表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

エピソード1-2

エピソード1-1の続きです。

翌日。 朝食を食べ終えたファスは、自分用の訓練室に歩きで向かった。 訓練室前に到着すると自動で扉が開き、ファスは室内を見渡して見る。 すると、訓練室中央には、黒い服と黒い「面」、頭部覆いを付けた1体の「人」が立っていた。 ファスは遠目ながらも背の高さから、その「人」がサンゴだとすぐにわかる。

「おはよう、サンゴ!」

と、ファスは元気な声を上げ、訓練室内に入って行く。

「おはよう、ファス!」

と、サンゴも明るい口調で挨拶を返してきた。

「・・・あのね・・・サンゴ・・・。 お願いが・・・あるんだけど・・・。」

と、ファスは訓練室中央に向かいつつ、言い出しづらそうにサンゴに話しかけた。

「お願い?」

一方、サンゴは部屋の中央からファスに近寄りつつ、不思議そうに聞き直してくる。

「え~と・・・。 今日からの訓練、ここじゃなくて、この前、サンゴと仮想機体の同期を試した、共用・・・? の、訓練室でやりたいんだけど・・・。」

ファスは少々小声でたどたどしくなりつつも、どうにかサンゴに告げた。

「わかった。」

一拍置いて、サンゴはあっさりと了承の返事をしてくれた。 ファスにしてみれば、色々と理由を聞かれると思い、言い訳を用意しておいたが、それも無用になってしまった。

「さて、共用の訓練室だと移動になるな。 歩いて行くには少々遠いし、車を用意するか。」

そうサンゴが告げる。続けて、

「それじゃあ、ファスはここの扉前で待っていてくれ。」

と、ファスのすぐそばまで近寄ってきたサンゴは、優しい口調で話しかけてきた。

「うん・・・。」

片や、ファスは戸惑いながらもサンゴの指示に従い、訓練室を出て行く。

通路に出てしばらく後、操機格納庫に向かう通路奥から、車両が路面を走る音が聞こえてくる。 目を凝らして通路奥を見てみると、昨日、イチゴが見せてくれた車両より少し大きい小型4輪車両が、ファスの立っている方向に向かって近づいてきている。 そして、目の前でゆっくりと停車すると、車両の両側扉がせり上がり、2人分の座席がある無人の室内が見える。

「2人乗りだ・・・。」

車両内を見たファスは、ぽつりと呟くと、

「そうだな。 わし・・・じゃなくて、私も乗るからな。」

いつの間にか、ファスの背後に近づいていたサンゴがファスを見上げて答える。 続けて、

「それじゃあ、どうぞ。」

サンゴが車両内に手を翳すのを見たファスは、開いた扉から、車両内の座り心地のいい座席に腰を沈めた。 一方、サンゴも車両右側に回り込み、開いた扉からファスの右隣りの席に乗り込んできた。

「ファス、両腕を少し上げてくれ。」

と、サンゴが指示を出して来たので、ファスは軽く両腕を上げる。 サンゴも軽く両腕をあげると、セーフティベルトがファスとサンゴの両肩、両脇の下から胸部付近を覆う。

「では、共用訓練室に向けて出発!」

サンゴが機嫌よく声を発すると同時、小型4輪車両はゆっくりした速度で進み始めた。

地下通路を進んで行くと、とある箇所のエレベーターの扉が開いていて、車両が乗り込むのを待機していた。 エレベーター室内に小型4輪車両が入り切り、停車すると、エレベーターの扉は閉まる。 数十秒もすると、背後で扉が開き、車両は後退でエレベーターの外に出た。 そこからは、屋外の車両用通路を通っていく。 暫し、晴天が映し出されている車両の正面画面を黙って見ていたファスだったが、

「・・・ねえ・・・、サンゴ。 なんで、僕が共用の訓練室で訓練したいのか・・・、理由を聞かないの・・・?」

と、沈黙に耐えられず、恐る恐るサンゴに問いかけてしまう。

「ああ。 わし・・・じゃなくて、私は、ファスが訓練をやる気なら、どんな場所でも着いて行くぞ。 他地区の訓練室だろうが、山籠もりだろうが! 理由なぞ不問じゃ。」

と、サンゴは正面を向いたまま、気分がよさそうな声で答える。 一方、

「山籠もりって・・・。」

と、サンゴの答えに少々戸惑ってしまうファス。

『まあ、他の操機主に会えるかは、サンゴには、あまり関係ない話か・・・。』

と思い、

「それで! 今日からはどんな訓練をするの!?」

と、ファスは気分を切り替え、うきうきした口調でサンゴに問いかける。

「操機主は、1にも2にも体力、持久力! なので、今日からは体力向上の基礎訓練じゃ!」

サンゴは少々厳しい口調に変わり、ファスに向かってそう告げる。

「え~・・・。 基礎訓練・・・。」

一方、ファスは武具訓練か、操機の基礎的な操り方を教えてもらえると思っていただけに、愕然とした口調と表情で俯くのだった。


共用の訓練室に着いたファス。 数日前にも見たが、ファス自身に割り当てられている訓練室より、明らかに広い。 さらに室内をよく見てみると、自身に割り当てられた訓練室に比べ、より多様な運動用器具や、体を鍛える器具が設置されているのが見て取れる。 ファスは、訓練室内に他の操機主がいることを期待し、広い室内をうろうろとさまよう。 だが、共用の訓練室には誰もおらず、ファスの期待は外れてしまった。

その後、サンゴの指示で基礎訓練を開始することになったファス。 まずは歩行用運動器具を使い、みっちり1時間程早歩きをさせられることとなった。

1時間後、

「はぁ・・・はぁ・・・。」

早歩きを終え、訓練室床に座り込み、息も絶え絶えのファスに対し、

「良かったではないか。 共用の訓練室だから、専用の運動器具が多数ある。 さては、このことを知って、こちらの訓練室に行こうと決断したのじゃな。」

サンゴはファスのすぐそばに立ち、座っているファスを眺めつつ、機嫌がよさそうな口調で話しかけてくる。

「はぁ・・・はぁ・・・。 そんな・・・、わけ・・・、ないで・・・、しょ・・・。」

一方、早歩き終了から3分も経とうとしていたが、ファスの呼吸は落ち着く気配がない。 サンゴはそれを見かねたようで、

「ファスよ。 頭部覆いの下側を着けるぞ。」

そう言いながらしゃがみ込み、ファスの首下側から頭部覆い下部分をゆっくりと引き出し、装着させた。 それと同時、装着した頭部覆い下部からは、涼しく澄んだ空気が鼻や口から入り込み、呼吸が楽になる。 操機主用服内の空調機能も働き、涼しい風が服内を駆け巡る。

「サンゴ・・・。 呼吸が・・・少し・・・楽になった・・・。」

と、ファスは落ち着いた口調でサンゴに話しかける。 すると、

「ああ。 頭部覆い内から供給される酸素濃度を若干上げ、服内の温湿度を調整したからな。 立てるようになったら、あの休憩椅子で休みなさい。」

サンゴは優しい口調でそう告げると、訓練室内の壁際にある休憩椅子に手を翳す。 一方、サンゴが手を翳した先を見たファス。 疲労感は残っていたが、どうにか訓練室床から立ち上がる。 その後、ゆっくりと休憩椅子へ向かって歩き、床を眺めるように腰を下ろした。 暫しの間、椅子で休憩していると、

「ほれ、飲みなさい。 栄養飲料じゃ。」

サンゴは、いつの間にか用意していた栄養飲料を手に持っていた。 そしてファスの前に立ち、栄養飲料の入った容器を差し出し、優しい口調でそう告げてきた。

「・・・ありがとう・・・。」

虚ろにサンゴを見つめ、力無く答えたファスは、右手で容器をゆっくりと受け取り、左手で頭部覆いの顎側を外して一口飲んだ。 その後は、自分の座っている右脇に容器を置き、再び床を睨んで俯いてしまう。 片や、それを見届けたサンゴもファスの左隣に腰かけ、

「疲れたか?」

と、心配そうに聞いてくる。

「・・・うん・・・。」

サンゴの問いかけに対し、再度、力無く答えるファス。 自分の体力の無さを痛感していた。

「操機戦は、場合によって長時間の手合いになる時がある。 その時、今のように体力、持久力が無ければ動けなくなってしまう。 わかるな、ファスよ。」

と、サンゴは念を押すように話しかけてくる。

「うん・・・。」

ファスも、自身に持久力が必要なことは、重々承知していた。 実際、操機主になろうと決意した後は、走り込みなどをしていた。 だが、その行為は続かず、3日もすると走るのを止めてしまっていた。

「まあ、訓練初日じゃ。 そんなに気を落とさず、地道に続けるしかないじゃろ。」

サンゴはファスの左肩に右手を乗せ、優しい口調で話しかけた。 続けて、

「さて、そろそろ次といこうか、ファス。 『面』を着けなさい。」

と、一転して冷静な口調で話しかけてくる。

「えっ・・・? もう・・・?」

ファスはもう少し休憩を取りたかった。 が、サンゴの指示に従い、渋々頭部覆いの頭部側を着ける。 しかし、

「うぅ・・・。」

と、疲労感から、頭部覆い顎側の装着は躊躇してしまう。 すると、

「安心しなさい。 間もなくここの闘技場で手合いが始まる。 その見学じゃ。」

ファスの仕草を見たサンゴは、優しい口調でそう告げる。 一方、それを聞いたファスは、今までのけだるい表情から一転、真剣な表情に変わり、素早く頭部覆いの顎側と「面」を装着した。


ファスの「面」視界内映像は、明るい陽光が差す、晴天の闘技場を映し出していた。

「ねえ、サンゴ。 これ、地上の闘技場だよね?」

と、ファスは左隣に座っているであろう、サンゴに向かって問いかける。

「ああ。 ここの3番目の地上闘技場じゃな。」

と、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 同時に、ファスの「面」視界内映像の左上部に、ここの闘技場施設を上空から俯瞰した図が追加され、それぞれに、『第1闘技場』、『第2闘技場』、『第3闘技場』と、各闘技場に説明も追加された。 しばらく後、説明を表示していた俯瞰図が消え、ファスの「面」視界内映像は、再び、第3闘技場内全体を映した映像に切り替わる。

やがて聞こえてくる、重々しい足音。

「来た・・・。」

ファスが呟くと同時、闘技場にある機体出入り口の一方から、1体の操機が現れる。 黒い塗装を施した装甲を纏った機体。 右手には「ショートソード」を所持し、左前腕には円形の「スモールシールド」を装着している。

「これは、『人』操作の機体じゃな。」

と、サンゴが解説をしてくれる。

「えっ? サンゴ、見ただけでわかるの?」

と、ファスは不思議そうに問いかけるも、

「ファス。 機体をよく見なさい。 右肩の機体識別番号の4桁目が、9じゃろ。 4桁目が1から9の場合は、『人』が制御している記じゃ。」

と、サンゴは冷静な口調で答えてくれる。

「へ~・・・。 それじゃあ、僕たち、人間が操作する機体の場合、識別番号はどうなるの?」

と、ファスが再度、サンゴに問いかけると、

「人間が操作する機体の場合、右肩の機体識別番号は、4桁目が0になる。 まあ、今から出てくるから、見ていなさい。」

サンゴが優しい口調でそう言うと、もう一方の機体出入り口からも重々しい足音が聞こえ、操機が闘技場内に入って来るのがわかる。 機体が陽光の元に出てくると、全身が真っ赤で、光沢を放つ塗装をした操機が姿を現した。

「うわっ・・・。 真っ赤・・・。 派手だな・・・。」

と、ファスはもう一体の操機を見た感想を呆れたように呟く。 そして、

「・・・本当だ。 真っ赤な機体の右肩、機体識別番号の4桁目が0だね。」

と、納得するファス。 さらに機体の武装を見てみると、右手に飾り気の無い「ロングソード」を所持し、左前腕には、下部が長い6角形状の「ミディアムシールド」を装着している。

「両機とも、同じような装備だね・・・。」

と、ファスは感想を述べるも、

「真っ赤な機体は、実機での初戦だな。 似たような装備になるのも無理はない。」

と、サンゴは冷静に答える。

「えっ? 初戦?」

と、ファスは驚いた声を上げる。 そして、前にすれ違った操機主の姿を思い出し、

『あの人なのかな・・・。』

などと考えていると、

「ファス。 この手合い、よく見ておきなさい。 恐らく、この操機主とファスは、いずれ対戦することになる。」

と、サンゴが冷静に告げてくる。 一方、

「えっ・・・? この操機主と・・・手合い・・・?」

ファスはサンゴの言っている意味が分からず、疑問の声をあげてしまうと、

「そう。 手合いは、手合い回数の近しいもの同士が対戦をする決まりになっている。 まあ、例外もあるが。 ファスが順調に実機手合いを出来るようになり、他の地区から手合い回数の少ない遠征者がこなければ、この操機主と手合いになる可能性は高い。」

と、冷静な口調で解説をしてくれる。 片や、ファスは、急に実機での手合いを意識させられたため、

「でも・・・、この操機主が、この手合い後、ここを離れた場合・・・どうなるの・・・?」

と、ファスは恐る恐るサンゴに尋ねる。 暫し後、

「そうじゃな。 そうなれば、この操機主との手合いは無くなる。」

と、サンゴは冷静な回答をしてくれる。 その回答を聞き、

『そうか・・・。 この手合い後、あの人がここを離れてくれれば、戦わなくて済むんだ・・・。』

などと、ファスはこの真っ赤な機体の操機主が、前にすれ違った操機主であると想像で結び付けてしまう。 さらに、この手合い後に、『ここの闘技場を離れてくれる』と勝手に考え、少々安堵する。 そんな想像を巡らせていたのも束の間、

「さて、そろそろ手合い開始じゃな。」

サンゴの冷静な声が聞こえると、各機体の紹介をする音声がファスの頭部覆い内スピーカーからも聞こえ始める。 そして、両機体の紹介が一通り終わると、

「では、構えて。」

手合いを管理する「操機戦管理」手合い進行役の声が、闘技場とファスの頭部覆い内にも響く。 それと同時、「人」操作の黒い機体は、左手の「スモールシールド」と右手の「ショートソード」を胸前に掲げ、防御重視の姿勢を取る。 片や、人間操作の真っ赤な機体は、左手の「ミディアムシールド」だけを機体正面に掲げ、右手の「ロングソード」は腰下に引き下げた姿勢を取った。 数秒の間後、

「始め!」

「操機戦管理」手合い進行役の掛け声とともに、手合いが開始された。

「サンゴ。 ええっと・・・2体が同時に見られるように、映像位置を調整してもらえるかな?」

ファスの「面」視界内映像は、真っ赤な機体を注視していたためか、少々真っ赤な機体に近寄った映像となってしまっていた。 その修正方法がわからず、サンゴにお願いしてしまう。 だが、ファスがサンゴへの依頼を言い終えると同時、「面」視界内映像は、ファスの望み通りの視野に調整された。

「ありがとう、サンゴ。」

と、ファスが礼をつげるも、

「いやいや。 私じゃなくて、『面』がファスの言葉を理解して調整してくれたのじゃよ。」

と、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「へぇ・・・。 そうなんだ・・・。 その辺の操作は、メガネ型端末と同じなんだね・・・。」

ファスがサンゴへの回答を終え、「面」視界内映像に意識を戻すと、真っ赤な機体が黒い機体に走り込む場面だった。 真っ赤な機体は走り込み中に「ロングソード」を振り上げ、武具の間合いに入ると、黒い機体が掲げている「スモールシールド」表面を容赦なく連撃で斬り付ける。 重々しい音が闘技場内とファスの頭部覆い内にも響く。 一方、真っ赤な機体の剣戟をまともに受けてしまった黒い機体は、防御重視の構えだったにもかかわらず、1歩、2歩と、剣戟の勢いを逃しきれずに後退りしてしまう。

『凄い・・・。』

ファスは「面」視界内映像に釘付けとなってしまう。 真っ赤な機体はその後も容赦なく、3撃、4撃と、黒い機体の「スモールシールド」を殴打する。 片や、真っ赤な機体からの剣戟を後退しつつ受け続けていた黒い機体。 一転、攻勢に転じ、真っ赤な機体が「ロングソード」を大きく振りかぶった瞬間、右手の「ショートソード」で素早く突き攻撃を繰り出す。 狙いは、真っ赤な機体の胸部。

「危ない!」

ファスは思わず声が洩れてしまう。 真っ赤な機体は、「ミディアムシールド」で機体を守っているように見えなかったからだ。 だが真っ赤な機体は、振り上げた「ロングソード」を器用に動かし、黒い機体が繰り出した「ショートソード」の突き攻撃を無理やり受け止めた。 さらに真っ赤な機体は、受け止めた「ショートソード」を「ロングソード」で往なす。 が、「ショートソード」を受け止めた向きが悪かったのか、無理をしたのが祟ったのか、右手の「ロングソード」を持て余して落としてしまう。 一方、黒い機体は「ショートソード」を往なされてしまったため、機体全体の重心を崩し、真っ赤な機体の前方に両手両膝を着いて倒れこんでしまう。

「あっ・・・。」

再びファスが声を洩らすも、真っ赤な機体は素早く動き、落としてしまった「ロングソード」を拾い上げる。

「やった! 今のうちに・・・。」

と、ファスは興奮気味に喜びの声を上げてしまう。 だが、真っ赤な機体は黒い機体を一瞥したようになった後、ゆっくりと数歩後退し、黒い機体から距離を取り、「ロングソード」と「ミディアムシールド」を下ろして待機のような姿勢を取ってしまった。

「・・・あれ? 相手機体の動きが止まったのに・・・攻めないの?」

と、ファスは不思議そうに呟く。

「ファスよ。 手合い中に対戦相手が不慮の転倒、若しくは、お互いが偶発的な行動不能となった場合、自身が行動可能になっても、一旦距離を取り、相手の復帰を待つのが『暗黙の了解』じゃ。 たとえ、対戦相手が『人』であってもな。」

