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心臓ドキドキ!?《倍速》狐姫、偽善国家で大暴れ!~故郷を燃やした「自由」とか、私が燃やし返す件~

作者: 結衣と姉

挿絵(By みてみん)

シャルテ・ファールモッド



滅びの記憶と復讐の萌芽


アルメリア大陸に人類が到達する以前、この広大な大地は多様な先住民族が共存する豊かな世界だった。その中でも、豊かな森と清らかな水の恵みを受け、独自の文化を育んでいたのが、狐の耳を持つ獣人族の一派、狐族であった。彼らは自然と調和し、争いを嫌う穏やかな民として知られていた。シャルテ・ファールモッドは、そんな狐族の長老の孫娘として、温かい愛情と、古の知識に包まれて育った。彼女の金色の髪は太陽の光を浴びて輝き、ピンと立つ狐の耳は、森の囁きを捉えていた。ピンク色の瞳は、世界の美しさを映し出す鏡のようだった。


「シャルテ、森の声を聞いてごらん。風の歌、小川の囁き、木々の息吹。全てが私たちに語りかけているのだよ」


祖母の優しい声が、耳元で響いた。幼いシャルテは、祖母の手を取り、森の奥深くへと分け入った。そこには、妖精が宿ると伝えられる巨大な古木があり、狐族の集落はその木の根元に抱かれるように存在していた。彼らは、大地からの恵みに感謝し、必要な分だけを自然からいただくことを掟としていた。争いとは無縁の、穏やかで満たされた日々。それが永遠に続くものだと、幼い彼女は信じて疑わなかった。


しかし、その平穏は、ある日突然、終わりを告げる。 彼らが「人間」と呼ぶ異邦の民が、海の向こうからやってきたのだ。彼らは「アルメリア」と名乗り、自らを「自由を愛する民主主義国家」と称した。だが、その言葉とは裏腹に、彼らの行動は常に矛盾に満ちていた。彼らは自らの「生存圏」を主張し、先住民族の土地を「未開の地」と見下し、一方的に侵略を始めた。彼らが持ち込んだ新たな技術や思想は、狐族の伝統的な生活を根底から揺るがした。最初は交易を装い、友好的な姿勢を見せたかと思えば、一度勢力を拡大すると、途端に牙を剥き出しにした。


「我々は被害者だ!未開の獣人どもが、我らの文明を拒み、和平を妨害したのだ!」


そう叫びながら、彼らは鉄と火薬の力を盾に、一方的な「正義」を振りかざした。狐族は必死に抵抗したが、彼らの武器は弓と槍、そして自然の知識だけだった。それは、近代兵器を携えたアルメリア王国軍の前では、あまりにも無力だった。次々と集落が焼かれ、同胞たちが虐殺されていく。


そして、その日は来た。 シャルテが七歳の誕生日を迎えたばかりの、肌寒い秋の夜だった。王国の「開拓団」と称する兵士たちが、古木を囲む狐族の集落を襲撃した。彼らの目的は明確だった。狐族の最後の砦を壊滅させ、この土地の支配権を完全に掌握すること。


炎が夜空を焦がし、爆音と悲鳴が木霊した。シャルテは、母に抱きしめられ、その小さな身体を必死に隠していた。母の温かい手が、彼女の狐の耳を覆い、血と鉄の匂い、そして絶叫が脳裏に焼き付くのを防ごうとしていた。


「シャルテ、生きて。生き延びて……」


母の震える声が、最期の願いを紡ぎ出す。激しい銃声と、何かが砕ける音。母の腕の力が、急速に失われていくのを感じた。シャルテは、母の腕の中から這い出し、開いた小さな隙間から外を見た。目の前には、炎に包まれる故郷と、血に濡れた剣を振り下ろす人間たちの姿があった。彼らの顔は憎悪に歪み、その瞳には狂気が宿っていた。


「くそっ、この狐どもめ!抵抗するからこうなるんだ!」 「被害者は俺たちだ!この土地は、我々の自由のために必要なのだ!」


彼らは自分たちの行動を正当化する言葉を叫びながら、次々と無抵抗の狐族を屠っていった。シャルテのピンク色の瞳に映ったのは、燃え盛る故郷と、無残に倒れていく同胞たちの姿だった。その光景は、幼い彼女の心に、決して消えることのない深い傷と、燃えるような憎悪の炎を宿らせた。


母の遺体を前に、シャルテは震えながらも、一族の歌を口ずさんだ。それは、古の時代から伝わる、狐族の鎮魂歌だった。その時、彼女の全身に、得体の知れない力が駆け巡るのを感じた。心臓が激しく脈打ち、全身の毛穴から汗が噴き出す。視界が急速に狭まり、世界がスローモーションのように見えた。彼女の身体が、意識とは無関係に、稲妻のような速さで動き出したのだ。


