106 『粛清の庭園』とグラオザーム邸訪問
「え、エルナト…俺あんまりヴァールハイト城館の奥にまで行ってなくて、このひたすら真っすぐの渡り廊下から見える目の前光景は…一体なんですかい!?」
はい!!グウウウンと何だか不穏な音を出している場所を探したらですね、何とひたすら大理石のような正方形のタイルが敷き詰められた巨大な中庭でしたのです!!
今俺とエルナトが立っているこの場は、ヴァールハイト本館と、『秩序部隊』のいる別館を繋ぐ渡り廊下…。
ここは本当に長い!別館まで大体50メートル、んで道幅も6メートルとデッカイ!!吹き抜けの高~いピッカピカの大理石の廊下でね、両端は天井まで窓がある!それを支えるかのように、所々ギランギランのやや細めの黒曜石の円柱があるのだよ。
夜は円柱に取り付けられた、『永久光波』の刻まれた銀細工のランプ『永遠の光』『宝玉等級:サファイア』が柔らかく照らすのです!
中庭を挟むように別館を繋ぐ2つの渡り廊下が左右に展開されているけどさ~、如何せんヴァールハイト城館がとんでもなくデッカイからさ、中庭もそりゃあ凄く広かったのよ!!
でもねえ…だ~れも使ってないから何のために存在するのか分からなかったけどさ~。
何せ、渡り廊下から別館のその先まで急に、広~く防護障壁で覆われていたからねえ?
『防護聖域』って言う、大よそ殆どの攻撃やらで建物を破壊できなくさせる結界製の『宝玉等級:ルビー』魔導具でね~。
燦爛クラスの教室や生徒会室にあった『至高に栄光あれ』の無効化結界を超広範囲に引き延ばして薄めた感じ。
「ななななんですかい!!?『重力制御』の魔術刻印が刻まれてた超強化大理石いい!?おおおい!あそこの『聖銀』?なのぉ?あの漆黒を『聖銀』製と言って分からんのだか、姉さんのがしなやかに動ける魔術刻印が刻まれたのに対してぇ?あれは防御力を更に引き上げる刻印が刻まれた、漆黒の鎧のお方が20名がおられるのだが!?ぅえ?あの中庭は今、重力十倍!?何でへっちゃらで立っていられるのお?」
あの正方形の『重力制御』の強化大理石のタイル一つ一つが魔導具ぅ?『|自分を克服する者が勝つ《ウィンキト・クイ・セ・ウィンキト》』って言う、『宝玉等級:サファイア』のやべえやつ。
あの~最大で25倍程まで重力を引き上げられるらしいよ!!化け物だぁ!!!
「つかさ!シリウスお兄様よ!?何であの中に制服姿のままで立っていられるんだい!?怖えよ!?えええエルナト様ああ…!!可愛い…じゃない、助けてええ~…!!ごヴぇ!?」
「おいクラート。私にさりげなくしがみつくな。この紅眼性欲魔。お前は誠実な二股とやらをしているのだろう?これは不誠実だなぁ?この二股紅眼屑。」
痛ぁ~い!?ねぇ?なんか急に皆俺に拳じゃなくて武具で叩いてるじゃ~ん!
「なんて失礼な事を言うんだい!俺はそこまで屑でも女たらしでもないわい!…でも、エルナトは頼れるからさぁ~、ついつい甘えちゃうんだぁ~。うへへ、ノートとの関係も取り持ってくれたし~。…だから俺がシリウスお兄様に闇にくるんで拉致されそうになった時はエルナトおおお!!助けてええ!!ごヴぇ!?」
「はぁ…だからお前、被害妄想が過ぎる。…これまで孤独だったせいか?アトリア以外で頼れる人がいなかったのだろうな。お前の姉、『雷滅の鬼神』以外では。そうやって無駄に騒がしいのも、心の弱さを隠し、敢えて人を遠ざけるよう、無意識の行動だろう。ノートも、スピカもお前に救われ、レグルスやアトリアさえも無意識で救っている。ならばお前自身を助けてくれる者は誰なのか…。いないのだろう。私はお前を頼りにするように、逆にまた、お前も私を頼りにしていているのだろうな。私は王族でもあるしな。ま、お互い助け合おうか。全く…シリウスの奴がそんな拉致などと言うバカげた事をするものか。
それでも安心できないのならば、もしシリウスに何かされたら私の名でも出しておけ。私ではシリウスに太刀打ちできんが、アルニタク兄上率いる『金剛騎士団』がお前を守るだろうな。
これでどうだ?少しは落ち着いたか?」
…ええ!!エルナト様ぁ!!何て逞しくお優しいのか!成長したんだね!!
