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回復魔法なんてなかった  作者: 仄々 とろろ
第1章 忘れさせられた記憶 編
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第十二話 【裏切りと、心残りな言葉を残して】


 ディーナーは階段を一段一段音を確かめながら登って行った。外に出ると大広間の入り口から洋灯の光がぼんやりと、しかし確実に輝いていた。扉は開かれている。

 それが魔術トラップを発動させて鐘を鳴らしたのだろう。

 しかし万全に収まったといえば収まったのか。

 彼女はふと思った。当然、曰く付きであれば侵入者をどうしても良いという口実は逃すことが惜しいことではあった。


「此の館の奉公人にてあらせられるか」

 

 体つきからして若い近衛兵士はよく通る腹から声を出して立っていた。もう一人は外で待っているのだろう。ここは君が悪いと言ってみんな入りたくない。若い奴がはいるくじを押し付けられたのだろう。元気だけで経験のなさを賄っている典型的な教会兵士。彼女は足を引き摺りながら何も答えず参上した。

 無言のままディーナーは腰に手を置いて目で訴えた。それに何も問わぬまま兵士は続けた。


「物音が聞こえて不審に思い参上した、何事か教える義務が貴殿にはあることは知っているだろうな」


 頭をかくディーナー、奥歯を噛み潰しそうな勢いで頬が緊張する。

 

「はい、心得ています。約三名の不法侵入、正当な制裁を加えていたところですが───」


 近衛兵氏は足を踏み鳴らして手を彼女の前にさした。ディーナーは「はいはい」というように手招きをして死体安置所に案内した。


 案内されついていく兵士、入り口の扉に差し掛かったところで洋灯を照らして中を覗き込んだ。二人が使用人に取り押さえられているようだ。少し喉を鳴らす兵士。


「言った通りに、制裁を加えていたところです。これは魔術教会直属で権利を得ている行為です。何も文句はありませんね」


 兵士は頷いてディーナーを追い越して先に下に降りて行った。彼女は眉間を押さえて天を仰ぐ。そして後に続いた。それにしても勝手なやつだ。


「これで全員か?」


 チル達が床で遺体に押さえつけられているのを見て彼は当然の質問をした。


「そうですね」


ディーナーは言い切った後に少し考えた。


「私が知ってる限りは」


付け加えた。


衛兵がメリーの側によると気絶しているのを剣の先で確認してからチルは周りを見ているのに気づいた。


「はなせ」


 兵士は遺体に向かって命令した。しかし何も動かずひたすら押さえつづける遺体。何度言いつけてもその様子なので彼は手でどんと、倒れない程度に肩を押した。遺体は身震いをして兵士の手を振り払った。それに加えて人でもない唸り声をあげた。


「おいっ!」


彼は剣を抜いた。それをディーナーがいつの間にか横にいて制した。


「この遺体達は私の魔術で使っている駒です。彼らは侵入者を押さえつけることのみ目的としています。頼み事でも耳をかす良心も能もないんですよ、私でさえね」


 兵士は舌打ちをして剣を納めた。そしてディーナーにその場所を譲った。彼女は一息をして少し後づさると、何やら詠唱をした。


 ───仁の刻、参上の甲斐、人を解いてその神器を解き放つ。


どさどさ

彼女の周りの遺体が膝から力なく崩れた。一気に力が抜けるように不自然な姿勢で床にぐったりと、糸を失った人形の世に横たわる。

 その瞬間をつくように閃光が一直線に兵士に降りかかる。しかし二刀持った手は衛兵の軽やかな手ほどきにより制された。


「くっそ───」


 メリーは兵士の両手で内側から掬うように両手を手首で掴まれて横に伸ばされるようにがんじがらめになった。

 

「───ふん」


 兵士は彼女を一瞥すると、強靭な鎧を纏った膝蹴りが彼女のみぞおちに食い込んだ。彼女は力なく呻き声をあげて何かぼそっと呪いの一言を呟いてだらりと力が抜けて、意識も飛んだ。それをどしゃりと床に落とすともう一人の男を見た。チルはすでに床に膝をついたまま様子を見ていた。

