34 騎士科稽古2日目 大事な人
稽古日2日目の朝。
相変わらずの蒸し暑さ。
さらに言えば外は生憎の雷雨。
昨日はあんなに晴れていたのになあ!
夏の暑苦しい日差しは嫌だが、雨だって嫌いだぞ?
ウルスラさんという逸材に感激してポーションをそこそこ渡してしまい、俺の懐事情がぁ!
今日も今日とて節制するため、寮の設備を全く使えてない。
おかげで夏の暑さと、雷雨という湿気の多さで、俺の汗でベッドのシーツがビショビショ…。
だから何で!?逃げたけど、確かに逃げたけど!俺は侯爵なんだぞ!?
あと、ウルスラさんは一般生徒なので、当たり前だが寮に住んでいる。
だから稽古1日目終わりに、学生証でのIDの共有をして、俺とウルスラさん部屋がどこにあるかお互い分かっている状態。
おかげでエルナトは(稽古中に女遊びとは良い度胸をしているな?)と睨まれ、ノートは(わ、私も寮に住む!!いや…それよりもクラートさんのお部屋で同棲した方が…。)などと大騒ぎ。
なのでノートにも『学生証』でのIDの共有をして、俺の部屋がどこにあるか知られています。
後が怖いです。
そんなこんなで俺たち燦爛クラスが騒いでたせいで、騎士科の皆様がドン引いていた。
済まない、騎士科の皆様方!!
ちなみに、稽古日終わりにシリウスさんが来ていて(…クラート、お前になら妹を任せられるんだが…。)などとノリノリであった。
…いや待ってください!あのお方いつ俺を闇でくるんで拉致するかビクビクしているのです!
はぁ…ノートとの関係性もしっかり考えないと…。
ん?でも待ってください!銀髪美少女のノート公爵様を紹介してくれるのかと!学園2日目で期待していたではあ~りませんか!!
今日も一旦、燦爛クラスの教室まで行ってホームルームをした後、また[カエルス演習場]にエルナトとノート合わせて3人で出向く。
だがその前に、時間が迫っている。
何の時間か、って?
そりゃあ…上流科と一般生徒科に別れている学園まで、ウルスラさんと登校するんだよ。
学生証には連絡機能も備わっているからな。
昨日の夜に、(明日、クラートさんのお部屋まで行っても良いですか?)などと連絡し合っていた。
エルナトと、…とりわけノートにこれ知られたら大変な事になってしまう!!
「だああああ!もう早く支度支度!!」
身支度を整え終わったから、後はウルスラさんを待つため、雨だけど玄関前まで出るか…。
そう思い、玄関の扉を開けると…。
「「「………」」」
あ、これ終わったわ。
「クラートさん…。これ、どういう事なんですか?」
そう言うのは銀髪美少女のノート・フォン・ヴァールハイト様…。
「あの~ごめんなさい。クラートさん…。」
登校の約束していたウルスラさん。
「………………ごめんなさい。」
俺はノートに謝った。
登校中、雨に濡れるのを防ぐ魔道具があり、身体全体にかけて特殊な透明のオーラ状の膜で包まれる。
「「「…………………」」」
き、気まずいですよ!
ノートをチラッと見ると、ムスッとして少し涙目。
更に俺の挟んで隣に立つウルスラさんは、苦笑い。
誰か、た、助けて~!!
登校中の生徒は騎士科も多く、特にこの辺りはまだ1年の区画辺り。
昨日のハチャメチャ騒ぎを見ていた者も多く、さらに言えばノートは公爵という事もあって、皆そそくさと見て見ぬふりをされてしまった。
…お前ら!それでも騎士か!人が困っているんだから助けろおお!!
うん?あれは六大魔術師団の人たちか?