と、サンゴが冷静に答えてくれる。

「えぇ・・・? そうなの?」

と、ファスは驚きの声を上げてしまう。 だが、

『でも・・・。 昔に見た、手合いの映像だと・・・転倒している機体に対して、攻撃しているような映像もあったと思ったけど・・・。』

などと、昔見た映像の事を思い出し、不思議に思ったので、

「ねえ、サンゴ。 その、『暗黙の了解』を破ると、どうなるの?」

待機姿勢のまま動かない真っ赤な機体を「面」視界内で注視しつつ、ファスはサンゴに問いかける。

「そうじゃな。 『暗黙の了解』を破る行為ばかりしていると、他の操機主達からは、疎外されたようになるだろうな。」

と、サンゴは冷静に答えてくれる。

「そうなんだ・・・。 操機戦でのやってはいけない事とか、僕は全く知らないし・・・。どうしたらいいんだろう・・・。」

と、ファスは不安げに呟くも、

「安心しなさい。 そのための操機補である、わしがおる。 ファスにはこれからゆっくり、みっちり、教えるから!」

と、サンゴは頼もしそうに、強い語尾でファスに答えた。 続けて、

「さて、黒い機体が立ち上るぞ。」

と、サンゴが教えてくれる。 ファスは真っ赤な機体ばかりを気にしていて、「人」が操る黒い機体には目が行っていなかった。 だが、黒い機体は既に左片膝を着いて立ち上がり始めている。 そして、立ち上がる時に手放していた「ショートソード」を拾い上げ、直立状態になると、真っ赤な機体に向かい、「ショートソード」を胸元に掲げる。 その後、「スモールシールド」も胸元に持っていき、手合い開始時のような防御重視姿勢を再び取った。

「今、武器を掲げたのは、手合い再開の合図?」

と、ファスは察したようにサンゴに尋ねると、

「そうじゃ。 よくわかったのう。 転倒などから立ち上がった後、機体に異常が無く、手合いを続行したい場合には、相手に向かって合図を出すのじゃよ。」

と、サンゴは黒い機体が取った所作について解説をしてくれる。 一方、真っ赤な機体も黒い機体に答えるように、胸元に「ロングソード」を掲げた後、手合い開始時のように腰下に低く構えた。 どうやら、両機とも手合い再開の意思を表したようだ。

暫し睨み合った両機だったが、今回も真っ赤な機体が先制して動き出す。 素早く黒い機体に詰め寄ると、大きく振りかぶった「ロングソード」を、黒い機体の「スモールシールド」に斬り付け・・・いや、叩きつけた。 そして、2撃、3撃と、乱雑な打撃を浴びせる真っ赤な機体。 ただ、連撃は全て「スモールシールド」に当たってしまい、機体本体には届いていない。 片や、黒い機体も攻めに転じる。 胸元に掲げていた「ショートソード」を軽く腰脇に引き、真っ赤な機体の「ミディアムシールド」に突き攻撃を放つ。 2撃、3撃と、真っ赤な機体同様、相手機体の『ミディアムシールド』に連続の突き攻撃を浴びせる黒い機体。 それぞれの武具が放つ重苦しい重低音が闘技場内に鳴り響く中、真っ赤な機体、黒い機体、双方とも足を止め、殴り合いの様相を呈してきた。

「すごい・・・。」

と、ファスは震えるように言葉を洩らしてしまう。 だが、

「よく見なさい、ファス。 お互い、足を止めての殴り合いじゃぞ。 あまり褒められたものではない。」

と、サンゴは冷めたような返事をしてくる。

「え・・・。 そう・・・なんだ・・・。」

一転、ファスは残念そうに答えるも、

「でも・・・僕、こういう殴り合い、好きだな・・・。」

と、小声で呟く。 そしてファスは手合いに見入ってしまい、無意識のうちに左右の腕を軽く振り上げてしまっていた。

その後も、暫し、足を止めての殴り合いが続いた両機だったが、真っ赤な機体が小技を見せる。 「スモールシールド」に対して剣戟を当てずに通過させた後、盾内側を引っ掛けるように「ロングソード」を引く。 結果、黒い機体は「スモールシールド」内側を晒してしまうことになる。 間髪入れず、真っ赤な機体は「ロングソード」で短い距離から突き上げるような攻撃を放つ。 狙いは、黒い機体の盾連結部。 なにかが引き裂かれたような音が鳴り響き、真っ赤な機体の「ロングソード」は、黒い機体の左前腕付近に深く突き刺さった。 一瞬、時が止まったように双方の機体が動かなくなるも、一拍置いて、真っ赤な機体は「ロングソード」を引き抜きながら3歩程後退する。 片や、黒い機体は、真っ赤な機体の「ロングソード」が引き抜かれると、左前腕から「スモールシールド」がゆっくりと剥がれ落ち、重苦しい音を立てて闘技場地面に転がっていってしまった。

「盾が・・・。」

と、ファスはうわ言のように呟く。 続けて、

「サンゴ。 真っ赤な機体の・・・勝ちなの?」

と、恐る恐る問いかける。 が、

「まだ、黒い機体は降参をしていないな。 『操機戦管理』も手合いを止めていない。 手合いは続いておる。」

と、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

『えっ・・・? 剣だけで、どうするんだろう・・・?』

ファスは疑問を抱きつつ、「面」視界内映像に注視する。

「スモールシールド」が剥がれ落ちた後、呆然とそのままの姿勢で硬直していた黒い機体。 だが、何かに気付いたように、「ショートソード」を機体正面真横に掲げ、左半身を引いた体勢を取った。 暫しの間、互いの様子を見合う両機。 そして、黒い機体は真っ赤な機体が攻めてこないのを確認したかのように、「ショートソード」を中段正面に構え直すと、無謀にも真っ赤な機体目掛けて走り込む。 一方、真っ赤な機体は、「ミディアムシールド」を機体正面に掲げ、右半身を引いて冷静に対応する。 黒い機体は真っ赤な機体に接近すると、大振りに「ショートソード」を振り上げ、「ミディアムシールド」に斬り付けようとする。 だが、黒い機体は「ショートソード」を「ミディアムシールド」に斬り付けず、空振ったように真っ赤な機体の寸前で振り下ろした。 そこから黒い機体の動きは素早く、右手に持っていた「ショートソード」を器用に左手に受け渡す。 同時に体勢を極端に低くし、持ち替えた「ショートソード」で突き攻撃を放つ。 狙いは、真っ赤な機体の胴部右側。

「危ない!」

と、ファスは叫んでしまう。 が、叫びも虚しく、回避行動を取らなかった真っ赤な機体は、重苦しい音を立て、黒い機体の「ショートソード」の突き攻撃を胴部右側に受けてしまう。 挙句、切っ先の一部分が装甲を超え、機体本体にまで達しているように見えた。

しかし、黒い機体の攻勢もそこまでだった。 真っ赤な機体は胴部への攻撃を見越していたのであろうか。 突き攻撃を受けた後、低い体勢になっている黒い機体の後頭部に向け、「ロングソード」の柄頭を使い、冷静に殴りつける。 甲高い音となにかが潰れたような音が響いた後、黒い機体は力を失ったように「ショートソード」を手放し、真っ赤な機体の足元にうつ伏せで倒れてしまった。

そして真っ赤な機体は直立姿勢になると、倒れてしまった黒い機体の後頭部に、「ロングソード」の切っ先を手早く向ける。 すると、

「それまで。」

と、「操機戦管理」手合い進行役の声が響いた。

「・・・勝負が・・・ついたんだよね・・・?」

と、ファスは恐る恐るサンゴに尋ねる。

「ああ。 操機戦に勝ち負けは無い。 だが、強いて勝敗をつけるなら、真っ赤な機体の勝ちじゃな。」

と、サンゴが冷静に答えてくれる。 一方、ファスは手合いが終わった「面」視界内映像に、まだ釘付けとなっていた。

しばらく後、真っ赤な機体は、黒い機体後頭部に突き付けていた「ロングソード」を引き、胴部に突き刺さっていた「ショートソード」を左手で器用に引き抜く。 そして無造作に「ショートソード」を手放すと、入場してきた門に向かって歩き去って行った。 一方、黒い機体は真っ赤な機体が門内に消えた後、ゆっくりと立ち上がり、こちらも入場してきた門へと歩き去って行く。


「ふう・・・。」

深く息を吐いたファスは、ゆっくりと白い「面」と頭部覆いを外す。 それでもなお興奮が収まらないのか、「面」を持つ両手が微かに震えている。

「すごかったね・・・。」

と、ファスはぽつりと呟くも、

「そうか?」

サンゴは正面を向いたまま、言葉短く返事をした。

「あれ・・・? サンゴの目線だと、良い手合いではなかったの?」

ファスが不思議そうに問いかけると、

「そうじゃな。 典型的な、初心者の手合いといった感想じゃな。」

と、手厳しい回答が返ってくる。

「えぇ・・・? そうなの? どの辺が?」

今度は驚いた表情でファスが問いかけると、

「簡単に突進を許す。 足を止めての殴り合い。 そして、打ち込みも盾に集中してしまっている。 そんな所じゃな。」

サンゴは冷静に答えた後、ファスに黒い「面」を向けつつ、続けて、

「さらに言えば、真っ赤な機体が最後に受けた、胴部右側への一撃。 恐らく、装甲が重度損傷して、機体本体もかなりの損傷をしているはずじゃ。 勝利を確信し、相手の突き攻撃をわざと胴部に受けたのだろうが、あれは良くない。」

そう言い切った。 片や、その話を聞いていたファスは、

「へえ・・・。 サンゴ、手厳しいんだね・・・。」

と、感心したように答える。 そして、一拍置いて、サンゴは腰掛けていた休憩椅子を降り、

「さて、ファスも実機であれくらい動けるように、訓練を再開するかの。 呼吸も整ったようだし。」

と、優しい口調でそう告げ、ファスの目の前に立った。

「うん! わかったよ!」

一方、ファスは自身の休憩椅子右脇に置いていた栄養飲料を一口飲んだ後、手合い観戦の前とは別人のように元気よく答える。

「それじゃあ、これから訓練用操縦席で、操機の操縦訓練をするか。」

サンゴは室内にある複数の訓練用操縦席出入り口に向かい、左手を翳して答える。 すると、

「えっ・・・? 操機の・・・操縦・・・。」

片や、サンゴの話しを聞いたファスは、前に気分が悪くなった訓練を思い出し、せっかくやる気になっていた気持ちが折れそうになってしまった。


共用の訓練用操縦席内。 ファスは白い「面」と頭部覆いを着け、柔らかく調整された床に仰向けで寝ていた。 サンゴに、『確かめたい事がある。』と言われたためだ。

「どうじゃ、気分は?」

仰向け寝の姿勢になって暫し後、ファスの頭部覆い内スピーカーから、サンゴの優しい声が聞こえてくる。

「どうって・・・。 横になってるだけだし・・・。」

と、少々不安なファスは、元気なく答える。

「それじゃあ、まずは立ってみるか。 ファス、立ち上がって。」

サンゴの指示が聞こえたファスは、上半身をゆっくり起こすと、両手を使って立ち上がり、

「立ち上がったよ、サンゴ。」

と、冷静に答える。

「気分はどうじゃ?」

暫し後、サンゴが冷静な口調でそう聞いてくるが、

「・・・別に・・・。 何とも・・・ない・・・。」

ファスは自身の身体に色々と集中した後、異常が無いことを確認し、力無く答える。

「では、目線だけ操機目線にしてみるか。 すまんが、ファスよ、また横になってくれ。」

サンゴの指示通り、ファスは再び座り込んだ後、訓練用操縦席内床にゆっくりと仰向けで横になる。

「それじゃあ、ファスの『面』視界を、仮想闘技場で横になっている操機目線に変更するぞ。」

サンゴが発する声と同時、ファスの「面」視界内映像は、青空を見上げている映像に切り替わる。

『綺麗な青空だな・・・。』

仮想空間内の雲一つない青空を眺め、訓練と関係ない事を考えてしまうファス。

「それでは、ファスよ。 ゆっくり上半身を起こしてみてくれ。 ゆっくりじゃぞ。」

と、サンゴが念を押すように指示を出して来る。 ファスもその指示に従い、両手を使い、ゆっくりと上半身を起こす。 すると、以前見た、仮想空間内の闘技場風景が徐々に見えてくる。

「どうじゃ、気分は?」

と、サンゴが冷静な口調で聞いてくるので、

「どうって・・・。 別に・・・。」

ファスにしてみれば、小人の世界に入ったような気分で回りを見渡していた。

「脳波等も異常はないな。」

と、サンゴが再び冷静な口調で答える。 どうやら、ファスの着ている操機主用服や、頭部覆いの生体データ監視機能を使い、ファスの身体状態を見ているようだ。

「それじゃあ、ゆっくり立てるか、ファス。 気分が悪くなったら、すぐに座るか、『面』を外しなさい。」

と、サンゴから冷静な口調の指示が再び来る。 一方、指示されたファスは、前回、気分が悪くなってしまった状況を思い出しつつも、

「わかった! 頑張るよ!」

と、一転、元気よく答える。

『これを超えないと、操機の操縦ができないんだ!』

と、心の中で強く思いながら、ゆっくりと立ち上がる。 だが、

「う・・・。」

ファスの「面」視界内映像は、全高30メートルの操機視点と同じ位置になる。 同時に、ファスは再び、急に高くなった視界に違和感を覚え、目の奥に痛みも感じ始めてくる。 ファスは慌てて「面」を弾き飛ばすように投げ捨てた。

「ファス!」

一方、サンゴの心配そうな声が、頭部覆い内スピーカーから聞こえてくると同時、サンゴの本体も訓練用操縦席内に慌ただしく入って来る。

「大丈夫か?」

と、サンゴはファスに駆け寄る。 片や、ファスは「面」を投げ捨てた後、右膝をついて訓練用操縦席内にしゃがみ込んでしまっていた。

「・・・大丈夫・・・だよ・・・。 サンゴ・・・。」

と、ファスは近づいてきたサンゴを見ないまま、右手を翳し、サンゴの接近を制した。


「どうやらファスは、高い場所や、乗り物が苦手なようじゃな。」

再び訓練室の休憩椅子に座り、沈んだ口調で話すサンゴ。 片や、ファスも休憩椅子に座り、頭部覆いを取り外した後、落ち込んだ表情で床とにらめっことなってしまっている。

「だが、安心しなさい。 この、『乗り物酔い』のような症状は、訓練で克服できる。」

と、サンゴはファスに対して優しく語り掛ける。

「・・・本当・・・?」

安心したような声を発すると同時、ファスは顔を上げ、サンゴの黒い「面」を見つめる。

「ああ。 ただ、克服には個人差で時間がかかる場合があるが、大丈夫じゃ。」

と、サンゴは再び優しく答えた。

「なら、頑張らないと! ねえ、訓練を再開しようよ!」

と、ファスは休憩椅子から飛び降り、訓練用操縦席に向かおうとするも、

「ファスよ、慌てなさるな。 もう少し休みなさい。」

と、サンゴは右手で休憩椅子を優しくぽんぽんと叩き、ファスを誘った。

「え~! 少しでも早く、操機を動かしたいよ!」

一方、ファスは駄々をこねるように反論する。 そのようなファスの態度を見かねたのだろうか、

「わかったから、あと10分だけ休みなさい。」

と、サンゴが諭すようにファスに告げる。

「・・・わかったよ・・・。」

そう言い、ファスは渋々と腰掛けていた休憩椅子に戻った。

数分後、共用訓練室出入り口扉の開く音が聞こえる。

『ん! 誰か来た! ・・・って、「人」か・・・。』

休憩椅子でぼんやりと休憩していたファスは、出入り口扉の開閉音を聞き、人間の誰かが来たと思い、嬉々として視線を向ける。 しかし、室内に入って来たのは六脚型の「人」であった。 そして訓練室内に足音を響かせつつ、サンゴの前で停止する。 その後、六脚型の「人」は、腹部の荷物入れから荷物箱をサンゴに差し出す。 片や、無言で六脚「人」から荷物箱を受け取ったサンゴは、その荷物箱をファスに差し出し、

「ファスよ。 水じゃ。 飲みなさい。 気分が良くなる。」

そう言う。 一方、荷物箱を差し出されたファスは、

「えっ!? ・・・うん・・・。」

と、少々驚き、出入り口に戻って行く六脚「人」を見送りながら、サンゴから荷物箱を受け取った。 受け取った荷物箱を開けて見ると、ひんやりとした空気が流れ出てくる。 その中には、無色透明の飲み物容器が2つあった。 ファスはその内の1つを取り出し、恐る恐る封を開け、一口飲み込む。 それは何の変哲もない、良く冷えた冷水だった。

「・・・ふう・・・。」

冷水を飲み込んだファスは深く息を吐き、飲み物容器を自身が座る休憩椅子右脇に置こうとする。 そうすると、

「ファスよ。 もう少し、飲んだ方が良いぞ。」

と、サンゴが心配そうに話しかけてくる。 一方、話し掛けられたファスは、休憩椅子に置こうとしていた飲み物容器を持ち上げ、暫し見つめた後、

「・・・今は、胃が・・・受付ないかな・・・。 ははは・・・。」

と、乾いた笑い声で答えた。 実際、もう数口飲もうかと思ったファスだったが、以前の嘔吐してしまった感覚が思い出され、それ以上飲むことはできなかった。

「そうか。」

片や、サンゴは言葉短く答えた後、ファスから視線を外して訓練室中空を眺めているだけだった。

それから5~6分程経ったろうか、

「さて、ファスよ。 今日の訓練、最後は武具訓練といこうか。」

サンゴは休憩椅子から降りつつ、ファスに向かい、優しい口調でそう告げた。 その後はファスに背を向け、どこかに行こうとしている。

「えっ? 操機の操縦訓練は・・・?」

と、休憩椅子から離れていくサンゴに向かい、ファスは困ったように問いかけると、

「焦ってもしょうがない。 また、明日、頑張ろう。」

と、ファスに向かい、落ち着いた口調で返事をする。 

『サンゴがこんな事言うなんて・・・。 僕の体調、良くないのかな・・・。 それとも・・・。 まあ、サンゴの指示に従うか・・・。』

と、ファスはサンゴが歩き離れて行く背中を見ながら考えていた。

そんなサンゴが歩き到着した先は、模造武具置き場だった。 サンゴは模造武具置き場から、以前使ったのと同じ、模造武具の「ミディアムシールド」と「ラージシールド」を取り出す。 そして、

「ファスよ。 今日は、好きな武具を使っていいぞ。」

距離が開いたためであろうか、肩のスピーカーを使用し、優しい口調でファスに話しかけてくるサンゴ。 一方、サンゴの声を聞いたファスは、

「本当に!?」

嬉々としてそう叫ぶと、休憩椅子から力強く立ち上がる。 そして、サンゴのいる模造武具置き場に早足で向かいながら、

「どの武具を使ってもいいの!?」

気分一新、にこやかにサンゴに尋ねる。

「ああ。 たまには自由にしないと、ファスが滅入ってしまうからな。」

と、サンゴもにこやかに答えた。

「じゃあ、これ!」

模造武具置き場に到着したファスは、他の武具に目もくれず、嬉々としてとある模造武具を手に取る。 それは両手持ちの剣、「ツーハンドソード」だった。 しかも、切っ先から柄頭までの長さが、ファスの肩の高さを優に超えるものだった。

