第26話 「偽りの僕…本当の私…」
俊樹との幼い夢を見て、浮かれだっていた私…。
そのおかげで、学校に遅刻しそうなほどに寝坊してしまった…。
急いで支度する私…学校へ向かって走り出した…。
学校へ向かう途中、いろんな想いが溢れ出してきて…、
やっと自分に素直になれた…『本当の私』に戻れた…のに…。
何時からだったのだろう…『偽りの僕』が生まれたのは…。
同年代の男の子たちと関係が築けず…、妹とその友達ばかりで遊んでいたっけ…。
その光景を見られて、みんなからバカにされたけど…妹たちがいてくれたから、
問題なかったんだけど…。
小学校に上がって、妹たちと一緒に行動できなくなってからが、本当に地獄だった…。
毎日、虐められて…バカにされて…何も言い返せなくて…いつも泣いてばかりだった…。
そんなある日の時、いつも虐めてくる男の子たちに、公園に連れていかれて…、
私を男かどうか確認しようって話になって…服を脱げと言われて…。
「くすん…やだよ…恥ずかしいよ…」
「うるさいなーおかま野郎は!男かどうか証明すれば、今日はそれで許してやるよ」
「…本当に?」
「…うう…やっぱり…無理だよ…」
「めんどくせーな!脱がしてしまえ!」
「やー!やめてよー!!」
嫌がる私を数人で身体を押さえつけて、服を一つ一つ脱がされていく…。
私の心はもう限界だった…胸の中で何かガラスが割れたような…『パリーン』って音がして…。
私の意識は…その瞬間、無くなった…。
どうやって家に帰ったのか分からなかったけど…気が付いたら家のベットの上に寝転んでいた…。
ベットから起き上がった時…子供ながら、何か違和感を感じていた…。
目から見る景色が何故か遠い…大きなロボットの中にいるような感覚…ロボットを操作している感じ。
『僕がいるから…もう平気だよ…』
頭の中で、そう言葉が響く…とても安心する…すごく優しい言葉。
『誰…!?』
『僕は…君だよ、そして君は…僕だ』
『よく…分からないよ…』
『今は分からなくてもいいよ…君の心は…すごく傷ついたのだから』
『…だから、ゆっくりおやすみ…』
『…うん、ありがとう』
こうして、『本当の私』は、心の奥底で眠りについたのでした…。
それからは『偽りの僕』が主体で動いていた…。
と言っても、何も変わるわけではない…ただ、心に響かないだけ…。
何もない空っぽな僕に、心が傷つくわけがなかった…。
そう…僕は、『本当の私』を守る壁だったからだ。
いくら『偽りの僕』であっても、仮初の男の子であって…本当の男の子にはなれない。
周りの男の子に合わすことで精いっぱいだった…。
兎に角、周りに合わして『変な子』と思われないように…目立たないように…と。
でも、負けず嫌いな僕は…対抗して…すぐに泣いてしまった…。
それがイジメの対象になると言うのに…。
そんな日が続くある日の時…素敵な男の子に助けられた…。
『偽りの僕』が…空っぽの僕が、心に反応した…。
『本当の私』が少し目覚めて…遠くから眺めている…私は、すごくドキドキした…。
カッコいい彼…ヒーローみたいな彼に…私は、一目惚れをしてしまったのだ。
でも、そんな気持ちをバレる訳にもいかず…『本当の私』だけが持つ感情として、
心の奥底に封じてしまったのだ…これでいいんだ…友達として…彼の隣に居られれば。
俊樹が側にいてくれるおかげで、学校の生活も一変した。
いつも僕をかばってくれる頼れる親友として、一緒に学校生活をしていた。
相変わらずイジメられる僕だけど…泣く回数も減ってきた…。
みんなが僕をイジメても…俊樹だけは僕を認めてくれる…変な人ではないと…。
「皆人、気にするなよ?所詮は他人の言う言葉だから…意味なんかないんだ」
「うん…でも、なぜ僕ばかり言ってくるんだろう、みんなとは違うの?」
「だから、気にするなって…お前の1部分でしか知らない奴が、勝手に言ってる言葉だからな」
「意味…なんかないだ、俺を信じろ、皆人」
「うん、分かった…俊樹のことを信じるね」
いつしか、俊樹が僕の拠り所になっていく…。
このままでは、だめだ!と思っていても…、僕にとって辛い世の中…つい甘えてしまう。
その時からだったのだろうか…『私』と『僕』の境界線が分からなくなったのは…。
俊樹のことを好きなのは…『本当の私』であって、『偽りの僕』ではない。
そう思ってたはずなのに、心にないはずの『僕』にもある感情が生まれてきたんだ。
そう…『恋愛』の感情、人を愛する感情…。
『本当の私』を守るために生まれてきた僕なのに…感情なんて…必要ないはずだ。
そう思っていたはずだけど…そうなっても不思議じゃない…。
だって僕は『私』なのだから…俊樹のことを好きになっても仕方ないんだ。
それに気づいたってことは…もう『僕』の役目はないってこと…。
偽る必要がなくなり…本当の自分として、生きていけるのだから…。
『偽りの僕』は、『本当の私』を守るための盾だけじゃない…。
今まで偽ってきた自分を…本当の自分を…取り戻すために生まれてきたのだから。
『本当の私』が目覚めることが出来て、『偽りの僕』の役目は終わった…。
代わりに僕が身体の奥深くに、眠る番が来たようだ…どうか幸せになってください…。
『み…と』
『おい!みな…と』
誰かの声が聞こえる…そうだ、この声は俊樹だ…。
何だか長い夢を見ていたようだった…ようやく私は目が覚めることが出来た。




