47 2人
稽古日5日目。
あの後、俺とノートがホームルームに出て来なかった件は、スピカの方で上手く説明してくれたようで、お咎めはなかった。
案外、リゲル先生も優しいし、比較的大目に見てくれる事も多々ある。
昨日の欠席についても、俺の寮まで、スピカを送ってもらったりと、色々感謝しなくてはならないな。
そして今、俺とノート、エルナトにスピカ、この4人で今度こそ稽古、指南に向かっている。
…[カエルス演習場]まで、俺とノートは手を繋いでいた。
その間、スピカは遠慮してくれたようで、傍にいるだけだった。
…エルナトも特に何か言ってくるわけでもなく、ただ、無言のままでいた。
しかし何となくだが、ノートと俺の関係を取り持ってくれたのは…エルナトなんだろうね。
そして…修羅場と化した稽古日2日目と同じメンバーで、『琥珀騎士団』団員達と、フォルカー団長、そして…姉さんの待つ[カエルス演習場]に到着した。
「おやや?ようやくお出ましだねぇ!クラート!ふむふむ。どうにか仲直り出来たみたいで何より!!」
うげ!何をニヤニヤして俺とノートを見ているんだ!!
「それで、まーた女の子を侍らかして来たわけぇ~?んん?」
くそぉ!覗き込むようにからかってきやがって!!
「全く、手間がかかって仕方なかったぞ。なあ?ノート?とっとと素直になればよかったものを…。お前もだぞ。クラート。元はと言えば女たらしのお前が悪い。」
ああ、やっぱりエルナトが俺たちを取り持ってくれたかぁ…
さっきまで無言だったけど、急にジト目で俺とノートを見てくるもんよ。
いや、それよりもここで言わないでください!!
「「………す、すいません。」」
…俺とノートが同時に謝って、なんか目が合い…お互い俯いてしまったよ…。
ああ!スピカはどんな顔をして…チラリ。
「…私も原因だもの。クラートばかりが悪いわけではないわ…。」
めっちゃ微笑みながら言うじゃないか!?良いのかい!?
「あ、その、いや~俺が全部悪いからさ…。はは…。」
あ~もう何を俯いて言っているんだい!俺は!?この浮気性の大馬鹿者め!!
「そうよ~?クラート!あなた、ノートちゃんを泣かして!俺だってノートで遊ぶだけの関係なんて絶対に御免だ~って私に言っておいてこれだもの!!」
「ちょちょちょ!それを言うな!!姉さん!!本当にごめんって!!あ…。」
ノートと目が合って…そのノートはと言えば凄い顔が赤くなっている…。
あはは…久しぶりな気分だ…。
3日ぶりにその可愛らしい顔がみれた…。
癒される~。
よしよし、なでなでっと!
「ひゃい!あわわわわ!?クラートさん!?」
ああ、その反応も久しぶりな気分だ…。
もう毎回この頭を撫でる事は日常的にやってたから…。
は!?スピカは!?
「あ、えと、スピカは…」
そう言うと、たたた、と駆け寄ってきて…。
「じゃあ、私も頭を撫でてほしい…。」
うへへ…。では遠慮なくなでなでっと。
は!?
「の、ノート!済まない!あ、もうスピカもごめん!の、ノートさん…?あの?」
ノートを見るとちょこっとムスッとしていたが、でも…
「別にいいですよー!そんな浮気者の大馬鹿者に恋しちゃったのは私ですからね!」
「ひいい!ごめんなさい!!」
一体、俺は何をやってんだろうか…。
「クラート…?うん?お姉ちゃん、言ったよねぇ…?女の子を泣かせたら許さないぞ!って?」
あわわわわ!?
「ちょちょちょ!本当にごめんなさい!!姉さん!!今回ばかりは本当に言い訳の余地もない!!」
そこにエルナトもやってきて…
「全くだぁー!!お前のせいでどれだけ私に迷惑をかけたと思っている!?おらぁ!!」
「ごヴぇ!?」
思いっ切り頭を小突かれた。
痛いです。
あ、まずい。姉さんの戦技が来るわ。
「………………お姉ちゃん。怒っちゃったぞ☆『稲妻剣術:雷ノ壱:迅雷一閃』!」
縮地と基本剣術の一閃が合わさった戦技。
しかもとんでもない神速とパワーです!!
これ言うの2回目だね!?
俺は左にダンっ!と飛んで姉さんの右側に回り込む。
雷を纏った一閃を放つ姉さん(こっわ!)の右腕を、俺もまた全力の力を出して左手で掴み…ドガアアアン!!という音と共に、どうにか押さえこむ!!!
…この一連の動作を行うのも2回目だね!?
