37 騎士科稽古2日目 姉弟
俺たちの姉弟喧嘩が終わって、暫く時間が経った。
まだ稽古は続いている。
一先ず俺を除いた燦爛クラスの3人は、稽古の指南に行っている。
エルナトもいつの間にか全快しピンピンしている。
「「…………」」
姉さんも『紅蓮騎士団』の団長として指南に行くはずではあるが、今は俺と二人並んで黙っている。
「…姉さん。いつ帰っちゃうんだ?」
俺がそうボソッと聞くと姉さんは、
「…そうねぇ。あと8日くらいかな?」
そうか…。
それくらいしかいられないのか…。
「…姉さん。なんで俺を置いて出て行ったんだ?姉さんがいなくなってから、すげえ苦しい日々が続いたってのに。」
俺が何で出て行ったのかと弱音を吐く。
「…ごめんね。あのお家では、あんまり居心地がよくなくてねえ…。魔眼に執着するあの家系にウンザリしちゃって。クラートは唯一の魔眼持ちだったでしょう?あなた、まだ私よりも10個も下なのに、さっきも喧嘩?もそうだけど、なんでも出来たじゃない?家族全員がクラートばかり向いてて、私には然程関心がなかったから…だから出て行っちゃったの。実際出て行っても何にも干渉もなかったし、こうして『紅蓮騎士団』の団長をしていても、一切関心がないようだから…。だからクラートに半分嫉妬もあって、出て行っちゃったのかなあ…。」
そんな事初めて聞いた。
家族全員の関心が集まる俺に嫉妬してたなんて。
「クラートのその魔眼が何なのか、私にはわからないけど、基本何でもこなせるクラートだから別に大丈夫かと思って出て行ったわ。」
その言葉を聞いて、俺はかなり感情的になる。
「…大丈夫なんかじゃなかったよ!!姉さんだけが俺と言う個人を見ていてくれたのに!!出て行った時は、もう…。」
途中から言葉がつっかえて上手く話せなくなってしまった。
「クラート?泣いているの?」
そう聞かれて俺は、初めて泣いている事にきづいた。
「え…?何で?」
俺はずっと一人だったから、姉さんと7年という長い歳月が過ぎて再開したときは、唯一心の支えだった頼りになる人が目の前にいて、色んな感情がぐちゃぐちゃになっていたのだろう。
まさか、再開の最初のやり取りが女たらしが、どうのこうの何て下らない会話から始まるとは。
本当に下らなくて…楽しい会話だった。
「そう。きちんとクラートを見れてあげられなかったのは、私も同じか…。もっと早くあなたの苦しみに気づいてあげられていたら…まだウンシュルト家に残っていたか、もしくは連れだしてあげていたかもしれないのに…。」
何でそんな事を今更言うんだ。
「…ねえ?クラートに恋してる銀髪の女の子とはどうなの?ずーっとクラートにしがみついていて、凄く頼りにしていたじゃない。ずっとイチャイチャしてたって話だったけれど、実際のところどうなの?見たところ、クラートもあの子にずっと目が行ってたわ。もう分かってるんでしょ?クラートもあの可愛らしい銀髪の子が好きなのよ。でもまあ、王女様は分からないけれど、少なくとも薄い桃色髪の子も、クラートを多分…好きだと思うわ。」
は?スピカが?俺の事を?
「あら?分かっていなかったの?あの子は…戦士風に見えないのにわざわざ、この騎士科についてきたのよ?しかも私が銀髪の子とお似合いと言った瞬間、悔しそうな顔をしていたわ。あの子はどんな子なの?」
あんまり家族関係には口を挟まないようにしていたが…
「…スピカ・アイスベルク。魔眼持ちだ。俺のように魔眼に家族はご執心だそうだ。多分、スピカも俺と同じく頼りになる人がいないんだと思う。」
そうすると姉さんはなるほどと言った感じで、
「なるほどねえ。だからクラートに恋しちゃったんだね。クラートが私を頼りにするのと同じく、そのスピカちゃんもクラートを頼りにしてるのよ。」
…そう言う事か。
だから先生に進言までして騎士科についてきたのか。
「…どうすればいいのかな。俺は確かに…はぁ…ノートが好きだけど、それを言われると放ってはおけない。姉さん…。どうしたら…。」
少し考え込む姉さん。
「…難しいわね。クラートにあのノートちゃんを振るなんて事は出来ないでしょうし、まあ下手な振り方をしたら私が怒るけれど!」
ちょちょちょ!まじで勘弁してしてくれ!