 兵士が近づくとディーナーが後ろから声をかけた。


「まだ子供なんだからちょっと手を抜いてもいいでしょ?」


 兵士は振り向かずに無言でチルの前で佇む。


「立て、お前の相方をかつげ、上はではこべ」


 チルは周りを見ながらも、兵士は鞘を引き抜いて彼の脇腹をこづいたのでゆっくり立ち上がってメリーの方向に歩いた。


「ねぇ、その前に顔を見せなさいよ」


チルは立ち止まる。無視してメリーの体をまっすぐに伸ばしてはだけた服を綺麗に直した。


「ねぇ」


「発見次第対応は我々兵団に任されている、お前が口を出していい問題ではなくなったんだ」


 兵士は割り込んで言った。ディーナーは腰に手を置く。


「別に命令してないのよ。ただ人として聞いているだけ」


 固まるチル。しばらくしてからディーナーがそばに寄ろうとしたところ、兵士が先に出て鞘で仮面をチルの顔から弾き飛ばした。吹き飛ぶ仮面は音を立ててゴツゴツした床に落ちた。それに身を引きながらもディーナーは俯いた彼の顔を覗き込んだ。


「フゥン」


 ディーナーはそっとフードのてっぺんを摘むように手を伸ばしたが、それをチルは手で勢いよく振り払った。途端にディーナーは勢いを増して強引にフードを掴んで無理やり下に下ろした。力でチルは体を後ろによけぞった。


「───やっぱり」


おろされたフードから長髪が綺麗に流れた金髪が空に舞った。くっと食いしばる目は吊り下がった眉に押し付けられて細く横に伸びている。

 しばらく見つめてからディーナーは握りしめたフードから手をぱっと離して両手を上にあげた。


「ま、しっかり揉まれてきなさい。あんた見たところ友達多そうだしどんな身分になっても生きてけそう」


ふとそっぽを向いて空むチル。それを見てディーナーは意地悪そうな表情を浮かべて耳に口を近づけた。


「あなたは死ぬ間際になんて思うんだろうね───」


言い残すと彼女は立ち上がり手を払った。しかしふと手が裾を掴んだ。チルはグッと彼女のスカートの裾を握って何も言わぬまま俯いた。ディーナーは兵士に顔を向けると、兵士はチルの背中をこづいて急がせた。パサりと手を離した反動で揺れる。そうしてチルはメリーを担いで階段を登った。



「じゃ、後は任せるんで」


 言い訳程度にディーナーは兵士にはきかけて受付の書類をめくりながら白紙に何かを書き込んだ。ため息をついてめんどくさそうに手袋をつけた。兵士は振り返らぬまま二人を連行する。手には当然剣が握られていた。隙なく後ろからいつでも切りつけれるように余裕そうでありながら隙なく二人を伺っていた。

それを見てディーナーは手袋を一つはめて、もう片方を持ちながら入り口までその姿を見送った。


 出てみると、森にはいる麓にはもう一人の背の高い近衛兵が木に寄りかかって退屈そうに待っていた。


 (いいとこだけ持って行く奴ら、嫌いだなぁ───)


 心で毒づきながらも、仕方ないか、と心に落とし所を見つけて鼻から白い息を吐き出した。今日は月が隠れているな、雲が多い。空を見上げながら扉に背を預ける。手に持った片方の手袋をボーッと見つめながら、もう片方の手につけて、部屋の奥に入っていった。


 (片付けめんどくさ)


 そう思いながらディーナーは死体安置所の奥に進んで行った。


 下に行くと散らばった首なし死体が我が物顔で床に散りあっていた。ディーナーは一つひとつお姫様抱っこしながら棺桶に入れてから、首を拾い集めた。


 (あれ、どれがどれだっけ?)


 あの女剣士が暴れまくったせいで頭が数個潰されて後も残っていない。全部は首なしだったし、棺桶はあの乱闘で崩れて中身が溢れ出したりしてる。

 ああぁ───めんどい

 目がとろんと塞がりそうになりながら彼女は訳がわからぬまま遺体についている帯を参考にしながら棺桶に五体満足で詰め込んだ。


 (えーと、後あの友達ちゃんの死体が───)


 それの遺体は首が切られて横たわっていた。腕もちぎれてもうよくわからない状態だ。正直、死体は完全な死体が価値あるわけではないので五体満足で棺桶に一セットとして入れておけば問題ない。にしても、盗人を捕まえることができたのは私の勝ちだけど───死体を数体ぐちゃぐちゃにされたのは腹が立つわね。なんだか勝っただけでプラスがないもの。


 (ん?)


