浴窓
浴窓
シウソラムカナ
僕は、風呂に入っている時、時々窓を開ける。主に、のぼせた時にそうする。冬の寒い日は、風呂の中の蒸し暑さと、外の空気の冷たさが、まるで露天風呂のように感じられる。
幸い、僕の家は超がつくほどの田舎にあるため、窓を開けても誰かに覗き込まれたり、みられたりする心配はない。見せるほどのものは何もないが。
今日も御多分に洩れず、少々のぼせてしまった。いつものように、ガラガラと窓を開ける。
「わっ」
声が出た。
外は、雪がしんしんと降り注いでいた。
窓から見える家の郵便ポストの上には、申し訳程度の白い傘が被されていて。
映画のワンシーンのようだった。現実離れしている光景だった。
雪は、風に煽られて、斜めを向きながら落ちてくる。かと思ったら、今度は急に地面に垂直に降りてきたり、逆向きの風に乗ってみたり。
街灯に照らされる雪も、浴窓に入り込んでくるおっちょこちょいな雪も。
その全てが綺麗だった。
かれこれ一○分ぐらい、僕は浴窓からの光景を眺めていたんだ、と思う。
気がつけば、好きな人のことを考えていた。
デフォルトに彼女は綺麗だという事実があって、その人が動いて、もっと綺麗になる。それをみて、愛しくなる。
学校ですれ違って挨拶する時も、運動しているところも、旅行先のストーリーの写真も。
綺麗だ。
長い髪を結んでいるときなんかは、僕を悶絶させる力を秘めていた。
誰にでも見せる笑顔も、まだ見たことがないけど好きな人にしか見せない笑顔もきっと。
好きだ。
恋人は中身が大事って言うけど、僕はそうは思わない。
やっぱり、綺麗なあの人が、一番好きなんだ。
僕に向ける表情も、言葉も、その全てが嘘なんだろう。本心で言ってることなんて一割にも満たない、そうなんだろうな。
僕をずっと子供扱いして、成長を見守るみたいな感じで接してるんだろうな。
そうでしょう?
毎月一緒に飲んでくれるのも、遊びとは言わなくても、時間稼ぎというか、暇な時間を埋めるための時間に過ぎないんだろうな。
それでもいいよ。届かないのは知ってるよ。……って言ってみるけど、やっぱいいはずない。
一緒に時間を過ごせば過ごすほど、忘れられなくなる。
まだ、もう少しでいいから僕の手が届く範囲でいてほしい。
ちょっと年齢が離れていたって関係ない。
マフラー、ちゃんと使ってくださいね。
だいぶ寒くなってきましたから。