39 救済
「っ!!!」
俺の言葉で完全に動揺、スピカの顔が赤く染まり上がり、息が荒くなってしまった。
図星を突かれ怯えているのか、身体が震えてしまっている。
「…………。」
『万象の噴水』のチャラチャラとした音が、俺とスピカ2人だけの空間に響き渡っている。
「わ、わ、私は…。」
何か必死に言葉を探している様子のスピカ。
俺は立ち上がり、スピカのいるダイニングテーブルの反対に回り片膝をつき、怯えてしまっているスピカの頬に触れる。
「ひっ!」
驚いてビクンと身体が震えるスピカ。
「…済まない。怯えさせるつもりは一切なかった。…ただ、魔眼を持つ者同士、同じ悩みを持つスピカの孤独が…少しだけかもしれないが俺には理解できる。
スピカ。聞いて?言いたかったのは、決してスピカを見放す事は絶対にしないという事だ。
これまでずっと一人ぼっちだったスピカを、少なくとも俺だけは永遠の味方でいるという事だ。
どうか怯えないでほしい。今この瞬間、もう一人ぼっちじゃなくなった。」
スピカの震えが止まり、目を見開きながら俺の目を真っすぐ見つめてきた。
安心させるように慎重に頭を撫でる。
「誰もスピカという個人を見てくれなかった。誰も理解しようとしてくれる人もいなかった。
だから悩み事や、相談するという方法が分からなかった。でも、俺には、俺だけにはどんな事でも、何を言っても構わない。何をしても構わない。絶対に拒絶も突き放す事もしないから…。」
スピカの目から涙がこぼれている。
「ああ。泣いても全く構わない。これまで我慢して我慢して抑えこんでいた、これまでの感情を俺だけには爆発させて全く構わない。呪いだと思っているその魔眼を誇ってあげて。さあ、スピカ。立ち上がって前を向いてほしい。俺の魔眼の名は…『救済の魔眼』。君の孤独を救おう。」
どんどんと涙と嗚咽が止まらなくなるスピカ。
そっとスピカを抱きしめてあげる。
「ぐすっ。あふっ。うああああああああああ!」
大泣きしてぎゅっと握りこんだ拳を、抱きしめた俺の胸や肩にガンガンぶつけてくる。
ずっと俺はそれを受け入れ続ける。
そして頭も背中もゆっくりさすりながら、延々とスピカの溜め込んだ感情を受け入れる。
「よく、これまで頑張ったね…。よく、ここまで耐え抜いたね…。本当にスピカはとても強い女の子だよ。君の好きな事、今まで読んでいた本の話、君の趣味の話…。色々聞かせて?一切遠慮なくこれからは何もかも向き合い続けるから。」
スピカは暫くずっと泣き続けていた。
その間、ずっと抱きしめて受け入れ続けていた。
「「………………………………」」
どれくらい経ったのか、スピカは泣きやみ、お互い同じ長椅子に隣合わせで座っている。
ぎゅっと俺の袖をスピカは握りしめている。
「…ねえ。あなたは、ノートさんの事が好きなの?」
顔が赤くなりながら不安げに聞いてくる。
俺もはっきり言わないとダメか…。
「…そうだね。姉さんにも言われたけど、ノートの事は好きだね。」
俯いてしまうスピカ。
もっとぎゅっと握りしめてスピカは言う。
「…何を言っても構わないのよね?」
もっと赤くなりながら少しもじもじしている。
いつもの儚い雰囲気が薄れ、女の子としての表面が表れている。
これが本当のスピカなんだろうな。
「…うん。良いよ。聞かせて?」
そう言うと決心したのか、俺の方を向き、顔が赤くなりながら目が見開いている。
「…っ好きよ!クラート!あなたの事が!!」
はっきりと、強く告白してきた。
…分かっていた事だ。
何を言っても構わない。
拒絶しないと言ってしまったばかり。
目を一度瞑り、そして開く。
「…分かった。拒絶しないと言ったばかり。君の告白を受け入れよう。」
スピカの方を向き、よくその目を見て、俺もまた、
「スピカ。俺もまた君の事が好きだ。スピカの目は本当に綺麗だ。魔眼がという意味じゃない。その真剣な眼差しが俺は好きだ。」
かあああと、赤くなるスピカ。
ははっ…。
ああ、やっぱり暗く俯いている顔よりも、その可愛らしい照れた顔の方がよく似合っている。
「あ、あ、で、でも…その…ノートさんも好き…なんでしょう…?」
そう言って罪悪感からか、不安げな顔をしてしまう。
スピカの不安は正しい。
確かに俺はノート・フォン・ヴァールハイトという女の子に恋をしてしまった。
ここ2ヶ月でドジっ子になり…いや、あれが本来の素なんだろう。
でもここぞと言う場面では、力を発揮できる芯の強い子だ。
なんとなく最近お互い接しているうちに、いつの間にかそんな関係になってしまった。
「…その通りだ。あの混同試合以来、俺らの関係性は急接近してしまった。今やノート・フォン・ヴァールハイトは…大事な人だ。」
正直今のスピカには言いたい言葉ではない。
そのせいで、また俯いてしまっている。
しかし…救わなければならない。
苦しんでいるスピカと言う女の子を。
「スピカ。救うと言っただろう?それに君の事が好きだと言った俺の言葉は、心からの本音だ。
まだ入学間もない時期に俺の悩みに、一番最初に感づいたのはスピカだ。事実、あの時期で君が一番話しやすく、お互い魔眼持ちと言う観点から、悩みを分かち合えたのはスピカのみ。
正直に言って多分、俺が最初に惹かれていたのはスピカ、君だ。」
そう言うと驚いたように顔を上げてくる。
「スピカは俺を頼りにしているようだけど、俺もスピカには救われていたんだよ。入学初日の森の災害の件の洞察力や、俺の魔眼に臆せず、スピカのずけずけとはっきり言ってくる部分とかね。
それにさっきもそう。俺と姉さんとの喧嘩を目撃した誰もが、紅い魔眼と規格外の力を持つ俺に近づいて来なくて、まあ、やっぱり寂しかった。そこにどういう理由であれ、話しかけてきてくれたのは、スピカだけだった。でもそのおかげでスピカと今こうして二人で話せてる。
ありがとう。スピカ。何でもっと早く、君に好意を抱いている事に気づく事が出来なかったんだろうね…。」
俺はスピカの手を握って目を瞑り、入学からクラス混合試合までの1か月間の事を思い返している。
本当によく喋っていたのは、昔からの腐れ縁のアトリア、同性のレグルス、そして…スピカだったのに。
はぁ…と息を吐き目を開いて、右横にいるスピカをジッと見つめる。
急に見つめられて、眼がきょろきょろして、顔が赤くなってしまっている。
「…スピカ。君の綺麗な蒼い魔眼を見せてくれるかな?」
意図が分からずキョトンとしながらもスピカは一度目を瞑り…そして目を開き、蒼い輝きの『極冠の魔眼』を発動させる。
「うん。やっぱり綺麗で美しい蒼い光の眼だ。えい!ごっつんこ!」
そう俺が言ってスピカと、そして俺の額同士をくっつける。
スピカの目が驚きで見開く。
広い談話室の一画に、魔眼同士の、紅と蒼の輝きが交じり合う。
そして、そのままスピカを抱きしめて…唇同士を重ねあった。
そして…2日目の稽古は終了する。




