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『スキル【空間魔法】で転移ライフを謳歌する』  作者: 愛月量


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第44話 命あっての物欲

『《双極》』


その言葉が発せられた瞬間、空間そのものが軋んだ。

雷と炎、二つの極が絡み合い、渦となって俺に迫る。


「これが......っ!紅桜の真価なのか......!」


妖刀『紅桜』。

赤紫の刀身は、不気味なほど静かに輝いていた。

斬るための刃ではない。万象を拒む境界――最強の"盾"としての在り方。


「く、くる!」


グリフォンが、一直線に突っ込んでくる。

速度、威圧、殺意。どれを取っても今までとは次元が違う。


考えるな。

俺はただ、力任せに刀を振った。


――触れた瞬間、相殺する。


それが紅桜の性質だ。

予想は、確信に近かった。


だが。


「っ――!?」


衝突の瞬間、身体中に電撃が走った。

視界が白く弾け、全身の神経が強制的に跳ね上がる。


「いだだだだだだだ......っ!」


思わず声が漏れる。

だが、次の瞬間――違和感に気付いた。


「......って、あれ?」


痛みが、ない。

確かに衝撃はあった。だが、致命的な何かが欠けている。


「俺の練度の問題か? まぁいい。......"効果"は残ったが、"攻撃"は消えてる。上出来じゃないか」


紅桜は、確かに役目を果たした。

完全な無効化ではない。

だが、殺すための力だけを削ぎ落とした。


『なんと......!』


グリフォンの声に、明確な驚きが混じる。


『驚いたぞ。其方、今の我の攻撃は奥の手であったのだが......よく死なずに済んだ』


巨躯が、少し距離を取る。


『その刀......異様な雰囲気を纏っているな。其方は、その刀に命拾いをさせられた。本来であれば、身体の内側から焼かれ、死んでいたぞ』


「それは勘弁だな。焼け死ぬとか、痛そうだし」


軽口を叩きつつ、内心では冷や汗ものだった。

一歩間違えれば終わっていたのは事実だ。


「てか、お前が奥の手出したんだろ?俺だって最強の盾を手に入れたんだ」


紅桜を肩に担ぎ、視線を上げる。


「正直な話な。俺も、お前を殺せるとは思ってない。どっかで分かってる。......ここから、どうするつもりだ?」


沈黙。

しばしの間、森が音を失う。


『......ムム』


やがて、グリフォンは低く唸った。


『確かに其方の言う通りだ。我達は神話級――だが、魔物である前に、神に近い存在でもある』


黄金の瞳が、真っ直ぐに俺を見る。


『そんな我らを殺そうとしたヒトがいれば、反感を買うのは避けられぬ』


「......」


「『この勝負、一度休戦としないか?』」


その言葉に、思わず口角が上がった。


「お、初めて意見が合ったな」


肩の力を抜く。


「お前は強い。俺も......まぁ、それなりだ。強者同士、話し合いってのも必要だろ?」


『ク、クハハハハ!』


グリフォンが高らかに笑う。


『其方が強者か。面白い冗談だ。ただ――其方の"別方向に長けた力"は、認めよう』


「それで十分だ」


俺は一歩前に出た。


「それよりさ。討伐の証とかないの? 流石に手ぶらで帰れないんだけど」


『......其方は本当に欲深いな』


呆れたように、しかし嫌悪はない。


『仕方がない。我の爪を一本、持っていけ。いずれ生え変わる』


「......もうちょい欲しいかも」


『......』


はは。


『分かった。我の羽根の一部も持っていけ』


「よし」


内心ガッツポーズだ。

神話級素材とか、普通に考えて反則級だろ。


『これで終わりだ。早々に帰るがよい』


「――いや、まだだ」


『なぬ?』


俺は、真剣な目でグリフォンを見た。


「一回。たった一回でいい」


喉が鳴る。


「俺を、殺す気で攻撃してくれ。......もう少しで掴めそうなんだ」


沈黙が落ちる。

やがて、低い声。


『......良かろう』


殺気が、爆発的に膨れ上がる。


『死んでも、文句は言うなよ』


次の瞬間。


『《天焦》』


灼熱の光弾が、複数同時に放たれた。

逃げ場はない。


だが――


俺は、動かなかった。


さっきの攻撃で掴んだ感覚。

"居たけど、いなかった"あの違和感。


「俺に、空間を纏う」


身体の輪郭を、意識でなぞる。


「そして、その空間を――歪ませる」


攻撃は、俺に当たった。

確かに、当たったはずだった。


だが、何も起こらない。


炎は、俺の"周囲"で曲がり、

雷は、"触れる直前"で逸れた。


そこに立っていたのは――

ただ、一人の男。


「......そうだな」


静かに息を吐く。


「名付けるなら――《変曲》」


歪めたのは、攻撃ではない。

"俺に至る空間そのもの"だ。


グリフォンは、言葉を失っていた。


――この瞬間。

妄想だけが先を行っていた力が、

ようやく現実に追いついたのだった。

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