第48話 俺たちは動き始める
──孤影の騎士団。
この名を口にするのは、今この場にいる者たちだけだ。
表の世界には存在せず、裏の裏に潜む影の集団。
そして、俺が団長を務める組織。
だが皮肉な話だ。
俺が王立魔法学園への入学資格を得たということは、この組織を直接動かす時間が失われるということでもある。
学園。
それは表舞台だ。
裏を支配するには、目立ちすぎる。
だからこそ ──今だ。
「......始動は、現段階でこれが最初で最後になるかもしれない」
薄暗い空間。
影世界の中で、俺は団員たちを前に立っていた。
「だが、心配はいらない。俺がいなくても、後続は育っている」
視線を向ける先には、カムイがいる。
もう、最初に出会った頃の彼ではない。
俺は静かに告げる。
「孤影の騎士団。団長は俺、水谷悠真。副団長にカムイを任命する」
ざわり、と空気が揺れた。
「諜報、育成、潜入──元奴隷たちの管理と教育はアリスに一任する」
アリスは一瞬だけ目を伏せ、すぐに口角を上げた。
「その他、諜報及び暗殺任務はカムイを中心に、お前たちで執行しろ」
一拍置いて、俺はカムイを見る。
「カムイ。俺の代わりに、孤影の騎士団を動かし、発展させろ」
迷いはなかった。
「はい、師匠」
その声には、覚悟が宿っていた。
この瞬間、カムイは確かに“副団長”として一段階上へと進んだ。
──孤影の騎士団は、動き始めた。
通達とやらは、思いのほか早く届いた。
王城からの一斉通達。
『改めて祝おう!諸君の入学を歓迎する!』
『通達と言ったが、特に伝えるべきことは無い。だが、君たちだけでなく既存の者にも通じることとして、学園入学に際しクラス分けを行う』
......嫌な予感しかしない。
『才能を分別するという訳ではないが、軽い実力を知るには良い機会だろう』
軽い、ね。
『──おっと、大事なことを忘れていた。学園への入学は1週間後。場所は王城前の門だ。君たちを楽しみに待っている』
......楽しみとか言うな。
「クラス分けで実力確認?」
俺は頭を抱えた。
(絶対、皆の前でやるやつだろ......)
嫌な奴と同じクラスになったらどうする?
注目されたらどうする?
第一、俺は目立ちたくない。
だが──考え直す。
俺は弱者を演じたい。
だが、負けたくはない。
つまり。
「......引き分けだ」
勝たない。
負けない。
全ての勝負を引き分けに持ち込む。
そうすれば、俺は「強くも弱くもない」存在になる。
常に誰かと同等。
埋もれるには、これ以上ない立ち位置だ。
「我ながら、天才か?」
小さく笑う。
悠真は、確信していた。
自分の経験は誰にも劣らない。
創造性も、発想も、間違いなく一級品だ。
──だが、忘れてはならない。
水谷悠真は、基本属性の全てを使えるわけではない。
それらを当然のように操る者たちと比べ、俺は異端だ。
それでも、ここまで来た。
一週間は、驚くほど早く過ぎた。
早すぎる。
入学イベントというものは、いつだって胃に悪い。
俺は胸の鼓動を抑えながら、王城へと向かう。
王城前の門。
そこには、すでに大量の人影があった。
顔見知りが多い。
転移者たちだ。
久しぶりに再会した友人同士で盛り上がる者。
こちらを見て、ヒソヒソと話す者。
(......まぁ、そうなるよな)
俺の成績ランキングは193位。
底辺オブ底辺。
そんな奴が、ここに立っていること自体が異常だ。
「どれ、集まったようだな」
声のする方を見る。
──いた。
初日に出会った、あの初老の男。
(......今思うと、このジジィ、怪しすぎる)
「何度も言われているだろうが、改めて伝えよう」
男はゆっくりと告げる。
「おめでとう、非勇者たちよ」
その言葉に、空気が僅かに張り詰める。
「君たちには、この王城により隠された王立魔法学園で、三年間学んでもらう」
......隠された、ね。
「願わくば、この世界の矯正も頼みたいところだが......まぁ、それは後の話だ」
男は踵を返す。
「付いてきなさい」
俺たちは、長い長い廊下を歩いた。
王門を抜け、ひたすらに歩く。
曲がり、進み、また曲がる。
やがて、新たな扉を抜けると──外だった。
そして、俺は目を疑った。
「......デカすぎだろ」
目の前に広がる、王立魔法学園。
建物が、異常なほど大きい。
一瞬【環相】の一種かと思ったが、違う。
これは、空間拡張に近い。
その学園の前には、人だかりがあった。
──勇者組。
久しぶりの邂逅だ。
こちらを見て喜ぶ者。
ニヤニヤと笑う者。
始まるのか。
ここから──
俺たちの全てが。
学園という名の舞台で。