無我夢中で森の奥へと走り抜けた。木々が視界の端で一瞬の残像となって消え、地面の感触も曖昧になるほどの速度。王国の兵士たちが追跡してくる気配はあったが、彼らの足音は遠く、彼女に追いつくことはできなかった。


「ハァッ……ハァッ……」


やがて、心臓が悲鳴を上げ、全身が燃えるような熱に包まれた。地面に倒れ込んだ瞬間、視界の異常な速度も、全身を駆け巡る力も、嘘のように消え去った。意識が遠のき、彼女はそのまま闇に飲まれていった。


目覚めた時、そこは知らない森の奥だった。身体は鉛のように重く、心臓がまだ激しく脈打っていた。あの時、何が起こったのか。シャルテには理解できなかった。しかし、それは彼女の身体に深く刻まれた。あの異常なまでの速度。それは、狐族に伝わる古の術、「加速アクセラレーション」だったことを、彼女が知るのは、さらに孤独な日々を生き抜いた後のこととなる。


それから数年、シャルテは森の奥深くでひっそりと暮らした。獲物を狩り、薬草を見つけ、自給自足の生活を送った。人間を避け、常に身を隠す生活の中で、彼女は自らの身体に宿る「加速」の力を鍛錬し始めた。最初は、急激な身体への負担に苦しんだ。心臓が悲鳴を上げ、意識を失うこともあった。しかし、復讐への執念が、彼女を突き動かした。父の、母の、そして一族の無念を晴らすため、彼女は己を極限まで追い込んだ。


彼女はまた、古の狐族の知識を独学で学び直した。森の動植物の声を聞き、精霊の力を借りる術を習得した。それは、アルメリア王国が軽んじてきた、自然との調和と生命の繋がりを重んじる狐族の哲学そのものだった。


やがて、少女は成長した。金色の髪は腰まで伸び、その瞳のピンク色は、かつての無邪気な輝きを失い、復讐の炎を宿すようになった。赤いインディアンポンチョは、彼女が唯一残った故郷の証であり、二度と誰にも奪わせないという決意の表れだった。


「アルメリア王国……お前たちの『自由』と『正義』の偽りを、この手で暴き、全てを滅ぼしてやる」


冷たい月の光の下、シャルテは独り、そう誓った。彼女の心臓が、復讐の炎に呼応するように、静かに、しかし力強く脈動していた。




潜入と情報戦


数年後。アルメリア王国の王都ルミナスは、白い石造りの建物が立ち並び、きらびやかな貴族たちが馬車で行き交う、繁栄の象徴だった。建物の壁には「自由と繁栄の象徴、アルメリア!」というスローガンが掲げられ、市民たちはその言葉を疑うことなく生きていた。だが、その華やかな表通りから一歩裏に入れば、貧しい人々がひしめき合い、先住民族に対する露骨な差別が横行する、暗い現実が広がっていた。


「ここが……奴らの本拠地」


シャルテは、フードを深く被り、ポンチョの裾を翻しながら、人ごみに紛れ込んでいた。狐の耳は巧妙な布で隠され、金色の髪も目立たないようにまとめられている。ピンク色の瞳だけが、この街の欺瞞を見透かすかのように、冷たく輝いていた。王都に潜入するまでの道中、彼女は数々の困難に直面したが、その度に「加速」の魔法を駆使し、辛くも危機を乗り越えてきた。しかし、魔法を使うたびに心臓を締め付けられるような痛みが走り、彼女は自制を強いられた。


王都での生活は、シャルテにとって苦痛の連続だった。人間たちの喧騒、そして彼らが発する傲慢な言葉の全てが、彼女の一族を滅ぼした者たちの顔と重なって見えた。それでも、彼女は憎しみを胸に秘め、表情一つ変えずに情報収集に努めた。


王都の裏路地にひっそりと佇む小さな酒場「影の囁き」。そこは、表には出せない情報を求める者や、王国の現状に不満を抱く者が集まる場所だった。シャルテは、ここで働くことを選んだ。皿を洗い、酒を運び、耳を澄ませる。


ある夜、酔っ払った貴族の男が、高笑いしながら隣の席の男に話しかけていた。


「おい、聞いてくれよ、ケビン。この間、東の開拓地に行ったんだが、獣人どもがまた騒ぎやがってな。自由を愛する我々の邪魔をするとは、とんだ蛮族だぜ」


ケビンと呼ばれた男が、つまらなそうに酒を煽った。


「またか?懲りない奴らだ。さっさと殲滅して、土地を奪えばいい。我々の『発展』のためには、必要な犠牲だろう?」


「そうだ、そうだ!まったく、あの汚い獣人どもがいるせいで、我々の開拓も遅れる。あいつらを追い出すのは、アルメリアの『正義』だよな、ハハハ!」


シャルテは皿を拭く手を止め、冷たい視線を二人の貴族に向けた。彼らの言葉は、過去の記憶を呼び起こし、心臓がじくじくと痛み始めた。しかし、彼女は感情を押し殺し、再び皿を拭き始めた。


