プロローグ
———ガタンッ。
お昼後の五時限目。
皆眠気でウトウトとしているせいか静かな授業だった。
そのただ黒板にチョークを打ち付ける音と、先生の声だけが聞こえるだけの教室に、机のがたつく音が鳴り響く。
(ヤッベ…!)
急いで教材を広げる少年。
さも起きてましたーみたいな格好をするが、バレないわけはなかった。
「慎吾!!!」
彼の名は加賀美 慎吾。
居眠りスマホいじりの常習犯だ。
「またお前か! ちゃんと前を向いてノートを取れ! なんでこんな簡単なことができないんだ!!」
(いやそっちも黒板しか見ないじゃん)
心の中ではそう呟きつつもとりあえず黙り込む。
ちなみに、
飯も食った。
さらには窓際席で日当たりもいい。
満腹になった状態でポカポカ日和なんて、自分には耐えられるわけがない。
というのが彼の言い訳にもならない言い訳だ。
「大体お前は! 成績がちょっといいからって調子に乗りすぎだ! 周りは眠くとも必死にノート取ってるだろ!」
先生の怒鳴り声はどんどんその大きさを増していく。
終いには、起きているならなぜ起こさないのかと周りにまで飛び火してった。
「お前ら連帯責任だ! 全員反省するまで教室から出るなよ! いいな!!」
———バタンッ!!
強く扉を閉める先生。
まだチャイムもなっていないというのに出ていってしまった。
「ぷっははは!」
窓から見える影がなくなると、慎吾の隣にいた生徒が腹を抱えて笑い出した。
「お前めっちゃ怒られてんじゃん笑」
「うるせぇー」
彼の名は天城 蓮。
慎吾とは小学校から一緒の幼馴染で、親友だ。
「んでどーすんの。 謝り行く?」
「そりゃ行くだろ」
他の生徒は特段気にしていない様子だった。
まだ授業中ではあったがもとより先生が話しているだけのタイプ。
寝る奴は寝るし勉強する奴は内職する。
先生がいなくなったぐらいで困る者はいなかった。
「みんなごめん、俺職員室行ってくるわ」
「俺も行くー。 お前の怒られるとこ…じゃなくて有志を見ないとな!」
「あんま意味変わってない気がするぞ」
机の上を片づける慎吾。
早く終わらせよう。
そう言ってため息をつきながら蓮について歩き出した。
しかし、
「ん、何してんだ蓮。 早く行くぞ」
教室の扉に手をかけた蓮の動きが止まる。
促す慎吾の声も聞こえていないのか、肩を揺さぶってもびくともしない。
具合でも悪いのだろうか。
そう思いながら蓮の顔を覗き込む。
「ッ!?」
そこにあったのは慎吾の知る蓮とはまるで違う顔だった。
顔からは色が抜け落ち、目をかっぴらげて震えている。
「お、おい! どうした!?」
さらに強く肩を揺する慎吾。
しばらくしてやっと振り向いた蓮は、振り絞ったような掠れ声でこう言った。
———ドアが、開かない———
「はあ!?」
そんなわけがあるはずなかった。
実際先生は出ていったし、何より鍵がかかってない。
というかそもそも、蓮が扉を引いているような動作が見られなかった。
「ちょっ、どいてみろって!」
慎吾は蓮をどかして扉に手をかける。
しかし、
「あっ!? なんだよこれ!?」
本当に開かなかった。
どれだけ力を込めて引っ張っても、助走をつけても開かない。
その時、
「うわっ、なんだこれ!?」
突如として現れる陣。
教室の床に輝く何かが浮かび上がり、眩い光で教室中を飲み込んだ。
『勇者召喚!!』
それと同時に響く謎の声。
慎吾たちは必死に目を覆う。
そして再び目を開けた時、そこは教室ではなくなっていた。




