そのまま口付けを交わす。
「んっ…、はぁ…。フフッ。可愛い反応だ!それ!」
抱き合ったまま、お互いベッドに横になって…あの時、スピカの時と同じく眠りについた…。