「結婚しよ~!!わ~い!!ごヴぇ!?」
「飛びついてくるな。この紅眼性欲魔。」
…思いっきり刀の鞘ではたき落とされた~。
「はぁ…ちなみにあれは『秩序部隊』の魔術師が全員、闇の重力魔術師でな。その重力魔術に耐えられるよう『宝玉階梯:ルビー』45名の『秩序部隊』がああやって重力に耐える訓練中だ。ヴァールハイト家の演習場は、通称『粛清の庭園』と言う。あの中庭はその1番区画の『粛清の(壱)平伏』という中庭の『粛清の庭園』の1つだ。ああ…どうやらシリウスめ。さらに重力を上げたな?跪いて吐血している者も出て来たな。」
…っ!冷静に見つめて言わないで~!!エルナト様ああ…。
重力で吐血はノートの涙を思い出しちまうって!!
「(―ふざけないでよ!!裏切り者おお!!―)」
あああ!?今度は水魔術から重力魔術のトラウマがぁ!!?
今正に見ている『秩序部隊』と同じ目に遭っているからねえ!?
「やべ、俺も吐きそう…。」
マジでちょっと自分の身体を埋めつつ、口を押さえ込んだよね!
「クラート…。レグルスと言い、お前と言い、どうしてこうも精神的に不安定なんだ…。いや、燦爛クラスの教室全員がそうか。そら、ここはお前のトラウマ地点かな?ノートはもうとっくに許している。そうでなければお前をヴァールハイト家に居候させたりしない。さっさとここから離れよう。…後でシリウスの奴に苦情を入れておくか…。」
「…うぅ~。やめて~。拉致されるからぁ…。心配をかけさせたね~。ごめ~ん。」
「全く…『重力制御』の強化タイル、『|自分を克服する者が勝つ《ウィンキト・クイ・セ・ウィンキト》』を起動させなければ、そよ風の心地良い大理石の中庭だ。変にまだ心に棘が残っているなら、ノートとここで過ごしてみろ。…それはそれで苦痛か?ま、荒療治だと思って気が向いたときにでもノートを誘ってみろ。」
肩を担ぎ上げてもらって本館に戻りました~。
エルナト様!!合法的に身体がぴったりくっ付いて俺は幸福ですわ~。
という事でグラオザーム邸…レグルスのお宅に突撃中です!!
『ゴーレムの魔導馬』を一つ借りてエルナトと二人乗り中…。
ぐへへ~、背中からエルナトが引っ付いてる~!!並木道もあって心地いいね!
「おいクラート。私に変な妄想をしているだろう。後で引っ叩くぞ?」
「はい!!しています!!変な妄想をたくさんしております!仕方ないでしょう!お可愛いエルナトに密着される機会なんて殆どないですからね~!!へへ…最高です!!」
だってな~、俺1人で行こうとしたら、エルナトも行くと言ってきたのです。
でもそんなに『ゴーレムの魔導馬』に乗る事なくて、あまり扱いが良く分からないと言うのです。
ではどうするか…。
「二人乗りだよね~。ふふ、王族のお姫様と馬に二人乗り…なんて素晴らしいシチュエーション…!!この最高のイベントの後に何も起きないはずが…」
「本当に何もないぞ。バカ垂れ。さっさと走らせろ。紅眼性欲魔。ま、とは言えお前だから信頼できると言うだけの事だ。はぁ…私のどこが良いのやら…。」
…酷い言われようです!!でも何を仰っておるのですか!あなたは外見中身、最高でございます!
んではい、到着したんですけどね?一昨日に引っ越して前々から思っていたのです。
「何ですか?ここ?本当に公爵邸ですか?本当に間近で見ると鬱蒼とした森じゃないですか!!さっきまでの綺麗な手入れされた並木道はどこですか!?鉄門がなくて森深くに大理石の道がなんかあるんですよね!奥に高い綺麗な石塀は見えますけどぉ~、魔物が出そうな雰囲気だよね~?エルナト~。怖~い!!ごヴぇ!?」
「気持ちの悪い事を言っていないでさっさと進め。この二股紅眼!!」
痛ぁ~い!!もう完全に拳じゃなくて武器で俺の頭を叩くのがお約束になってな~い?
このまま『ゴーレムの魔導馬』をゆっくりと進めていくんですがねぇ…馬車が3台は通れる大理石の道以外はマジで森!!しかも『魔街灯』のような街灯もないから夜は明かりがないと何も見えん!!まぁ?俺の『救済の魔眼』で真っ暗闇でも全然平気だけど~。
奥が霧のように霞んでてハッキリ見えないけど、ふふ、案外この道はそこまで長くない事が俺の魔眼から分かるぜ!!ほら!少し進んだら幻かのように、急にグラオザーム邸の全体像が見えて来たよ。
う~ん!デッカイ白亜の大理石で築かれた…ぅえ?と、砦?窓が少ないと言うかほぼ無くね?
何て言うか…とにかく高い四角形の見張り塔みたいな物があったり…は?公爵邸じゃねえよもうこれ。
魔人が居座る広大な居城なんだがぁ!?装飾もあんまりない!シンプルで角張った、要塞のような機能美…!?
