42 城下町デート
王立学園近くには、活気あふれる城下町の大通りがあってだな、学生も下校後や、休日なんかに良く使う。
俺もそうだぞ?ポーション店にしか殆ど行かないけどな!
如何せんポーションなんて高価だからねえ。
おかげ様で(おう!いらっしゃい!ポーションオタクの紅眼の兄ちゃんよ!)ってよく店主の親父、名前はフランツって言うんだけどな?に言われるわい。
デコボコな石畳の上を、多くの人々や馬車が行き交い、露店商たちの、威勢のいい呼び声が、よう聞こえる聞こえる。
荷台に野菜や果物を満載した、馬車や荷車もあるな…。食べたい…。じゅるり…。
すまん、ああいう上手い食い物をたまに衝動買いするから、金欠なのもあるんだが!
そんな喧騒の場所にスピカと手繋いで歩いてるよ。
制服でな!もう面倒だから氷結の付与魔術を発動させてます!
あとどんくらい残ってるかなぁ?自動で大気中の魔力を吸い上げて魔力を補充するらしいが。
「スピカはこういう場所は苦手か?」
そう俺が隣のスピカに問いかけると、
「あまり得意ではないけれど…クラートはよく来るのね?」
俺を見て意外そうな顔をしている。
「まぁ、俺もそんなに得意じゃないよ?ただ良くポーションと、最低限の日用品を調達しにくるわけさ。
この魔眼もあってそりゃ情報が入ってくる入ってくるんで、たまに本当に吐くぞ?」
うえ、入学式の日に思いっきり学園の噴水に向けて吐いた事を思い出したわ。
しかも急いでたから、あれ上流科の校舎の噴水だろ?
永久水流の魔術が付与された噴水に向けて!
あ、個人が使う『第〇階梯』とは、また違うぞ?
って、違う違う。
「スピカさん?あの~あんまり心配そうな顔してもらわないで大丈夫だぞ?最早吐くの慣れっこになっちまったからな!」
隣のスピカが凄い心配そうに除きこんでくる眼差しが…可愛い。
…そういや、そんな事をノートにもよく思っていたかなぁ…。
吐くのは慣れたとは言ったけどさぁ、血を吐くのは慣れてないぜ?
あの重力魔術、マージで瀕死レベルだったわ…。
あれはサファイア級以上のポーションじゃないと回復しきれない。
「ねえ…。クラート。ノートさんから受けた魔術、エメラルド級だと全然回復しきれてなかったじゃない?…サファイア級程のポーションがないと、回復しきれない程のダメージだったんでしょ?瀕死レベルを負うほどの…。あれ…金貨4枚もするじゃない?」
……。
「(―まだ!!何か言い訳はありますか!?―)」
あらあらまあまあ…『吐く』と言う言葉に反応しちゃったかぁ…。
スピカの罪悪感に満ちた顔は見たくはない。
そういう目的で城下町デートに来たわけじゃないし。
「スピカ…。君にそんな顔をしてほしくはなかったんだ。ごめんね。『吐く』って言葉に反応しちゃったんだろう?俺が口を滑らせたばかりに、スピカにまたそんな顔をさせてしまっている。でもあれは全くスピカは悪くないからね?全ては不誠実な行動をした俺に責任があるんだ。あれはね、当然の『罰』だったんだよ。ノートに悪いことをした代償として、致命傷レベルの怪我を負わされるのは当然の事だったんだ。」
そうしてまた俯いてしまったスピカの頬に掌を乗せて…。
「顔を上げてほしい。昨日の夜、俺はスピカに救われた。もし、自分に責任を感じてしまっているんだとしたら、それはもう、スピカが夜に来てくれた事で、もうとっくに帳消しになっているよ。」
そうしたらまた顔を上げてくれて、驚いた顔をしているね。
「とにかく歩こう。デートしよう。遊ぼう。まあ、金欠だけどな!!」
顔が赤らんでいるなぁ…。
うん、その方が全然良い。
「さて、じゃあ先ずは俺が毎度行っている、いつものポーション店から行こうぜ!」
ああ、笑ってくれたね!良かった…。
「うん!クラートの行っているポーション店から行きたい!」
そうやって、この時間だと王立学園の生徒がいない喧騒にあふれる城下町を、2人で歩いた。
「よう!フランツの親父!まーた来ちゃったよ~!!」
そう叫びながら棚に幾つもの、液体の入っているポーション瓶がずらりと並ぶ店内に2人で入った。
すると店内の暖簾の奥から、少し腹が出っ張っていて、頭もつんつらりんの禿げた、親父が出てきた。
「んあ?おいおいポーションコレクターがこんな時間に来るなんてよ。珍しいな?」
ああ!?誰がコレクターだ!こんちくしょーめ!?