「ファスよ。 それは、さすがにファスの体型に対して大きすぎじゃぞ。」

と、サンゴはファスが手にした武具を見て苦言を言う。 が、

「え~! だって、サンゴが好きなのを使っていいっていうから・・・。」

と、ファスは選んだ「ツーハンドソード」を抱え持ち、駄々をこねるように反論する。

「わかった。 好きにしなさい。」

と、ファスの話を聞いたサンゴは、優しい口調であっさりと使用を許可した。 一方、ファスはサンゴが使用を許可してくれないと思い、色々と反論を考えていた。 が、あっさり使用を認めてくれたので、ひと安心し、

「やった!」

そう叫び、意気揚々と模造武具の「ツーハンドソード」を右手のみで右肩に担ぎ、訓練室内にいくつかある広間の一つへ向かって行く。

広間中央付近に到着したファスは、振り向きつつ、中央から少し間を開けた位置に立った。 すると、サンゴも2つの盾を抱え、こちらに向かってきているのが見て取れる。

やがてサンゴもファスから6メートル程度離れた位置で立ち止まり、抱えていた盾をそれぞれ身に着けつつ、

「ファスも、頭部覆いと『面』を着けてもらえるか。」

と、ファスに指示を出す。 一方、それを聞いたファスは、

「そうだったね・・・。 安全のため、顔を保護しないと・・・。」

と、呟いた後、右肩に担いでいた「ツーハンドソード」を訓練室床にそっと置き、手早く頭部覆いと「面」を装着する。 ファスの視界は、「面」から目の網膜に直接投射された映像により、裸眼でみる視界と同一のものが確保される。 そして、「ツーハンドソード」を床から拾い上げ、再び右肩に担ぎ上げ、

「着けたよ。」

と、にこやかに返事をする。

「それじゃあ、ファスよ。 始めようか。 まずは、好きに打ち込んできてみなさい。」

と、サンゴは余裕のある口調でファスに向かい指示を出す。

「わかったよ!」

一方、ファスは元気よく答える。

『この前は、「ショートソード」と「スモールシールド」だったけど、今回のこれなら・・・。』

ファスは右手のみで右肩に担いでいた「ツーハンドソード」を一瞥する。 そして柄に左手を添えると、中段正面に構え、切っ先をサンゴに向けた。

「サンゴ! 開始の合図をどうぞ!」

ファスは「面」下で余裕の表情を浮かべ、サンゴに向かって伝える。 一方、サンゴはファスの声を聞き、しばらく後、

「では、構えて。」

と、声を発すると同時、肩幅位に両足を広げた後、

「始め!」

と、広い共用訓練室内に響き渡る声量で、開始を告げる。

『接近したら、サンゴの間合いになってしまう。 以前に見た、「ツーハンドソード」を使っていた手合いの間合いを思い出して・・・。』

開始の合図を聞いたファスはそう考え、過去に見た手合い映像を思い出しつつ、ゆっくりとサンゴに向かって近づいていく。 そして、

『ここだ!』

間合いを把握したファスは、ゆっくりした動きから一転、素早く距離を詰めつつ「ツーハンドソード」を振り上げ、両盾を構えていないサンゴに向かって振り下ろす。 狙いは、サンゴの頭部。 容赦なく振り下ろした剣戟だったが、案の定、サンゴは右前腕の「ミディアムシールド」を素早く動かし、ファスの剣戟を難なく防ぐ。

『次!』

ファスは過去の手合い映像の流れを思い出し、すぐさま次手を放つ。 狙いは、「ミディアムシールド」を振り上げ、がら空きの右わき腹付近。 「ツーハンドソード」を器用に振り回し、サンゴの右わき腹付近に剣戟を繰り出すも、今度は左前腕の「ラージシールド」を器用に使って防がれてしまう。

その後も、過去の手合い映像の流れを再現するように、サンゴの防御できていない部分に向かい、剣戟や突きを数回繰り出すファス。 だが全て、サンゴに防がれるか躱されてしまった。

「はぁ・・・はぁ・・・。 凄いや、サンゴ!」

ファスは半歩程後方に退き、息を整えた後、「ツーハンドソード」を中段正面に構え直しつつサンゴを称える。 が、

「・・・。」

一方のサンゴは、両盾を構えたまま、固まったようになってしまい、反応が無い。

「サンゴ?」

ファスはサンゴの反応が無いのを心配し、中段の構えを緩め、再び声を掛ける。

「ファスよ。 その剣捌き、どこで覚えたのじゃ?」

暫し後、ファスの再度の問いかけに対し、サンゴはようやく防御姿勢を解くと、ファスに向かって問いかけてくる。

「えっ・・・? 覚えてはいないけど・・・。 どうかしたの?」

ファスはサンゴの質問意図がわからず、質問に質問を返してしまう。 だが、ファスの質問に対し、何の反応もないサンゴ。 しばらく後、

「では一旦、武具を交換してくれ。 この前のように、『ショートソード』と『スモールシールド』に持ち替え、再度手合いをしてもらえるか。」

と、サンゴはファスを見上げて話しかける。 しかし、当然ファスは、

「え~! 嫌だよ!」

と、サンゴに抵抗するように、「ツーハンドソード」を抱えて持つ。 一方、サンゴは嫌がるファスをよそに、装着していた「ミディアムシールド」と「ラージシールド」を自身の足元に置くと、模造武具置き場に歩いて行ってしまった。 しばらくすると、サンゴは模造武具の「ショートソード」と「スモールシールド」を両手で抱え、ファスの前に戻ってきて差し出す。

「・・・せっかく、サンゴが好きな武具を使っていいって言ったのに・・・。」

ファスは不満そうに言うと、模造武具の「ツーハンドソード」を自身の足元にゆっくりと置く。 そして空いた両手で、差し出されている「ショートソード」と「スモールシールド」を受け取った。 一方、サンゴもファスに武具を渡した後、床に置かれた「ツーハンドソード」を拾い上げ、再び模造武具置き場へ向かって歩いて行く。 が、その途中で立ち止まり、持っていた「ツーハンドソード」を床にそっと置いた。 その後、「ミディアムシールド」と「ラージシールド」を置いてある場所まで戻って来る。

「待たせたな。 申し訳ないが、その武具で、もう一度手合わせしてもらえるか。」

サンゴは足元から2つの盾を持ち上げ、先ほどと同じ持ち手に装着した後、ファスに向かって話しかける。

「・・・わかったよ・・・。」

片や、まだ不貞腐れているように答えるファス。

『だいたい、盾なんて嫌いだよ・・・。』

そう思いつつ、左前腕に装着した「スモールシールド」を正面に掲げる。 そして、右手の「ショートソード」も正面に掲げ、

「いつでもどうぞ。」

と、ファスはぶっきらぼうに答える。

「では、構えて。」

一方、サンゴはそんなファスを気にもせず、模擬手合いを再開させようと進め、

「始め!」

と、開始の合図を出す。

『この前は、無策に突進して失敗したけど、今回は・・・。』

ファスは開始の声を聞いてもすぐに動かず、サンゴの動きを見極めようとする。 そして過去に見た手合い映像を思い出し、盾を装備していた操機の動きを再現しようとするも、一向に思い出せないでいた。

『う~・・・。』

開始から十数秒の時間が立つも、ファスは頭の中で攻める手の内が思いつかず、

『やっぱり、これだ!』

そう決意すると、右手の「ショートソード」をやや後方に引き、左前腕の「スモールシールド」を胸前に引き寄せ、サンゴに向かって突進してしまう。 片や、サンゴは左半身を引き、突進してくるファスに向かって右前腕の「ミディアムシールド」を真横に掲げる。 ファスがサンゴの立っている位置に達すると、模造武具同士がぶつかる鈍い音が訓練室内に響く。 ファスの突進攻撃は、前回のように転倒させられる事こそなかったものの、いとも簡単にサンゴに止められてしまっていた。 挙句、

「ファスよ。 腹ががら空きじゃぞ。」

と、サンゴが冷静に告げてくる。 すると、ファス自身も右脇腹に何かが当たる感触に気付く。 視線を下ろしてみると、サンゴの「ラージシールド」先端が、ファスの右脇腹を突っついていた。

「くっ・・・!」

ファスは悔しそうな声を上げ、お返しとばかり、右手に持つ「ショートソード」でサンゴの左わき腹を狙おうとする。 が、横に構えられている「ミディアムシールド」によって、サンゴの腹部付近はファスの視界から遮られてしまっている。

「なら!」

と、ファスは強引に「スモールシールド」を押し込み、力押しでサンゴを転倒させようとする。 だが、

「またか。」

一方のサンゴは「ミディアムシールド」にかけていた力を抜き、ファスを軽くいなす。 そして、重心を崩したファスの背面に回り込み、「ラージシールド」先端でファスの左肩をぽんぽんと叩いた。

「うわっ!」

ファスは前回同様、驚きの声をあげてその場を飛びのこうとするも、足がついていかず、その場でばたりとうつ伏せに転倒してしまった。

「大丈夫か?」

数秒の間後、サンゴがファスに向かって優しく声を掛けるも、

「・・・。」

ファスからの返事はない。 心配したのであろうか、サンゴはファスの操機主用服から生体データを「人」視界で見てみる。 心拍数等の数値に異常は無く、訓練室床もファスが転倒する直前に柔らかく変化させたため、床との衝突時の力量数値は怪我をするほどではない。

「ファスよ。 立てるか?」

サンゴは再度、優しい口調でそう言うと、両前腕の盾を床に置き、ファスの頭側に向かって近寄る。 その後、しゃがみ込んでファスに向かって右手を差し出す。 が、

「もう! なんでサンゴはこんな意地悪するの!?」

ファスは悔しそうにそう告げると、「ショートソード」を素早く手放す。 その後、空いた右手のみで上半身を起こすと、「面」を右手で外し、訓練室床に投げ捨て、頭部覆いも乱雑に外した。 そして、半べそのような悔しそうな表情をサンゴに向ける。

「意地悪?」

片や、サンゴはファスの言ったことを理解出来ないように、不思議そうな口調で復唱してしまう。 すると、

「・・・盾なんて使いたくないのに・・・。 もういいよ!」

そう言い放つと、「スモールシールド」も左前腕から外し、床に手放したファス。 素早く立ち上がり、大きな足音を立てて共用訓練室から出て行ってしまった。


両手を拳にし、大股で歩きながら曇り気味の屋外に出てきたファス。

「・・・なんだよ・・・サンゴ・・・。」

と、不満を募らせて呟く。

『「好きな武具を使っていい」って言ったのに、急に「武具を変えろ」って言うし・・・。 意味が分からないよ・・・。』

そんなやりとりが、ファスの頭の中で繰り返されていた。

だが、頭に血が上った状態で、行くあてもなく歩いていたためであろうか、ファスが少し落ち着いて周囲を見渡すと、闘技場施設内でも見覚えのない位置に来てしまっていることに気付く。

『あれ・・・? 何処だ・・・? ここは・・・?』

ファスは一瞬不安に駆られ、青ざめてしまう。 だが、少し考え、

『まあいいや・・・。 メガネ型端末を使えば、道案内をして・・・ん・・・?』

と、さらに青ざめるファス。 自身がいつもメガネ型端末を入れている、上着のポケット位置や、ズボンのポケット位置に手を当てるも、今は操機主用の服を着ていることに改めて気付く。

『どうしよう! 端末が無い!?』

と、焦ってしまい、メガネ型端末を探して自身の体をあちこち触ってしまう。 そうこうしているうちに、背中の頭部覆いに手が当たる。 すると、

『・・・そうだ! 「面」があるじゃないか・・・。』

と、一安心する。 だが、頭部覆い内を探り、肝心の「面」が入っていないとわかると、

『あれ・・・!? 「面」も・・・ない・・・。 どこに・・・?』

ファスは混乱しつつも、ここまで来た経緯を思い出そうとする。 すると、

「あっ! 訓練室の床に・・・。」

と、自身が「面」を訓練室床に投げ捨ててしまった事を思い出し、愕然とする。 だが、暫く考えて冷静になり、

『この・・・襟のマイクに向かい、イチゴかサンゴを呼べば、数分で迎えに来てくれるか・・・。 何なら、無人の観測装置が上空で僕のことを見守っているはずだ・・・。 困ったように両手を上げて手を振れば、こちらも数分かからず、救急対応「人」が到着するだろう・・・。』

などと、自身の操機主用服襟付近を左手で触り、結論を出したファス。 そうすると、

『まあ・・・、何とか・・・なるか・・・。』

と、余裕が出てきたためか、もう少しこの周囲を探索してみようという気持ちになった。

よくよく周りを見渡すと、背の高い木々が生い茂っている。 この木々のため、視界を遮られ、闘技場やその他の建物が見えづらくなっていた。

『整備された道があるし、これに沿って歩いてみるか・・・。』

そう思ったファスは、自分が歩いてきた方向とは逆方向の道沿いに進んで行く。

数分・・・いや、十数分程度、木々の多い道を歩いただろうか。 視界前方の木々が減り、ファスの前には、噴水や、休憩用の椅子が見えてくる。

「公園・・・かな・・・。」

ファスは呟きながらその場所に近づいてみる。 見えていた噴水の近くまで来て、ファスはその広さに驚く。 結構な広さの公園が、闘技場施設内にあったのだ。 その風景を見ていると、ファス自身、さっきまでサンゴに腹を立てていたのが、嘘のように落ち着いてくる。

「・・・座って、ゆっくり考えるか・・・。」

そう思ったファスは、すぐ近くにあった休憩椅子に腰掛ける。 そして、正面にある噴水をしょんぼりと眺めつつ、

『・・・サンゴは、なんで、僕に盾を持たせたがるのだろう・・・。 操機の手合いで、盾を持つのが強要されるなんて話は、聞いたこと無いし・・・。 今まで見た手合いの映像でも、盾類を持っていない操機は、いっぱい見てきた・・・。』

などと、暫し考え込んでしまう。

いかばかりかの時間が経っただろうか。 突然、

「どうした! 坊や?」

と、大きな声で話しかけられたファス。 考え事をしていた途中、突然、大声を掛けられたため、驚いて椅子からずり落ちそうになるも、どうにか踏ん張り転落を免れた。 そして、声のした右方向をゆっくり見てみると、私服の人間が立っていた。

「こんにちは・・・。」

と、ファスは呆然と挨拶をするも、はっと気づき、

『・・・人間だ・・・。 あっ! この施設内にいる人間だから、操機主に違いない!』

そう考えたファス。 立っている人間が、ファスには中年男性のように見えたため、

「おじさん、操機主!?」

と、無礼だが、立っている人間に対し、大声で「おじさん」と問いかけてしまう。

「おいおい・・・。 おじさんは酷いな・・・・。 これでも、まだ二十代だぞ・・・。」

と、立っている人間は、困ったような表情をして苦言を言う。

「・・・じゃあ、え~と・・・お兄さんは、操機主ですか?」

そう問いかけると、休憩椅子中央に座っていたファスは、立っている人間とは反対側の左端に移動して座り直し、着座できそうな間を開けた。

「・・・ああ・・・。 操機主だ・・・。」

一方、立っていた人間もファスの動きを察したのであろう、空いた分の休憩椅子に着座しながら、ゆっくりと答えた。

「でも・・・、なんで、操機主用の服じゃないの?」

ファスは改めて、隣に座った人間をまじまじと見ながら問いかける。

「ん・・・。 これか・・・。 これは、今日の午後にも、ここを出立する予定でね・・・。」

と、問いかけられた人間は、右手で私服の上着襟をつかみつつ、ファスを見ないで答える。

「え・・・。 出ていっちゃうの・・・?」

と、ファスは悲しそうな表情をして答える。

「ああ。 同じところに留まってもいいんだが、やっぱり操機主なら、転戦し、強い相手を探しに行かないとな・・・。」

と、左目のみでファスを見るように答える人間。

「そう・・・なんだ・・・。」

片や、ファスは再びここに来た時のような、しょんぼりした表情になり、正面の噴水を見つめてしまった。

「・・・坊やこそ、こんな所でどうした?」

暫し後、人間はファスに向かい、不思議そうに質問をしてくる。

「坊やじゃないです。 名前は、ファス。」

と、ファスは噴水を眺めたまま、不機嫌そうに答える。

「そうか・・・。 悪かった、ファス。 で・・・、操機主様が、こんなところに一人でいるってことは、操機補様と喧嘩でもしたか? ははは。」

と、人間はファスに謝った後、すぐさまそれを忘れたように、笑い飛ばしながら再び聞いてくる。

「おじ・・・じゃなくて、お兄さん、何でわかるの!?」

片や、人間の話を聞いたファスは、驚いた口調と表情で、右隣りにいる人間を見上げる。

「そりゃ・・・まあ、こんなところで一人しょぼくれている操機主様には、いくつか心当たりがあってな・・・。 ははは。」

と、手を組み、にこやかな表情でファスに向かい答える人間。 続けて、

「それで、操機主ファス様は、なんで操機補様と喧嘩したんだ?」

と、落ち着いた表情になり、穏やかな口調で聞いてくる。

「えっと・・・。 サン・・・じゃなくて、僕の操機補が、『盾』の使用を強要してきて・・・。 僕、盾の類は嫌いだから、使いたくないのに・・・。」

と、ファスは地面に向かって話しかけるように、不服そうに答える。

「ふ~ん・・・。 操機補が、盾を強要ね・・・。 珍しいな・・・。 ファスは、もう何戦も手合いをしているんだろ?」

と、人間は真面目な表情に変わり、言葉遣いも真面目な口調になって質問をしてくる。

「ううん。 僕、まだ、1戦も手合いをしていないんだ・・・。」

と、ファスがしょんぼり答えると、

「1戦も!?」

と、一転して驚いた表情で言葉短く答える人間。 一方、

「うん・・・。 『人』との仮想空間内手合いすら、まだ・・・。」

と、ファスは自分の現状を正直に話す。

「・・・はは! なんだ、ファス様は、まだ、操機主見習いか・・・。 どおりで・・・。 ははは・・・。」

と、人間は再び笑いながら答える。

「・・・笑わないでください!」

一方、ファスは人間を見上げ、表情を硬くして抗議すると、

「ああ・・・、すまん、すまん。」

と、人間はファスに対して笑った事を謝罪した。 続けて、

「操機補が盾を持たせようとしているのは、この後の、『人』との手合いを計算しているんだろうな。」

と、再びにこやかな顔をしつつ答えた。

「えっ? この後の・・・手合い・・・?」

と、ファスは思わず聞き直してしまう。

「そうだ。 新米操機主が通過する、『仮想空間内手合いの1戦目2戦目』と、『実機での手合い1戦目』は、必ず『人』操機主が手合い相手となる。 その時、ファスが武具を、『ロングソード』と『ミディアムシールド』を選択して手合いに挑むと、対戦相手の『人』は、『ショートソード』と『スモールシールド』を選択する。 誰が発見したのか知らないが、これは、昔からの決まり事のようだ・・・。」

