32 騎士科稽古1日目 戦技vs魔術
「しかし、『宝玉武階:ルビー』のエルナトとかなり打ち合いできるとは…ウルスラさんはエメラルド級の魔物を倒した事はありますか?」
俺がウルスラさんの傍で聞いてみると…いや!別に下心なんてありませんから!!
「えっと…。エメラルド級のは一度も遭遇した事は無いんですけど、実はサファイア級の魔物なら一度だけ。何故か私の町の近くに出没してきて大騒ぎでした。騎士団の到着まで間に合わないので、私が前線に立って、町の『宝玉武階:トパーズ』を持ってる幾人かと協力して、傷だらけになりながら倒しました。そのサファイア級の魔石と素材を換金して、町の皆と分け合いました。…残ったお金でこの薙刀、(千草繚乱)を両親の勧めで購入したものです。」
「「「………」」」
あらあらまあまあ…はぁ?
ほら~俺ら3人とも絶句してんじゃん。
貴族家、侯爵以上でも倒すのに危険が伴うサファイア級の魔物を倒したぁ!?
平民出身で騎士団に入団、複数での討伐はあるが、まだ学生1年のウルスラがほぼ自力で倒すって…いや、ヤバすぎる。
「…えっと、ウルスラさん。サファイア級の魔物がどれだけ危険かはご存知ですか?」
このお方、もしかしてあまり良く分かっておられない?俺がそう聞くと、
「え?いや、分かりませんけど、魔石だけで金貨3枚は町中、大騒ぎでしたよ。あんな大金初めて見ましたよ。この学園も凄いですよね。毎月金貨1枚と大銀貨3枚が支給されるなんて。なので金貨1枚は仕送りしてます。エメラルド級の魔物はそれよりかは少し弱いくらい?とかですか?」
「「「………」」」
あらあらまあまあ…はぁ?
ほら~全員唖然としてるじゃん。
え?本当に1年の平民出身の騎士科?最上位クラスでもあり得ない偉業成し遂げてるんですけど?
道理でエルナトとかなりいい線まで戦える訳だ。
「あ~、ごほん。ウルスラさん。エメラルド級の魔物とサファイア級の魔物には、格別までの差があります。エメラルド級の魔石が銀貨8枚、サファイア級が金貨3枚、まぁ銀貨に換算して300枚です。相当な偉業を成し遂げてますよ?『宝玉武階:サファイア』並みです。これ、後できちんと先生に言って申請すれば称号上がると思いますよ?」
俺がそう言うとウルスラさんがぽかんとしてしまった。
…う~ん、そんな表情も素敵です。
「ま、まあ!とにかく、稽古を続けましょうか!ノート、これは本気でかからないとだな。」
俺がノートに話しかけてたら、やや不安そうな顔をしているか。
「大丈夫でしょうか?私が逆に倒されてしまいそうですねぇ。」
そう曇った顔をしているので、頭をなでなでしながら、うへへ、相変わらずの触り心地~。
「いや、『宝玉階梯:ルビー』のしかも二つ名持ち、『静謐なる支配者』の、ノート・フォン・ヴァールハイトがそんな簡単にやられるわけないだろう。自信を持つんだ。」
「ふぇ!?ひ、ひゃい!!」
顔を赤くしてもじもじとしている。
やっぱり相変わらず可愛いなぁ。
「………………おい、ウルスラの目の前でイチャイチャするなああああ!!」
「「す、すいませんでしたぁ!?」」
ひぃ!!エルナト様にめちゃくちゃ叱られた!
「………………羨ましい。」
ウルスラがボソッと呟いた。
そうしてノートとウルスラが対峙する。
そして制服のスカートの両端を少し持ち上げ、軽く膝を曲げながら優雅に名乗る。
あらあらまあまあ…美しい動作です!
「先ほどは失礼いたしました。改めて名乗りましょう。ノート・フォン・ヴァールハイトと申しますわ。私の魔術をお披露目致しましょう。そしてあなたも薙刀術を存分にお振いになってくださいませ?」
ノートの目の奥が少し不気味に光る。
…本来はあのように、威圧感を感じさせながらの戦い方をするんだ。
流石だね、並みの相手なら震えあがる。
普段の?ノートの立ち振る舞いに戻り、エルナトが言う。
「はあ…全く。あの余裕の態度こそがノートの真骨頂だと言うのに…。クラート。お前、ノートを骨抜きにさせ過ぎだぞ?少しは自重してくれ。」
「………………ごめんなさい。」
ごめ~ん、流石に俺は謝ったよ!
