第41話 気持ちは前向き。俺は下向き
獣人の子たち、アリス、そしてカムイ。
禁域での戦闘訓練を終えた彼らに、俺は次の指示を出していた。
「しばらくはみんなで特訓を続けてくれ。次に会うころには――孤影の騎士団って名乗れるぐらいにはなってろよ」
言った本人がいちばん実感していない。
でも、あいつらの伸び代を考えれば、俺が何百時間も口出しするより、三人で自主的に殴り合って学ぶ方がたぶん強くなる。
......で、肝心の"俺"はというと。
「やだぁ〜〜〜……」
――自分で言い出したくせに、まったくやる気が出ない"SS・SSSランク"になる道への旅に出ていた。
いや、やれば気分は良いんだよ?
でも面倒だろ、絶対。いや、でも......やればスッキリする......でも......うーん。
そんなふうに自分の中で天使と悪魔が延々と議論を続けるのを完全に放棄しながら、俺は禁域の更なる奥へ足を踏み込んだ。
存在するかどうかすら怪しい魔物を探すなんて、本当に気が狂う作業だ。
せめて一石二鳥で身体作りも一緒にしようと思っていたのだが――ここで俺の悪癖が登場する。
「......いや、待てよ。素の身体強化の訓練なんてやらなくてもさ......
そもそも俺に攻撃が当たらなければ良くね?」
怠惰の誘惑。
キラキラ光る悪魔の囁きに、俺は秒速で負けた。
――まあ、困ることなんてないっしょ!
実際、俺の防御力はスキル頼り。
だから「防御力を上げる」より「当たらせない」を選ぶのは理に適っている......はず。
そして俺の欠点であり長所でもある想像力が、また変に暴れ出す。
ほぼ無敵。
だが、無敵ではない。
そこをギリギリ狙うイメージが難しかった。
「......まあ、時間は腐るほどあるし。この特訓期間中に出来上がれば熱いだろ」
そう、あいつらに"長期特訓"を押し付けたのには理由があった。
――俺が今探している『目的の奴』が全然見つかる気配がないのだ。
本当に、笑えない。
禁域には伝説級ばっかりで、肝心の"そいつ"だけ影も形もない。
そして、すでに1ヶ月が経とうとしていた。
その間、俺は敵に見つかるのが嫌すぎて(逃げてるわけじゃないぞ? 戦略的撤退だよ)
【気配遮断】を常用していたら、いつの間にか進化して【隠密】になっていた。
「はは、やっぱ使い込むのって大事なんだな」
いや、進化したのは嬉しいけどさ。
それでも見つからない。
俺はゴミ精度を誇る【探求】で"魔力が多そうな方向" を当てずっぽうで歩いている。
そして行き着く先には大抵、災害級か伝説級。
しかも【隠密】に気付くからガチ怖い。
俺は影の世界と収納空間のおかげで、食料に困らない点だけは感謝している。
ありがとう!俺!
......ただ。
「はぁ......さすがにイライラしてきた......」
探索はいつの間にか2ヶ月目に突入しようとしていた。
「......もういい。手当たり次第に攻撃ぶっぱして探すわ」
俺は魔力の濃い方向に向かって《虚障衝撃》を放つ。
同時に《身体強化》、さらに《亜空力》を乗せ、拳を振り抜く。
静寂。
そして遅れて森を吹き飛ばす爆風。
「......ま、何かに当たればわかるだろ」
今の俺なら、災害級くらいならワンパンできる気がする。
障害になるのは伝説級と神話級だけだ。
しかも俺は、最近になって"空間そのもの"を知覚できるようになっていた。
つまり――
「はい、空振り確定っと」
今の攻撃がどうなったかが丸わかりってこと。
どうする。どうしよう。
諦めるな俺。何かあるはずだろ。
俺は想像力にすがって、ひとつの案を導き出した。
「......隣接する影、全部......影の世界に引きずり込む」
本来、影の世界は【影属性魔法】を持たなければ入れない。
しかし俺のスキルなら、その条件を一時的に無効化できる。
禁域という空間と、影の世界という空間を接続し、
視界に写っていなくても、そこに"影"がある生物を一瞬だけ強制的に引き込む。
成功確率は知らない。
でも、俺は今まで漫画とアニメの知識だけでどうにかしてきた。
「行ったれぇぇぇぇぇ!!」
一瞬。
本当に一瞬だけ、世界が"裏返った"。
様々な魔物の気配が跳ねるように現れ、そして弾ける。
その中で――ひときわ目を惹く魔力があった。
「............みーつけた」
やっとだ。
この1ヶ月半の彷徨いが、ようやく報われる。
だが。
1つだけ、不穏な考えが胸をよぎる。
「......会って対面した瞬間、即死......とか、ないよな?」
喜びと絶望。
希望と後悔。
前向きな気持ちと、うつむきたくなるほどの不安。
全部がぐちゃぐちゃに混ざって、俺の心を掻き乱していた。