と、人間は表情を少し変え、真顔で答えた。

「そんなの・・・対戦相手の武具なんて関係ないよ。 僕は『ツーハンドソード』を使いたい!」

と、ファスは右手を拳にし、力強く答える。

「ほお・・・。 だが・・・、『人』が、両手で所持するような大型武具を使ってきた場合、手ごわいぞ。 1回かすっただけでも勝負の流れが変わり、最悪、大事な初陣で負けることになる・・・。」

そう答えた人間は、心配そうな表情でファスを見ていた。 が、

「構わないよ。 だって、操機戦は、勝ち負けじゃないから!」

一瞬、サンゴが話している姿や、昔の操機戦映像を思い浮かべたファスは、再び力強く答えた。 一方、その言葉を聞いた人間は、一拍置いて、

「・・・そう・・・か・・・。 よく・・・知っているな・・・。」

と、何かに気付いたように答えた。 そして、おもむろにファスの右肩に左手を置き、

「だが、操機補の助言には従った方がいいと思うぞ。 特に、初陣はな。 そして、その後も操機補の話をよく聞け。 これは、先輩操機主としての経験則だ。」

人間はそう話し、ファスの右肩に置いている左手に若干の力を込めた。 続けて、

「・・・さて・・・、お互い、お迎えが来たようだな。」

と、とある方向を向く。 その言葉につられ、ファスも同じ方向を向く。 すると、黒い操機補の服に黒い「面」を付けた「人」が2体、ファス達のいる方向に向かってきているのが目に入った。 向かってきている「人」の内、1体は身長がかなり低いのがわかる。 ファスには、その背の低い1体がサンゴだとすぐにわかった。 逆にもう一体の「人」。 サンゴが隣にいるからだろうか、身長、体格、共にかなり大きく見える「人」だった。

「背の高い『人』は、お兄さんの操機補?」

と、ファスは座ったまま尋ねると、

「そうだ。」

と、人間は言葉短く答える。 改めて、ファスは視線を大きな「人」に移すと、その姿を見て圧倒されそうになる。 サンゴを基準にした目測でも、ファス自身の身長より、明らかに頭二つ分以上は背が高いように見える。 もしかしたら、ロッカより長身かもしれない。 その大きな「人」の姿を見ていると、人間との会話は途切れてしまった。 やがて2体の「人」は、ファス達の3メートル程手前で立ち止まった。 2体の「人」が立ち止まると、椅子に座っていた人間は立ち上がり、

「操機主見習いファス! 無事、操機主になったら、どこかで手合い出来るといいな!」

力強くそう告げると、人間は右手をファスに向かい差し出す。 握手を求めているようだ。

「・・・うん!」

ファスも力強く返事をすると、休憩椅子から立ち上がり、右手を差し出した。 その後、お互いに軽く力を込めた握手を数秒したのち、

「・・・それじゃあ、達者でな。 ファス。」

と、穏やかな口調でそう告げると、人間は長身の「人」を従え、ファスが歩いて来た方向とは別方向に歩いて行く。

「・・・あっ! おじ・・・じゃなくて、お兄さん、名前は?」

と、人間の名前を聞いていなかった事に、咄嗟に気づいたファス。 歩き去る人間の背後から声を掛けてみる。 すると、

「レバンだ!」

去っていく人間は歩みを止めないまま、わずかに振り向き、答えた声だけが聞こえてきた。


「さて、少し話でもするか。」

居残った背の低い「人」はファスに近づき、操機主用の白い「面」を両手で差し出しながら声をかけてくる。 その声は、紛れもなくサンゴの声だった。

「あはは・・・。 サンゴ・・・。 よく、ここがわかったね・・・。」

一方、差し出された「面」を両手でゆっくりと受け取ったファス。 レバンと話をした影響だろうか、先程までの訓練時の落ち込んだ気分とサンゴへの不満が、嘘のように晴れ晴れした気分に変化していた。 そして、サンゴに不満を募らせていたことを誤魔化すように返事をするも、

「もう一言、あるんじゃないか。」

片や、サンゴは、レバンが座っていた休憩椅子の同じ場所に腰かけつつ、少々不機嫌な口調で返事をしてくる。

「あの・・・。 ・・・意地悪してるなんて言って・・・ごめんなさい・・・。」

と、ファスは素直に謝罪する。 続けて、

「でもね、訓練室を出てよかったよ。 あの人と・・・レバンさんと会えたし・・・。 サンゴがどうして盾にこだわるのかもわかったし・・・。 僕を、勝たせたかったんだよね・・・。」

と、釈明するように話した。 そのためだろうか、ファスはサンゴから視線を僅かに外して話す。 一方、ファスを見上げて話を聞いていたサンゴは、暫しの沈黙後、

「そうか。」

と、短く答え、視線を正面に戻してしまった。 片や、ファスは気まずい雰囲気を感じ取り、何か話そうと懸命に考え、

「・・・そうそう、さっきも言ったけど、盾の話! 僕、盾の類は好きじゃないけど、訓練を頑張るよ・・・。 憧れの武具・・・両手剣の訓練は、後の楽しみに取っておく!」

と、わざとらしく話しかける。 その話に対し、サンゴは何か思い出したかのように、再度ファスを見上げ、

「ところでファスよ。 さっきも聞いたが、お前さん、どこで両手剣の扱いを覚えたのじゃ?」

と、不思議そうな口調で問いかけてくる。 一方、

「ん・・・? 別に、覚えてはいないけど・・・。 見よう・・・見まね・・・?」

と、ようやくサンゴの「面」を見つめて話すファス。

「そうか。」

しばらく後、再び言葉短く答えるサンゴ。 続けて、

「あの動きは、良かったな。 あの動きを、盾持ちで出来たらと、教えたかったのだが。」

と、珍しく、一人呟くように小声で話すサンゴ。

「えっ・・・? ・・・やった! サンゴが・・・僕を褒めてくれた・・・!?」

ファスはそんなサンゴの小声を聞き逃さなかった。 一拍置いて、大喜びしそうになるも、

「・・・でも・・・、あんな両手剣の扱いで勝てるほど、操機戦は甘くないよね・・・。 そして、『操機戦は勝ち負けではない』・・・なんだよね・・・。」

と、立っているファスは、サンゴから背面の噴水に視線を移し、流れでる水を見つめて、冷静に自身に言い聞かせるように呟く。

「ああ。 ただ、『操機戦は勝ち負けではない』と言っても、やはり勝ちにこだわらなければならない時はある。 そして、操機戦において、操機主を勝たせるようにするのも、操機補の役目の一つだからな。」

と、サンゴはファスの呟きに答えるように、冷静に話した。

その後、ファス、サンゴ共、暫し沈黙してしまった。 いかばかりかの時間が経っただろうか。

「・・・そういえば、昔の映像の方が、『操機戦は勝ち負けではない』って出てくることが沢山あるんだけど、あれって、なんなんだろうね・・・。 さっき、レバンさんにも咄嗟に使っちゃったけど・・・。」

ファスは、ふと幼いころに見た映像を再び思い出し、無邪気に話し出す。 そして、

「サンゴは、何か知ってるの?」

そう続けた。 一方、問いかけられたサンゴは、

「それは。」

そう言った後、サンゴの話が途切れる。 ファスは暫しの間、サンゴが話の続きをしてくれるのを待っていた。 が、一向にその気配は無く、固まったようになってしまっている。 その状態を心配したファスは、

「・・・サンゴ・・・?」

と、覗き込むように恐る恐る問いかける。 すると、

「ファスよ。 もう、昼じゃな。 お腹が空いただろ。 今日の訓練はここまでで、明日また頑張ろう。」

と、サンゴは唐突に、話を逸らすような焦った口調に変わって話し出す。 一方のファスは、まるでそれまでのサンゴとは別「人」と話しているように感じたため、

「・・・サンゴ、どうしたの?」

と、不思議そうに問いかける。

「大丈夫じゃ。 どうもしない。 ささ、イチゴが昼食の用意をして待っておる。」

再度、焦ったような口調でそう言うと、サンゴは素早く休憩椅子から降り、立っているファスの右手を掴んで公園を出て行こうとする。

『変なサンゴ・・・。 何か・・・昔の事でも・・・思い出したのかな・・・。』

ファスはそんな想像をしつつ、サンゴに手を引かれて公園を出て行くのだった。


翌日の午前中。 共用訓練室で、早歩きの基礎訓練を終えたファス。 休憩後、サンゴと共に訓練用操縦席内にいた。

「ねえ、サンゴ・・・。 なんで、いきなり訓練用操縦席なの・・・?」

ファスは一緒に訓練用操縦席に入ってきているサンゴに向かい、不安そうに問いかける。 すると、

「今日は操縦訓練ではなく、訓練用操縦席を使った武具訓練といこう。 模造武具での訓練だと、わし・・・じゃなくて、私は盾類しか持てないからな。 ちょっと手荒に、ファスの盾類特訓じゃ。」

サンゴが優しい口調でそう言うと、ファスの目の前には、天井からセーフティベルトが降りてくる。

「さあ、後ろを向きなさい。」

再びサンゴが優しい口調でそう言うと、ファスの目の前では、セーフティベルトが数回、開いたり閉じたりして動く。 その後は、閉じたままお辞儀をしているように上下に動く。 そんな光景を暫し見ていたファスだったが、サンゴの指示に従い、渋々背中を向ける。 すると、セーフティベルトがファスの両肩、両脇と腹部付近に覆いかぶさってきた。

「では、頭部覆いと『面』も着けてもらえるか。」

と、サンゴが指示を出す。 ファスも従順にサンゴの指示に従い、頭部覆いと「面」を装着し、

「着けたよ。」

と、サンゴのいる方向に振り向きつつ答える。 ファスの「面」視界内映像は、今のところ裸眼となんら変わりない、明るく照らし出された訓練用操縦席内風景が見えている。

「それじゃあ、私は一旦外に出る。」

サンゴは冷静な口調でそう告げると、訓練用操縦席の左側面にある出入り口から出て行ってしまった。 一方、訓練用操縦席から出ていくサンゴを追いかけるように見ていたファス。 ふと、訓練用操縦席正面に視線を戻すと、ファスの「面」視界内映像には、正面1メートル程先に、黒い操機補服と黒い「面」を付けた「人」が立っているように見える。 背格好から、ファスはサンゴだと思ってしまい、

「あれ? サンゴが2体いる?」

と、不思議そうに呟きつつ「面」を取ってしまう。 だが、裸眼視界で見る訓練用操縦席内には誰もおらず、ファスが一人で立っているだけだった。

「こらこら、勝手に『面』を取るんじゃない。」

と、サンゴの不機嫌そうな声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 ファスは慌てて取ってしまった「面」を再度装着した。 すると「面」視界内には、やはり、サンゴのような姿の「人」が立っているのが見て取れる。

「・・・やっぱり、誰かいる・・・。 どうなってるの・・・? サンゴ?」

と、ファスは不思議に思い、サンゴに問いかけてしまう。

「ファスの『面』内視界を操作して仮想のわし・・・じゃなくて、私を見せている。 そして。」

サンゴがそう告げると、「面」視界内の「人」は、模造武具の「ショートソード」を右手に、左前腕には模造武具の「スモールシールド」を瞬時に持ち、ファスに向け、胸前に構えた。

「うわっ!」

ファスは今まで見たことの無い光景に驚いてしまう。 「人」がファスに向け、模造武具を構えているという、ありえない光景だったからだ。 恐怖から再度、「面」を咄嗟に外してしまうファスだったが、自身の裸眼視界に入った光景は、またもや誰もいない訓練用操縦席内だった。

「ねえ、サンゴ・・・。 なんか・・・、怖いんだけど・・・。」

と、ファスは渋々「面」を着け直しながらサンゴに苦言を言う。 「面」を着け終えると、仮想のサンゴが無言で立ち、変わらず模造武具を構えている光景が見て取れる。

「大丈夫じゃ、すぐに慣れる。 それじゃあ、ファスにも仮想の模造武具を渡そう。」

頭部覆い内スピーカーからサンゴの明るい声が聞こえてくると同時、ファスの「面」視界内の目前には、模造武具の「ロングソード」、「ミディアムシールド」が空中に浮いているように現れる。

「うわぁ・・・。 これ、凄いね・・・。」

と、ファスは目の前に浮き上がった仮想の模造武具に目を奪われてしまう。 しかし、

「ファスよ。 早く持ちなさい。」

と、サンゴからは注意のような苦言を受け、

「うん・・・。」

と、ファスは目の前に浮いている「ミディアムシールド」に恐る恐る右手を伸ばした。 手に力を入れ、「ミディアムシールド」を掴むと、操機主服の手袋が負荷圧を発生させているのだろう、現実に模造武具の「ミディアムシールド」を掴んでいるのと同じ感覚、重さを得る。 ファスは仮想の「ミディアムシールド」を左前腕に装着させた後、右手で仮想の「ロングソード」も掴んだ。 こちらも、操機主服の右腕全体に、模造武具を持った重さが再現される。

「凄いね・・・。 本当に模造武具を持っているみたいだ・・・。」

ファスは正面にいる仮想のサンゴから少し右方向にずらし、右手の「ロングソード」を上下、左右と振り回す。 次に、左腕の「ミディアムシールド」もぐるぐると数回振り回してみる。 そして、だんだん今の状況に慣れてきたファスは、

「だいたいの感覚はつかめたよ。 実際の模造武具を振り回しているのと、ほとんど変わらないね。」

と、にこやかに告げる。

「そうか。 それじゃあ、訓練に入るか。」

と、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 続けて、

「まずは私が攻撃するから、盾で防いでみよ。」

サンゴが冷静な口調でそう告げると、「面」視界内に見える仮想のサンゴは、武具を構えた姿勢のまま、ファスに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。

「うん・・・。」

片や、模造武具を構えて近づいてくる仮想のサンゴに対し、いささかの恐怖を覚えつつも、ファスは左前腕の「ミディアムシールド」を前方に掲げる。 一方、近づいてきた仮想のサンゴは、右手の「ショートソード」をゆっくりと振り上げ、振り下ろしてきた。

「うっ!」

ファスが掲げている左前腕に、こつんと何かが当たったような音と衝撃がある。 どうやら、仮想のサンゴが、ファスの掲げている「ミディアムシールド」に剣戟を当てたようだ。 その後も、ゆっくり2撃、3撃と、時間間隔を開け、盾に剣戟を当ててきた。

「どうじゃ? 続けられそうか?」

ファスの頭部覆い内スピーカーには、尋ねてくるサンゴの声が聞こえる。 同時に、仮想のサンゴは剣戟をやめ、数歩後ろに後退した。 

「うん、大丈夫そうだけど・・・。 ねえ、サンゴ。 この、盾に当たった時の衝撃は、どうなってるの?」

ファスは左前腕の「ミディアムシールド」を眺めつつ、疑問に思ったことを尋ねてみる。

「それは、ファスの着ている操機主用服が、盾に当たった時の衝撃を再現してくれている。 操機で手合いをしている時も、同様の衝撃がある。 仮想機、実機、問わずな。 まあ、痛くなるほどではないから、安心しなさい。」

と、サンゴは優しい口調で答えてくれる。

「そうなんだ・・・。 わかったよ!」

と、ファスは機嫌よく答える。

「次は左右から打ち込む。 同じように、盾で防いでみよ。」

頭部覆い内スピーカーからサンゴの冷静な声が聞こえてくると、仮想のサンゴは再びファスに向かって近づき、剣戟を繰り出してきた。


ファスが盾の訓練を始めて6日が経とうとしていた。

「どうじゃ、ファス。 そろそろ、盾の扱いには慣れてきたか?」

訓練室奥の休憩椅子で休んでいるファスに向かい、サンゴは右手に持った栄養飲料の容器を差し出しながら問いかけた。

「うん! もう大丈夫!」

と、ファスは右手で栄養飲料の容器を受け取った後、力強く答える。

「それじゃあ、休憩後は、操機の操縦訓練を再開するか。」

と、サンゴはファスの右隣りの休憩椅子に腰かけつつ話しかけてきた。

「えっ・・・? 操縦・・・訓練・・・?」

と、ファスは聞き直してしまう。

「『面』を着けての操機操縦訓練じゃ。 前にも言った通り、こればかりは、ファスが頑張って乗り物酔いを克服せんとな。」

と、サンゴは優しい口調で答えてくれる。

「・・・そう・・・だね・・・。」

一方のファスは、右手に持った栄養飲料の封を開けて一口飲んだ後、沈んだ口調で答えた。


翌日からは、午前中は今まで通り、ファス自身の身体機能を高める歩行や走り込み、筋力強化の訓練。 午後はサンゴから盾の扱い方を教わり、最後に操機の操縦訓練という訓練項目となった。

操機の操縦訓練も、『仰向けに寝た状態から立ち上がる』から、『床に座った状態からゆっくり立つ』といった訓練内容に、徐々に変化していった。

さらに日は経ち、『座った状態から素早く立ち上がる』、『体調をみて、仮想の闘技場内をゆっくりと歩行する』、『気分が悪くなり、重心を崩しそうな場合は、セーフティベルトで支えてもらう』という訓練を続けた。 結果、ファスはどうにか乗り物酔いにならず、仮想の闘技場壁近くをぐるりと一周歩けるまでになった。

「今日もどうにか、仮想の闘技場内を1周回れたな。」

と、サンゴの優しい声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「うん! だいぶ慣れてきたよ!」

と、ファスも元気よく答える。 だが内心は、いまだに操機の高い目線に慣れていない。

「それでは、今日は次の段階に進むか。」

と、サンゴが話かけてくる。

「えっ・・・? 次の段階・・・?」

そう聞いたファスは、以前の嫌な思い出が次々と脳裏に蘇り、尻込みをしてしまいそうになる。

「ファスよ。 そう、萎縮しなくてもいいぞ。」

片や、サンゴの優しい声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくると同時、ファスの操っていた仮想の機体は、一瞬で地下の仮想闘技場中央に戻される。 その後、ファスの仮想機正面すぐそばに、外見がファスの操っている仮想機に似ている、黒い色の操機が一体現れた。

