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召喚勇者 天に堕ちる  作者: かしわぎ まさと
第一章 ソリエット王国領—召喚編—
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第三話 魔法とは?

「慎吾さん、何を読んでらっしゃるんですか?」


 がたつく道で揺れる馬車の中。

 慎吾は木箱の一つを開けて本を取っていた。


「『魔法の基礎知識』って本」

「この文字不思議ですね。 形は見たことがないのに意味は分かります」


 それは慎吾も不思議に思ったが大して考えはしなかった。

 よく考えれば昨日だって王様たちは日本語を話していたし、言葉を自動翻訳する魔法か何かをかけられたのだと察していた。


「で、何か分かりましたか?」

「まあな。 魔法の種類と仕組みに関しては大体分かった」


 男子あるある、こういうものの吸収はバカみたいに早い。


「教えていただいても?」

「えーとまず………」


 まず、

 魔法は無数に存在する。

 人によって魔法を形造る“魔力”と呼ばれる力の性質が異なる。

 この二つが重要だと、慎吾は言う。


 魔法の分類については大きく分けて三つ。


 魔力をエネルギーとしてそのまま運用する“基礎魔法”。

 体に循環させて強化したり、出力する方法のこと。


 魔力同士を繋ぎ合わせて様々ものを再現したり、消費することで事象を起こす“魔法”。

 そのうち自分の魔力の性質に合い、個人が最も得意とする系統とそのレベルを示すのが“適正魔法”。


 最後に条件をクリアすることで発動する“スキル”。

 だがこれに関しては持っている者は少ないらしい。


「昨日、冬夜が『他人の細胞を再現して治癒する魔法』って言ってたろ?」

「なるほど。 魔法だからとなんでもできるわけではないのですね」 

「ああ。 少なからず理論か条件は必須みたいだ」


 それだけではない。

 魔法、というよりこの世界には”あるルール”がある。


「自分に不利な“制約”は利益ももたらす、ですか」


 不利が利益をもたらす。

 つまり条件付け強化だ。


 例えば使う魔法を制限するなどして、選択した一つの魔法の効力を底上げしたりする。


「魔法の前に技名を叫ぶのも、相手に技を伝える代わりに起動からの発動までの時間を縮めたりするためらしい」

「かっこつけではないのですね」

「………分かっててもカッコつけって言うなよなー」


 向かいでパンをかじっていた一真が話に入ってきた。


「冬夜さんは?」

「寝てる。 さっきまでそこら辺の動物とか解析しまくってて疲れたんだろな」


 彼が向ける視線の先には寝息を立てる冬夜の姿があった。


「で、お前の特異体質ってのは結局なんだったんだ?」

「それが…」


 一真の言葉に、慎吾は一瞬黙り込む。


「どこにも書いてないんだ」

「はあ?」


 まだまだ本はある。

 が、他のものにも書かれてないんだろう。

 慎吾はなんとなくそう感じていた。


 今手に持っている本には文字通り魔法・魔力の基礎が事細かに記載されている。

 それこそ、今美久に話した以上に。

 だがその中に“特異体質”なんて言葉はただの一回も出てこなかった。


「特定の魔法って可能性もあるけど、多分載ってない」

「んなことねぇだろ。 絶対どっかにか書いてあるって」


 まあそんなことはいい。

 少なくとも魔力は慎吾にもあるんだ。

 適正魔法がなくても基礎魔法は使える。


「戦えなくはない。 別に初めから全部できる必要もないし、他の国ならなんかあるかもしれない。 まあゆっくりやるよ」


 バタンと本を閉じる慎吾。

 その時、


 ———ドンッ!!!

 爆発のような音、衝撃が起こり、慎吾たちは宙空へと放り投げられた。


「痛ッ………、なんだよクソッ! 美久、冬夜、一真!」

「こっちは問題ない! 冬夜だけ怪我してっけどかすり傷だ!」


 馬車は横たわり粉塵を撒いている。

 荷台に乗っていた木箱の一部からは肉や作物が吐き出され、本もそこら中に転がってしまった。

 一真の声が聞こえてきたのは、さらにその奥からだ。

 しかし、異変はまだある。


「ガ、ガガグ………」


 その機会な音、声はどこから発せられたものかわからなかった。

 ただ周囲に舞う煙に溶け、響いている。


「し、慎吾君! 何かいるよ!」

「何がいるかわかるか?」


 冬夜たちに駆け寄る慎吾。

 彼の膝には血が滲んでいたが、外傷はない。

 美久がすでに治していた。


「早速バトルかよ」

「構えとけ慎吾!」


 一真が叫ぶ。

 前に出た彼は地面を強く踏み締め、両手を広げた。


「《強制挑発(プロヴォーグ)》!」


 赤く光る一真の瞳孔。

 それに共鳴するように、茶色く濁る彼らの視界の中にも二つの赤い眼光が映った。


「獣? それにしちゃ変な雰囲気だな…」


 この世界に来てから慎吾の、召喚勇者の五感は敏感になっている。

 他人の持つ悪意や雰囲気を肌で感じられるほどに。


 そんな中、慎吾が感じ取ったのはヘドロのように黒く、気色の悪い“何か”だった。


「ギギャァア!!」


 再びあの叫び声が響き渡る。

 粉塵を裂き、現れた黒い影が一真めがけて駆けた。


「ふんっ!」


 振りかざされる“何か”の腕。

 一真は咄嗟に腕を突き出し、防ぐ。

 その時になってようやく定まった“何か”のシルエットは人間とはかけ離れたものだった。


「化け物……!?」


 全身が融解したかのように歪で、黒く染まっている。

 肩や胸にはギョロギョロと蠢く目玉があり、一真に向かって振り下ろされた腕は紫色のオーラを放つ鎌のようだった。

 慎吾がそう呟いたのも無理はない。


「慎吾! ヘイトは俺が買ってる!」

「分かった!」


 慎吾は拳を握る。

 体の奥底に感じる力、魔力を乗せて。


「行くぞ!」


 駆け出す。

 その彼の拳には、燃えたぎる炎が宿っていた。

◯適正魔法

 適正魔法の名称は、本人が得意とする系統と扱える限界レベルを指し示す。

 系統には物体を作り出す“生成系”、物体を操る“操作系”、他人の意思や思考に触れる“干渉系”、肉体や武器を強化する“強化系”など様々なものがある。

 また、魔力で“構成”するものと“消費”するものの二種類があるが、“構成”するものの方が効率がいいとされている。


 ちなみに基礎魔法よりも適正魔法の方が燃費も良く、効力も桁違いだ。

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