「ね、姉さん…。演習場が壊れるからさ!?ほら、クレーター痕が出来上がってる!もう勘弁してくれ~!」
俺がそう言うと、にやりと笑ってくる…。
おい、なんだよ!
そうだよ!浮気性の大馬鹿だよ!!
「ま、元気そうで何より何より!私のこの攻撃を止められる程度までには回復したかな?ノートちゃんも元気そうで良かったよ…。」
…はぁ、全く、俺は本当に何をやってんだか…。
なんかまた少し俯いてしまったよ。
隣に駆け寄ってきたノートをチラリと。
「ひゃい!あ、あ、うへへ…。」
やべ~!!今朝のサロンでの…あの、あの、濃厚な口付けを思い出してるよ!!
俺もね!!
んでチラリを続けていたら、ノートと目が合って…
「「……ぐへへ」」
「なーにがぐへへだ!この大馬鹿共がぁ!!」
「「ごヴぇ!?」」
俺とノート2人同時にエルナトに小突かれた。
ちなみに俺の方はかなり力強く頭小突かれたました。
とっても痛いです。
…スピカはずっと俺に撫でられてから大人しい…。
はぁ…、なんかもう、ずっと甘えてばっかりだ…。
「ごほん。まぁクラート殿も、ノート殿もお元気になられて、心の底から安心しました。さて、そろそろ1年の騎士科の方々も、もうじきにやってこられます。本日で稽古日は5日目です。準備してくださいね。演説の後に指南を開始します。」
フォルカー団長…。
この人にもお世話になったかぁ…。
おかげでサボってデートに行けたからね!
でも…姉さんとは対照的に畏怖の目で見られています。
これも言うのも2回目だね!
はぁ…どうせ、誰も寄ってこないし、近くの談話室…まあ、スピカに恋を自覚をした場所だよね。
そこでまた、のんびりしてるかぁ!
続々と入ってくる、騎士の風上にもおけない騎士科の者どもよ!
よう来たな!!
くっくっく!お前たちの視線が俺を避けている事は、この『救済』…『深紅の魔眼』でお見通しだぞ!
「なぁ…。2日間見なかったから、今日も来ないと思ったのに…。」
「あの人…『雷滅の鬼神』の弟なんでしょ?怖いよ…。」
「だよなぁ…弟だけならまだしも、眼光がどうも禍々しくて…」
「魔眼持ちって、なんだか不気味だよなぁ。」
おうおう!お前ら!ひそひそ話してるつもりだろうが、ぜーんぶ聞こえてるからな!!
そうだよなぁ!?
俺もお前らの立場だったら、十中八九同じ事を言う自信しかないわい!ぼけぇ!!
精々俺は?お前らが頑張ってる間に休憩でもしてるからよお!
…ぐすん。
…って、あ?おい、またもや誰だ?魔眼について触れやがったクソったれは?ブチ切れるぞ?
…ん?いつの間にか右隣にノートが、左隣にスピカがいて、それぞれ俺の手をつなぎ合わせてきた。
「クラートさん…顔が暗く俯いてます…。」
「うん。クラート。とても見てて痛々しいわ…。」
…ありゃりゃ、そんな顔をしていましたか…。
ほんと…すいませんねぇ、こんな俺を好きになっていただきまして…。
「…まぁ、慣れっこだよ。悪いね、2人共…。」
いや~まじで情けないわ~。
ここは居心地が悪すぎ!!
「「……………。」」
エルナトも、姉さんもなんだかずっと黙っていた。
稽古、指南が開始です!!
でもやっぱり俺の周りには空白が出来上がっていました!
何か出来るわけでもありませんので、さっさと退散させていただきました!
今はお一人様で…あの、スピカと対談した談話室でただ座って、アイスコーヒーを啜っています!
ふむふむ…スピカはよく飲めるねぇ…苦い!