「うわっ!」

と、ファスは驚き、思わず身構えてしまう。 しかし、よくよく見てみると、武器はおろか、盾の類も持っていない操機だった。

「まあ、落ち着きなさい。 初期の訓練所でもやったが、まずはこの棒立ちの仮想機体を相手してみよ。」

と、サンゴが優しい口調で話しかけてくる。 一方、ファスは状況を理解できず、

「え~っと・・・。 素手で殴るの?」

と、思ったままを聞いてしまう。

「いやいや。 この、『ロングソード』を使いなさい。」

再びサンゴの優しい声が聞こえると、ファスは右掌に何か棒状の固い物体が当たった衝撃を感じる。 視線を右手に落としてみると、空中には「ロングソード」が浮いており、ファスが操る仮想機体右手に向かい、柄が差し出されている。 事態を飲み込めたファスは、右手に感触のあった柄部分の中心を握ってみる。 すると、操機主用服の右手袋が、「ロングソード」を持った感触を再現してくれた。

「へえ~・・・。」

ファスにしてみれば、ここ最近、サンゴと仮想空間内で模造武具を使った訓練をしていただけに、珍しい光景ではなかった。 が、改めて「ロングソード」を握っている仮想機体の右手を含め、右腕全体を注意深く眺めてみる。

「どうじゃ? 出来そうか?」

しばらく後、サンゴから問いかけられたファスは、

「あ・・・。 うん!」

と、眺めていた右腕から視線を外し、改めて目の前の黒い仮想機体に注視する。

「遠慮はいらぬ! 好きなように剣戟を出してみよ!」

と、サンゴの力強い声を聞いたファスは、

「わかったよ!」

と、元気よく声を発した後、黒い仮想機体との武具間合いを計り、

「ふん!」

勢いよく「ロングソード」を振り上げ、掛け声と同時に目一杯の速度で振り下ろした。 ファスの放った剣戟は、黒い仮想機体の左肩に命中すると、仮想空間内に轟音が響き渡る。 が、ファスはその後の反応に違和感を抱く。 今まで見てきた実機の手合いであれ、仮想空間内の手合いであれ、あれだけの剣戟を受けた機体は、ふらつきや転倒をしていた。 だが、目の前の機体は、あれだけの攻撃を受けても平然と立っている。 暫し、呆然としてしまったファスに対し、

「どうした、ファスよ? どんどん打ち込んできて良いのだぞ。」

と、サンゴは急かすように話しかけてくる。 一方、

「あの・・・サンゴ。 この機体、見ていて違和感があるから、変えてもらえないかな・・・。」

と、手を止めたファスが、困惑した口調で答える。

「違和感? ごく普通の機体だが。」

片や、サンゴは不思議そうに答えると、

「ああ・・・。 それじゃあ・・・え~っと・・・。 そうだ! 左腕に、盾類を持ってもらえるかな。」

と、珍しくファスが注文を出す。

「わかった。」

サンゴが快諾すると同時、ファスの目の前の黒い仮想機体左前腕には、長方形の「ラージシールド」が装着される。

「これでいいか?」

と、問いかけてくるサンゴに対し、

「そう! それで、いつも通りに盾を構えてもらえる。」

と、ファスはさらに注文を出す。

「こうか?」

サンゴが言葉短く答えると、黒い仮想機体は、左前腕の「ラージシールド」を正面に突き出すように構える。 一方、黒い機体が「ラージシールド」で隠れてしまいそうな状態を見たファスは、

「そうそう! そのまま、盾を使って、攻撃を防いで!」

と、嬉しそうに答えると、下ろしていた「ロングソード」を振り上げ、「ラージシールド」へ向かって一振り、二振りと剣戟を繰り出す。 片や、黒い仮想機体は、「ラージシールド」でファスの剣戟の勢いを削ぎつつ防御する。

『これなら、実際の感覚に近いや!』

と、好感触を得たファスは、仮想空間内に盾を殴打する音が響きわたる中、さらに剣戟を繰り出した。


ファスが仮想空間内で剣戟の打ち込み訓練を始めて、30分程経っただろうか。

「ファス。 少し休憩しよう。」

唐突に、サンゴが優しい口調で声を掛けてきた。

「はぁ・・・。 はぁ・・・。 うん。 わかったよ。」

と、サンゴの声を聞いたファスは、剣戟を繰り出していた手を止める。 そして、乱れている呼吸を整えつつ、『面』と頭部覆いを外した。

訓練用操縦席を出て休憩椅子に向かおうとすると、休憩椅子付近には、サンゴが冷水と栄養飲料の入った容器を左右の手に持って立っているのが見て取れる。

「ありがとう、サンゴ。」

と、サンゴから各飲み物の容器を受け取り、器用に休憩椅子に腰かけるファス。

「調子はいいようじゃな。」

各容器を渡し終えたサンゴは、ファスの左隣りの休憩椅子に腰を下ろした後、優しい口調で話しかけてきた。

「ふう・・・。 えっ・・・? 調子・・・?」

一方、ファスが不思議そうに聞き返すと、

「乗り物酔いの症状、あまり出ていないようじゃな。」

と、サンゴが改めて聞いてくる。

「あ・・・。 忘れてた・・・。」

ファスは自身の症状を全く気にしていなかった。 サンゴに言われ、改めてファスは自身の体調を確かめてみる。 目の奥に少々の痛みを感じるが、頭痛やふらふらする感覚、嘔吐感は無かった。

「この調子で訓練を続けていれば、近いうちには、仮想空間内で、『人』操作機との手合いもできそうじゃな。」

と、サンゴは優しい口調で話しかけてくる。

「えっ・・・。 手合い・・・。」

と、ファスは改めてサンゴが言った事を自覚する。 このままいつまでも訓練だけを続けているわけにもいかず、仮想空間内とはいえ、いつかは手合いをしなければならない時期が来るのを悟った。


翌日の朝。 自分の区画内リビングルームで朝食を食べていたファス。 食べ終えるころを見計らったかのように、背が低く、黒い服、黒い「面」と頭部覆いを付けた「人」が、リビングルーム内に入って来る。 ファスは一目でその「人」がサンゴだとわかる。

「おはよう。 ・・・珍しい・・・と言うか、初めてかな。 サンゴがこの部屋に入って来るの。」

ファスは自身のすぐ近くまで歩み寄ってきたサンゴに話しかける。 一方、話しかけられたサンゴは、

「おはよう。」

と、返事をした後は、特に反応も無い。 よくよくサンゴを見てみると、黒い「面」越しの視線は、ファスが食べている果物類を注視しているように見える。

「・・・どうしたの、サンゴ・・・? 食べたいの・・・?」

と、ファスはサンゴが注視している果物類を、サンゴの前に差し出してみる。

「いや。 私たち『人』が、食べ物の類を口にしたら、色々と支障が出るからな。」

差し出された果物類を見て、しばしの間、固まった用になっていたサンゴだったが、ふと、我に返ったように落ち着いた口調で答えた。

「・・・だよね・・・。」

と、ファスは納得したように答えるも、

『サンゴ、調子が悪いのかな・・・。 それとも、考え事・・・。 過去に、同じような場面に遭遇したのを思い出したとか・・・。 いやいや、「人」がそんなことを・・・。』

と、色々なことを想像してしまう。 その後は暫し、果物を食べるのに集中していたファスだったが、すぐ近くに立っているサンゴの視線が気になって仕方なくなる。 いや、実際は「面」を付けているため、本当の視線はわからないのだが、ファスには、サンゴの視線が感じ取れた。 ついには、

「あの・・・サンゴ。 急ぎの用事・・・?」

と、恐る恐る尋ねてしまう。

「いや。」

一方、サンゴは冷静に言葉短く答える。

「それじゃあ、どこかに座って待っててよ。」

と、ファスは笑顔で気さくにサンゴに話しかける。

「わかった。」

再びサンゴは言葉短く答え、リビングルーム内窓際にあるソファーに向かって行き、ゆっくりと腰掛けた。 一方、サンゴが腰掛けるまで見送っていたファスは、皿に残っていた果物類を慌ただしく食べだす。

2~3分程経っただろうか。 ファスは皿にあった果物類を食べ終え、窓際に座るサンゴの元へ向かい、

「お待たせ。 こんな朝早く、どうしたの?」

と、ファスもサンゴの近くにある椅子に座りながら、不思議そうに話しかける。

「今日の午前は訓練ではなく、ファスの操機を見に行かないか?」

と、サンゴは黒い「面」をファスに向け、尋ねるような、提案するような口調で話し掛けてくる。

「えっ・・・? 僕の操機・・・?」

一方、ファスはサンゴの言っていることがすぐに理解できず、聞き直してしまう。

「ああ。 預かってきた操機が、稼働可能な状態になった。 それで、ファスに知らせに来た。」

と、サンゴはファスに向かい、ゆっくり話し掛ける。

「・・・そうなの!?」

ようやく事の次第が理解できたファスは、大声を上げてしまう。 続けて、

「それじゃあ、すぐ行こう! すぐ!」

嬉々としてそう告げたファスは、急いで椅子から降りるとサンゴに近づき、纏っている黒い服の右腕の袖をつかむ。 さらに、リビングルームの出入り口に向かい、急かすように引っ張ろうとする。

「こら、危ないじゃろ!」

片や、右腕の袖を引っ張られたサンゴは、ファスに向かって苦言を言いながら、よろよろと重心を崩しつつソファーから降りた。


2人乗りの小型4輪車両に乗り、闘技場施設内の操機格納庫に到着したファスとサンゴ。

「うわ~・・・。 ここも・・・広いし、天井が高いね・・・。」

闘技場内の操機格納庫に来るのは初めてのファス。 車両内の各画面に映る格納庫内映像を見ると、感嘆の声を上げてしまう。 さらに走行中の小型4輪車両内で少し腰を浮かせ、周囲を上下左右と見回していると、

「ファスよ。 危ないから、ちゃんと座っていなさい。」

ファスの右隣に座るサンゴが、優しい声でそう告げる。 同時に、ファスの体を包んでいるセーフティベルト右肩部分が、とんとんと、注意するかのように軽く叩いてくる。

「は~い・・・。」

ファスは残念そうに返事をし、体を椅子にしっかりと着座させる。 それから暫く、操機格納庫内を小型4輪車両で移動していると、

「あれは・・・。」

ファスは格納庫内の一区画に、黒い服に黒い「面」、頭部覆いを付けた、背の高い「人」が立っているのを見つける。 小型4輪車両は、その「人」の3メートル程手前で停止した。

「ファス! 久しぶりだな!」

と、大声を上げながら近づいてくる「人」。 聞き覚えのある声は、ロッカの声だった。

「ああ・・・。 やっぱり、ロッカだったんだ。 背の高い『人』だから、そうじゃないかなと・・・」

と、小型4輪車両を降車しながら話していたファス。 だが、車両を降りきった途端、ロッカに抱きしめられ、話していた言葉を遮られてしまう。

「会いたかったぜ! ご主人様!」

と、ファスを抱きしめながら、大声で嬉しそうに話すロッカ。 片や、

『うわっ! ・・・ロッカの・・・体が・・・当たって・・・。』

と、抱きしめられたファスは、ロッカの体の感触を頬に感じながら、

「ちょ・・・っと、ロッカ・・・放してよ・・・。」

と、恥ずかしそうに頬を赤くし、もがきながら話す。 一方のロッカは、そんな状態のファスを構いなく、

「よし! それじゃあ、このまま、ご主人様を格納庫内までご案内だ!」

そう叫ぶと、抱きしめていたファスを強引に抱え上げ、壁に向かって後ろ歩きで器用に歩き出す。 ロッカが向かった先、壁かと思われていた一部が扉のように両側に移動する。 ロッカは空いた扉から中の空間に入り、さらに十数歩進むと、おもむろに立ち止まり、

「ほら、ファスの操機だ。」

と、抱きかかえていたファスを優しく床に下ろし、優しい口調で話しかけてくる。

「えっ・・・? どこ・・・?」

片や、解放されたファスはきょろきょろと周囲を見渡し、ようやく自身の機体を見つける。

「うわ~・・・。」

『僕の・・・機体・・・。』

格納庫内で立ち上がった状態になっている操機は、ファスが「操機戦管理」から受け取った時と少々装甲形状が異なっていた。 だが塗装は相変わらず真っ白な、綺麗な塗装が施されている機体であった。

「どうじゃ、ファス?」

と、遅れて格納庫内に入ってきたサンゴが、優しい口調でそう尋ねてくる。 そして、満足そうに操機を見上げているファスを見ると、

「気に入ったようじゃな。」

と、ファスに向かって話しかけた。 だが、ファスはそんなサンゴの声が聞こえていないかのように、自身の操機を見続けている。

いかばかりかの時間が経っただろうか。 自身の操機を眺めていたファスは、唐突に、

「・・・ねえ! この機体、銀色に塗装できるんでしょ!?」

と、すぐ近くに立っているロッカに向かい、興奮気味に尋ねる。 一方、いきなり問いかけられたロッカは、

「えっ? 塗装?」

と、聞き直してしまうも、続けて、

「ああ、表面の塗装な。 出来るぞ。 ただ、ちょっと時間がかかるが。 まあ、ファスがこの機体で手合いするまでは、まだ時間はありそうだし、十分間に合うだろ。」

と、余裕のある口調で答えが返ってくる。

「ちなみに。」

と、ロッカがファスに話しかけると同時、ロッカはファスに向かい、さらに近づく。 そして、ファスの頭部覆いの背中内にあった「面」を素早く抜き取り、頭部覆いの上部側をファスの頭部に無理やり被せた。

「ちょっと・・・。 ロッカ・・・何するの・・・。」

困ったように慌てふためくファスをよそに、ロッカは抜き取ったファスの「面」を、ファスの顔に優しく被せ、

「ほら、こんな感じか?」

と、ファスに向かい、優しく問いかける。 片や、無理やり「面」を着けられたファスだったが、「面」視界内を見て驚く。 「面」を通して見える操機の塗装が、真っ白な状態から、自身が希望する銀色の塗装状態へと変わっていたからだ。

「おおっ!」

ファスは大喜びし、「面」視界内に再現された操機を隅々まで見ようと、格納庫内を行ったり来たりしてしまう。

「お久しぶりです。 ファス。」

暫し、格納庫内を彷徨っているかの如く、自身の機体を見入っていたファスだった。 が、またも、聞き覚えのある声が聞こえてくる。 声のした方向、機体の足元を見てみると、「面」と頭部覆いを外したクウコが、ファスに向かって歩み寄ってきているのが見て取れた。

「クウコ! 久しぶり!」

ファスは少々興奮気味に返事をする。 が、いったん冷静になり、クウコが「面」と頭部覆いを外していることに疑問をもった。

「・・・あれ? クウコ、『面』を外していて・・・大丈夫なの?」

ファス自身も着けていた白い「面」を外し、近づいてくるクウコに向かい、落ち着いて問いかける。

「ええ、大丈夫ですよ。 ここは、ファスとファスの操機関係「人」以外、入れなくなっていますので。」

と、冷静に答えてくれる。

「ふ~ん・・・。」

と、ファスは納得して答える。 そして、暫し考えた後、

「・・・そうすると、トエルも・・・『面』を外しているの?」

と、ファスのすぐ近くで立ち止まったクウコに向かい、不思議そうに問いかけてみる。

「ええ。 先程まで、本体姿で『面』を外し、作業をしていました。 が。」

と、話の途中だったクウコだが、一旦言葉を切ってしまう。

「が?」

一方のファスは、再度、クウコに向かい、落ち着いて問いかける。 すると、

「ファス、久しぶりですね。」

と、ファスの頭部覆い内スピーカーからは、トエルの明るい口調の声が聞こえてきた。 片や、ファスは、

「トエル?」

声の聞こえてきた方向を探すように、頭部覆いの上から、右耳付近に右手を当て、周囲を見回してみる。 だが、ファスの見渡す限りで、トエルの姿は見えない。

「ははは! トエルは、本体の姿でファスに会うのが恥ずかしいんだとさ。 整備台に逃げ込んじまったよ。」

と、事の成り行きを見ていたロッカは、「面」と頭部覆いを外しつつ、冷やかすように答えてくれる。

「えっ・・・? 恥ずかしい・・・って・・・?」

一方、ロッカの話を聞いたファスは、不思議そうに呟きつつ、

『「人」にも、「恥ずかしい」っていう感情・・・いや、反応があるんだ・・・。』

そう思った。 そして、何とかしてトエル本体の姿を見たくなったファスは、

「ねえ! トエル、出てきてよ!」

と、少々意地悪気味に大声を出す。 が、

「ファスよ。 トエルも嫌がっているし、勘弁してやってくれないか。」

と、サンゴはトエルを庇うように話しかけてくる。 続けて、

「それはそうと、ファスよ。 この機体、動かしてみたくないか?」

と、サンゴが突然の提案をしてきた。

「えっ! 動かせるの!?」

つい今さっきまで、トエルの事が気になっていたファスだったが、機体を動かせる話を聞いた途端、サンゴの話に反応を示す。

「ああ。 『操機戦管理』から、許可はもらってある。 地下闘技場なら、機体を少々動かしても構わないそうじゃ。」

と、サンゴが続けて話してくる。

「やった! それじゃあ、早速・・・」

そう叫んだファスは、嬉々として一目散に機体に駆け寄ろうとする。 だが、

「おっと! ファス、待った!」

ファスと機体の中間にいたロッカは、そう叫ぶと素早く動き、機体に向かっていたファスを抱きかかえるように捕まえてしまう。 一方、再び抱きしめられてしまったファスは、

「えっ・・・? ちょ・・・っと、放してよ・・・ロッカ・・・。」

と、ロッカの拘束から逃れようともがく。 対してファスを抱きかかえたロッカは、ファスが機体を見えるように抱き方と立ち位置を調整し、

「ファスが乗り込めるようになるまで、大人しく待つんだ。」

と、囁くように、ファスの耳元に話しかける。 続けて、

「トエル!」

と、整備台脇に向かい、一声叫ぶ。 すると、

「はい。」

ファスの頭部覆い内スピーカーからは、トエルの子気味いい返事が聞こえてくる。 すると、格納庫内に大きな音が響き渡り、立っていた機体は、背面にある整備台ごと、足元を軸にゆっくりと仰向けに倒れ始める。

ようやく、事の次第がわかり始めたファス。 よくよく考えてみれば、機体が立っている状態では、操縦席に乗り込めないことにようやく気付く。 ファスはもがくのをやめ、大人しく機体が真横になるのを待った。

5~6分程経っただろうか。 機体は真横の仰向けになり、稼働していた整備台も停止する。

「よし! いいぞ、ファス。」

ロッカがファスに優しく話しかけるのと同時、抱えていたファスをゆっくりと地面に降ろした。

「うん!」

ファスは力強く答え、再び機体に向かって駆け出す。 そして整備台備え付けのエレベーターを使って整備台平面に上がり、機体右側から首元に回り込むと、操縦席出入り口扉が開いているのを見つける。 ファスは開いている操縦席出入り口扉に向かい、屈みこんで中を覗き込む。 が、操縦席内は明かりがついておらず、見通しが悪い。

