第08話 「戸惑う日常の中で」
チュンチュン…。
スズメの鳴き声で、次の日の朝が来たのを感じる…。
いつの間に寝ていたんだろう…泣きすぎて少し目が腫れているようだ…。
少し早いけど、学校に行く支度をしよう。
パジャマから制服に着替えて、髪を梳き部屋を出た。
リビングに入ると、青嶋さんのお母さんが支度をしていた。
「…あっ、おはようございます、ママ…」
桃谷さんの話だと、昔は両親をパパ、ママと呼んでいたらしいから、そう呼ぶことにした。
「あら、おはよう美沙希…あなたから挨拶するなんてね」
そう返事をしながら、青嶋さんのお母さんはすごく驚いていた。
本当に家族の会話がないんだな…と思い知らされる。
「ママは、今日も仕事で遅いから…食事は適当に済ませておいてね。」
「お金はここに置いていくから」
そう言って、テーブルの上にお金を置いていく…家事もしていないようだ。
そのまま振り返ることもなく、玄関に向かい家を出て行った…。
「…なんだか、家族じゃないよ…ただの同居人みたい…」
すごく悲しくなってきたけど、今は何も出来ないから悲しんでいても仕方がない。
少し早いけど、学校に行くことにした…ここにいると寂しさしかなくて、それがすごく嫌だったから。
今日はすがすがしいお天気日和…いつも早く学校に向かう道は、何となく違う雰囲気で
何だか気持ちが良かった。塀の上に野良ネコかな?こちらを見ながら可愛く欠伸をしている…。
私は動物が好きで、特に猫が好きだった…うーん、可愛い~♪
「にゃ~にゃ~可愛いですね~♪」
そう言いながら、猫の喉を触ると、「ゴロゴロ」と喉を鳴らして喜んでいる。
やばい、可愛すぎるよ~♪そんな感じで猫と戯れていると…。
「ねぇ見て見て、あの子可愛いわね~猫を撫でながらにゃ~にゃ~言ってる~」
「ホント!猫も可愛いけど、あの子の方が数段可愛いわね~見てて癒されるわ~」
OLのお姉さんたちにクスクスと笑われながら、通り過ぎて行った…。
恥ずかしいよー!一気に顔が真っ赤になる!!この場から去らないと…私はその場から離れた。
もう少し…ネコちゃんと遊びたかったよ…残念。
少し恥ずかしい思いをしたけど、猫と戯れてすごく気分が良かった。
学校ぬ向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おーい、おはよう~」
俊樹だった、少し走ってきたのか、息を少し切らしながら私に近づいてくる。
私はその場で振り返り、俊樹に向かって挨拶をする。
「うん、おはようー俊樹」
「おう、皆人、昨日は…大丈夫だったか?」
「え!?何が?」
「昨日は青嶋の家で過ごしたんだろう?人見知りの激しいお前だからさ、心配だったんだよ」
って、すごく心配そうな顔でこちらを見てくる…あれ?俊樹ってこんなにイケメンだったっけ!?
何だか気恥ずかしくなって、顔を背ける…さっきも顔真っ赤だったし…見られたくない。
「あーうん、何とかなった…よ?」
「そっか、それは良かった…で、何を照れているんだ、お前は?可愛い奴だな」
「ばっばか!てっ照れてなんかないし!!」
また可愛いとか言う…なんなんだよ、いったい…私は男なんだぞ?気持ち悪い…。
でもまんざら嫌じゃないのが意味が分からない…何この気持ちは!?
「…もう、先に行くよ」
「おい、皆人?」
私はきょとんとしている俊樹を置いて、走り出した…なになに、もうこの気持ちは?
男の時には感じなかった感情だ…頭がパニックになってしまうよ!
少し走って疲れてきた私は、ゆっくりと歩きだす…何とか冷静になったよ、疲れた…。
歩き始めるとまた誰かに後ろから呼ばれた。
「美沙希ちゃ~ん、まって~」
とてとてと可愛い走り方で、近づいてくる桃谷さん、ホント可愛いな~。
何とか追いついて、息を切らしている…そんなに遠くから追いかけてきたのかな?
「ハァハァ…もう!美沙希ちゃんたら、いきなり…走り出すんだもん」
「え!?」
もっもしかして…俊樹とのやり取りを見られたかな…それはそれで…恥ずかしいかも。
「翠川くんと一緒に歩いてたと思ったら、ハァハァ…いきなり走り出すし」
「ふー落ち着いた、何かあったの?翠川くんと」
「ううん…何でも、ないよ?…あの、そうだ!少し用事を思い出して、学校に急いだだけ」
「ふーん、そうなんだ、それで用事はもう良いの?」
やば!理由を何も考えてなかったよ…ここは適当に誤魔化しておこう。
「あっうん、べっ別に急ぎの用事じゃないし、ね?また今度でも」
「ふーん、美沙希ちゃん…嘘が下手だよね~まぁ良いけど」
あう!バレてらっしゃる…桃谷さんには敵わないな…ここは笑うしかないよ…。
「あっはは…」
「それよりも…昨日は大丈夫だった?美沙希ちゃんの家…大変だったでしょ?」
「…うん、うちの家族と違って、すごく…冷たいと言うか、無関心と言うか…」
「うんうん、美沙希ちゃんの両親は、仕事の方が大事みたいだからね~」
やっぱりそうなんだ…桃谷さんの口から説明されれば納得も出来る…。
幼馴染みだから、青嶋さんの家庭のこともよく知っているだろうし…。
「でも、美沙希ちゃんが小学生高学年になるまでは、すごく優しかったんだけどね~」
「え!?そうなの?」
「美沙希ちゃん、小さいころもすごく可愛かったから…すごく愛されてた思う」
「何があったのか、美沙希ちゃん…私には何も言ってくれないんだけどね…」
そう言って悲しそうな顔をする桃谷さん…いったい何があったのだろうか?
これ以上、桃谷さんの悲しい顔が見たくなかったので、話題を変えてみることにした。
「そっそういえば、青嶋さんの方はどうだったのかな?うちの家族と上手くいったのかな…」
「あ!?昨日ね、赤坂くんに連絡を取ったんだけど、上手く行ってるみたいだったよ~」
「そっそうなんだ…良かった…」
何だかんだ無茶な所はあるけど、青嶋さんってコミュニケーション力は高そうだもんね。
うちの家族は理解もあるし、問題はなさそうかな?
「でも、妹ちゃん?だっけ、生意気な態度をとっていたみたいだから締めてやったら…」
「なんか~お兄様と言われて甘えてきたらしいのよ」
「ええっ!?」
あの妹の華凛が…いつも話しかけても、「うざい」とか「きもい」とか…、
あまり相手にしてくれなかったのに?なんで!?
これは、青島さんを問い詰めなきゃいけない…うちの家族の関係を壊して欲しくない!
それから、桃谷さんと情報交換を行った…何かと頼りになる、桃谷さんがいるのは心強かった。
まだお互い、元の身体に戻らないだけでも大問題なのに…うちの家族や青島さんの家族の問題…。
課題がいっぱいで目の前は真っ黒だよ…胃が痛くなってきた…。
『まず…学校に着いたら…青島さんと話をしなくちゃ!』
そう思いながら、桃谷さんと一緒に学校に向かうのでした。