第42話 妄想だけが先を行く
いやー、長かった。
期間もだが、正直ここまで来た道のりも長かった。
禁域を彷徨い、意味のない爆破を繰り返し、存在するかも分からない何かを追い続ける。
冷静に考えたら、なかなか狂っている。
「......さっさとやれるだけやって帰りたい」
本音が口から零れた。
ここまで来たんだ、討伐なり何なりして、SSだのSSSだのをもぎ取って、さっさと日常に戻りたい。
俺は立ち止まり、周囲を見渡す。
「周辺環境の変化とかどうでもいいからさぁ......早く会わせてくれないかなぁ......」
そう呟いた、その瞬間だった。
『......其方は、何をしに来た』
――低い。
だが、耳に届くというより、頭の奥に直接落ちてくる声だった。
「......あ?」
反射的に返事をしてから、気付く。
「何って......神話級の討伐だけど」
あ、普通に答えちゃった。
「まぁ、ここまで来たけど正直面倒になってきてさ。帰りたい気持ちの方が強いんだよなぁ」
『......我を倒して、何になるのだ......』
「そんなの決まってるだろ」
俺は肩をすくめる。
「俺の評価が爆上がりする。それだけ。
自分で欲望口にした手前、後戻りできなくて困ってるだけなんだけどさ」
『......どの様な動機であれ、我の領域に勝手に踏み込むのは、どうかと思うが......』
「我の領域ってなんだよ......」
思わず鼻で笑いかけて――止まった。
「......どうせ森の端くれとかだろ......って、え?」
『......漸く気付いたのか?』
ぞわり、と背筋が粟立つ。
「は......? え、誰?」
疲れすぎて、判断が遅れていた。
いや、そもそも――俺、誰と会話してた?
『......我の“領域”だと言ったであろう』
姿が、見えない。
「......我?いや誰だよ。どこにいんだよ」
『......やはり愚かなものだな、ヒトは。我は既に、其方の前にいる』
「前に......?いるわけ――」
言いかけて、息が止まった。
暗すぎた。
いや、暗いという認識すらしていなかった。
目を凝らす。
意識を集中させる。
......いた。
「......マジかよ」
巨大な輪郭。
羽。
獣の脚。
そして、こちらを見下ろす金色の瞳。
これで愚かとか言われるの、理不尽すぎるだろ。
普通じゃ見えねぇよ。
『......其方は文句が多いな。まぁよい』
低く、威圧するような声。
『我が名はグリフォン。高貴なるモノである』
――出た。
しかも名乗った。
【神話級】双王 グリフォン
「で、でたぁ......!」
心の中で悲鳴を上げる。
しかも自分で"高貴"とか言っちゃってる。
はずかちー......いや、怖ぇ。
『......其方には呆れてものも言えぬ。我が言葉を話すことにも、疑問すら湧かぬのか?』
「まぁ、神話級くらいなら話すでしょ」
我ながら雑な返しだった。
『......其方は、なんというべきか......』
グリフォンが一瞬、考え込むように黙る。
『......ムゥ。考えることも無意味だ。それより、我に戦う意思はない』
「......は?」
『残念だが、其方の希望に添うことは出来ない』
「それは困るよ!」
思わず声が大きくなる。
「倒した証がないと困るんだって!」
『......二度は言わん』
空気が、圧し潰される。
『且つ、其方は我に勝つことは不可能だ。現に――』
グリフォンの瞳が細められる。
『我の攻撃に、気付くことすら出来ていない』
「......攻撃?」
反射的に振り返った。
――そして、理解する。
俺の左右、地面に深く刻まれた引っ掻き傷。
その周囲には、消えかけの火が燻っていた。
「......は?」
そんな馬鹿な。
この空間には俺とアイツしかいない。
空間の知覚だって――
『ほぅ。其方は面白そうなモノを持っているようだ』
淡々と、だが確実に。
『確かに、其方の考える"知覚"は思考の範囲なら可能であろう』
心臓が、嫌な音を立てる。
『だが、肝である其方の"身体"は反応出来ていない。そういうことだ』
――理解した。
見えていた。
だが、避けられていなかった。
『話は終わりだ。其方は大人しく帰るがいい』
......さっきまでの俺なら、二つ返事だった。
だが。
「......話が変わった」
俺は、息を吸う。
「そんな舐められ方されちゃ困るね」
震えを、無理やり押し殺す。
「これでも俺はSランクだ。ロマンを求めてここまで来た。
何もなしに帰るなんて――ダサいだろ?」
『戯言を...。では、我も持ち帰るとしよう――......』
そうグリフォンは言うと姿を消した。
俺は姿を消したグリフォンに興醒めした。
ま、そんなものかとその地を後にしようと背にした途端に再び話しかけられた。
『――......何を帰ろうとしている?持ち帰りたいモノは、』
話しかけられ振り返ると、眼前に鉤爪が
『――其方の首だぞ』




