第46話 平和な日々にカンパイ
「......後悔は、無い!」
そう高らかに宣言をしたのは、この街――ユリウスの入口付近だ。
わざわざ街の門前で言う必要はなかった気もするが、気分というのは大事なものだ。人生、ノリと勢いでなんとかなることもある。多分。
俺はあの日、グリフォンの身体の一部をギルドマスターに引き渡した。
半信半疑だった表情は、鑑定結果を見た瞬間に確信へと変わった。あの変わり身の速さは見事だったな。
とはいえ、グリフォンであることは疑いようがないが、討伐の証となる首は無い。
結果――
俺のランクはSSに昇進。
そして、あの規格外の存在は討伐扱いとはならず、幻の SSSランク(仮)となった。
この街唯一のSSSランク。
「黒煙」は、名実ともに最強へと至った。
......"黒煙"は、な。
"悠真"はゴミです。
いや、知ってたけどさ。
称号と実体は別物って、よく言うだろ?言わないか。
俺は神話級の一部を差し出す代わりに、その一部分を使用してもいいという条件を取り付けた。
まぁ、俺が狩った――正確には交渉したモノだからな。所有権は主張させてもらう。
そして、そのブツを使って、俺は新たに習得したスキル【錬成】を発動した。
素材は――
俺の魔力。
グリフォンの羽根。
そして、紅桜。
紅桜を通し、イメージを固定する。
対象は一人。使い手は一人。適合者はただ一人。
「......っ!できた......」
顕現したのは、剣とも刃とも言い切れない、しかし確かに"武器"と呼べる存在。
【???】 無定形刄
その性質は、全範囲に対応可能な変幻自在。
形状も、間合いも、用途すらも固定されない。
基本属性を扱え、かつ武術に長けているカムイには、これ以上ない相性だろう。
俺の自信作だ。
カムイに手渡した瞬間、あいつは目を丸くして――次の瞬間、子供みたいに喜んだ。
無口なやつの感情が、あそこまで露骨に表に出るのは珍しい。
嬉しい限りだ。
......ただし。
その様子を横から見ていたアリスに、ものすごい睨まれた。
殺気すら感じた気がするが、まぁ、怖いことは深く考えないようにしよう。人生、ノリと勢いだ。
話を戻そう。
俺はギルドにも、闇ギルドにも、別れを告げるつもりは無い。
また会うだろうし、そういう世界でもないからな。ここは。
これから向かう場所は王都だ。
原点回帰ってやつ。
特に帰る意味は無い。
......このときは、そう思っていた。
いや、語りはいい。
早く逃げ出したい。
この街、なんか背筋がゾワゾワする。
王都までは歩きで行く。
道中、何が起きても対処できる。
まぁ、何も起きないとは思うが。念の為な!
......何も起きない!
出発前にフラグ立てたはずなのに!
もう五日経った!王都も見え始めてる!
いや〜、久しぶりの平和な旅かと思った矢先――
脳内に、ノイズが走る。
『......し......を......える』
「は?」
何言ってるかわかんねぇ。
空耳かもしれないから無視無視。
『......れん......たえる......』
いや、まだ空耳。
でも、どこかで聞いたような......。
『......試練を与える』
「......っ!」
グリフォンか!
この距離から俺に!?どうやってやってるのか知らんが、何をする気だ?
次の瞬間、禁域から莫大な魔力を感知する。
本能が、逃げろと訴えかけるほどのそれ。
膨大な魔力の塊は、一直線に――王都へ向かっていた。
もしかして。
もしかすると。
――魔獣暴走!!!
おいおいおいおい!
これだよこれ!アニメにはありがちのこの展開!
しかも俺は裏の姿がある!理想の展開として胸が踊るぜ!
......と、言いたいところだが。
おそらく主犯はグリフォン。
奴が言ってた"試練"ってのは、このことだったのか。
だが、胸踊る展開とは裏腹に、やる気はあまり出ない。
禁域発の魔獣暴走。
つまり、脅威級・災害級・伝説級――
居れば神話級のオンパレードだ。
幾ら仮無敵の俺でも、普通にチビる。
王都はもう目と鼻の先。
既に王都の冒険者たちも異変に気付き、迎撃を始めている。
彩やかな魔法が空を裂き、剣の衝突音が響く。
......うん。
戦闘を観戦するのは、楽しい。
そんな思いを胸に秘めながら、俺はスキルを顕現させる。
「覇國」。
――悠真のままで。
バレない。
妙な確信だが、俺はこれを信じた。
魔獣暴走。
阿鼻叫喚に思えるその出来事は――
思いのほか、普通だった。
「......覇國......一閃......っ!」
確かに、刀を振った。
スキルが発動する感覚もあった。
なのに。
――なのに、だ。
俺は今、立っている。
何を言っているか分からないと思うが、俺にも分からない。
ただ分かるのは、俺が王都近くの禁域の付近にいて、王都が少し騒がしいということ。
そして――
先程まで戦場だったはずの場所に、一人の女の子がいる。
彼女は辺りを見回し、何かを確認している。
その途中で、俺と目が合った――気がした。
少女は、こちらへ歩み寄ってくる。
そして、屈託のない笑顔で言った。
「あれ?水谷くんじゃん。久しぶり!へへっ」




