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回復魔法なんてなかった  作者: 仄々 とろろ
第1章 2節 シンシェ・ミリティア公掠団 編
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第十三話 【獣耳女は頭が弱い】


 友達がいなくなったら、また作ればいい


 友達なんていつかいなくなるもの


 だったら今を楽しもう


 今ある環境を謳歌しよう


 生きていくことが大事なんだから


 自分が、一番大切なんだから


 自分が一番可愛いんだから


 誰でも


 誰であっても。


 

「なんだこいつ───住民登録していないのか?」


 執筆官はぼそっと独り言、愚痴を小さな声でぼそっとこぼした。

 ガシガシと頭を掻きむしってイライラしたように筆記官が尋ねた。


「名前」


「チェルストー・イェーツ」


「年齢」


「1───14」


「生まれ故郷」


「コッコリ」


「───ん?」


 執筆官は羽ペンを見て目を落とした。カリカリと書かれる筆記は止まって、ぽたっと落ちたインクをハンカチで吸い取った。

 インクを付け直してそれからの執筆を描き終えたところで筆を置いて机に肘をついて手を組んだ。


「───たまたま尋問官が僕でよかったね。普通ならどうなっていたかわからないね。嘘は無理やり捻じ曲げても均一に矯正される」


 チルはずっと俯いていた顔を上げて執筆官を見た。初めて目を見たが、執筆官の目には複雑な感情が入り混じっている目をしている。

 その目は数秒チルの目を見たきりで見定めていたがため息をついて言い放った。


「気の毒な事件だったね」




「両親の名前は」


 チルは少し思い出して答えた。


 執筆官の目は少し弛んだが、すぐにいつも通りの緊張した後ろから引っ張られたようにひどく緊張した表情に戻った。


 全ての文書と情報を整えると机にトントンと髪を整えてからそれを巻物上に丸めて留めた。

 それを手で持って肘を机に置いて空に掲げると兵士がそばによりそれを受け取った。


「いくぞ」


 チルは槍で小突かれたので立ち上がり扉から外に出た。


「───あぁ、チェルストーくん」


 執筆官が呼び止めて、チルは振り返る。


「君はどの階級になっても生きていけそうな人間だ」


 それを言ったきり、ほんの少しだけ見つめた後、手を払って出て行かせた。




 外に出たらもう二人の兵士と3人他の刑者が地面に座らされていた。

 刑者は誰も口を開かず、兵士だけが淡々とどうでも良い雑談を続けていた。

 俺も座わらされて、見ていると殴られるので目の端で兵士の様子をぼーっと何を思うこともなく見ていた。


「あぁ、そういえばあっちの設備が建て替えされるらしいぞ」


 兵士は廊下の向こうを指さして、もう一人も体をそちら側に向けた。


 その瞬間、目の端で視界が冴えがられた。最初は立ち上がったすらっとした細身の身体によって、ふと気がづいた瞬間には迸る血飛沫の末によって。

 ピシャリと赤い液体が頬につくと同時に俺はそちらに目だけではなく顔と身体ごと向けた。

 そこには口に刃を加えた手足が縛られた女の姿と、脇と首を切り裂かれた兵士と、それに目を向けて唖然とするもう一人の兵士。

 次に俺の脳が目の前の光景を実際に意識が戻る時にはもう一人の兵士が部屋から急いで出てきたところを切り裂かれる場面。すでに俺たちを見張っていた二人の兵士は隣に無惨に喉を掻き切られ血溜まりの上で横たわっている。目を部屋の入り口に戻すとすでに兵士は膝から地面に崩れ落ち頭を地面に強打して動かなくなった。


「───かふ」


 短剣を加えた女性は手を縛られたまま仁王立ちし、振り返ると俺の二つ隣の男の縄を解こうと膝をついて手の縄を





 ちょうど彼女のふくらはぎの部分にかぶりついた。咄嗟に剣を振ろうと振り返った彼女と目が合った。俺は噛みつきつつじっと彼女と目を合わせた。

 残念ながら今は口が塞がっていてしゃべれないが、もしお前が剣を振るって俺の首を落とすなら、その前にお前の大事な足の肉を食いちぎる。

 彼女はめんどくさそうに顔を顰めた。

 足の肉を食いちぎられた状態で逃げるのはさぞ苦労するだろうな。よりにもよって俺は興奮してアドレナリンジャンキーだからかなり食いちぎる。


 どうする───?