「いや!姉さんを怒らせたくはないな!?俺だってノートで遊ぶだけの関係なんて絶対に御免だ!きちんと最後まで向き合う。しかし…ああ!どうしよう姉さん!?スピカは放ってはおけないよ!?何だかいつも儚い雰囲気でいつも悲しそうだから!」
そんな事を言うと姉さんは、フフッと笑う。
「ああ。本当に成長したんだね。クラートは!自分の事だけじゃなく、周りも気遣ってあげられてる。さっき、あ~…私と真剣勝負したエルナト殿下にも、急いで駆けつけてあげてたものね。そうねえ。別に恋愛だけが全てじゃないんじゃないかな。スピカちゃんにも普通に今まで通り、クラートが傍にいてあげていれば安心できるんじゃない?試しに言ってみると良いのよ。困っている事があれば何でも話してほしい、ってね。スピカちゃんが抱えている悩み、全て何でも。
私との…まあ喧嘩ね。あれで改めて確信したわ。あなたのその魔眼は、困っている誰かを助ける為に宿っているんじゃないかしら?だから自分勝手な人間には宿らない特別な魔眼。
クラート。よく聞いて。その魔眼にこれまで沢山悩まされてきたのでしょうけど、どうかその魔眼を嫌わないであげて。あなたの優しさにきっと、この人なら信頼して委ねられるとその紅い魔眼は判断したんだと思うわ。私が名付けてあげましょうか?その『深紅の魔眼』の新しい名前を。」
姉さん?名づける?
「姉さん…?一体…この紅い魔眼に…何を…?」
姉さんが俺の紅い眼をジッと見つめて…
「私が付けるその魔眼の名は…『救済の魔眼』…なんてどう?安直過ぎかな!」
救済の…魔眼…。
「ははっ…。姉さんには敵わないな…。うん。新しく名乗る事にするよ。
この『深紅の魔眼』改め…『救済の魔眼』とね。」
俺と姉さんとで笑い合う。
「さて、私も指南に行きますか!早く行かないと怒られちゃうからね!」
…姉さんになら言っても良いんだろうか?
あの、入学初日の事件の事を。
「クラート?…まだ、何かあるんでしょ?」
俺は姉さんに目を向ける。
「…姉さん。先ずは絶対に突撃とかはやめてね?それとあくまでこんな事があった、くらいの考えでいて。あれ以降本当にまだ何も起きてないから。俺だけが秘密にしていて、多分…まだ誰も知らない。姉さんを信頼してるから言うだけ。…実は学園初日に俺を襲撃してくる者がいた。」
姉さんが目を見開く。
「姉さん!変な真似はしないでね!?絶対だよ!?それに俺は一応姉さんに匹敵する強さがあるから!」
「…クラートがそこまで言うなら、分かりました。それで?まあ何となく想像はつくけど…。」
俺と再会したときに、やはり、もう何となく察しはついていたのだろう。
「姉さんの思っている通りだ。襲撃者は…っ。妹だ…。レグンだ。」
やっぱりか…と言う風に伏し目がちな姉さん。
「…なるほどねえ。そう…あの子、私が出て行ったのが7年前。まだ8歳。となると今は15歳かぁ。それで…どうやって撃退したの?」
そう聞いてくる姉さん。
俺は拳をぎゅっと握りしめて言った。
「…超高度な水魔術を使ってきた。あの年で、15歳で、最高位の『第6階梯』まで使えてたよ…。あの学園近くの森の3人の暗殺者の死体は…俺が殺した者達だ…!そしてあの巨大な爆撃痕もレグンの魔術だ。レグンは…俺の魔眼について怨嗟をぶつけてきた!妬ましいって!!今でもあの言葉がつい昨日のように何度も思い出す!一先ずは脅して退散させた…。出来ればいつか、レグンとも仲直りをしたいんだ。」
姉さんは俺を抱きしめて、
「そう。頑張ったのね…。レグンを守るために誰にも言わず、一人で抱え込んでいたんでしょう?私も共有してあげる。縁を切った私にも責任はあるから…。ただ今は、稽古に集中しましょう!」
「…ありがとう。姉さん。」
まだ稽古は続く。