「ねえ、サンゴ。 操縦席内が、暗いんだけど・・・。」

と、ファスが襟のマイクに向かい、問いかけると、

「今、私の知能情報を操機側に移しておる。 ちょっと待ってくれ。」

と、サンゴの冷静な声が頭部覆い内スピーカーから聞こえた直後、操縦席内が明るく照らし出された。

「さあどうぞ、ファス。」

と、サンゴの優しい声が、頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「ありがとう、サンゴ。」

片や、ファスはサンゴに礼を告げると、狭い出入り口扉を屈みながら通り、ゆっくりと操縦席内に入って行った。

実機の操機操縦席に入るのは2度目となるファス。 1度目に入った時の事を思い出し、今眺めている光景と違いを見つけようとしていたが、

「・・・やっぱり、操縦席内の見た目は変わらないよね・・・。」

と、ぽつりと呟く。 続けて、

「それどころか・・・やっぱり、訓練用操縦席とも・・・違いが・・・無い。」

と、周囲を見渡しながら再度呟く。

「まあ、違いがあったら困るんだがな。」

サンゴはファスの呟きを聞いていたのであろうか、少々笑ったような口調で頭部覆い内スピーカーから答えてくれた。

「あはは・・・。 そういえば、そうだね・・・。」

と、ファスも笑いながら返事をする。

「ファスよ。 それじゃあ、機体を起こすぞ。」

サンゴが優しい口調でそう告げると、背面の操縦席出入り口が音もなく閉まり、ファスの耳は、密閉された空間にいる感覚となる。 その後、ファスの右肩にとんとんと叩く感覚がある。 振り返ってみると、セーフティベルトがファスの背後に迫っていた。 それを見たファスは、両腕を肩の高さまで上げ、セーフティベルトを装着できるように準備する。 すると、両肩、両脇の下から胸部と腹部付近を包み込むようにセーフティベルトが装着された。 セーフティベルトの装着を見届けたファスは、視点を正面に戻してみる。

「トエル、機体を起こしてくれ。」

再びサンゴの声が聞こえるのと同時、操縦席内画面一面には、起き上がり始めた操機胸部付近の外部映像が映し出される。

『・・・初期の訓練所で、「実機の操縦席は、常に水平を保って稼働する」から大丈夫だって教わったけど・・・。 操縦席、変な位置で止まったりしないよね・・・。』

などと、変化していく外部映像を、少々緊張しながら見ていたファスだったが、操縦席内は振動も無く、床は常に地面と水平な状態を保っている。 そして仰向けに倒れた時と同じ、5~6分程の時間をかけ、徐々に直立状態に映像が変わっていく。 やがて、操機は立ち上がった状態となった。

「操機、立ち上がりました。」

と、トエルの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてきたので、

「ありがとう、トエル。」

と、安堵の声で返事をするファス。 一拍置いて、

「ファスよ。 地下の闘技場までは、私が操作する。」

と、今度はサンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 その声を聞いたファスは、

「わかったよ!」

と、元気よく答えた後、改めて、操縦席内で周囲を映し出している操縦席内の画面を見渡して見る。 すると、右足元脇の数メートル先に、ロッカ、クウコの姿が見て取れる。 さらにその先、壁際に棒立ちになっている黒い服、黒い「面」を付けた「人」を見つける。 サンゴの本体である。

「・・・ねえ、サンゴ。 今、サンゴの知能情報は、この機体・・・操機側に移っているんだよね?」

と、ファスは操縦席内画面に映し出されているサンゴの本体を見つめ、心配そうに問いかける。

「ああ、そうじゃ。」

片や、平然と答えるサンゴ。

「う~ん・・・。 知能情報がこの機体にある間、サンゴの本体は、もぬけの殻なんだよね・・・。 本体、あんな壁際に立たせっぱなしで大丈夫なの?」

と、再度心配そうに尋ねるファス。

「なんじゃ、心配してくれるのか?」

サンゴは少々呆れたように答えると、画面に映し出されているサンゴの本体は、ゆっくりと歩き出し、格納庫内にある休憩椅子にゆっくりと腰掛けた。

「これで心配ないじゃろ。」

と、サンゴは明るい口調で答える。

「うん!」

と、ファスも明るい口調で返事をした。

「それじゃあ、動くぞ。」

再びサンゴの声が聞こえてくると、操機は整備台を離れるため、ゆっくり右足、左足と、格納庫内に踏み出す。 だが、ファスがいる操縦席内は、画面に映されている映像が変化するだけで、揺れは一切無い。 そして数歩歩き、進行方向を変えようと一旦停止した時、

「お二人さん、いってらっしゃい! ファス! 二人でデートだからって、変な気起こすなよ!」

と、ロッカの冷やかすような大声が操縦席天井付近から響き渡る。

「もう! ロッカ!」

一方、ファスは機体足元付近のロッカを映している画面に向かい、怒った口調で文句を言う。

「まあまあ。 ファスよ、ここから地下の闘技場までは15~6分程度かかる。 頭部覆い下部も装着し、座ってセーフティベルトに寄りかかり、格納庫内の景色でも見ていなさい。」

片や、ファスをなだめるように、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 同時に、操縦席内の床はふかふかな感触に切り替わる。 サンゴは続けて、

「再度、動くぞ。」

と、機嫌良さそうに話すと同時、再び操縦席内画面に映し出されている映像が動き出す。 操機が再度歩き出したようだ。 が、操縦席内は相変わらず揺れ一つ無く、映像だけが淡々と流れているようだった。

「それじゃあ・・・。」

暫く、流れる景色・・・と言っても、格納庫内の無機質な壁と、離れていくロッカやクウコを見ていたファスだった。 ロッカやクウコを映す姿が小さくなると、サンゴのおすすめ通り、ふかふかな感触の操縦席内床に座り込み、背もたれのようになってくれているセーフティベルトに体を預けた。 そして、頭部覆いの顎側も装着する。

無機質な通路をしばらく進んで何度か角を曲がると、ファスの視界には、行き止まりの壁が見えてくる。

『壁だ。 どうするんだろう・・・。』

ファスが心配するように考えていると、行き止まりの壁が左右に動き出し、操機1機分よりやや広めの空間が壁内に現れた。

『・・・ああ、エレベーターがあるんだ・・・。』

と、安心するファス。 操機は速度を落とさず、エレベーター内まで歩いて行き、やがて立ち止まると、操縦席内に表示されている映像位置が少し低くなった。 恐らく、しゃがんで姿勢を安定させているのであろう。

開いていた背後の扉が閉まり、何の景色の変化も無く時間が数分間過ぎていく。 そして、今度は機体正面側の扉が開くと、操機も立ち上がったようで、映像位置が再び高くなる。 またも、無機質な通路を数分間進んで行く操機。

暫くすると、曲がり角の先が、より明るい光によって通路を照らし出しているのが目に入る。

「ファスよ、着いたぞ。 地下闘技場だ。」

サンゴの声が聞こえ、機体が目の前の通路を曲がると、そこには以前見た、地下闘技場の広い空間が、操縦席内の各画面に映し出された。 天井一面の青空のような映像が、陽光のような光で、地下闘技場全体を照らし出している。 その光を頼りに、機体は闘技場の機体出入り口から反対側の機体出入り口に向かってさらに歩き、闘技場中央付近でゆっくりと歩みを止める。

「うわぁ~・・・。」

ファスは思わず感嘆の声を上げてしまう。 が、

「・・・ねえ、サンゴ。 今いるここ、本当に地下闘技場なの?」

ファスは冷静になり、半信半疑でサンゴに問いかける。 操縦席内にいるファスにしてみれば、画面映像が変化しただけで、自身の目で移動中の風景を確認したわけではない。 そのためか、少々不安になってきたのだった。

「なんじゃ、疑り深いのう。」

サンゴがそう答えると、ファスが寄りかかっていたセーフティベルトの位置が変化し、ファスの体を包み込んでくる。  その後、ファスはセーフティベルトによって掴み上げられたようになり、一旦、床から数センチ程持ち上げられてしまう。 続けて、

「それじゃあ、ファスよ。 ちょっと苦しいが、我慢してくれ。」

サンゴがそう告げると、操縦席天井付近にあるもう一つの操縦席出入り口扉が開く。 同時に、ファスはセーフティベルトによって天井付近まで持ち上げられて行く。

「うわっ!」

ファスが短く叫ぶも、5~6秒程で天井付近にある出入り口扉から、ファス自身の頭部だけが外部に出た状態になった。 そんな状態になったファスの目には、今度こそ、数日前見たのと同じ、地下闘技場の風景が広がっていた。

「うわぁ・・・。」

と、再び感嘆の声を上げ、その絶景に心奪われてしまうファス。

「さて、納得して頂けたかな。」

しばらくすると、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「うん! 地下の闘技場だね!」

と、ファスは元気よく答える。

「では、操縦席内に戻すから、気を付けてくれ。」

サンゴの声が聞こえてくると、セーフティベルトが徐々にファスの体を操縦席内に戻し始め、天井付近の出入り口扉は音もなく閉まる。 戻り時は、ゆっくりと、10数秒をかけて操縦席床に到達した。

「落ち着いたら、闘技場内を一周回ってみるか?」

と、サンゴが優しい口調で問いかけてくる。 一方、ファスはまだ少し興奮気味で操縦席床に座り込んでいた。 だが、サンゴの声を聞き、

「やる! いつも訓練してるやつでしょ!」

と、元気よく答え、セーフティベルトに補助をしてもらいながら立ち上がる。 そして、頭部覆いの後頭部側に貼り付けていた白い「面」を右手で外し、顔側に手早く装着する。

「準備はよさそうじゃな。 ただし、ファスの調子が悪くなりそうな兆候が出た場合、即座に制御を私に戻すからな。」

と、サンゴの冷静な声が聞こえてくるも、

「了解。」

と、ファスは興奮していた状態から一転、いつになく冷静に答える。

「では、操機との同期を開始するぞ。 まずは、足元の調整から。」

サンゴはファスの声を聞き、操機の同期手順を進める。 数秒もせず、ファスの足元はふかふかした感触の床から、闘技場地面と同じ、舗装された路面のような固い感触の床となる。 続けて、

「ファスよ。 セーフティベルトが服に当っていないか、確認してくれ。」

と、サンゴが指示を出す。 ファスは体を捻ったり、軽く動いたりして、通常位置に戻ったセーフティベルトが服と絡んでいないか確認し、

「大丈夫・・・だよ、サンゴ。」

と、気軽に答える。

「では、次。 服の負荷圧。」

サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくると、ファスが着ている操機主用の服に、重い物を纏ったような圧力が感じられる。 ファスはここ数日おこなっている、いつもの仮想機での訓練を思い出して落ち着こうとするも、相反して心拍数が上がっていくのをファス自身も感じてしまう。

「大丈夫だよ。 次!」

ファスは平静を装い、実機の操機が操作できるように手順を進めようとする。

「それでは、視界を操機目線に切り替えるぞ。」

サンゴが冷静な口調でそう告げると、ファスは自身の心拍数がより一段と上がってしまうのを感じる。 体調が悪くなる時は、視界変更をした後に体調が悪化することが多かったので、

『大丈夫・・・。 落ち着け・・・。』

と、ファスは一旦、目を閉じて心を落ち着かせようとする。 そして、ゆっくり目を開くと、

「お~・・・。」

ファスの「面」視界内には、普段の訓練と変わらない光景がそこに広がっていた。 もっとも、あまりにも仮想空間内との違いが無いため、

「う~ん・・・。 普段の訓練と、変わらないね・・・。」

と、ぽつりと呟いてしまう。 一方、サンゴはそんなファスの呟きを聞き流すように、

「それじゃあ、最後。 操機と同期するぞ。」

と、冷静な口調でそう告げる。 片や、サンゴの声を聞き、ファスは直立状態になる。 それに応じて、操機も直立状態となり、ファスと操機が同期した。

「・・・。」

ファスは実機の操機で同期した感覚がよくわからず、右腕を胸前に掲げ、手を閉じたり開いたりしてみる。 すると、ファスの「面」視界内映像には、機体が、白い塗装の右腕を胸前に掲げ、手を閉じたり開いたりしている映像が映し出される。 感覚的には、胸前に腕を掲げる時と、手を開閉する時、着ている操機主用服を通じ、若干の負荷を感じる。 だが、それは仮想機体の操作でも同じだった。

「どうじゃ、実機の感想は?」

と、サンゴが冷静に尋ねてくるものの、

「う~ん・・・。 よくわかんないや・・・。 仮想機と、ほとんど同じだね・・・。」

と、ファスは実機の操機を操作した感覚がよくわからず、はぐらかすように答えた。 続けて、

「歩いてみていい?」

と、天井を見上げ、サンゴに問いかけるファス。

「ああ、構わない。 だが、ファスよ。 今のファスは、一挙手一投足が、操機と同期している。 つまり、ファスが首を傾げると、機体も首を傾げる。」

と、サンゴが厳しい口調で告げてくる。

「えっ・・・? どういうこと?」

一方、ファスはサンゴの言っている事が理解できず、不思議そうに聞き直してしまう。

「今、ファスがわしに問いかけた時、操縦席の天井を見上げただろ。 この機体も、闘技場の天井を見上げてっしまった。 これが手合い最中なら、手合い相手にもわかってしまう事だから、注意するのだな。」

サンゴがそう告げてくると同時、ファスの「面」視界内の左上端に、ファスが搭乗している操機を外部から撮影した映像が映し出される。 映像内の操機は、おもむろに天井を見上げる動作をしていた。 その映像を確認したファスは、

「ああ! 注意するよ・・・。」

と、少々気まずい気分になり、サンゴに謝るように少し頭を下げてしまう。

「ほら! その動作だ!」

と、サンゴが再度強い口調で話しかけてくる。 ファスも一拍置いて気付き、

「あ・・・。 ごめん・・・。」

と、今回は、直立した静止状態で会話することに成功する。

『それじゃあ、改めて、歩き出すぞ・・・。』

気持ちを切り替えたファスは、仮想機での訓練時と同じ、右足、左足とゆっくり歩き始める。 同時に、闘技場中央に立っていた機体も、ファスの動きに呼応するように、ゆっくり右足、左足と歩み始める。 操縦席内に揺れは一切なく、サンゴの声もないため、ファスは静まり返った空間を一人歩いていた。

暫し歩きに集中していたファスだったが、闘技場の反対側出入り口が近づいてきたため、左に曲がる動作をする。 そこからいつも仮想機で行っているように、壁沿いを歩き、入場してきた出入り口まで歩いて行った。

入場してきた出入り口付近に来ると、

「よし。 ファスよ、一旦停止できるか?」

唐突に、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「・・・うん。」

緊張して歩いていたためか、ファスはあまり大きな声を発せられず、小声で答えるのが精一杯だった。 そして、サンゴに答えてから3歩程歩き、機体を停止させる。

「ちょっと緊張しているようだな。 脳波や心拍数は、異常と言える値にはなっていないが、服内の温度を下げ、酸素濃度を少し上げよう。」

サンゴがそう告げると、ファスが着ている操機主用服内は、ひんやりとした感触が感じられるようになる。 同時に、頭部覆い内の鼻や口付近にも、冷たく爽やかな空気が出てくるのを感じられる。

「どうじゃ、今日はここらで引き上げるか?」

ファスが深呼吸をして呼吸を整えていると、サンゴが優しい口調で提案をしてくる。

「う~ん・・・。 もう少し・・・今度は、走ってみていいかな!?」

ファスは悩み声から一転、元気よく答える。 しばらく後、サンゴからは、

「わかった。 だが、全力疾走はするなよ。 機体が新品で、細かな調整が出来ていない。 呼吸が乱れない程度の速度で走りなさい。」

そう提案してくる。

「わかったよ!」

そう言ったファスだったが、右足を大きく引くと、闘技場中央に向かい、全力疾走を始めてしまう。

「こら! ファス! やめなさい!」

と、サンゴの怒った声が、頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 すると、闘技場中央までもう少しの地点でファスは全力疾走をやめ、ゆったりとした走りに切り替えた。 そのまま闘技場の反対側出入り口付近までゆったり走った後、停止する。 機体が完全に停止し、しばらく後、

「ファスよ、なぜ約束を守らなかった?」

と、サンゴが冷静な口調で問いかけてくる。

「はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・ごめんなさい・・・。」

と、平謝りするファス。

『サンゴ、かなり怒ったかな・・・。』

と、思いつつ、

「えっと・・・。 ・・・どうしても、全力疾走を試してみたくって・・・。」

と、言い訳がましく説明をする。 しばらく後、

「ファスよ。 操機補の助言を実行する、しないは、操機主の自由じゃ。 だが、操機搭乗中は、なるべく私の助言に耳を傾けてくれないか。」

と、サンゴは冷静な口調で告げてくる。

「・・・うん・・・。」

ファスはサンゴの思ってもみなかった反応に、一言発するのが精一杯だった。

『・・・サンゴに・・・悪いことしちゃったな・・・。 レバンさんも、「操機補の話を良く聞け」って、言ってたし・・・。』

などと暫し沈黙し、反省していると、

「さて、疲れただろ。 格納庫に戻るか。」

と、サンゴの口調が明るい口調に切り替わり、そう告げてくる。

「・・・そうだね。 帰ろう! 帰りも、サンゴが操作してくれるの?」

ファスは明るい声のサンゴに同調するように、明るい声で返事をする。

「了解。 ファスはここに来た時同様、床を柔らかくしてあげるので、座って休んでいなさい。」

サンゴがそう告げると、ファスの「面」視界内は、操縦席内を映す通常視界に戻り、着ている操機主用の服負荷圧も無くなる。 そして、固い感触だった操縦席床は、ふかふかな感触へと切り替わった。


自身の格納庫内整備台に帰還したファスと機体。 整備台に収まった機体は、ゆっくり5~6分程の時間をかけて仰向けになり、停止する。

「それじゃあ、操縦席出入り口の扉を開くぞ。」

サンゴの声を座った姿勢で聞いていたファスは、体を預けていたセーフティベルトに補助してもらいながらゆっくり立ち上がる。 「面」と頭部覆いを外し、狭い操縦席出入り口から這い出る。 すると、ファスは、ふと、背後に気配を感じて振り向く。 だが、時すでに遅く、

