22 クラス混合試合 舌戦
ノートとエルナトが[ヴィクトル演習場]の真ん中に立つ時には、アトリアとレグルスによって破壊されたクレーター痕がほぼ修復されていた。
[ヴィクトル演習場]全域に演習によって破壊された跡地を自動修復する『宝玉等級:ルビー』級の修復装置、『紅玉石』が幾つもの数が演習場の空中をグルグルと周り修復されていくのだ。
「おやおや、クラートさんの言葉をそのまま使うようですが、ルミナス王立学園にはどれだけの資金で運営されているのやら…。うふふっ。それだけこの学園に来る者達には、それだけの資金をかけるだけの価値があると言う事なのでしょうが…1年とは言え、最上位クラス:リュミエール【光】ですら、あのご様子ではさぞかし学園側も頭を悩ませているでしょうねぇ?」
口に手を当てクスクス笑うノート。
「そうは思いませんか?お三方?2戦目は10名でしたが、今回は随分と少ないのですねぇ。先ほど、私の燦爛クラスの2名があれ程の圧勝劇を披露したというのに…腕に自信がおありなのですか?」
そう微笑みながらも目を細め、目の前3人の男子生徒に問いかける。
「…ノート・フォン・ヴァールハイト。貴様が第4階梯までの闇魔術しか使えないという事は我らリュミエールで周知の事実だ。にも関わらず貴様が何故、グロワール【栄光】に選ばれたのか…俺は納得していない。高位の魔術を使える俺こそがグロワール【栄光】に相応しいはずだった。兄であるシリウス・フォン・ヴァールハイトの意向で配属されたわけではあるまいな?」
そう答えるのは、水色の髪を刈り上げ逆立たさせワイルド風味を感じさせる巨躯な男子生徒。
それに対してノートは口に手を添えてクスクスと笑う。
そんなノートの態度に眉間にしわを寄せ睨みつけ、
「何がおかしい。ノート・フォン・ヴァールハイト…。」
口に手を添えたまま目を細めノートは答える。
「いえいえ。あなたの疑問は最もですよ。納得がいきませんよねぇ。あなたは第5階梯の風魔術が使えるのに、何故?と。ですが、あなたに先ほどの4名のクラスメイトのような芸当が果たしてできますか?
…フローライト・ツー・ノルム公爵?」
フローライト・ツー・ノルム。
ルミナス王国において7つしか存在しない公爵家の一角、ノルム家は風の属性魔術を代々受け継ぐ家系。
そんなノルム公爵家は3人の兄弟と、1人の長女がおり、フローライトは三男、末っ子である。
しかし性格が気性が荒く、ノルム公爵家でも手を焼いており、頭を悩ませているそうだ。
「ふんっ!できるに決まっているだろう。シーエル【天空】、リュミエール【光】という上位に選ばれながら、なんと情けない。魔眼持ちだろうが、二つ名を持つ公爵家の人間だろうが、まとめて蹴散らしてくれる。だからこそ、今この場でそれを証明してやるのだ。」
そう鼻息荒く吠えるフローライト。
相変わらずクスクスと笑いながらノートは言う。
「うふふっ。なるほど。それは中々に面白い冗談ですねぇ。そもそもあなたは実戦経験がおありで?いえ、あるのでしょうね。ですが中途半端に能力がある分、苦戦、危機と言った場面がご自身で想像ができないのでしょう。第5階梯の魔術まで使えるのであれば尚更…。では、サファイア級の魔物を単独で討伐でもされたご経験は?魔物はサファイア級から危険度が急上昇します。そうですねぇ…。分かり易くお金で例えてみましょうか。エメラルド級の魔物の魔石が銀貨8枚。そしてサファイア級の魔物の魔石は金貨3枚となります。分かりますか?要するに、サファイア級の魔物は銀貨300枚相当に当たる危険度という事です。万が一サファイア級の魔物がこの辺りに出没するとなれば、国の騎士団や魔術師組合が大騒ぎです。大人数で挑まなければとても危ない存在なのですよ。
ちなみに私に加え、隣におられますエルナト殿下も含め、グロワール【栄光】のクラスメイトは全員、サファイア級の魔物を単独で撃破していますよ?」
そう笑いながら魔物を例に出して、それでも燦爛クラスに選ばれる素質はあるのか?とノートは問いかける。
そう言うとフローライトは歯を食いしばり、ギシギシと鳴らしながらも答える。
「確かに俺はサファイア級の魔物を単独で撃破した事もなければ、そもそも遭遇すら出来ていない。俺の親や兄たちは、お前では危険だと何度も止められ現場に行けたことがない!!