数日後、酒場に一人の老人が現れた。痩せこけた顔に深い皺が刻まれ、その目は全てを見透かすかのように鋭かった。彼は酒場の主人と親しげに話している。


「よう、爺さん。また骨董品でも見つけたのかい?」主人が尋ねた。


「ああ、とある貴族の屋敷からな。ずいぶんと古い代物でね。だが、最近の貴族どもは金の亡者ばかりで、真の価値を知らぬ」老人はため息をついた。「まったく、この国はどこへ向かうのやら。自由と民主主義の名の下に、全てを食い尽くす。まるで、昔の蛮族どもと変わらんな」


シャルテは、その言葉に思わず反応した。同じような考えを持つ人間がいることに驚き、彼女は老人に近づいた。


「もし差し支えなければ、お爺様のお話、もう少し聞かせていただけませんか?」シャルテは、できるだけ穏やかな声で話しかけた。


老人はシャルテを見上げ、そのピンク色の瞳に一瞬だけ驚きの色を浮かべた。


「ほう……あんたのような若い娘が、この老いぼれの話に興味があるとは珍しい。お前さんは、この国の真の姿を知りたいのかい?」


「はい。この国の『自由』の裏に何があるのか、知りたいです」シャルテは真っ直ぐに答えた。


老人はニヤリと笑った。


「面白い。儂はサミュエルという。この街で骨董品商をしている。だが、裏では、この国の『歴史』を収集している変わり者だ。お前さんの目には、偽りが映っていない。もしよければ、儂の店に来てみないか?もう少し、面白い話をしてやれるかもしれん」


翌日、シャルテはサミュエルの骨董品店を訪れた。店の中は、埃を被った奇妙な品々で埋め尽くされていた。奥の部屋には、古文書や地図が山積みにされている。


「さあ、お座りなさい。お茶でもどうだい?」サミュエルは温かいハーブティーを差し出した。


「ありがとうございます」シャルテは丁寧に受け取った。


「さて、お前さんは、なぜこの国の真の姿を知りたいんだい?まさか、ただの好奇心ではないだろう?」サミュエルはシャルテの目を見つめた。


シャルテは一瞬躊躇したが、意を決して答えた。


「私の故郷は、アルメリア王国に滅ぼされました。家族も、仲間も、全てを失いました。あの時、王国軍の兵士たちは『我々こそが被害者だ』と叫んでいました。その言葉の偽善を暴き、故郷の無念を晴らしたい。そのために、この国に潜り込みました」


サミュエルは、黙ってシャルテの言葉を聞いていた。彼の顔に驚きや恐怖の色はなかった。むしろ、何かを確信したような表情を浮かべていた。


「やはりな……お前さんには、我々と同じ匂いがする。儂もまた、この国に故郷を奪われた者の一人だ。儂は狐族ではないが、この大陸の先住民族だ」サミュエルは静かに語り始めた。「アルメリア王国は、常に『自由』の名の下に侵略を繰り返してきた。他国を『野蛮』と罵り、自分たちの行いを『正義』と称する。その偽善に、儂は吐き気がするほどだ」


シャルテの心に、温かいものが灯った。孤独な復讐の道に、初めて理解者が現れたのだ。


「私は、この国の全てを知りたい。彼らがどのようにしてこの大義を築き上げ、どのようにして私たちを欺いてきたのか。そして、どのようにして彼らを滅ぼせるのか」シャルテの瞳が、決意を宿して輝いた。


「いいだろう。儂が知る限りの情報を、お前さんに提供しよう。この街の貴族たちの隠された悪行、軍部の腐敗、そして民衆を欺くためのプロパガンダ。それら全てをな。だが、復讐の道は険しいぞ。そして、この国は隅々まで監視されている。特に、異形を持つ者には厳しい。お前さんのその耳……」


サミュエルは、シャルテの隠された狐の耳を指さした。シャルテはハッと息をのんだ。


「なぜ……」


「長年生きていれば、人の本質を見抜く目も養われるものさ。それに、お前さんの仕草や、時折漏れる独特の気配。儂は昔、狐族の商人と取引があったからな」サミュエルは穏やかに言った。「だが、心配するな。儂は誰にも言わない。むしろ、お前さんのような者が現れるのを、ずっと待っていた」


シャルテは深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、サミュエル様」


「様はよせ。儂はただの骨董屋の爺さんだ。それよりも、お前さんの力、儂に少し見せてはくれないかい?噂には聞いていたが、狐族の持つ古の術に興味があってな」


シャルテは、心臓への負担を顧みず、その場で「加速」の魔法を発動させた。一瞬にして、彼女の姿が消え、次の瞬間にはサミュエルの背後に立っていた。風が揺れたような微かな気配以外、何も残さない神速の動き。


「ほう……これは見事な」サミュエルは感嘆の声を漏らしたが、すぐにその表情が引き締まった。「しかし、今の動きで、お前さんの心臓が大きく脈打ったな。その魔法は、身体に大きな負担をかけるのだろう?」


