第1話 ビリの俺に配られたのは”空間魔法”でした
「異世界へようこそ!勇者の卵たちよ!」
そう言って現れたのは、いかにもなローブを羽織った白髭のじいさん。
テンプレすぎて笑うしかない。いや、心の中でだけどな。
俺のモットーは「能ある鷹は爪を隠す」
騒がず、浮かれず、力は秘めておく。それが美学ってもんだ。
「君たちはこの<エルザレア>の世界を救うため、信託に基づき召喚された」
ざわめく生徒の中には目を輝かせてるやつもいれば、現実逃避しはじめてるやつもいる。
ま、普通はそうだよな。俺?内心ではテンション上がってるけど、表面上はクールを装ってる。陰キャの矜持ってやつ。
「ではこれより、”成績ランキング”に基づいて、スキルを付与する」
この時点で嫌な予感しかしなかった。
成績......つまり、現実でのテストの点数で能力が決まるってことだ。マジでやめてくれ。
クラスのトップ層は「爆炎魔法」「剣王の加護」とか、RPGでチート性能確定みたいなスキルをもらっていく。
そりゃそうだ、奴らの成績はリアルでもトップクラスだったしな。
そして。
「水谷悠真。成績ランキング......下から7位(193位)。スキル【空間魔法】を付与」
やっぱりかよ。
「空間魔法って何だよw」「お前異世界でも雑魚か」なんて声が聞こえるが、俺は笑わない。
というか、笑えない。顔には「ふっ......」って余裕ぶった笑みを浮かべるのがせいぜいだ。
そのとき、俺の前にぽっかりと黒い穴が開いた。
「......お?」
お試し感覚で手元の消しゴムを放り込んでみると、すっと吸い込まれる。
意識を集中すると、"そこにある"感覚がわかる。次に、"取り出す"を意識すると、消しゴムが俺の手に戻ってきた。
収納と転送。しかも。めちゃくちゃ直感的に操作できる。
――これは、もしや
「......いやいや、浮かれるな水谷悠真。真の強者は、力を見せびらかしたりしない」
心の中でひとりごちる。
厨二っぽいって?それがどうした。俺の中ではこれが"かっこよさ"だ。
【空間魔法】――その真価は、まだ誰にも知られていない。
ならば俺は、悠々とそれを隠し通すだけだ。
「異世界ライフ、上等だ。楽しませてもらおうか――」
そう、俺は決めた。
この異世界を。誰よりもクールに、そして密かに――謳歌してやる