「ファ~ス! なんでサンゴさんの言うことを聞かないんだ!」

操縦席出入り口のすぐ外で待ち構えていたロッカは、少々機嫌の悪い口調でそう言うと、這い出てきたファスの体を抱え上げるという、手荒な帰還の出迎えをする。

「うわっ! ちょっと、ロッカ! やめて!」

一方、背後から抱え上げられたため、驚いたファスは懸命にもがく。 だが、「人」が人間に怪我をさせるような力を出すことは無く、ファスは難なくロッカの拘束から逃れた。

「まったく! 整備する身にもなってくれ。」

「面」と頭部覆いを外しているロッカは、珍しく真面目な表情で、ファスに向かい小言を言ってくる。

「えっ・・・? 整備・・・?」

と、ファスはいつになく真面目な顔をしているロッカに向かい、不思議そうに聞き直してしまう。

「そう、整備だ。 操機は1回動かせば、必ず整備が必要になる。 まして、計画外の行動をしていれば尚更だ。」

と、不満そうにファスに告げるロッカ。

「そう・・・なんだ・・・。」

と、ファスはロッカから視線を外し、申し訳なさそうに答える。

「まあ、実際の手合いになったら話は別だ。 その時は、存分に暴れていいぞ。 たとえバラバラに壊してきても、必ず修理してやるからな。」

そう言うと、ロッカは再度ファスに近づき、左手でファスの右肩をぽんぽんと優しく叩いた。 一方、右肩を叩かれたファスは、ロッカを見上げると、整った顔が優しく微笑んでいるのが目に入り、

「・・・ありがとう、ロッカ。 よろしく頼むよ。」

と、にこやかに返事をする。 その後、横になっている真っ白な機体を一瞥し、整備台備え付けのエレベーターを使って格納庫床面に降りる。 すると、

「ファス。 機体色の変更指示は承りましたが、形状変更の指示はありますか?」

と、やはり「面」と頭部覆いを外しているクウコが、冷水の入った容器をファスに差し出しつつ近づき、冷静に聞いてくる。

「え~っと・・・。 形状は、このままでいいよ。」

一方、クウコが差し出している冷水の入った容器を受け取り、落ち着いて答えるファス。 続けて、

「機体骨格や、装甲増減、装甲形状変更とか、いろいろできるのは知ってるけど、まずはこの機体を使いこなしたいんだ。 ・・・もっとも、まだ『人』相手の仮想手合いすら出来ていないけどね・・・。」

と、恥ずかしそうに答える。

「そうじゃな。 そのためにも、訓練を積まないと。」

と、ファスとクウコの話を聞いていたかのように、格納庫内の休憩椅子に座っていたサンゴの本体は唐突に動き出し、ファスに近づきながら黒い「面」を向けて話しかけてきた。 サンゴの知能情報が、本体に戻ったようだ。

「そうだね。 それじゃあ、午後からは、いつものように訓練を頼むよ。」

と、ファスもサンゴに近づき、にこやかに答えた。 そして、操機格納庫を出て行こうとしたが、ふと、トエルがいないことに気付き、

「・・・そういえば・・・、トエルは?」

と、ファスは誰に話し掛けるともなく問いかける。 すると、

「トエルは、整備台に入り込んだままだな。」

一拍置いて、ファスの服にある肩スピーカーを通じ、ロッカが冷静に答えてくれる。 さらに一拍置いて、

「ファス、何か御用でしょうか?」

と、トエルの弾んだ声も、肩のスピーカーから聞こえてくる。

「いや・・・。 用って程でも・・・ないんだけどね・・・。」

『う~ん・・・。 トエル本体の姿を見たかったけど・・・呼び出したら、ロッカにからかわれるかな・・・。』

そう考えたファスは、

「それじゃあね、トエル。 また来るね。」

と、襟のマイクに向かって挨拶を告げ、操機格納庫を出て行った。


日は経ち。 訓練を積み重ねたファスは、仮想機の操作もどうにか板についてきた。 サンゴが操作する仮想機を相手にした手合いでも、何とか勝てるまでになった。 そんなある日、

「ファスよ。 そろそろ仮想機で、『人』操機主相手の手合いをしても大丈夫なんじゃないか?」

訓練後、休憩椅子で休んでいるファスに、サンゴから提案がある。

「・・・。」

が、ファスは手に持っていた栄養飲料の入れ物を無表情に見つめたまま、微動だにしない。

「なんじゃ? あまり気乗りしないようじゃな。」

反応の薄いファスを心配したのであろうか、サンゴはファスの間近まで近寄って問いかける。

「うん・・・。 最近・・・なんか・・・このままでも・・・いいかな・・・って思っていて・・・。」

しばらく後、ファスは重い口を開き、僅かに微笑みながらたどたどしく答えた。 続けて、

「・・・少し前までは、『早く手合いをしたい』、『実機の操機を動かしたい』って、思っていたんだ・・・。 だけど、最近は、このままずっと・・・訓練だけでもいいかなって、思い始めちゃって・・・。」

と、小声で話すファス。 一方のサンゴは、ファスの左隣の休憩椅子に腰掛け、黙って話を聞いていた。 しばらく後、

「そうか。 ファスがそうしたいなら、わし・・・じゃなくて、私は訓練に付き合う。 手合いをしたいなら、操機補として、ファスを全力で補助する。 ファスがやりたいように決めなさい。」

やさしいような・・・いや、冷たいような、どちらともとれる回答をするサンゴ。 続けて、

「もし、操機の操縦訓練だけに集中したいと言うなら、それはそれで、出来ることはたくさんある。 だが、残念ながら、ロッカ、クウコ、トエルとはお別れになるがな。」

今度ははっきりと、冷静な口調で答えるサンゴ。

「・・・えっ・・・?」

「人」3体の名前が上がり、さらに、『お別れ』という具体的な言葉が出た途端、ファスははっとなり、驚いた表情でサンゴを見つめる。

「なんじゃ? そんなに驚くことでもなかろう。 実機の操機を扱わなければ、機体整備用の『人』は不要になる。 私だって、ファスが操縦訓練のみや、仮想機専門になるなら、この体は必要なくなるかもしれない。 さらに、ファスが操機戦に関わることを辞めるなら、私自身も・・・」

と、サンゴが淡々と話をしている途中、

「まって!」

と、ファスはサンゴの話を断ち切るように大声で叫ぶ。 続けて、

「・・・まってよ・・・。 そんな寂しい事、言わないでよ・・・。」

一転して、ファスは泣き出しそうな顔になり、サンゴの黒い「面」を見て話す。

「そうは言ってもな、ファスよ。 私は、操機に特化した『人』だからな。 ファスが操機に携わらなくなれば、お別れとなる。 そして、次の操機主が現れるまで、待ち続けることになる。 永遠にな。」

ファスとサンゴ以外は誰もいない共用の訓練室内、サンゴは珍しく自ら「面」と頭部覆いを外し、ファスを見つめ、にこやかに話しかけた。

「・・・いやだ! 僕、仮想機での手合い頑張るし、実機だって乗りこなすよ!」

片や、ファスはサンゴの整った顔を見つめ、真剣な表情で必死に答える。 一方、

「ファスよ。 私のために手合いをするのであれば、それはやめてくれ。 すべては、ファスがどうしたいかだ。」

サンゴは外した黒い「面」を左手のみで持つと、右手でファスの左肩をぽんぽんと優しく叩きながら答えた。


その日の夜。 ファスは昼間にサンゴから言われた事を考え続けてしまい、眠れずにいた。

『・・・サンゴ、なんで・・・あんな事を言ったんだろう・・・。』

自室の寝具上で仰向けになり、考え込むファス。 サンゴの言ったことを考えていたためか、夕食もかなりの量を食べられずに残してしまった。

『私のために手合いをするのであれば・・・』

昼間、サンゴの言った言葉がファスの脳裏に響く。

『手合い・・・。 操機主・・・。 そもそも、僕は、なんで操機主になりたいんだっけ・・・。』

と、自問自答するように考えるファス。

『小さい頃から絵を描いたり、楽器を演奏してみたりしたけど、どれも夢中になれなくて・・・。 でも、あの日見た操機戦・・・。』

ファスに両親はおらず、物心が付いた時から、ずっとイチゴがファスの面倒を見てくれていた。 さらに、ファスが住んでいた場所は、人口密度が極めて少ない場所だった。 近くに遊び仲間などいるはずもなく、イチゴが食事の用意や家事をしている時、ファスは一人メガネ型端末の映像を見て、時を過ごしていた。 そんなある日、ファスはあの操機戦の映像と出会う。 初めて見た操機戦であり、一番の思い出である、銀色の機体と青い光沢の機体の手合い映像を思い出す。 銀色の機体と青い光沢の機体の激しい戦い。

ファスがふと寝具上で上半身を起こすと、周囲は明るく照らし出される。 そして、照らされた光を頼りに、枕元に向かって這って行き、その近くに置いてある「面」とメガネ型端末のうち、メガネ型端末を装着する。

「操機戦。 お気に入りの映像・・・。」

と、小声で指示を出すファス。 すると、メガネ型端末内視界には、過去にファスが見た、操機戦の映像がずらりと並ぶ。 その中の、最上段左端。 ファスが最も気に入っていて、もう何回見直したかわからない程見ている映像に注視する。 メガネ型端末はファスの視線を読み取り、最上段左端の映像を、ファスの視界内に再生し始める。 その映像は、まさにファスが先ほど思い浮かべていた操機戦の映像。 銀色の機体と青い光沢の機体の操機戦映像だった。

枕に頭を乗せ、再び仰向けになりながら思い出の映像を見始めたファス。 その映像を最後まで見終えた後、メガネ型端末をゆっくり外し、

「そうだ・・・。 僕は、これに憧れて、操機主になるって決めたんだ・・・。」

ファス以外誰もいない薄暗い部屋内、ファスは決意を込めるように呟いた。


翌日。 午前中の訓練を終えたファス。 休憩椅子に腰かけると、後ろを着いてきていたサンゴに、

「ねえ、サンゴ・・・。 昨日、僕に、『人』操機主が相手の仮想機戦を申し込んでも大丈夫だ・・・って、言ってたよね・・・?」

と、視線を合わさず話しかける。 一拍置いて、

「ああ。」

サンゴは栄養飲料の入った容器をファスに差し出しつつ、言葉短く答える。

「それで・・・、『人』相手の仮想機手合い・・・。 やってみようと、思うんだけど・・・。」

引き続きサンゴから視線を外し、自信なく、小声で話すファス。

「わかった。」

片や、ファスの小声を聞き取っていたサンゴは、しっかりした口調で言葉短く答える。 一方、昨日、弱気な発言をしたファスにしてみれば、サンゴからは、何かしらの反論が必ずあると思っていた。 だが、何の反論も無かったため、ファスは拍子抜けしてしまい、

「あの・・・サンゴ・・・。 やっぱり、やめたほうがいい・・・とか、意見は無いの?」

差し出された栄養飲料の容器を受け取ったファスは、サンゴを見つつ、不安そうに問いかける。

「今のファスなら大丈夫じゃ! 自信を持ちなさい!」

サンゴはファスの左隣の休憩椅子に座った後、右手をファスの左腿上に置き、力強く答える。 続けて、

「たとえ、ファスが負けそうになっても、わし・・・じゃなくて、私が勝たせてやる!」

と、再度力強く答える。 一方、

『えっ・・・? サンゴがこんなこと・・・言うかな・・・。』

と、ファスは疑問に思うも、

「・・・うん! よろしく頼むよ! 相棒!」

心に思った疑問とは裏腹に、ファスは満面の笑みでサンゴに答えた。


その日の夕食前。 リビングルームのソファーで寛いでいたファスは、突然、黒い服に「面」と頭部覆いを付けた、背の低い「人」が部屋に入ってくるのを見かけた。 ファスは、一目でその「人」がサンゴだと分かる。 一方、サンゴはファスの居場所が分かっているかの如く、広いリビングルーム内を迷うことなく、ファスに向かって歩み寄ってくる。

「どうしたの? サンゴ。」

リビングルームに来る事が滅多に無いサンゴが、夕食前という時間に来たことを不思議に思ったファス。 だらけた姿勢で声を掛けたが、サンゴが自身に近づいて来るのを見ると、姿勢を正して迎え待った。

「ファスよ。 『人』操作の仮想機との手合い日が決まった。 3日後の午前だ。 ファスにも、『手合いの詳細』通知が、『操機戦管理』から届いていると思う。 確認してくれないか。」

と、ファスの前に立ち止まったサンゴは物静かに告げた。

「・・・そう・・・なの・・・。 ・・・わかった・・・。」

と、ファスも静かに答える。 続けて、

「ねえ・・・イチゴ・・・」

メガネ型端末で、サンゴから言われた、『手合いの詳細』を確認しようと思ったファス。 イチゴに端末を持って来てもらおうと、服にある襟のマイクに向かって話しかけた時、

「はい、ファス。」

いつの間にか、ファスの背後に近づき、メガネ型端末を持って来てくれていたイチゴ。 ファスの呼びかけに答えるのと同時、背後からファスの胸前に、メガネ型端末をゆっくりと差し出した。

「うわっ! ・・・ありがとう・・・。」

イチゴは「面」と頭部覆いを外していたためか、優しい声が耳に直接響き、ファスは一瞬驚いてしまう。 一拍置いて、礼を言いつつ端末を受け取った。

メガネ型端末を装着したファスは、視線で通知メッセージを表示させる操作をし、「操機戦管理」からのメッセージに目を通す。

『え~っと・・・。 「操機主ファスへ。 **月**日11時より、第3仮想闘技場にて手合いを行います。 今回は初の仮想手合いなので、手合い相手を通知します。 手合い相手は、「人」操機主の72号。 なお、不明点がある場合は~・・・。 「操機戦管理」より。」』

と、通知メッセージの内容に目を通すファス。 特に不明な点は無かったが、

「・・・ねえ、サンゴ・・・。 この・・・、『人』操機主72号って、古いの?」

と、一点だけ気になったことを、正面に立っているであろうサンゴに向かって不思議そうに尋ねる。

「古いな。 だが、古いからと言って弱いわけではない。 むしろ、経験を記録しているだけに、厄介な存在じゃ。」

と、サンゴは自慢するように話す。

「ふ~ん・・・。」

『厄介な・・・相手か・・・。』

と、暫し考えていたファスだったが、サンゴの話を聞き、もう一つ引っかかることができたため、

「・・・ねえ、サンゴ。 操機補にも、この・・・機番みたいなのはあるの?」

メガネ型端末内映像が切り替わり、通常の裸眼相当視界に戻ったファスは、正面に立っていたサンゴを見つめて問いかける。

「それは、あるが。」

と、サンゴは冷静に言葉短く答える。 すると、

「・・・それじゃあ、サンゴの機番って、何番なの?」

と、少し考え、不思議そうに切り出したファス。

「わし・・・じゃなくて、私の機番!?」

一方、ファスの問いかけを聞いたサンゴは、焦ったかのように、少し大声で答える。 一拍置いて、

「内緒じゃ。」

今度は一転、ファスに聞こえるか聞こえないかの小声で、恥ずかしそうに答える。

「え~・・・。 教えてよ・・・。」

と、サンゴが珍しい態度を取ったので、思わず意地悪に聞き直してしまうファス。 が、

「・・・。」

暫し待つも、サンゴからの返事は無い。

『あれ・・・? 珍しく、答えてくれない・・・。 ・・・こうなったら、人間の権限を使ってでも聞き出して・・・。』

と、サンゴの機番に興味を持ったファスは、人間の権限を使い、「人」への絶対命令を出そうと、

「人間として・・・」

と、サンゴに向かって言いかけた。 だが、よくよく考え、冷静になり、

『・・・まあ・・・。 ・・・「人」にも、隠しておきたい事くらい・・・あるか・・・。』

そう考え、途中で躊躇する。

「・・・やっぱり・・・、なんでもないよ。 サンゴ。」

と、ファスはサンゴに向かい、穏やかに言い直した。

「ファス。」

片や、サンゴはゆっくり「面」と頭部覆いを外した後、静かにファスの名前だけを答えた。 その表情からは、『機番を聞かないでくれてありがとう』と言っているような、安心したような表情が見受けられたファス。

『・・・そういえば・・・。 前に、ロッカが、「サンゴさんは人間で言うところの相当な年齢・・・」って、言ってたっけ・・・。 かなり古いのかな・・・。 サンゴ・・・さん・・・ご・・・まさか、35号とか・・・? いやいや、サンゴの名前は僕が命名したんだし、35号ってことはないだろう・・・。』

と、考えたものの、

『・・・でも・・・。 いつか、サンゴから・・・教えてくれたら、嬉しいな・・・。』

ファスはサンゴの整った「人」特有の素顔を見ながら、そう考えていた。


日は経ち、ファスの仮想手合い当日となった。

「それじゃあ、行ってきます!」

リビングルーム内、「面」と頭部覆いを外しているイチゴに向かって元気に挨拶をした後、小走りで出入り口の扉へ向かうファス。

「いってらっしゃい。 気をつけて。」

片や、優しい声と笑顔で見送ってくれるイチゴ。 ファスがリビングルーム出入り口に到達し、自動で扉が開くと、外には、「面」と頭部覆いを付けたサンゴが立って待っていた。

「おはよう、サンゴ! 今日はよろしく頼むね!」

と、サンゴにも元気よく挨拶をするファス。

「おはよう、ファス。 わかった。」

一方のサンゴは冷静に答えると、ファスより先行して歩き始める。 数歩歩くと、ファスに向かって振り返り、

「ところで、今日は共用の訓練室ではなくてよかったのか?」

と、後ろ歩きで歩みを止めず、器用に尋ねてくる。

「うん! こういう時は、さすがに一人で集中したいしね!」

と、ファスは自信満々に答える。

「後は、ファスの機体番号。 もう一度確認するが、ファスの仮想機の機体番号は、『190919-018198号機』だ。 まあ、手合い進行役からは先に呼ばれるから、気楽に答えなさい。」

と、サンゴは落ち着いた口調でファスに話しかける。

そんな他愛もない会話のやり取りをしつつ、あっという間に自身の訓練室に到着するファスとサンゴ。 訓練室内に入ったファスは、模造武具置き場へ向かい、「ロングソード」と「ミディアムシールド」を取り出し、5~6分程度、軽い素振りを一人で行った。 その後、休憩椅子で栄養飲料を摂取しながら十分な休憩を取り、

「それじゃあ、お願いします。」

ファスは左隣に座っているサンゴに向かい、珍しく畏まった挨拶をした。 その後、頭部覆いと「面」をゆっくり装着し、訓練用操縦席に入って行く。

「手合い開始の時間まで、あとどれくらい?」

と、訓練用操縦席内中央に立ち、落ち着いた口調でサンゴに質問するファス。

「約、15分じゃな。」

と、サンゴの声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくるように切り替わった。

「わかったよ。 ありがとう。」

と、落ち着いた口調で答える一方で、ファスは右肩をとんとんと叩かれる、いつもの感触を受ける。 ファスは背後を振り向くことなく、両腕を肩高まで上げる。 すると、セーフティベルトがファスの両肩、両脇の下から胸部と腹部付近を包み込むように装着される。

