第50話 この教育制度、無くしたい
ふっ......風が気持ちいいぜ。
ここは学園の中庭。全体検査が終わり、「これからクラス分け発表しまーす」という地獄への入場券が配布される直前。つまり今は嵐の前の静けさってやつだ。俺はその静けさを全力で吸い込み、意味もなく胸を張って歩いている。
いやだってさ。
この世界、魔獣だのスタンピードだの神話級だの、色々あったけど── 一番精神にくるのは“クラス分け”だって、前世の日本で学んだんだよ。まぁ大賢者の男が言うにはクラスの振り分けに検査は関係していないとのことだ。
「本当に、転移前のクラス分け発表みたいだな......」
眼前に広がるのは、ドン!と張り出された巨大掲示板。
1-A、1-B、1-C、1-D、1-E、1-F。
全6クラス。確かに、AとFの格差臭がもうヤバい。絶対Aはエリート、Fは問題児収容所って思っても仕方がない。
「さて、俺の名前はどこにある?」
俺は1-Aから順に目を滑らせる。
......いない。
......ここにもいない。
知ってる顔、嫌な顔、懐かしい顔、全部流し見しながら探す。
「あ、あった」
俺の配属は── 1-D。
俺は内心ホクホクしながら、1-Dの教室へと向かった。
よし、学園生活。謳歌してやる。表の俺はモブ、裏の俺は支配者。この二重生活、始まります。
――――――――――
......終わった。
いや、マジで終わった。
何がって?
気付いた瞬間、背筋に氷を流し込まれたみたいになった。
席に着いた俺は、すぐに現実を理解する。
中村燈がいる。
これに尽きる。
クラス分けは名前順で並んでいたらしい。同じ「中村」が複数いる中で、よりにもよって最悪の個体を引き当ててしまったというわけだ。
運命なら今すぐ断ち切りたい。
俺は反射的に視線を逸らし、机に顔を近づけた。
(......よし、適当にあしらう。関わるな。刺激するな。野生動物と同じ対応だ)
そんな中、視界の端に懐かしい顔が映った。
「え、扇谷......だよな?」
顔を上げると、懐かしい顔。
短髪で、ちょっと眠そうな目。ああ、思い出した。小学生の頃、隣の席だったやつ。
「......あ、水谷?めちゃ久しぶりじゃね?なっつかし!」
おお。
生存確認。しかも敵じゃない。
「隣よく知ってる人で安心したわ」
俺も同意だ。
この世界で一番信用できるのは“中村じゃない”というだけで評価が爆上がりする。
そんな和やかな再会ムードを、空気ごと切り裂く声が響いた。
「静かにしろ」
教室が一瞬で凍る。
前を見ると、無表情で立つ男。
背が高く、無駄に威圧感がある。
「今日から1年間、1-Dを担当するプラントだ。よろしく頼む」
よろしくされる側としては胃が痛い。
「まずは、この学園のルールについて説明する」
来た。
教育制度タイム。嫌な予感しかしない。
「この学園では年に2回、ランキング戦が行われる」
はい地雷。
もうこの時点で嫌な単語しかない。
「ランキング戦で上位10名には、順位に応じたポイントが付与される。このポイントは内部評価に直結する」
──と、ここで。
中村が、元気よく手を挙げた。
「上位10人だけって不平等じゃない?200人いて10人とか、鬼畜仕様すぎじゃん」
珍しく正論。
だがこいつが言うと腹立つ。
プラントは一瞬だけ目を細めた。
「話は最後まで聞け。ランキング戦は個人戦だが、学年全体では“団体戦”でもある」
黒板に数字が映し出される。
「上位100名の所属クラス数で、クラス順位を決める。Aが22、Bが15、Cが18、Dが12、Eが20、Fが13だった場合── Aが最多だ。A所属の生徒に追加ポイントが配られる」
......え?
つまり?
「つまり、クラス単位での足の引っ張り合いと、内部競争を同時に発生させる地獄システムですってこと?」
誰も言ってないけど、俺の脳内翻訳はそう表示された。
「この獲得ポイントが、年間最多の者には褒美が与えられる」
褒美。
来た。餌。
「内容はまだ未定だが......まぁ、人生を変えるには十分だろう」
周囲がざわつく。
金?称号?特殊スキル?
俺の脳内妄想会議が勝手に開幕する。
──だが。
プラントは黒板を指差した。
「さて。まず最初に“現実”を見てもらう」
黒板に新しい映像が浮かび上がる。
「......は?」
各クラスの──
トップ3とワースト3。
しかもだ。
トップ側は名前だけ。
ワースト側は──
成績ランキング付き。
性格、悪すぎるだろ。
俺は嫌な予感に背筋が冷えた。
そして、次の瞬間。
1-A
Top ・付焼龍、陽陰駿、空上刹那
Worst ・補長愚太朗(183位)、大野零(185位)、霜山柚菜(190位)
1-B
Top ・宮田竜馬、一月、増田生
Worst ・宇野喜助(187位)、鯊祈織(192位)、緋山翔(191位)
1-C
Top ・小松心海、小鳥遊涼、唯あいか
Worst ・濱野健(198位)、中川将(200位)、反町陸(188位)
1-D
Top ・中村黎夢、伊達幽鬼、児玉瑠々
Worst ・水谷悠真(193位)大塚鮎(194位)、浦原雨羽(189位)
1-E
Top ・塙剛、服部元気、小鳥遊彩
Worst ・鵼田康生(195位)、浜園真理(197位)、清峰恵(199位)
1-F
Top ・佐藤彩凪、泡渕平、林田太陽
Worst ・木村拓(196位)、樋口愛梨(186位)、原航一(184位)
プラントが淡々と告げる。
「これは戒めだ。自分の置かれている状況に胡座をかくな」
......胡座?
俺、正座で生きてるが?
教室のあちこちから視線が刺さる。
中村はニヤニヤ。
扇谷は気まずそう。
俺は天を仰いだ。
「あぁ、言い忘れていた。この学園は全寮制だ。詳細は個人別に通達されるからな」
──こうして俺の学園生活は、
初日から“底辺スタート”という最高に面倒なフラグを立てて幕を開けたのだった。