しかも何で登ることも難しいほどに高い一応壮麗?で滑らかな石塀で、城館を完全に囲まれているわけぇ?
そして門がさぁ…重苦しくて、無骨な両開きする黒鉄製の門…。
はぁ?こっわ!?
「え、エルナト様や。ここは本当に公爵邸なのだろうねえ!?魔の城館にしか見えないぞ!?今進んだら勝手に門が開閉したが…ええ!!?グラオザーム城館の玄関口までの庭園も、まるで迷路みたいじゃないですかぁ!?ばか高い針葉樹にい!?常緑樹だらけで影しかな~い!?」
…門をくぐり抜けるとさぁ?先ずいきなり大理石の道が十字路のように分かれて、右手側にもう見えづらくて仕方ねえですが、一応ピッカピカな白い大理石の巨大な馬車小屋の建物が見えるんです。
左手側は何もねえけど、突き当りで右方面に曲がって、グラオザーム邸方面に向かうように真っすぐ続いている…ように見えますねぇ。
んでも、左手側はグラオザーム邸の裏側?に続いているねえ。
まぁ良く見えねえけど。
正面ですかぁ?馬車が3台は通れそうかなぁ?くらいの道が続いてるだけだよ!!
地面に突き立てらた、高くて少し黒味のかかった銀の『永炎の燭台』が青白く不気味に道を照らすように立っていやがるんだ!!
マ~ジでそれだけ。
ぅえ?あの…ヴァールハイト家に帰ってもいいですかぁ…?
「はぁ…クラート、お前は何で変なところでビビりなのだ?私を守るとか言っていなかったか?そんな感じでお前、大丈夫なのか?」
は!?なんて事だ…そうでした!!俺が何としてでも邪な感情を抱く汚い男から守らないといけないのでした!!
「エルナト…俺が何としてでもこのグラオザーム家の、主にレグルスとかレグルスとかレグルスとかの!!あの不誠実で女たらしなレグルスからお守りするからね!ごヴぇ!?」
「お前が言うな。この二股紅眼性欲魔。これからお前の異名は『紅眼の魔人』ではなく、『性欲の紅眼屑』と正式に登録でもしておいてやろうか?」
痛ぁ~い!?今度は鞘ではなくて柄の端で小突いてきたぁ!?
「ちょちょちょ!?お待ちになって。俺は単純にレグルスの魔の手からお守りするだけなのです。決して屑ではありません。俺はエルナト様を守る正義なのです!ごヴぇ!?」
「もう黙ってさっさと進ませろ。一々お前の口減らずに構ってると疲れ…いや、案外楽しいな…。」
あらあらまあまあ!!ついぞ俺の魅力に気付いたくれたん…
「お前を叩くのが凄く気分が晴れる。鬱憤晴らしには丁度いい。」
だね~えええ!?魅力じゃなくて俺はサンドバッグ…って事おお!?
あ、そうこう言っている内にこれまた、無骨で怖いレグルスの女たらしにぴったりの、黒鉄製の巨大な両扉、玄関口の前ですわぁ。
『ゴーレムの魔導馬』を玄関口の脇に停めて、降りて…ああ…エルナトとの密着がぁああ…。
ごほん、俺とエルナトでチャイムを鳴らします。
すると玄関口から開いて家臣…?おやや?レグルスのように突き刺すお目目をしているアトリアと同じくらいの身長の女の子が出てきたぞい。
「…ああ、お兄のお友達ですか?それと…エルトナ殿下…。お久しぶりです。これまであまりお兄とは仲が良さそうには見えませんでしたが、最近は良くなってきたとか。」
「ん?ああ。そうだな。久しぶりだな。まぁ…これまで私も色々あったのだ。チタニア。」
ん?お兄?この幼さが見えるけど…いや~でも確かにレグルスを女の子にしたらこんな風になるのかぁ。
「えっと、レグルスに会いに来たんだぁ~。遊びに来たの。レグルスと同じクラスのクラートです~。よろしく~!!」
ん?何かさっきまで値踏みするように鋭かったのが目が、急に見開いたんだが?
「…ああ。レグンちゃんのお兄ちゃんですか?私のお兄が今日ローズクォーツさんを連れて帰ってきたら、妙に少しだけ腫れ物が落ちたかのように、元気が戻っていたので…。ありがとうございます。クラートさんのおかげと言っていたので。どうぞ上がってください…。」
あらあらまあまあ!!レグルスと違って良い子じゃないのお!
「おいクラート。どうせレグルスより良い子だと思っているんだろう?確かに身内、仲間には良い子ではあるが、敵に関してはレグルスより遥かに淡々と殺すからな?グラオザーム家はこれが普通だぞ?レグルスがここでは少し言い方は悪いが異質なのだ。人間味を残しているという点でな。チタニア、後で久しぶりに『影の試練場』で模擬戦でもしよう。」
…先ほどの言葉、撤回です!!




