1621話
52階層に足を踏み入れた。周囲は薄暗く、遠くになれば見ることができないのだった。ただわかるのは何もない広々とした空間だということだ。
空にある光源の月は、雲により隠されている。その雲は動くことで、月明かりが薄暗い空間に落とされる。
そこに立っていたの異形の存在だった。地面には通ってきた部分が濡れており、月明かりを反射することで輝いている。
その異形の姿は大量の口が付けられているのだった。掌や手の甲、足、肩、腹、首と大量の口を体に装備しているのだ。その口から垂れる涎が、地面を濡らしていたことで月明かりを反射をしている。
顔には目はしっかりとついているようだ。その顔は上から降り注ぐ月明かりを眩しそうに見ているのだ。目を閉じたときには、瞼の代わりに歯が現れ口を閉じるようにして瞼を閉じる。
その異形は視力は悪いのか、あたりを見渡している。
雲がまだ動き続け、月を覆いかぶさっていた雲は追い払われていくのだった。そして俺たちの方にも月明かりが照らされる。それにより、敵から姿がはっきりと見られるのだった。
異形に見つかったのだ。それと同時だった。全ての口が一斉に動き出し、魔法名を唱え始める。一瞬のうちにして多数の魔法が作られるのだった。これに多数の属性を持っていれば厄介だったが、この個体が持っている属性は、火と風、光だった。その魔法が一斉に放たれる。
それなら対処は簡単だ。圧縮されておらず、固まっていないのなら威力が高い一撃で葬り去るのが一番だ。全体魔力の10%を1本のファイヤーランスにまとめ、異形に向けて放つ。
半分以上の口が同じようにファイヤーランスを唱えるのだった。作り出される魔法が集まり、1つにまとめられる。蒼炎に変わるのだった。
「婆娑羅!」
「やってる!」
蒼炎のファイヤーランスは全体の魔力を10%消費した魔法を簡単に打ち破る。だが、魔法同士がぶつかることで、威力は下がる。そして、俺のファイヤーランスを貫いた蒼炎の魔法は婆娑羅によって焼き払われるのだった。
多重詠唱がこれを可能にしているのだった。婆娑羅の槍も一種の多重詠唱の仕組みを取り入れたものだ。
(攻撃方法は2つ、数か質だな)
まとめられるか、数でくるか。その変化は一瞬だ。
「強いのは任せた。数は俺がする」
「わかった」
分身体を5体召喚し、1つの魔法を作り出すのだった。婆娑羅が魔法を貫けなかった時の保険だ。時間経過による魔力消費で消えないように使っている魔力は、5%残るように設定している。やばくなれば、これが奥の手になるだろう。
(カメラマン邪魔・・・)
全体を写そうとするため、わざわざ距離を空けようとする。危なくなければ距離を空けるのは賛成だ。だが、今は危ないのだから、ここでは動かないでもらいたい。
「敵に近寄るなよ」
「はいはい。後ろのは?」
「予備と奥の手」
「うちを信じろよなー」
まだ婆娑羅には余裕があるようだ。
(魔法封じのデバフが生えていればな・・・)
マジックバッグの中から、スナイパーライフルを取り出すと同時に、地面スレスレで異形の側面に移動していく。
最悪こいつで止めを刺すためだ。婆娑羅と異形は高威力の魔法を作っているものの、互いに見合っていることで時間が経っている。
こっちは我慢勝負だ。後から放った方が、その魔法を防ぐか避けて放ったものを狙うかを選ぶことができる。そのため、先に放った方が負ける。
婆娑羅の魔力操作が強化されていなければ、魔法を維持することはできていなかっただろう。
異形の方は魔法を操作しているが、他の口が回っている。ここで飛んでくるのは、ライトジャベリンだった。
魔力消費を減らすためだ。そして、スピードを上げることでの撹乱と、仲間への不信任から即座に魔法を放つことを狙った魔法だった。その魔法は、作られてすぐに放つことはなく打ち落とされていく。
少し余裕があるため、後ろに白狼を召喚し後は畳み掛けるだけになる。
誤字脱字があればしていただけると幸いです。