「ファス。 セーフティベルトが服を挟んでいないか、確認してくれ。」

と、サンゴが優しい口調で告げてくる。 ファスは体を左右に捻ったり、両腕をぐるぐると振り回してみたりと、色々試してみた後、

「大丈夫だよ、サンゴ。」

と、にこやかに答えた。

「それじゃあ、仮想機との同期を。 と、言いたいところだが、ファスよ。 こういう指示は、操機主が出すものじゃぞ。」

と、頭部覆い内スピーカーからは、苦言のようなサンゴの声が聞こえてくる。

「えっ!? そうなんだ・・・。 と・・・。 わかったよ。 それじゃあ、サンゴ。 ちょっと早いけど、仮想機との同期を。」

ファスは少々緊張しながらも、直立の姿勢になり、改めてサンゴに指示を出す。

「了解。」

サンゴの声が冷静な口調に変わり、言葉短く答えると、ファスが着ている操機主用服全体に、重いものを纏ったような負荷圧がかかる。 足元の見た目と感触も、舗装された路面の見た目と固い感触に変わり、「面」視界内映像も、仮想空間内の操機目線に切り替わった。

「よし。 仮想機体と同期したぞ。」

と、サンゴの冷静な声が聞こえてくる。 続けて、

「武具類も出すので、装備してくれないか。」

サンゴの声が聞こえてくると同時、ファスの「面」視界内映像には、空中に「ロングソード」と、「ミディアムシールド」が浮かび上がる。 ファスは最初に「ミディアムシールド」を右手で掴み、左前腕に装着させた後、残った「ロングソード」の柄を右手で掴んだ。 すると、左前腕には「ミディアムシールド」の重さが再現され、右手も、「ロングソード」の柄を握っている感触が、手袋を通じてファスの手のひらに伝わってくる。 ひと落ち着きしたファスは、改めて自分が置かれている仮想空間内の状況を確認する。 「面」視界内映像は、晴天の仮想地上闘技場中央付近で立っているように見える。 ファスは、ふと、首を動かし、剣や盾を握っている両前腕付近に視線を落としてみる。 すると、

『うわ~・・・。 銀色だ・・・。』

ファスは、自身の操っている仮想機体の表面塗装が銀色なのを見て、思わず興奮気味になってしまう。

「ファスよ、少し落ち着きなさい。 心拍数が高いし、呼吸も早い。」

ファスが自身の機体を把握してから数秒後、サンゴから冷静な口調の指示が来る。 同時に、操機主用服内の空調機能が働き、涼しい風が服内を駆け巡る。 さらに、頭部覆い内の鼻や口周辺にも、冷たく爽やかな空気が流れてくる。 訓練用操縦席内の温度も、少し下がったようだ。

『僕が指示を出さなきゃいけないのに、サンゴが全部やってくれている・・・。』

操作環境が快適になっていくのを感じつつ、ファスは少々反省気味に考えていた。

そうこうしているうち、ファスの耳には、重苦しい音が聞こえてくる。

「えっ!? 仮想手合いなのに、わざわざ入場してくるの・・・?」

と、独り言のように呟くファス。 その呟きに答えるように、正面に見えている仮想闘技場の機体出入り口からは、1体の黒い塗装の操機が、ゆっくりと重苦しい歩行音を立てて入場してきた。 ファスは過去に見た手合い映像を思い返したが、操機戦初期に多かった、飾り気のない機体形状をしているように見える。 そして、右手に飾り気の無い「ショートソード」を持ち、左前腕にも、飾り気の無い円形の「スモールシールド」を装備している。

『レバンさんが言ってた通りの武装だ・・・。』

ゆっくり近づいてくる黒い仮想機体を見ながら、レバンとの会話も思い出すファス。 そして、黒い塗装の機体は、ファスの機体から60メートル程離れた場所で停止した。 しばらく後、

「それでは、時間になりましたので手合いを始めましょう。」

突然、聞き覚えの無い声がファスの頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「えっ!? 誰!?」

その声を聞いたファスは、少々驚き、取り乱してしまうと、

「落ち着きなさい。 『操機戦管理』手合い進行役の声じゃ。」

と、サンゴが疑問に答えてくれる。 一方、ファスはサンゴの回答を聞き、

「なんだ・・・。 進行役の声か・・・。」

と、ひと落ち着きする。 その後、

『・・・僕の手合いが始まるんだ!』

そう考え、今度は今まで幾度も見てきた実機手合いの流れを思い出そうと考え込んでしまい、

「ええっと・・・この後は・・・、双方の機体紹介があって・・・。 その後は・・・、この手合いを観ている人間に、色々アピールする時間があって・・・」

と、ぼそぼそと呟きながら、自身の記憶を辿っていたファスだった。 しかし、

「今回の手合いは、190919-018198号機対、109151-100021号機。 双方、構えて。」

と、ファスが思い描いていたより早く、「操機戦管理」手合い進行役が事を進めてしまう。

「えっ! ちょっと!? もう、手合い開始なの? それじゃあ、もう一回、武具の確認を・・・。」

と、焦ってしまったファスは、左前腕の「ミディアムシールド」や、右手の「ロングソード」をきょろきょろと眺め初めてしまう。

「落ち着きなさい、ファス。 初手で突進するなよ。 じっくり相手をみるのじゃ。」

と、頭部覆い内スピーカーからは、サンゴが冷静な口調で助言をしてくれる。 が、ファスの耳に届いているかは怪しい。 さらに、そこに、

「018198号機、構えて!」

ファスの頭部覆い内スピーカーからは、「操機戦管理」手合い進行役が発した、強い口調の声が聞こえてくる。 その声は、ファスの頭の中に木霊のように響いてしまい、

『・・・198号機って、注意をうけた・・・の、僕!? 構えて・・・武具を確認して・・・構えて・・・突進しないで・・・構えて・・・相手をみて・・・』

と、ファスはさらに焦ってしまう。 しかし、どうにか両腕の武具を胸前までは掲げた。 だが、武具をきょろきょろと眺める状況は続けてしまっていた。

「ファスよ、落ち着き・・・」

と、サンゴは口調を優しい口調に変えた。 だが、その声は、もはやファスの耳に届かなくなっており、

「始め!」

と、「操機戦管理」手合い進行役の放った開始の声だけが、ファスの混乱した意識の中で、はっきりと認識されてしまった。

『始め!? ・・・う・・・動かないと!』

「う・・・うわー!」

開始後数秒、その場でもじもじとしていた、ファスの操る仮想機体。 『何かしないと』と焦った挙句、左前腕の「ミディアムシールド」を機体正面に掲げると、ファスは叫び声を上げながら黒い機体に向かって突進してしまう。 しかし、相手との距離が開き過ぎていたためか、黒い機体は難なく左に避け、ファスが操る銀色の仮想機体の突進攻撃は、いとも簡単に躱されてしまった。

「うわっ!」

一方、突然、目の前にいた相手機体が回避行動を取ったため、ファスは対応できず、黒い機体が立っていた場所より数歩先までよろよろと走り込んでしまう。

『側面・・・いや、背面を取られる!』

危機を感じたファスは、どうにか振り向こうと、訓練用操縦席内で体を無理やり左旋回させる。 だが、旋回速度が速すぎたため、ファスは操縦席内で重心を崩し、転倒しそうになる。

「しまった! 転ぶ!」

そう叫んだファスだったが、セーフティベルトに支えられ、自身が転倒することは無かった。 だが一方で、仮想空間内の機体は重心を崩し、転倒しそうになってしまっていた。

『機体が・・・。』

「面」視界内映像が傾き、仮想機体が転倒することを覚悟したファス。 だが、寸でのところでファスの下半身服負荷圧が変化する。 両足の服負荷圧が無くなると同時、仮想空間内の機体はどうにか両足で踏ん張り、転倒を免れた。

「落ち着け! ファスよ!」

と、サンゴの怒声がようやくファスの耳に届く。

「はぁ・・・はぁ・・・。 サンゴ・・・?」

荒い呼吸をしていたファスは、ようやく我に返ってサンゴに返事をする。 さらに、セーフティベルトが正常位置に戻り、下半身の服負荷圧も戻る。 その後は、仮想空間内の機体もファスと同じ姿勢を取り戻した。

「まずは相手との距離を取り、立て直す! 後退しろ!」

と、再び、サンゴの怒声が飛ぶ。

『えっ! 後退・・・後退って・・・。』

片や、サンゴの怒声に驚いてしまい、今度は冷静になりすぎたファス。 サンゴの言っていることをよく理解して行動しようと、思わず後方を振り向き確認した後、一歩、一歩と、無防備に後退し始めてしまう。

「盾を掲げろ! ファス!」

またもサンゴの怒声が響くと同時、今度はファスの左腕服負荷圧が強まり、締め付けられて腕を持ち上げたくなるような感覚となる。

「左・・・腕が・・・締め付けられて・・・?」

またもやサンゴの声と締め付けられた圧力に反応し、ファスはだらりと下げていた左腕を覗き込んでしまう。 その行動は、同時に、仮想空間内の銀色の機体も頭を下げ、左前腕を覗き込んでしまうこととなっていた。

左前腕を確認したファスは、ようやく「ミディアムシールド」を機体正面に掲げる。 だが、それと同時、掲げた左前腕に衝撃が走る。

「うぐっ!」

左前腕を覗き込んでから盾を掲げたため、十分に力を込められなかった「ミディアムシールド」は、簡単にあらぬ方向へ向いてしまう。 そして、ひらけた視界の先には、「ショートソード」をファスに向け突き出している、黒い機体が立っていた。

『・・・これが・・・手合い・・・。』

仮想空間内とは言え、剣を突き付けられて恐怖を感じてしまったファス。 そんなファスの目の前で、黒い機体はゆっくりと突き出した「ショートソード」を引き戻し始める。 さらに、大きく右横に掲げ、剣戟を出そうとしている黒い機体を、ファスは呆然と眺めることしかできないでいた。

「・・・!」

『・・・誰かが・・・何か・・・言ってる・・・。』

遠くに聞こえる叫び声と同時、再びファスの左腕を締め付けられるような感覚が襲う。

「ファス!」

サンゴの怒声が再び耳に届いたファスは、慌てて左腕を黒い機体に向けて掲げ直す。 銀色の機体が掲げた「ミディアムシールド」は、機体正面ではなく、左胸部付近の不完全な防御位置であった。 だが、黒い機体の横からの剣戟を、「ミディアムシールド」の淵で辛うじて防いだ。 が、そこから黒い機体は連撃を繰り出して来る。 銀色の機体が掲げる「ミディアムシールド」に向かい、斬り付け、突き刺し、斬り付けと、容赦なく攻撃を浴びせてくる。 仮想空間内の手合いだが、現実世界と変わらない打撃音が再現され、ファスの頭部覆い内スピーカーや、訓練用操縦席内には、重苦しい打撃音が響き渡る。 加えてファス自身の左前腕には、仮想機体の盾に攻撃が当たる都度、操機主用の服による衝撃が再現される。

『このままじゃ、盾が・・・壊れてしまう・・・。』

そう感じていたが、黙って攻撃に耐えることしかできないファスだった。 しかし、ここで右前腕の操機主用服からも、掴み上げられるような感覚を感じる。

『えっ!? ・・・そうか! 反撃しないと!』

「うわぁー!」

気付いたファスは叫び声を上げ、右手の「ロングソード」を大きく振り上げ振り下ろす。 勢い余って仮想闘技場地面を殴打してしまうも、気にせず、今度は大きく横に振りかぶり、右から左、左から右へと、「ロングソード」を連続で薙ぎ払った。

一方の黒い機体は、大振り縦切りの一撃を躱した後、銀色の機体が繰り出す連続薙ぎ払いの攻撃を見た途端、後方に素早く退いた。

「はぁ・・・はぁ・・・。 間合い・・・取れた・・・。 はぁ・・・はぁ・・・。」

荒い呼吸と共に、どうにかうわ言のように呟くファス。 そこに、今度は右肩をぽんぽんと叩かれる感覚がある。 再び、ファスは叩かれた右肩を見そうになってしまうも、

「ファス、落ち着いて。 そして正面を見て。」

サンゴの優しい声と共に、背中の両首元付近を押さえられる服負荷圧も感じる。

『そうだ・・・。 今、仮想機と同期しているから、僕の動きは、仮想機にも反映されてしまう・・・。』

そう考えたファスは、サンゴの言葉に従って正面を見続ける。 さらに深呼吸をして、ようやく自身が置かれている状況を把握することになった。 そして、距離を取った相手機体を睨みつけ、

『・・・「人」なのに・・・よくも・・・やってくれたな・・・・。』

自分が思い描いていた操機戦とは、全く違う状況になってしまったファス。 次第に、対戦している「人」に対して苛立ちを覚え始めてしまう。

「うぉー!」

今度はその苛立ちを怒りに変え、「ミディアムシールド」を掲げている左腕に、一層の力を込める。 そして怒声を発しつつ、再び黒い機体に向かって突進していった。


「・・・どこだ・・・ここ・・・?」

ファスが目を覚ますと、自室ではない寝具で横になっていて、わずかに見覚えのある天井を見ていることに気付く。 そして、天井を見上げているファスの視界に、整ったイチゴの素顔が左側から入ってきた。

「ファス、大丈夫ですか?」

と、イチゴは心配そうな表情と口調で、ファスに向かい訪ねてくる。

『・・・あれ・・・? なんで、僕は寝てるんだっけ・・・?』

ファスは自身に起こったことを思い出せず、混乱してしまっていた。

「イチゴ・・・。 どうなってるの・・・? なんで・・・僕は、寝てるの・・・?」

左手で頭を押さえながら上半身を起こしたファス。 少々の頭痛がする中、事態を把握できず、イチゴにうすぼんやりと尋ねる。 すると、

「それは、私が話そう。」

聞き覚えのある声がする。 サンゴの声だ。

「サンゴ・・・? どこ?」

サンゴの声が聞こえた右方向を見てみるファス。 それと同時に、右手を握られてしまうも、優しく触られたため、驚きはしなかった。

「大丈夫か、ファスよ?」

「面」と頭部覆いを付けた「人」が、小さな手を使ってファスの右手を握りつつ尋ねてくる。 尋ねている「人」の声は、まぎれもなくサンゴの声だ。 そうすると、ファスは次第に自身に起こったことを思い出し始める。

『・・・そうだ・・・。 訓練用操縦席・・・。 仮想闘技場で、対「人」との手合いをしていて・・・何回か突進して・・・。』

「サンゴ! 手合い! 結果は!? ・・・僕は、勝ったの!?」

ファスは頭を押さえて具合の悪そうな表情から一転、殺気立った表情に豹変し、サンゴに向かって怒鳴るように聞く。

「ファス、落ち着きなさい。 操機戦は、勝ち負けではない。」

と、サンゴはファスを落ち着かせるように、優しい声で話すも、

「・・・僕・・・負けた・・・の・・・?」

片や、ファスはサンゴの言葉を深読みしてしまったかのように、愕然とする。 だが、

「ファスよ。 手合いは、ファスの勝ちじゃ。 だが、初戦というのを考慮しても、酷い手合いじゃった。」

と、サンゴは優しく話してくれる。

「あ・・・。 ・・・僕、勝った・・・んだ・・・。 よかっ・・・た・・・。」

と、サンゴの話を聞いたファスは、寝具上で崩れるように前のめりになりながら答える。

「ファスよ。 とにかく、ゆっくり休みなさい。 体調が良くなったら、今回の手合い反省会をしよう。」

サンゴは再び優しい口調で告げると、ファスの右肩を左手でぽんぽんと優しく叩き、握っていた右手をゆっくり寝具上に戻した。


以前に来たことのある医療施設部屋で、再度目覚めたファス。 訓練用操縦席内での仮想手合い後、疲労困憊の状況で動けなくなってしまった挙句、さらに嘔吐までしてしまい、医療施設に搬送されてしまっていた。

一度目覚めて、初めての仮想手合い結果を聞かされたファスは、安心したのか、再び眠りについてしまった。 そこから目覚めた時、サンゴはファスの視界内にはおらず、変わりに、以前治療を受けた医療担当「人」がファスのすぐ近くに立っていた。

「身体的な異常はないですね。 極度の緊張と興奮状態が影響したのでしょう。 ゆっくり休んでください。」

中年男性のような声で冷静に話す、「面」が固定されている種類の医療担当「人」。 寝具で横になっているファスの右側に立ち、見下ろしているようにファスに話しかけた。

「わかりました・・・。」

『なんか、以前にも・・・こんなことが・・・。』

そういう既視を感じつつ、医療担当「人」に向かい、小声で答えるファス。 一方、ファスへ休息を勧めた医療担当「人」は、その後ゆっくりと部屋を出て行く。 イチゴは医療担当「人」を見送るために部屋の出入り口へ向かった後、「面」と頭部覆いを外しつつ、ファスの元に戻って来る。 そして、部屋内はファスとイチゴだけになった。

『また、イチゴを心配させてしまった・・・。』

と、後悔するファス。 「面」を外したイチゴの表情は、明らかに心配そうな表情をしている。 こういう表情をされてしまうと、相手が「人」といえど、ファスも心苦しくなる。

イチゴはファスが寝ている寝具左脇の椅子に座り、ファスを見つめ続けている。 一方、ファスはイチゴに視線を合わせられないまま、

「そう・・・いえば、サンゴはどうしたの・・・?」

と、白々しく質問する。

「サンゴは、『実機体の調整がある』と言って、ファスが寝ているうちに部屋を離れましたよ。」

と、冷静に答えるイチゴ。

「ははは・・・。 そうか・・・実機体の・・・調整ね・・・。」

一方、ファスは感情のこもっていない、乾いた笑いで答えた。

その後、ファスはイチゴに何か話そうとするも、何も思いつかなかった。 そして、ファス、イチゴ、共に沈黙してしまう。

いかばかりかの時間が経っただろうか。

「ファス。 操機主を、続けるのですか?」

と、イチゴが沈黙を破り、心配そうな口調で聞いてくる。

「僕は・・・。」

今回は言葉に詰まってしまい、即答できなかったファス。

『・・・こんなに・・・イチゴを心配させてしまうなら・・・。』

ふと、そんなことが脳裏をよぎってしまう。 しかし、

「・・・うん! 僕は操機主になる! やっぱり、操機主になりたいんだ!」


エピソード1-3に続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