「あらあらまあまあ、親父よ。いつの間にオタクに加えてコレクターとはなんぞい!?せっかくいつもの常連なんだから、きちんと接客しろい!!」
ちと眉間にしわが寄ってしまったではないか!
「だってよー。この時間、まだ学生連中は授業中だろ?つか紅眼の兄ちゃんよ、後ろのべっぴんさんは誰だってんだ?いつも一人で来るじゃねえか。」
不思議そうな顔でスピカを見つめる店主のフランツ。
ありゃりゃ、俺の背中に隠れちゃったか…。
「んあ?サボってデートしてんだよ~。羨ましいかぁ~?」
ふふんと、得意げに言う俺である。
「はっはっはっ!!!そうかいそうかい!!背中に隠れちゃって恥ずかしがり屋さんか!!ごめんよ!そちらのべっぴんさん!怖がらせるつもりはねえんだわ。んで?今日は幾つ欲しいんだ?」
見た目と違いフランツは案外気さくで、良い人なんだよなぁ~。
「あ~とりあえずトパーズ級10本と、アメシスト級5本でよろしくぅ。」
「あいよ。」
そういうと、フランツは棚からオレンジ色の液体瓶10本と、紫色の瓶5本ガサゴソと取り出して、黒色のカウンター机の上に並べて来た。
「んじゃ、大銀貨3枚と銀貨5枚頂戴するぞ!」
「ほいほ~い。」
完全に慣れてしまっているやり取りなので、『宝玉等級:アメシスト』の黒色のポケットに簡単に入る程度の小さな巾着袋、『空間巾着袋』から、大銀貨3枚と銀貨5枚を渡した。
「あい、確かに。またそちらのお嬢ちゃんも来てくれよな!」
そんなこんなで店を後にして、次々とウィンドウショッピングしていた。
中には、武具店を見ていると、エルナトも持っていた刀もあったり、大道芸人が披露する、手品や曲芸に集まる人だかりも、見ながら二人で手をつないでぶらぶらしていて、気付けばもう夕暮れで日が暮れ始めていた。
そうして今、ちょっとした石畳の高台の上で夕日を眺めている。
「「………」」
お互い黙って手をつないだままだ。
周りに殆ど人は見えない。
「スピカ…。どうだ?気分転換になった?」
俺は夕日を見据えながら訪ねる。
「うん。とっても。凄く気分が良いの…。」
そうか…なら、良かったな。
俺はスピカの方に身体を向けて、それに気づいたスピカも俺の方に身体を振り向く。
そしてお互い両手を絡み合わせて…夕日を背にして、また額をくっつける。
最早儀式と化したように、スピカは『極冠の魔眼』を発動させて…互いの唇を重ねた…。
「んっ…、はぁ…。帰ろうか。」
俺がそう言うと…少しだけ考え込むような仕草をするスピカ。
どうしたんだろう?まだ遊び足りないかな?
そう俺が思っていると、スピカはこう言ってきた。
「…クラート。あなたが談話室で話してくれた、あの災害後の森に行かせて?少しでも…妹さんの怨嗟がどれ程のものだったのか…見たい。」
…あの忌々しい場所に今一度、足を運ぶのか。