ふと不思議に思った、なぜここまで綺麗に綺麗に五体満足、つまり潰れている部分が少ないのだろうか?どれもほとんど形を残したまま足が切られていたり、ちぎれていたり、衝撃で潰されているやつ以外は、ほぼ綺麗に撮られている。でもちょくちょく頭が潰されていたり。

 違和感を感じながらも、ディーナーには意味がないし、至極どうでもよかった。まぁ、屍術の実践もできたわけだし万々歳で私にとってプラスになったと言うことでいいかな、心に引っかかっていた落とし所を見つけた。


 (まさかね)


 疑問を少し覚えながらも、彼女は特に気に留めぬまま棺桶にひたすら遺体のパーツを詰め込んでいった。全て終わってから2階に上がってベッドに倒れ込んだ。


――――――


 ディーナーが戻るところを確認して、チルは衛兵に振り返って言った。

「遅かったじゃん、なにしてたんだよ」


それを聞いて衛兵は兜を開けて紫の眼を見せた。


「なにが」


「当てようか?肩のあたりが合わなくて甲冑着るのが難しかったんだろ?」


兜の下部分を開けて一息ついた。指効きの顔があらわになった。


「いや、全然違う」


チルは彼女のぶっきらぼうな答えにむっと口をとがらせた。

この全てはもしディーナーに見つかった場合の副作で、いわゆるプランBだった。一番すばしっこい指効きがいち早く抜け出してドンが用意した衛兵の甲冑を着て、入り口から再入場する。そして俺たちを連行するか達で抜け出す。俺たち二人がジルの遺体をバラバラに黒装束の下に入れて。


メリーを気絶させるまでノックアウトさせるのはびっくりしたが、これほどやらなければ信憑性というものがないだろう。メリーには悪いけど。

正門までの道のりを一人分の重さを抱えながらチルはのろのろと歩いて行った。


「まぁでも、ここまで来ればいいでしょ?」


チルはさすがに疲れてきて指効きに訪ねた。


「メリー運ぶの手伝ってくれない?」


指効きはうざそうにため息をついて兜の下部分を改めて閉めた。


「ごめんけどそういうの無理なんだわ」


 は───?

 彼女の投げ出しぶりにそろそろしびれを切らして何か言ってやろうとおもった時に、ふと正門の前の人影を見上げた。

 門の奥には入り口にはもう二人の近衛兵が門に寄りかかって待っていた。


数が合わない。


背丈的にドンではない、ステイルが一人だとしたらもう一人多い。そもそもステイルはここに来るはずではないのだ。作戦ではなんの関わりをかたくなに断っていた。


「───ったく、遅かったな」

 

「ディーナーがすでに取り押さえていた、簡単でこれほどにもないほの早かったよ」


 指効きが後ろから叫んだ。チルは立ち止まって振り返ると、すでに彼女は上半分の兜を締めて再び衛兵に戻っていた。


どういうことだ――?


聞かされた作戦とはまるで違った。これも作の一つなのか?

最悪のオチが脳内でちらめいたが、まだ抑えた。


「おい、ビリー――」


その瞬間に後ろからひどい衝撃が走った。メリーの身体の上で覆いかぶるように手をついて倒れた。


は――?


指効きは顔をのぞき込んで後頭部を掴んで制した。


「どの分際で私の名前を呼んでいる」


何を言っているんだ?


「そんな」


 衛兵二人の足下を見て気づいてしまった。その影にはちょうどドンくらいのずんぐりむっくりな身体が横たわって手を縛られている。


 裏切り。恐怖していた嫌な予想が一気に現実味を帯びた。


 だけどどうして、いつ裏切られた?いつ裏切った。俺はただ単に信じただけなのに。

 それこそが裏切られる人間全てに共通する意識だった。

 ガクリと膝を落としたまま立てなくなった。いつ裏切られた?いつ?いつ裏切られた?

 涙がこぼれそうになるところを目を見るみる開いて押し留めた。その代わり意識が呆然として出る言葉もつっかえて出なくなった。


 (───いつ裏切られた?)


「最初から言ってたこと忘れた?」


確かに言っていた。「あのディーナーを出し抜くことが楽しみだ」と。なのになんでこんなことになりうる?


 だけど一つだけ疑問に思った。

 なぜ指利きは初めから市街近衛兵に密告をして俺たちを捕まえなかったんだ?変装する意味がない。そうだ、そこだ。


「この兵士は───!」


 そこで踏みとどまる。彼女は本当に裏切ったのか?そんなことするか?するだろう。なんて言っても盗人だ。

 だけど盗人も信頼関係で成り立っている、こんなことをしていたら常時どこかの組織へ情報を提供しているスパイであるか。

それともこれも計画のうちであること。


 衛兵は見つめてくる。指ききも当然じっと見つめてくるも反論の文句は一切しない。

 俺は顔を地面に伏せてぽかんと開いた口から自分でも信頼していないことを言った。


「兵士が好き勝手して良いと思ってるのか───」


 二人の兵士たちは鎧の金属を擦って音を立てながら連行した。


 ずっと頭の中では指利きが言った言葉たちを、あの酒場での出来事を思い返していた。 

 

『良い盗みってなんだと思う───?』


 俺は彼女が言った一言を思い出していた。


(盗まれたってことを、盗まれた側が勝ったと思わせたこと)

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