だからこそ貴様を倒し、俺こそがグロワール【栄光】に相応しいと証明してみせるのだああ!!」
最早目を血走らせ、とんでもない形相で唾をまき散らすフローライト。
そんなフローライトに、ノートは未だに微笑みながら最後に問う。
「うふふっ…あっはっはっはっはっ!!すぅ…はぁ…。本当に面白い事を仰いますねぇ?確かに私、並びにエルナト殿下を倒すことが出来たなら、証明できるかもしれませんねぇ?
…ちなみにですが、なぜ私に拘るのですか?」
ノートの答えに意味が分からず眉を顰めるフローライト。
今度こそ笑みを消してノートは完全にフローライトを見下す目をして言う。
「…分かりませんか?最初にあなたはこう仰いました。なぜ第4階梯までしか使えない私がグロワール【栄光】なのか?と。そして続けざまにこう仰いました。私を倒してグロワール【栄光】と証明してみせるのだと…。何かおかしくありませんか?」
眉を潜めながらフローライトは問う。
「何が言いたい…?」
その言葉にもはや呆れるノート。
「はぁ…。なるほど。気性が荒くてご家族に迷惑をかけるばかりか、頭も悪い…と。あぁ、なんとお可哀そうなお方なんでしょう…。
つまりは、見下してる私を倒すよりも、先ほど4名…とりわけ二つ名を持つレグルスさんやアトリアさんを倒した方が、よほどあなたご自身がグロワール【栄光】に相応しいと証明できませんか?という事ですよ。」
最早フローライトを睨みつけ罵るノートに、フローライトは口をパクパクさせて言葉が出ない。
「つまりあなたは先ほどの4名が怖くて名乗りを挙げる事が出来なかった…。だからエルナト殿下含め女かつ見下している私にしか挑む事が出来なかった…。その時点であなたはグロワール【栄光】には相応しくありません。さきほど勇敢にも挑んだローズクォーツ・ムート侯爵の方がよほどグロワール【栄光】に相応しい。
こうして私の視界にあなたが入ってる事自体も不愉快です。
本来であれば本当の戦場がどういう物であるかを疑似体験してもらう特別授業ですが、さっさと消え失せてもらいましょう。
エルナト殿下?シルヴァン侯爵と、ベニトアイト侯爵のお相手をしていただいてもよろしいですか?」
そう隣に立つエルナトに目を向け問いかける。
そんなエルナトは刀を抜刀しながら前に進みながらノートに、
「ああ。こんな屑は私も見てて吐き気しか覚えない。あの2人がどれだけ私の剣術に耐えられるか、楽しんでいるから、さっさとそこのゴミを片付けておいてくれ。」
2人の内エルナトに媚を売ってきたシルヴァンと、もう一人の魔法剣士、ベニトアイト・ハイス侯爵は完全に狼狽しているがエルナトにとってどうでも良い事だ。
「っ!!!くたばるのは貴様だあああ!ノート・フォン・ヴァールハイトおおおお!!」
魔術の媒介となる魔剣『息吹の剣』『宝玉等級:サファイア』を手にフローライトは吠える。
目を閉じてノートは右手を前に突き出し、
「『第4階梯:闇:フェッセル』」
魔術を発動した。