稽古、は~やく終わんないかなあ…。
その時、誰か入ってくる音がした。
カツ、カツ、と足音もする。
まだ、普通科も魔術科も、授業中のはずだが…はて?まあいいや。
「クラートさん。やはり、ここにいましたか。」
…後ろを振り向くとノートが微笑んで立っているではないですか。
「ノート…指南の方は良いのかな?こんな場所にいて怒られない?」
ん?ゆっくりと俺の座る席の隣に来て座ってきたねぇ…。
「…はい、魔術師なので、本来であれば魔術科の指南に行くはずでした。そこを理由付けしていただいて騎士科に来ているだけですからね。あまり教えるような事はほぼありません。」
…初日、フォルカー団長に会いたいと願っていたノートを、適当に理由つけて騎士科に連れてきたのは…俺だったか。
「…1人…でしたね。なぜ、私たちと行動しなかったのですか?」
ノートが隣で何か言葉を選ぶように、俺に問いかけてきますか。
別にな~んでも遠慮せず話してくれて良いんだけどね~。
…それにしても、どうして、か。
「…それは、ま~、俺が一緒にいたら、全員俺の事が気掛かり過ぎて、まともな稽古なんかになるはずがないからかな。」
この理由は半分は本当、半分はただ苦痛で逃げただけ。
あ~あ、姉さんとつい喧嘩した事が、まさかこんな事になるとはねぇ~。
「魔眼持ちが不気味って、言ってた人もいただろ?…あ~、その~」
「スピカさんなら大丈夫そうでしたよ。魔術媒介となっている『極冠の魔眼』、氷結魔術の多種多様な戦い方で、騎士科も人達はむしろ好意的に見ていました。…蒼くて綺麗とも。」
おい、俺の懸念を先に言われてしまったじゃないか。
それよりも騎士科あああ!!じゃあ、俺だって平気なはずだろ~!?
確かに俺の魔眼って、紅いだけでなく、何でか結構禍々しさのある輝き方をしているけども!!
ま、そこに魔力を使う戦技すら使わず、姉さんと対等に戦える謎の身体能力も合わせて怖がってるんだろうけど!
「え~、そうなの~?酷~い…話でもないか。スピカの方は平気そうで安心した。いや、やっぱり酷いな!なら俺だって禍々しくてカッコイイ!ってなってもい…」
「私はその禍々しい瞳に一目惚れをしたんですよ?入学初日の…クラートさんが初めて教室に入ってきたあの瞬間に…。」
俺の言葉に被せるように言ってきたノート。
…いや、そうなの?一目惚れしてたんですかい?魔術を放たれたあの初めての教室で!?
「そうなんだ…。嬉しいな。好きな人に、ノートにそう言ってもらえるだけで…。」
気付けばここ2ヶ月で躊躇いなく、いつものようにノートの頭を撫でながら発言している俺…。
「ひゃい!ふぇ!?…うへへ。」
顔を赤らめながらも、嬉しそうにしているその顔…まだ3日ぶり程度なのにとても懐かしく思えるな。
そうそう、その顔が可愛らしいんだよね~。
肩にもたれかかろ~。
「ひゅん!?はわ!?…うへへ。」
そんなドジっ子みたいな反応しながら、ノートも俺の肩にもたれかかる。
う~ん!あぁ、これだよこれ。
3日ぶり~!!
…こんな事をここずっと続けていたのに、どーして裏切る真似をしたのかな~?
今だってあの、俺の蒸し暑くて仕方ない部屋で…スピカとも同じ事をしたなと思い出してる。
馬鹿だ、浮気性の大馬鹿だ、俺は。
今こうしている最中にも、忘れられないのだから。
…スピカの恋心を。
「…どうして、俺の所まで来てくれたの?……あんな酷い対応を君にしてしまったのに…。」
躊躇いはしたが、聞いてみる。
まあ、魔眼の効力で何となく分かってはいるが…。
「…1人だろうから行ってあげて、とスピカさんから。後は…クラートさんに甘えてばかりで、あなたの事を、悩みに、気づけなかったせめての償い…みたいなものでしょうか。」
そんな事、気に病む必要ないのに…。
しかもスピカが気を回してくれたかぁ…。
ああ!情けない!!
…どういう理由であれ、裏切ったのは俺である事に変わりは無いし。
「償いだなんて…先に裏切り、ノートを傷つけたのは俺だ。償うべきは、今も浮気を続けている俺の方だろうに…。でも、ありがとう。はぁ…助けられてばかりだ。情けないな~。俺って。」
右隣にいるノートに顔を向けると…ノートも俺を見ていた。
…真剣な眼差しだ。
ノートもまた…強くなったのかな。
「今度はノートに助けられたね。今日、君にどんな面下げて会えばいいんだ、って思っていたのに。うへへ。その赤くなった顔も可愛いぞ。よしよし~。」
「わひゃ!?えへ、ぐへへ。」
俺が本当に毎度やっていた、頭なでなでをして遊んでいる。
あぁ…楽しい、嬉しい。
でも…チクリと痛む罪悪感。
「「……ぐへへ。」」
その状態からの延長線で…また抱き合って、お互いに唇同士を重ねあわせた…。
「んっ…。ぷはあ…。もうしばらく一緒にいてくれる?」
俺がノートに問いかける。
「はい…。ずっといますよ。クラートさん…。」
良かった。
今日も1人で過ごすことはない。
救われた…。
ノートの赤く染まった顔見て、思わず2人で…。
「「…ぐへへ」」