シャルテは頷いた。


「はい。連続して使うと、意識を失うほどの疲労が襲ってきます」


「やはりな。強力な力には、必ず代償が伴う。それは、この世界の真理だ。だが、その力を使いこなせれば、お前さんはこのアルメリア王国を揺るがすことができるだろう」サミュエルは決意を込めた目でシャルテを見た。「儂は情報を提供しよう。お前さんはその力で、この偽りの王国を壊すのだ」


こうして、シャルテとサミュエルの間に、アルメリア王国を打倒するための秘密の協力関係が築かれた。王都の裏路地で、復讐の炎が静かに、しかし確実に燃え上がろうとしていた。




抵抗の狼煙と絆


サミュエルの骨董品店は、シャルテにとって情報収集の拠点であると同時に、数少ない安らぎの場所となった。サミュエルは、王国の内部情報だけでなく、この大陸に暮らす他の先住民族の歴史や、過去に王国に抵抗した者たちの記録もシャルテに提供した。それらは、アルメリア王国が喧伝する「自由と繁栄の歴史」の裏に隠された、無数の血と涙の物語だった。


「この地図を見てごらん、シャルテ」サミュエルが広げた古地図を指差した。「かつてこの川は、河の民の聖なる場所だった。だが、王国は『水資源の確保』と称してダムを建設し、彼らの故郷を沈めた。彼らは今、王都の最下層で日々の糧に喘いでいる」


「『水資源の確保』……いつも彼らは、自分たちの都合の良い理由を付けて、私たちから全てを奪っていくのですね」シャルテの声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。


「その通りだ。奴らの『自由』は、奴ら自身のためだけのもの。しかし、全ての人々が盲目というわけではない。中には、真実を知り、苦しんでいる者もいる」サミュエルはシャルテの瞳をじっと見つめた。「お前さんのような存在を、彼らは待っているかもしれないな」


サミュエルの紹介で、シャルテは王都の最貧地区に住む「河の民」の生き残りと接触することになった。彼らの集落は、かつての豊かな川辺の生活とはかけ離れ、薄汚れた長屋がひしめく荒れ果てた場所だった。


「あなたは……どちら様で?」集落の代表らしき、痩せた老人が警戒心を露わにしてシャルテを見た。彼の瞳には、人間に対する深い不信感が宿っていた。


シャルテはフードをゆっくりと外し、隠していた狐の耳を少しだけ見せた。老人の目が大きく見開かれた。


「私はシャルテ・ファールモッド。狐族の最後の生き残りです。あなた方と同じく、アルメリア王国に故郷と全てを奪われました」シャルテは静かに語り始めた。「あなた方の苦しみは、私の苦しみでもあります。私は、この王国に復讐するためにここに来ました。あなた方の力を貸していただきたいのです」


老人は、他の河の民の顔を見回した。彼らの間には、驚きと戸惑い、そして微かな希望の光がよぎった。


「狐族……まさか、まだ生きていらっしゃる方がいたとは……」老人が震える声で呟いた。「しかし、我々に何ができるというのです?我々はもう、戦う力など残っていません。この屈辱に耐え、ただ生きることに精一杯です」


「私もかつてはそうでした。しかし、一人でいるだけでは何も変わりません。私たちは、互いの力を合わせる必要がある。アルメリア王国は、私たち先住民族を分断し、弱体化させてきました。だからこそ、私たちは手を取り合わなければならないのです」


シャルテの言葉は、まるで枯れた大地に降る雨のように、河の民の心に染み渡った。彼らは、長年抱え込んできた苦しみと絶望をシャルテに打ち明けた。王国による一方的な土地の収奪、強制労働、そして文化の否定。彼らの話を聞くたびに、シャルテの心臓は復讐の炎に呼応して、痛みを伴いながら激しく脈打った。


「我々に、本当にそんなことができるのか……?」一人の若い男が不安そうに尋ねた。


シャルテは彼の目を見つめ、力強く言い放った。


「できます。私には、あなた方にはない力があります。そして、あなた方には、私にはない知恵と、この街の隅々まで知り尽くした情報がある。互いに補い合えば、必ず道は開けます。私たちは、もう誰にも奪われることなく、自由を取り戻すことができるのです」


その夜、シャルテは河の民の長老と、彼らの若い戦士たちと語り明かした。彼女は「加速」の魔法を披露し、その神速の動きで彼らを驚かせた。同時に、魔法の副作用として心臓に負担がかかることも正直に打ち明けた。


「そんな、命を削るような力……」長老が心配そうに言った。


「これは、私の一族から受け継いだ力です。そして、私にとって、復讐を果たすための唯一の希望です。だからこそ、私はこの力を制御し、最大限に活かす方法を模索してきました」シャルテは毅然とした態度で答えた。「私は、あなた方を無謀な危険に晒すつもりはありません。しかし、この王国を倒すには、あらゆる力を結集するしかないのです」