少数だが校舎に入っていくのが見える。
まあ魔術自体、希少だしな。
1年生でも一般の生徒の魔術科は50人と少ない。
「あれは、魔術師団の方々でしょうか?」
そう言うウルスラさん。
「ええ。そうかもしれませんわねぇ。『宝玉階梯:ルビー』の方もいらっしゃっていたようですし。」
頬を膨らませてプンスカしながら言うノート。
「………………機嫌…直して下さい…。」
俺はバチバチと雷が鳴り響く天を仰ぎながら呟くのであった。
あの後、校舎の前でウルスラさんとは別れて、ノートと一緒に燦爛クラスの教室まで向かってる最中。
「………………ウルスラさんと仲がよろしいのですね?」
ノートがもうそれはそれは、ムスッとしている。
このままではまずいので、ノートの前に立ち、
「ごめん。不用意に傷つけた俺が悪かった。俺はノートの笑顔が好きなんだ。顔が赤くなって照れている顔もね。…同じクラスメイトとして長い付き合いの、ノートはとても大事な女の子なんだ。もしこれから、色々な人物と縁ができても、ノートの方が大事だ。変に誤解をさせるような真似をして申し訳ない。ノートに嫌われたら、俺は落ち込んでしまう。」
頼む!ノートはとても大事な女の子だから嫌わないでくれぇ!
そんな風にいるか分からない神に祈っていると、
「………………わ、分かりましたわ。その…、本当に私の方が大事ですか…?」
今しかない!!
「当然だ!ノートの方が絶対に大事!そうだな…。ノートの方が大事という理由付けとして、もし仮にこのまま仲違いをして、4年間共に過ごす事になる方が気まずくて耐えられない。だからこそ、仲直りをしたい!」
ど、どうだぁ?許してくれるかぁ?
「ふぇ!?は、はい!わ、私も仲直りをしたいです!私の方こそ申し訳ありませんでした…。」
よっしゃー!!!嫌われなくて本当に助かったぁ…。
「いや、悪かったのは俺の方だ。ノートが謝る必要は一切ない。本当にごめん。」
そう言いながら少しノートを抱きしめて頭を撫でると、
「ふぇ!?は、はわわわ!?」
やっぱりその顔の方が可愛くて好きだ。
そんな風に頭をなでなでし続けていると…
「…はぁ、前々から思っていたけれど、いつの間にそんなに親密な関係になったのかしら?」
「「ふぇ!!?」」
気付かないうちにスピカが廊下に立って、じとー、っと俺らを見ていた。
「イチャついてないでさっさと教室に行くわよ。今日も稽古なんでしょ?そんな風で大丈夫なのかしら?」
「「………………すいませんでした。」」
ああ!お待ちください!スピカさん!そんな呆れたような顔をしないでください!
「………………私も先生にお願いして騎士科まで行こうかしら。」
ボソッとスピカが呟いた。
「では稽古日2日目だが、今日もクラート、エルナト、ノートは[カエルス演習場]に向かうように。それと本日より、六大魔術師団も来ている。共にレグルスとアトリア、スピカは魔術科の方に指南に行ってもらう。特にアトリア。悪戯は厳禁だぞ?」
「ヴぇ!?せんせ~。そんな事しませんよ~!?」
は?何を言っているんだい!?アトリア?とても心外だと言う風にプンスカしていますけどねぇ?どれだけの被害を俺は蒙ってきたと思っておるんですか!?
「いや…ブリッツシュラーク。てめえ何度もクラートに向けて雷をぶっ放してるだろうが。言われても仕方なくねえか?」
おおう!さ~すが!その通りです!!やっぱり味方だったんですね!
「え~!?レグっちもそんな事言うの酷~い!!
「今回てめえを見張らなきゃならねえ俺の気持ちを考えろ!!」
あらあらまあまあ…案外あの二人、仲いいなあ。
互いに顔を見合ってガミガミ言い合ってるし。
そんな時、スピカがリゲル先生に言う。
「…先生。今日は魔術科ではなく、騎士科に私も同行しても構いませんか?」
ん?ノートと同じく魔眼はどういった物かを見せるためなのだろうか?
何だか俺らをチラチラ見てるし。
「…ふむ?…ああ、なるほど。君がそう私にお願いするのは初めてだ。良いだろう。レグルス、済まないがアトリアの面倒を頼む。」
な、何ですって!?神秘的かつ毒舌美少女スピカも一緒でありますか!?
あっさりしますね了承しますね!?リゲル先生!?