 俺はジャンキーで強化された顎で少しだけ強めにふくらはぎに歯を食い込めた。

 そして縄で縛られた手を差し出した。

 彼女はピンとたった耳を硬直させながら自分の手の縄を短剣で切りさった。

 探検を手に持ち直して振りかぶる、ますます歯を食い込ませて肌を破るギリギリまで歯を食い込ませた。


「わかった、わかったから」


 彼女は舌打ちをすると体を俺に覆い被さるように屈ませて俺の腕を持って縄に短剣を突き立てて切りさった。俺は自由になった手をまだ麻痺して感覚が鈍い手を差し伸ばした。

 しかし彼女は短剣を床にほっぽりさった。「満足?」とでも言うように俺を見下ろした。


 俺は足に噛みついた顎を緩め離して。


 少し後づさった隙をついて短剣の方に跳んで掴み、構えた。すでに彼女も後づさった先の兵士の遺体からもう一つの短剣を採取し少しだけ構えてみせた。

 しばらく見つめ合った後で、俺から先に口を開いた。


「逃げるんだろ、ここから。だったら俺も同じ状況だ」


 彼女は頷いた。


「協力することが一番手っ取り早い。なにしろお前が俺を助ける理由がなかったことと同じくらい、俺が逃げるまで同行してもデメリットがない」 


 俺は先ほど彼女が縄を解こうとしたもう一人の男に近寄った。彼女はより緊張して構えたが、俺は彼の縄を切って解放した。すると男は距離をとる俺と一緒に立ち上がった。

 青黒いボサボサの長髪を手櫛で整えてから手首をさすり彼は口を開いた。


「いやぁ───言うとおりだ。なんてったって俺たちは共通して『追われる身』なんだからな」


 彼は手首から目を離して俺を見る。


「だけど、お前さんも俺たちがいなければ逃げるのは難しいぜ?それはわかっているな?」


 俺は頷いた。


 確かに俺は一人で別行動をして逃げれるほど『こういうこと』には慣れていない。


「では、決定だな。おい、こいつも今は仲間だ」


 俺に振り返る。


「そして、お前も俺たちが仲間だ。それをじっくり焼き付けておけよ。とにかく今は」


 さっきのお気楽の口調とは違って文の最後を言い切る際に顔はかなり険しくなった。

 そういうと彼はもう一人の兵士の遺体へ足を進めて、腰当てを探って短剣や鍵らしきものなどを確認して、腰当てごと外して自分につけた。


 俺はその間に先ほど入った部屋の扉を少し開けて中を見た。

 そこには変わりない本棚に囲まれた薄暗い空間だった。


 ただ変わったことといえば、執筆官が机に突っ伏して自らの喉から溢れ出す血液に顔を埋めているだけ。

 手には、自決用の小型剣が固く握られていた。


 ───


 チェルストーは興奮していた。目を食いってまるで違う様子で。


 しかし他の二人は以前のチェルストーのことを知らなかったので「そんなやつか」と流していた。


「抜け道は計画の段階で決まっているからついてきて。」


 獣耳をした女はチェルストーに振り返らずに先頭に走りながら話しかけた。もう一人の男はチラチラとチェルストーの方を見ながらも、周りを警戒しているようだった。


 チェルストーはそんな二人の様子を比べてふと思い、呼吸の合間に尋ねた。


「そんなに突進して急に、衛兵が出てきたらどうなることやら」


 獣耳女は何も答えず、そのピンと立った耳を痒そうにピクピクと動かしながら走るスピードを上げた。


 それにチェルストーと男はやっとのことでついて行っている。男は走りながら途切れ途切れで話しかけた。


「獣人とは、友人がいなかったのですか?」


 チェルストーは首を少しふる。しかし男は顔を前に向けて獣耳の彼女を見ながら話す。


「彼ら、彼女らは、耳が良い。───私たちのちっぽけな耳で想像できないほどにね。」


 やはり、チェルストーは思う。


 そして男はこっそり付け足す。


「その分ね、頭の方はね……」


 ちくりとする彼の陰口は当然彼女の『耳』に入っていただろう。


 しかし、それとも状況がそうさせたのか彼女は駆ける足を止めた。そして、タン、と足のバネを翻したように、身体は地面を離れた。


 宙を一回転しながら、唯一身につけている小刀を遠心力で振りかぶった。


 まるで残影が見えるように軽やかに閃光が反射したかと思った瞬間に血飛沫が宙に舞った。


 何が起こったのか脳内で処理できた小さな時に、すでに二人の衛兵が床に叩きつけられるように倒れて動かなくなった。


 彼女は、いつの間にか地に足がついて立っていた。そのピンと立った耳のように真っ直ぐと背筋を伸ばして。


 まず男を一瞥し、そして、再び閃光。何かが飛んでくる───。


『それ』はチェルストーと男のちょうど間を、目早しく通り過ぎた。


 チェルストーは振り返ってもまだ飛んでいる小刀を目で追うことができた。それはまっすぐと廊下の突き当たりまで飛んでいく。


 そしてちょうど、走って飛び出してきた衛兵の一人の脳天をかち割った。


 ドサリ。


 またして重々しく叩きつけられる音が遠くから残響した。


 再度振り返って彼女を見る。その時にはチェルストーの彼女へ見る目が変わっていた。


 獣耳の彼女は、頬にこびりついた古傷の跡を親指で拭うように擦った。


「ん───ついてこれないなら。おいていくから。」


 チェルストーは確信した。文字通りに確信した。


 彼女、めちゃくちゃ『ツヨい』のだ。

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