シャルテの真摯な言葉と、その瞳に宿る強い意志に、河の民は心を動かされた。


「分かった……我々も、あなたに協力しよう。もう、これ以上、子供たちにこの惨めな生活を続けさせたくない」長老が重々しく頷いた。「だが、一つだけ約束してくれ。無駄な血は流さないでほしい」


「約束します。私は、無差別な虐殺ではなく、彼らが私たちにしたことと同じように、彼らが築き上げてきた偽りの『自由』を内側から崩し、彼ら自身にその罪を償わせたいのです」


河の民を味方につけたシャルテは、次に王国の兵士であるにもかかわらず、その偽善に苦悩する青年と接触した。彼の名はエリック。かつて先住民族との戦場で、無慈悲な命令に疑問を抱いた経験を持つ兵士だった。彼は酒場で、自らの良心と軍の命令との間で苦悩する様子を見せていた。


「またか……今日の演説も酷かったな。『未開の蛮族から自由を勝ち取る』?笑わせるな!あの土地はもともと彼らのものだ。我々が一方的に奪っているだけなのに!」エリックは荒々しくグラスをテーブルに置いた。


シャルテは、エリックが酒場の主人に語りかけている会話を耳にしていた。彼が真に正義を求める人物であると確信し、彼女は彼に近づいた。


「あなたは、この国の『正義』に疑問を感じていらっしゃるようですね」シャルテが静かに話しかけた。


エリックは驚いて顔を上げた。


「君は……?ああ、酒場の新しい娘さんか。そうだ。私はこの国の『正義』が分からなくなった。自由と謳いながら、なぜ我々は他者の自由を奪うのか。民主主義を掲げながら、なぜ我々は弱者を虐げるのか。私には、理解できない」


「それは、彼らが『自由』を自分たちだけのものだと考えているからです。そして、『民主主義』は彼らにとって、自分たちの欲望を正当化するための道具に過ぎません」シャルテは彼の目を見つめて言った。「もし、あなたが真の正義を求めるのなら、私に協力してくださいませんか?この国の偽りを暴き、本当の自由を取り戻すために」


エリックはシャルテの言葉に、最初は警戒の色を見せた。しかし、彼女の瞳に宿る揺るぎない決意と、どこか悲しげな光に、彼の心は揺れた。


「君は……一体何者なんだ?」


「私は、あなた方が『蛮族』と呼ぶ者の一人。そして、あなた方『文明人』に故郷と家族を奪われた者です」シャルテは、初めて彼に自らの身の上を明かした。「それでも、私に協力する勇気がありますか?この腐敗した王国を変えるために」


エリックは深く息を吐き、そして、まっすぐにシャルテの目を見て言った。


「ああ、協力しよう。私はもう、この偽りの正義に加担したくない。君が、もしこの国に真の自由をもたらしてくれるのなら……私は、命を懸けてでも協力する」


こうして、シャルテはサミュエルの知識、河の民の結束、そしてエリックのような王国の内側にいる良心的な人々を味方につけ、抵抗勢力の基盤を固めていった。彼らは、アルメリア王国が喧伝するプロパガンダの裏をかき、民衆に真実を伝えるための地下ネットワークを築き始めた。小さな反抗の狼煙が、王都の闇の中で、静かに、しかし確実に上がり始めていた。シャルテの「加速」の魔法は、情報伝達や危機からの脱出において絶大な威力を発揮したが、その度に彼女の心臓は、重く、痛みを伴って脈動した。仲間たちのために、彼女は痛みに耐え、その力を使い続けた。




復讐の螺旋と真実


シャルテが組織した抵抗勢力は、着実にその影響力を広げていた。サミュエルが提供する情報網と、エリックが軍内部からもたらす機密情報、そして河の民の地下での連絡網が有機的に結合し、彼らはアルメリア王国の中枢へと忍び寄っていた。王都の新聞には「自由と平和を脅かす蛮族の残党」という虚偽の記事が躍るが、裏ではシャルテたちの情報が静かに広がり、市民の中に疑問の種を蒔いていた。


最初の大きな動きは、王国の主要な食料倉庫への襲撃だった。これは、食料を独占し、先住民族の居住区への配給を削減していた王国政府への抗議であり、同時に困窮する市民への食料再分配を目的としていた。


「目標は食料の確保と、王国の備蓄状況の攪乱。戦闘は最小限に」シャルテは、作戦前に集まった抵抗勢力の面々を前に、冷徹な目で指示を出した。「『加速』は、あくまで奇襲と離脱、そして仲間の援護に使う。無駄な消費は避けて。分かったわね、エリック?」


「ああ、分かっている。君の身体に負担をかけさせるわけにはいかない」エリックは、シャルテの心臓への負担を案じるように答えた。彼は、作戦ごとにシャルテの顔色が悪くなるのを見ていた。


