第45話 俺は強い(たぶん)
俺は剣が好きだ。
理由は単純で、使ってる奴が無条件でかっこいいからだ。剣――いや、俺の場合は刀だが、とにかく刃物を振るっている姿にはロマンが詰まっている。だから俺は、誰かと戦うとき、必ずと言っていいほど刀を握る。
もっとも、それは見た目の話であって、中身はだいぶ怪しい。
正直に言おう。
俺の戦闘は、体術とはほぼ無縁だ。踏み込みも、間合い管理も、筋力任せの押し合いも――そういう"基礎"を、俺はほとんどやっていない。代わりに何をしているかと言えば、スキルだ。
徹頭徹尾、スキル頼み。
空間を歪ませ、影を渡り、攻撃を逸らし、存在を誤認させる。
身体を鍛えるより、イメージを膨らませる方が楽だった。いや、楽だったというより、面倒だったと言った方が正確だな。
腕立て伏せとか一回しかできない。
誤解しないでほしい。デブじゃない。むしろ細身だ。だが筋力がない。悲しいくらいに。
だから俺は考えた。「なら、当たらなければいい」「当たっても意味がなければいい」と。
その結果が、今の戦闘スタイルだ。
――堕落が過ぎる。
自覚はある。
カムイと手合わせすると、よく分かる。
内側の実力差。純粋な身体能力、反射、踏み込みの鋭さ。スキルを封じたら、まず勝てない。というか、圧倒される。
カムイはたぶん、俺が手を抜いていると思っている。
違う。抜いてるんじゃない。出せないんだ。
魔法なら、見様見真似とイメージでどうにかなる。だが"実力"は誤魔化せない。
ま、そんなこと――今はどうでもいいか。
「最強に至った(仮)」だしな。
見た目は細くて弱そう。
中身はスキルまみれの化け物。
俺のモットーである《能ある鷹は爪を隠す》は、今の状況に合いすぎていて、逆に困る。
......いや、全然困ってないな。むしろ快適だ。
グリフォンと別れたあと、確かに何か言われた。
「与える」とかなんとか、そんな単語が聞こえた気がするが、正直よく覚えていない。疲れていたし、興味も薄かった。
良いものではない。
それだけは、直感で分かった。
禁域を抜けるのに、行きと同じくらいの時間を要した。
神話級を探して彷徨っていた頃と同じくらい――つまり、異様に長い。
恐ろしいことに、本当に何もなかった。
敵も、事件も、戦いもない。ただ歩いて、休んで、また歩くだけ。
気付けば、俺はここでほぼ4ヶ月を過ごしていたらしい。
森を抜けたとき、空は夕焼けに染まっていた。
ああ、やっと帰ってきたんだな、と実感が湧く。
俺は影世界へと足を踏み入れた。
次の瞬間、耳に届くのは――声。
複数の足音、掛け声、金属音。
......真面目だな。
そう思いながら、俺は声を頼りに歩く。
やがて、一人の少年がこちらに気付いた。
「おかえりなさい!師匠!」
カムイだ。
全力で駆け寄ってくるその姿に、自然と口元が緩む。
「おう。俺がいない間、順調に進んでたか? ......って、うん?」
違和感。
掴まれた腕の感触が――人間じゃない。
硬く、冷たい。
「......なんだ、これ」
「あ、師匠気付きました?これもスキルの一つです!正確には【浸食】の一部です!」
カムイは誇らしげに言った。
「この質感......鉄、か?」
「はい師匠!そうですね。名付けるなら【同化】です!」
【同化】
触れた物質に身体が変化する。
なるほど。
受動的に己を侵食させるのが【同化】。
能動的に周囲を侵食させるのが【侵食】。
......くそ、かっこいい。
俺が好きなタイプのスキルだ。
素直に羨ましい。
見渡せば、他の獣人族たちも変わっていた。
力任せではない。個性が研ぎ澄まされ、役割が定まり、佇まいに"守護者"の色がある。
アリスも、満足そうに頷いていた。
いい。
とてもいい。
素晴らしい。
――これでいい。
「......完成だな」
俺は小さく呟く。
孤影の騎士団。
まだ名だけだった組織が、ようやく“形”になった。
だが、終わりじゃない。
俺はもっと広げる。
表じゃない。裏だ。
影の中で、音もなく。
誰にも気付かれないまま、世界を抑える。
爪は、まだ隠したままでいい。
だって――もう、十分すぎるほど増えているのだから。




