第一話 異世界
「何だよここ」
視界が開けた時、慎吾がいたのは教室ではなかった。
真っ白なタイルが敷かれた床。
大理石のようなものでできた支柱に支えられた高い天井。
大きなガラスで外と仕切られた空間。
その中心に慎吾と同じ教室にいたクラスメイト三人がおり、彼らの周りを囲むように甲冑を着た兵士が立っていた。
「………そなたらが召喚された勇者か」
色鮮やかなステンドグラスに照らされた玉座に腰掛ける老人。
胸まで伸びた髭を撫でながら慎吾たちを見下ろしている。
「混乱も無理は無いだろうがまずは聞いて欲しい。 そなたらを呼んだ理由、この世界の現状を」
慎吾たちは互いに顔を見合わせる。
数秒言葉を交わしたがすぐに老人の、王様の方を向いた。
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まず、ここは慎吾たちのいた世界とは別の世界。
簡単に言えば異世界らしい。
そしてこの世界では、数千年前から魔界に住む魔族と天界に住む天使との間で争いが起こっていた。
発端は物資を求めて魔族が天界を襲撃したこと。
しかし、天界と魔界は人間や獣人などの人類が住む大陸とは直接干渉しない。
そのため人類がその事実を知ったのは、争いが起きてしばらくしてからだった。
魔族は実力の個体差が大きい代わりに頭数が非常に多い。
逆に天使は種族としての実力が平均的に高い代わりにそこまで多くはいなかった。
初めは拮抗していた戦況も、数に押されて徐々に魔族に軍配が上がっていく。
やがて天使が天使のみで抗えなくなり、大陸に住む人類に助けを求めたことで、この世界全てを巻き込む“聖戦”に発展していった。
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「しかし天使様と我々では力に差がありすぎる。 そこで我らは天使様から授かったこの“異世界召喚”を代々行っているのだ」
そこで王様の話は終わる。
そして入れ替わるように一人の少女が口を開いた。
「…いくつかお聞きしてもよろしいでしょうか」
少女の名は美久。
慎吾と共に呼び出されたクラスメイトの一人であり、もとは学級委員長を務めていた。
「うむ」
王様は当然だろうと言わんばかりに首を振る。
「まず一つ目、どうして私たちなのでしょうか。 スポーツ選手をはじめ適正のある方は他に大勢いたはずです」
「それに関しては答えがない。 異世界召喚に限らず召喚魔法は対象となる生物のもとまで通路を開き、無理やり引き入れるということしか我ら人類の魔法学で解明されておらぬ」
淡々と答えていく王様。
繰り返し問いかける美久。
二人の姿を、慎吾たちは黙って見つめていた。
「では他の方々は? 私たちの近くにはあと三十人弱の友人がいました」
「異世界召喚の許容量は一つの魔法陣につき四、五人だ。 残りの者は他国にいるか、召喚中に弾かれ元の世界にいるはず」
「他国?」
彼の言う他国とは言葉通り他の国のことだ。
実はこの召喚魔法、ある理由から大陸中の人間国家全てが同時に行っている。
そのため一部のクラスメイトは他の国にいるとのことだった。
「なぜ異世界召喚を行うのですか? 私たちは元の世界で暴力すら禁じられています。 現地の方々を鍛えた方が確実に数も力も得られるのでは?」
「それに関しても完璧に答えることはできない。 だが…」
王様曰く、異世界召喚は単に人間をこちらの世界に輸送するのではないらしい。
魔法があるれるこの世界と対象の世界の性質が異なる場合、呼び寄せる人間の肉体に“常識の上書き”を施す。
その際に魔力と呼ばれる力によって大きな負荷がかかるのだが、そのせいか召喚勇者は現地人とは比べものならない力を持つという。
「実際過去の召喚勇者の中には最上位の魔族や魔王とも渡り合った者もいる」
「なるほど……。 では最後にもう一つ。 私たちは元の世界に帰れるのでしょうか」
美久から投げかけられた最後の質問。
しかし、王様はここで初めて悩むそぶりを見せた。
「………今すぐには不可能だ。 異世界召喚はあくまでも引き寄せるものであって、押し出す能力はない」
「っ!」
その言葉に後ろで眺めていた慎吾たちも体を震わせる。
「ちょっと待てよ! なら俺らは勝手に呼ばれた挙句自分のためにもならないのに命賭けなきゃならないのか!?」
慎吾が声を荒げるのも当然だった。
呼び出されて帰せもしませんだなんて、あまりにも酷い。
が、王様は手がないわけではないという。
「天使様の言い伝えによれば、世界の均衡が崩れると他の世界との境界が曖昧になるらしい。 その瞬間であれば召喚勇者を元の世界に返すこともできるとされている」
「そんな………」
慎吾たちは納得しなかった。
“できるとされている”、つまりは“できるかも”ってことだ。
元の世界に帰れる可能性は出ても確証にはならない。
「そなたらにとって不都合なのは重々承知している。 が、我らも余裕がないのだ。 どうか力を貸して欲しい」
深く頭を下げる王様。
その姿を前に、慎吾たちは何も言えなくなっていた。
「…分かった。 なら俺たちはどうすればいいんだ?」
「まずは旅に出てもらう」
旅。
これは慎吾たちに限らず、各国で召喚された召喚勇者全員がある一箇所を目指して歩み出す。
その一箇所とは、“パンドラック教国”。
「彼の国には天使様の住まう天界と通ずる門がある。 それを目指しながら旅をし、力をつけて行ってほしいのだ」
大陸の中心にある天界の門を目指す旅。
それはこの国、ソリエット王国だけでなく他国でも同様に召喚勇者に課せられる勅命だった。
「それを果たし聖戦を止められた暁には地位でも財宝でも好きなだけ授けよう。 どうか我らを救ってくれ」
再び頭を下げる王様。
慎吾たちはしばらくの沈黙をおき、応える。
「分かった。 その命受けるよ」
後書きでは本編に書き切れない詳細やキャラクターの紹介をしていきます!
<詳細紹介>
異世界には大きく分けて三つの領土がある。
人類の大陸
この世界で最も大きい大陸であり、主に人類が住む場所。
人間国家、大国四つと小国二十弱と獣人族の集落複数が各地に点在している。
なお、この世界で言う人類は人間種と獣人種のことであるが、獣人はモデルになる動物によって特徴が大きく異なる。
この他に、天使の住む“天界”、魔族の住む“魔界”がある。




