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紗央莉さんシリーズ

最後のクリスマスプレゼント〜裏切った姉に妹から

紗央里さんは、したたかな人。

 今日はクリスマスイブ、久しぶりに姉が暮らすマンションへやって来た。

 いつ以来になるだろうか、おそらく今年2月のバレンタインより以前なのは間違いない。


「姉さん大丈夫?」


 合い鍵を使い部屋に入ると姉は膝を抱え、部屋の片隅で蹲っていた。


「…うん」


 覇気の無い目で私を見る。

 一見すると痛々しい姿なのに、何も感じない。


「ちゃんと食べてるの?」


 青白い顔、肌はカサカサ唇もひび割れて、周りから綺麗だとチヤホヤされていた面影は既に失われていた。


「…なんとかね」


「またインスタントばっかり食べてる」


 ゴミ箱とテーブルの上にはカップラーメンの器が散乱している。

 炊事が苦手な姉だけど、これは酷い。


「何か作るよ」


「ごめんなさい…」


 昔から仕事が忙しい両親に代わり、私達姉妹は簡単な料理を作って来た。

 もっとも殆ど私が作っていたのだけど。


「美味しい…」


「そう」


 姉は出来上がった親子丼を食べる。

 冷蔵庫の中は殆ど空っぽだった。

 こうなるのは予想して、来る途中のスーパーで買い物をしといて良かった。


「連絡がつかないの…」


「そうなんだ」


 食べ終えた姉がポツリと呟いた。

 連絡とは、恋人の久守政志さんの事。


「一体どうしたんだろ…こんな事って今まで無かったのに」


「ふーん」


 上手く相槌を打てない。

 ちゃんと聞いてやらなきゃダメなんだけど。


「紗央里、何か知ってない?」


 おっと、こっちに矛先が向いてしまった。


「政志さんは姉さんの恋人でしょ、なんで私が知ってると思うのかな?」


「だって紗央里は政志と同じ大学でしょ?

 それに高校時代からの顔見知りで…」


 確かに政志さんと同じ大学。

 それと顔見知りじゃない、私にとってそれ以上なんだから。


「いつから政志さんと連絡が取れないんだっけ?」


 さて姉は何と答えるのかな?


「8月くらいかな…」


「4ヵ月前ね」


 本当は5月のゴールデンウィーク明けからでしょ。

 この期に及んでまだ3ヶ月も誤魔化すって、どうなのかな。


「それまで連絡取ろうとしなかったの?」


「直ぐしたわよ、政志の両親や知り合いにも…」


「そっか」


 それを始めたのは先月からだ、こっちは全部知ってるのに滑稽ね。


「政志さんのアパートに行った?」


「もちろん行ったわよ、でも引っ越してて」


 そりゃそうだ。

 政志さんはゴールデンウィークに引っ越したんだからね。

 政志さんが姉に連絡したのは、その時が最後だったんだけど、コイツは煩わしそうな態度で、話もろくに聞かないで電話を切った。

 政志さんの隣に居たから知ってるよ。


「なんで…政志に何があったの?」


「姉さん…」


 政志さんに何があったかじゃなくって、自分が何をしたかって考えないのね。


「とりあえず今日は寝なよ、クリスマスイブに妹と過ごすのもなんだけど」


「そっか…今日はクリスマスイブだったんだ」


 涙目だね、1人がそんなに寂しんだ。


「ほら、ちゃんとベッドで」


「うん…」


 一頻り愚痴を聞いてやったら、ようやく安心したみたい。

 久しぶりの食事と、誰かが居る安心感に気が緩んだのかな?


「さて」


 姉は布団を被るや、直ぐに寝息を吐きだした。

 大学じゃ随分孤立してるみたいだから、話す相手を探すのも苦労してるんだろう。


「自業自得だよ」


 浮気しといて被害者ヅラとは恐れ入る。

 自分から政志さんを捨てて、チャラい男へ靡いて行ったクセに。


「さぞ惨めでしょうね」


 コイツと同じ大学に通っていた一学年上のチャラ男、井治北亮二は所謂ヤリサーを主催していた。

 まんまと毒牙に掛かったのが姉だった訳だ。


 他にも女を食い散らかしていたチャラ男は、あろうことか私にも声を掛けて来た。

 なんでも姉の携帯からデーターを抜き取ったらしい、本当にクズだ。


 頭に来たから、姉の浮気を聞き出して政志さんに教えてあげた、それが5月の話。


 チャラ男は何回か私を誘って来たが、脈無しと知るや次のターゲットに移った。


「本当にバカよね、チャラ男と幸せになれる訳ないのに」


 政志さんと3年も付き合っておきながら、なんで数ヵ月程度の奴と浮気なんかに走ったんだろ?


 政志さんの方が頭も、性格だって良いのは誰が見ても明らかだ。

 外見だって政志さんが数段上、そんなの分かるでしょ?


「しっかり反省してね」


 調子に乗ったチャラ男は先月、危ない女に手を出してしまい、激怒した彼氏によって肉体的、社会的にも制裁された。


 それは刑事事件にまで発展し、大学を巻き込んだスキャンダルになり、姉は居場所を失った。


「バカ…」


 私が諦めたのは、姉さんと政志さんがお似合いの恋人同士だと思ったからだよ、それなのに。


「報いは受けて貰うからね」


 鞄からデーターの詰まったUSBメモリーを取り出す。

 これはチャラ男の携帯に入っていたコイツが浮気していた証拠の写真と動画。

 付き纏われていた時に、しっかり抜き出させて貰った。


「クリスマスプレゼントだよ」


 メモリーを入れた靴下を枕元にそっと置く。

 明日の朝でも確認してくれたらいいな。


 もう政志さんの居場所に姉さんは入れない。

 だけど安心して、お父さん達は見捨てないと思うよ、世間体が一番大切な人達だから。


「こっちに迷惑を掛けなければ良いよ」


 友人達を始めとした、根回しは全て完了している。

 政志さんの傷はこれからも私が癒していく。

 向こうの両親にも分かって貰えてるから。


 鍵を閉め、合い鍵をポストに入れる、もう二度とここには来ないだろう。


「おっと、こんな時間か」


 早く行かないとクリスマスパーティに遅れてしまう。

 今までずっと憧れていた、政志さんや友人達と過ごす、最高のパーティに。


「…メリークリスマス」


 最後に振り返って呟いた。

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