「え!?先生!本気で言ってるんですか!?ブリッツシュラークを俺一人で見張らないといけないんですか!?」
めちゃくちゃ嫌そうにアトリアを見ているレグルスが、先生に驚愕の言葉を口にする。
うむうむ!分かるよ~!レグルス君!頑張ってね~。
「面倒って~、せんせ~!?あたしを何だと思ってるんですか~!?」
「てめえ、自分の二つ名を忘れたのか!?『微笑む災厄』だぞ!?」
そうだぞ!!レグルスの言う通りだぞ!あなたは毎回災厄を招くんですから!
しかし…ガミガミ言ってるなぁ…。
「ふっ。レグルスであれば一人でも問題なくアトリアの制御を出来ると思ってのことだ。では、各々の場に向かえ。ホームルームは以上だ。」
あらあらまあまあ。
確かにな!レグルス!頑張ってね~。
4人で[カエルス演習場]に向かう俺たち。
「おい、クラートとノート。また稽古中にイチャつくんじゃないぞ。私にこれ以上恥をかかせるなよ?」
は!?エルナト様よ!?何をジト目で釘を刺してきいるんです!?
「ちょちょ!今日はスピカもいるんだぞ!?え~とスピカさん?べ、別にイチャついてたわけでは…。」
「そ、そうです!そ、そ、そんなにくっついたりはしていません!!」
お互いわたわたしながら醜い言い訳をする俺ら二人。
ん?待ってください!ノートさん…ここ2ヵ月で距離感縮まったではあ~りませんか!!
「…はぁ。もうあなたたちが廊下で抱き合っていた場面は見てしまったのだけど?」
「「……はい。」」
俺とノートの二人がスピカに真顔で返答する。
溜息をついて呆れ顔のスピカ。
しかしそれと同時に少し顔がやや赤いのと、ムスっとした表情を浮かべている。
「おい。お前たち二人。今日既に廊下で抱き合っていたとはどういう事だ?ああ?」
エルナトの眉間に血管が浮かんでいます!!
お美しいお顔が台無しですよ!
エルナト様!?
「いやいやいや!これには訳がありましてですね!ウルスラさんと登校予定だったんだけど、そこにノートが来てしまって謝っていた場面なんですよ!…あ。」
まーた口を滑らした俺。
「ほう?クラート。お前は稽古ではなく女遊びに来たらしいな。ウルスラともうそんな関係になっていたとは…。切り刻まれたいか!?」
刀を今にも抜刀しそうなエルナト。
あか~ん!!
「はぁ…。エルナト殿下。クラート君が前々から女たらしである事は分かっていた事。後でじっくりとお話を聞きましょう。」
もう完全にすまし顔で、俺の処刑宣告するスピカ。
「……………ごめんなさい。」
俺はまたもや謝った。
って待ちなさいよ!?俺は陰キャなんですよねぇ!?
女たらしではありません!!プンスカ!
[カエルス演習場]に到着する頃には、もう俺はぐったり。
演習場の大きな扉を開けて入ると、昨日と同じく『琥珀騎士団』の面々。
フォルカー団長もいるが、誰かとにこやかに話している。
相手の人物は赤い鎧を纏っている。
んん?なーんか見覚えがある気がするんだが…。
って、あれは『紅蓮騎士団』か?
騎士団ごとに鎧の色が違う。
赤いと言うことは『紅蓮騎士団』なんだが…。
あらあらまあまあ…すう…、マジ?
もう、近くまで来たから誰なのか認識できてしまったのだが?
「クラート。久しぶりね。あの面倒くさいウンシュルト家とは上手くやれているの?そんな事よりあなた3人も女の子を侍らして…いやクラスメイトかな?」
………。
「ちょっと?何を黙っているのよ?まさか……クラート!?あなた本当に女遊びを覚えてしまったの!?」
「ちょちょちょ!違うって!それよりもなんで姉さんこそ、ここにいるのさ!?」
俺と同じく亜麻色の髪で、ふわりと腰まで届く長い髪をポニーテールで結んでる人物。
白い肌に艶のある凛とした雰囲気で、ハツラツとして輝く人、俺の姉、オスカー・ウンシュルトがここにいた。
妹のレグンや兄2人、両親と違い魔眼に対して興味はなく、むしろ俺と同じように7年前にウンシュルト家とは縁を切って出て行った人物。
お人好しタイプで唯一、俺によくお世話を焼いて来た人である。