作戦は夜陰に乗じて実行された。シャルテは「加速」を使い、警備兵の目をかいくぐり、瞬く間に倉庫の鍵を開放した。彼女の姿は、まるで幻影のように兵士たちの死角をすり抜け、彼らが異変に気づいた時には、すでに仲間たちが食料の運び出しを始めていた。


「何だ!?侵入者だ!」 「速い!見えないぞ!」


兵士たちの怒号が響く中、シャルテは倉庫内を縦横無尽に駆け巡り、仲間たちの安全を確保した。彼女の動きは、まさに嵐。兵士の武器を叩き落とし、転倒させ、しかし殺傷することは避けた。だが、心臓への負担は確実に蓄積していく。胸の奥が焼けるように熱く、呼吸が乱れる。


「シャルテ!無理をするな!」エリックが叫んだ。


その時、一人の兵士が隠し持っていた短剣を、無防備な河の民の男に投げつけた。刹那、シャルテの身体が反応した。


「くっ!」


彼女は再び「加速」を発動させ、男の前に飛び出し、短剣を手で受け止めた。刃が掌を切り裂き、鮮血が滴る。しかし、男は無事だった。兵士たちは一瞬の隙を突かれ、抵抗勢力は食料を運び出し、無事に撤退することができた。


「大丈夫か、シャルテ!?」エリックが駆け寄った。


「問題ないわ」シャルテは、痛みを隠すように掌を握りしめた。だが、その顔は青ざめていた。心臓が大きく波打ち、身体の内側から鉛のように重い疲労が押し寄せてくる。


「また無理をしたな。君はいつもそうだ。自分のことよりも、仲間を優先する」エリックは心配そうに言った。


「仲間を守るのは当然のことよ。それに、これは…私だけの復讐じゃない。皆の復讐でもあるのだから」シャルテは、そう言い聞かせるように答えた。


この襲撃は、王都に大きな衝撃を与えた。アルメリア王国は、これを「卑劣な蛮族によるテロ行為」と非難し、市民の愛国心を煽った。しかし、裏では食料を奪われた貧しい人々が、抵抗勢力に感謝し、密かに彼らを支援し始めた。


抵抗勢力の活動が活発化するにつれ、シャルテはかつて一族を滅ぼした首謀者の一人、アルメリア王国軍の幹部であるグラハム将軍の存在を突き止めた。彼は、狐族虐殺の直接的な命令を下した人物であり、現在も先住民族弾圧の最前線に立つ男だった。


「グラハム将軍……」シャルテは、サミュエルからもらったグラハムの顔写真を見つめ、指先でその顔をなぞった。あの日の、血塗られた記憶が鮮明に蘇る。その時、彼女の瞳には、かつてないほど強い復讐の炎が燃え上がっていた。


「奴は、自身の行いを『文明の発展』と称し、今もなお多くの先住民族を苦しめている」サミュエルが静かに言った。「貴族たちもそうだ。彼らは、先住民族の土地を安く買い叩き、豊かな資源を独占している。そして、その富で、この国を裏から操っている」


シャルテは、グラハム将軍を狙うことを決意した。それは、復讐の象徴であり、王国への強烈なメッセージとなるはずだった。グラハム将軍は、郊外に広大な屋敷を構え、厳重な警備を敷いていた。シャルテは、エリックと河の民の精鋭を伴い、将軍の屋敷への潜入計画を練った。


「将軍は、定期的に裏庭の温室で珍しい花を鑑賞する習慣がある」エリックが、屋敷の構造図を広げながら説明した。「その時が狙い目だ。だが、温室までの通路は警備が最も厳重になっている」


「問題ないわ。私には、『加速』がある」シャルテは静かに言った。「私が警備を突破し、グラハム将軍の隙を作る。その間に、あなたたちは温室に侵入し、将軍を確保する。あくまで、生きたまま捕らえる。尋問して、奴らの真の目的を暴き出す」


作戦決行の夜。月明かりのない闇が、グラハム将軍の屋敷を包み込んでいた。シャルテは、音もなく屋敷の塀を乗り越え、警備兵の巡回経路を慎重に確認した。


「行くわ」


シャルテの身体が、一瞬でブレた。彼女は「加速」を発動させ、通常の二倍の速度で警備兵の目の前を駆け抜ける。兵士は、何かが視界の端をよぎったような違和感を覚え、振り向いた時には、シャルテの姿はすでに遥か先にあった。


「誰だ!?今の……!?」


兵士たちの混乱を尻目に、シャルテは屋敷の中庭へと到達した。しかし、そこに待ち受けていたのは、予想以上の数の隠密兵だった。彼らは「加速」の魔法に対応するために、特別に訓練された部隊なのだろう。


「やはり、簡単にはいかないか」シャルテは舌打ちした。


彼女は巧みに兵士の間を縫うように駆け抜けるが、彼らの連携は固く、次第に包囲され始める。心臓がドクドクと不規則な音を立て、胸の痛みが強くなる。しかし、ここで止まるわけにはいかない。グラハム将軍は、目の前にいる。