ああ…やっぱりウルスラさんもまた、ノートの威圧感で冷や汗をかいている。
「それでは、いざ参りますわ。」
「では、いざ!!」
互いの模擬試合が始まる。
最初にウルスラが先手を打つ。
「『基本剣術:応ノ壱:縮地』!!」
瞬時に接近してきてウルスラに対して、
「『第3階梯:闇:シュティルシュタント』」
手を前に出し戦技で接近中のウルスラを強制的に静止させる。
正確には指定した空間のポイントに静止の紫のオーラを生み出し、ウルスラが静止のオーラに真っすぐ突っ込んでしまった、という形である。
動けなくなったウルスラは驚愕して、
「え?え!?動け…ない!?」
必死でもがくウルスラ。
そして、別の戦技を発動する。
「『基本剣術:応ノ弐:闘気』!!『基本剣術:応ノ参:心眼』!!」
身体能力を向上させて、まさかの静止魔術を乗り越えてきた。
いや、正確にはノートが元々魔術の出力を調整、弱めて放ったからでもあっての事でもある。
そして戦技を放ってくる。
「『紅花薙刀術:壱ノ花:花霞』!!」
ノートに向かってシュウウウン!と、高速の薙刀の突き技を放つ。
だが…
「え…?」
そこにはノートはいない。
空間を重力で歪ませてあたかもその場にいるかのように、誤認させる魔術。
「『第2階梯:闇:フェアツェールング』という魔術ですよ?ウルスラさん。重力で空間を歪ませるんですよ?」
そう隣にいつの間にか回り込んでたノートに語りかけられるウルスラ。
「っ!!!」
驚愕と魔術の異様さに恐怖すら覚えるウルスラ。
そして隣にいたノートに向かって戦技を放つ。
「くっ!『紅花薙刀術:弐ノ花:月華払い』!!」
エルナトにカウンターとして放った、横に薙ぎ払い攻撃を攻撃を振り払う…前に、
「『第1階梯:闇:ゾーク』」
掌からオーラを出し、弱めの出力に調整された引力の魔術で戦技を放たれる前に、体勢が崩れ不発となる。
冷や汗と意味の分からない、初めて見る魔術に混乱するウルスラ。
「うふふっ。驚きましたか?私はこれでも『宝玉階梯:ルビー』ですからねぇ。そう簡単には負けませんよ?」
体勢が崩れてノートを見上げるウルスラ。
息も荒くなっているが…
「…すう!『紅花薙刀術:肆ノ花:落華水月』!!」
ノートの足に向かって薙刀を振り払うが、
「『第3階梯:闇:シュヴェルクラフト』」
ズウウン…と重力で押し込まれて薙刀を上手く振り払いきれない。
「うふふっ。どうですか?中々魔術も流石でしょう?」
ノートが微笑みを絶やさずにウルスラに語りかける。
…エルナトとは別の意味で圧倒してるノートに俺はちょっと呟いてしまった。
「…相変わらず流石だな。ノートは。ハイレベルな相手を簡単にいなせるんだから。
そうするとノートがそれを聞いてしまって、
「ひゃい!?しゃしゅが!?はわわわ!?」
…動揺させてしまった。
いや動揺してるのに何で魔術を維持させられるんだよ…。
本当に異次元過ぎるだろ。
ノートという魔術師は…。
「おい、クラート…骨抜きにするなと言っただろう!?またノートの調子が崩れてしまったではないか!?」
「ちょちょ!不可抗力です!!?」
そうするとノートが動揺のあまり、
「あわわわわ!?こ、ここまでにしましょう!?ウルスラさん!?あ、あ、あ、ありがとうございましたわなのですわ!?」
あらあらまあまあ…もう言葉がめちゃくちゃではないですか。
とは言え、魔術師という存在がどういったものであるかを体験できたのは良い機会だったはずだ。
「はあっ!はあっ!これが魔術ですか…!勉強になりました!ありがとうございました。」
俺が息を荒くしているウルスラさんの傍まで行き、
「お疲れ様です。ウルスラさん。まあ、ノートは非常に卓越した魔術師ですからね。普通はここまで強い魔術師は中々いないです。」
「ふう。私、魔術師は勝手に炎とか雷とかそういう派手な攻撃をしてくる物だと思っていました…。こんなに不思議な感じなんですね。」
「(―あちゃ~。また外したかぁ~!!―)」
「(―クラっちに攻撃をあてるのが~!!あたしのもくひょ~!!―)」
…いや、派手に雷をぶっ放すおバカがいます。
「あ~いや、実際のところウルスラさんの考えは間違ってないです。ノートは魔術制御のスペシャリストという事もあって、かなりトリッキーな戦い方をするんですよ。ノートと戦って勝てる人物はほぼいません。舐めて挑んだら全員返り討ちにしますからね。」
そう言うとノートが恥ずかしがって、
「ク、クラートさん!?あ、あまり私をそんな化け物みたいに言わないで下さい!?」
あわあわとそわそわしてるので、そんなノートの頭をなでなでしながら…うへへ、もうこれが当たり前になってる気がするよ!!
「違うよ。そう言う意味で言ったんじゃない。偉大な魔術師だ、って言いたかっただけだ。」
「うひゃ!?は、はわわわ!?」
顔が赤くなってるなぁ。
やっぱり可愛い。
…そこに鬼がやってきた。
「…おい、イチャイチャするなと言ってるだろうがぁ!!稽古の時間だぁ!!」
「「ご、ごめんなさいでしたぁ!!?」」
エルナト様に怒られた。