「加速!」


シャルテは再び魔法を発動させ、兵士たちの包囲網を突破した。彼女の動きはもはや、肉眼では捉えられないほどの速度に達していた。兵士たちが呆然と立ち尽くす中、彼女は温室の扉を蹴破った。


温室の中には、グラハム将軍がいた。彼は、美しい蘭の花に水をやっていたが、突然の侵入者に驚き、振り返った。その顔は、シャルテの記憶の中にある、あの日の憎むべき顔と寸分違わぬものだった。


「貴様は……何者だ!」グラハム将軍が震える声で叫んだ。


シャルテは、荒い息を吐きながら、フードをゆっくりと脱いだ。金色の髪が夜風になびき、狐の耳がはっきりと露わになる。ピンク色の瞳は、復讐の炎を宿し、将軍を射抜くように見つめた。


「お久しぶりですね、グラハム将軍」シャルテの声は、静かでありながら、凍えるような冷たさを持っていた。「狐族の……シャルテ・ファールモッドです。覚えていらっしゃいますか?あなた方が『蛮族』と呼び、焼き尽くした、あの集落の生き残りです」


グラハム将軍の顔から血の気が引いた。彼は震える手で剣を抜こうとするが、シャルテの動きはそれを許さなかった。「加速」によって、将軍の動きはスローモーションのように見えた。彼女は瞬く間に将軍の懐に入り込み、その剣を奪い取った。


「ま、まさか……あの時の子供が……!」


「ええ。あなた方が根絶やしにしたと信じていた『蛮族』が、今、あなたの目の前にいます」シャルテは将軍の首に、奪った剣の切っ先を突きつけた。「私の一族を滅ぼした理由を、聞かせてもらいます。あなた方の『自由』と『正義』の名の下に、何をしてきたのかを」


その時、背後からエリックたちが温室に駆け込んできた。彼らは、シャルテの尋常ではない様子に息をのんだ。彼女の顔は蒼白で、額には脂汗が滲み、心臓が激しく波打つ音が、薄暗い温室に響き渡っていた。


「シャルテ!『加速』はもう限界だろう!?それ以上は危険だ!」エリックが叫んだ。


シャルテは彼らに振り返らず、グラハム将軍の首に剣の切っ先をさらに深く突きつけた。


「さあ、将軍。全てを話しなさい。あなた方が隠してきた、アルメリア王国の真実を」


グラハム将軍は、震えながらも、観念したように口を開き始めた。彼の語る言葉は、シャルテが知っていたよりもさらに深く、王国全体の腐敗と、偽りの歴史の闇を暴き出すものだった。彼らは、この大陸の地下に眠る、莫大な魔力の源「星核せいかく」を独占するために、邪魔な先住民族を排除し、他国に戦争を仕掛けてきたのだと。その全てが、「自由と民主主義」という美名の下で行われていたのだと。


シャルテの心臓が、限界を超えて警鐘を鳴らし始めた。しかし、彼女は痛みをこらえ、将軍の言葉の全てを、一言も聞き漏らすまいと耳を傾けた。復讐の螺旋は、今、真実の深淵へと、彼女を誘い込んでいた。




黎明と選択


グラハム将軍の自白は、抵抗勢力にとって計り知れない価値を持つものだった。王国がひた隠しにしてきた「星核」の存在、そしてその独占のために行われてきた先住民族への弾圧と、偽りの「自由」を掲げて他国に仕掛けた戦争の全貌が、白日の下に晒された。その情報は、サミュエルの手によって巧妙に王都の隅々まで広められ、長年盲目的に王国を信じていた市民たちの間に、激しい動揺と怒りを巻き起こした。


「奴らは我々を欺いていたんだ!『星核』などという莫大な富のために、罪のない人々を殺し、戦争を煽ってきた!」 「我々は、嘘の上に築かれた『自由』を信じていたのか……!」


民衆の怒りは沸点に達し、王都では大規模な反政府デモが頻発するようになった。エリックは軍内部の良心的な兵士たちに働きかけ、反乱を促した。王国の支配体制は、内側から確実に崩壊し始めていた。


「いよいよ、最終段階ね」シャルテは、夜空を見上げながら呟いた。心臓は慢性的な痛みを訴え、疲労は身体の奥深くまで染み付いている。しかし、彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。


「もう後戻りはできない」エリックが隣で静かに言った。「君の身体が心配だ。無茶だけはしないでくれ」


「大丈夫。これは、私が選んだ道。全てを終わらせるまで、倒れるわけにはいかない」


抵抗勢力は、ついにアルメリア王宮への総攻撃を開始した。王宮は王国の最後の砦であり、残された王国軍の精鋭と、王族たちが立てこもっていた。市街地では民衆による蜂起が同時多発的に発生し、王宮を守る兵力は分散せざるを得なかった。


シャルテは、先頭に立って突撃した。彼女の身体は、復讐の炎に突き動かされるように、限界を超えた力を発揮した。


「加速!」


彼女の姿は、もはや残像すら残さない。宮殿の廊下を、兵士たちの視線をすり抜け、まるで幽霊のように駆け抜ける。王宮に配備された特殊な結界も、彼女の「加速」の前には無力だった。兵士たちは、何が起こったのか理解できないまま、次々と無力化されていく。


「見えない!どこだ!?」 「化け物め!」


シャルテの剣は、王国の象徴である旗竿を断ち切り、玉座の間への道を開いた。しかし、その代償は大きかった。心臓は激しく痙攣し、身体は鉛のように重い。視界が明滅し、意識が途切れそうになる。


「(まだ……終われない……!)」


玉座の間には、アルメリア国王とその取り巻きの貴族たちがいた。彼らの顔は恐怖に歪み、かつての傲慢な態度は見る影もなかった。


「き、貴様は……まさか、あの時の……狐族の生き残りか!」国王が震える声で叫んだ。


シャルテは、荒い息を吐きながら、玉座の前に立つ国王に剣を突きつけた。彼女のピンク色の瞳は、憎しみと悲しみが混じり合った複雑な光を放っていた。


「ええ。あなた方が『自由』の名の下に虐殺した、狐族のシャルテです。あなた方が築き上げた偽りの王国は、今日、ここで終わります」


「馬鹿な!我々アルメリアは、この大陸の盟主だ!我々こそが、自由と文明の担い手なのだ!」国王は必死に叫ぶ。


「違う。あなた方は、ただの侵略者。自分たちの欲望を満たすために、他者の命と尊厳を踏みにじってきた、野蛮な捕食者よ」


その時、背後からエリックと抵抗勢力の仲間たちが駆け込んできた。彼らは国王と貴族たちを拘束し、この偽りの王国の終焉を見届けた。シャルテは、剣をゆっくりと下ろした。復讐は、完遂された。


しかし、彼女の心に、高揚感はなかった。むしろ、深い虚無感が押し寄せてきた。長年、彼女を突き動かしてきた復讐という目的が失われ、ぽっかりと穴が開いたようだった。心臓の痛みはピークに達し、シャルテはその場で意識を失った。


シャルテが目覚めたのは、サミュエルの骨董品店だった。身体は温かい毛布に包まれ、傍らには心配そうな顔をしたサミュエルとエリックがいた。


「シャルテ!目が覚めたか!」エリックが安堵の声を上げた。


「私の……身体は……」シャルテは、自分の心臓に手を当てた。脈打つ感触はあるが、以前のような激しい痛みはなかった。


「心臓への負担は相当なものだった。危うく命を落とすところだったぞ」サミュエルが厳しい顔で言った。「幸い、狐族の治癒術と、我々が集めた薬草で、最悪の事態は免れた。だが、もう『加速』の魔法は、以前のように使うことはできないだろう。心臓への負担が大きすぎる」


シャルテは、ゆっくりと頷いた。彼女は、もはや「加速」を使う必要もないことを悟っていた。王国は崩壊し、復讐は終わったのだ。


その後、アルメリア王国の偽りの歴史は全て暴かれ、民衆は真実を知った。国王と貴族たちは裁かれ、長年抑圧されてきた先住民族や、王国に反発していた他国との間で、新たな対話の道が始まった。それは、平坦な道ではなかった。長年の憎しみと不信は、そう簡単に消えるものではない。


シャルテは、復讐を完遂したことで、一つの区切りをつけた。しかし、彼女の使命は終わっていなかった。彼女の故郷である狐族の土地は、まだ荒れ果てたままだった。そして、この大陸に真の平和をもたらすためには、人間と先住民族が共存する道を模索しなければならない。


「これからは……どうするんだい?」エリックがシャルテに尋ねた。


シャルテは、遠い故郷の方向を見つめた。ピンク色の瞳の奥に、かつての悲しみとは異なる、新たな光が灯っていた。


「私の一族の土地を、元の姿に戻したい。そして、人間と、私たちが、真に手を取り合える未来を築きたい」シャルテは静かに答えた。「それは、復讐よりも、もっと困難な道かもしれない。でも……今度は、誰も犠牲にすることなく、真の『自由』を築きたい」


彼女の言葉に、サミュエルは深く頷き、エリックは決意の表情を浮かべた。シャルテは、もう一人ではなかった。彼女の隣には、憎しみを乗り越え、共に未来を築こうとする仲間たちがいた。


復讐の果てに、シャルテは全てを破壊した。しかし、その破壊の先に、新たな黎明が訪れたのだ。彼女は、赤いインディアンポンチョを翻し、新たな希望を胸に、荒れ果てた故郷の地へと歩み出した。その道は長く、険しいものとなるだろう。だが、彼女は知っている。真の「自由」とは、奪い取るものではなく、共に築き上げるものであることを。そして、その道こそが、彼女の一族が求めていた、真の平和への道なのだと。

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