第25話 「私の思い…それぞれの願い…」
「お前はな…男じゃない…女なんだよ!」
私の頭の中は、青島さんの言葉が…ずっと忘れないでいる…。
あれから、理解できないまま立ち尽くす私を、放置して、青島さんと桃谷さんは帰ってしまった…。
俊樹だけが、私から離れず…一緒にいてくれた。
今も一緒に学校を離れて、家に帰る途中…俊樹が心配して着いてきてくれる。
それがすごく嬉しくて…私1人だと、青島さんのあの言葉を聞いてどうなっていたか…。
「大丈夫か?皆人…」
「…うん、心配してくれて…ありがとう」
「しかしあれだな…青島のやつ、容赦ないよな…はっきり言いすぎだ」
「…すごくショックだけど、私を思っての言葉なんだろうね、多分…」
あの一件は、私のアイデンティティを壊すほどの破壊力がある言葉だった…。
私は…ずっとカッコイイ男になりたかった…そう思って、生きてきたのだから。
でも、他人から見たら…そうではなく、『女性』と思われていたのかな…。
『同じ悩みを持つ者だからな、分かるんだよ…お前は、すごく勘違いをしている』
『少しの間だけの生活だけど…はっきり分かったぜ?俺と同じ悩みを持つ者だとな…』
『だから、この身体の入れ替わりも、ひょっとしたら偶然じゃないのかもな…』
『まぁ…難しいことは、俺には分からないけどな~!』
同じ悩みを持つ者同士とか言われても…イマイチ、ピンとこない。
生まれてから、ずっと…男らしく生きていくと、心に決めてきていたのに。
青嶋さんの言葉が…私の頭の中で何回も響き、私の心を揺るがす。
「…青嶋の言っていることは、分かる気がするんだ」
「実はな…俺も昔からそう思っていたんだ、皆人のこと」
「え!?昔からって…いつから?」
「お前と出会って、はっきりと覚えていないが…。」
「お前といつも一緒にいて…一緒に遊んで、いつの間にか、そう思い始めていたんだ…」
「…そうなんだ」
「こんなこと言うと、お前は怒ると思ってさ…ずっと胸の内に隠していたんだけどな」
そう言って、バツ悪そうな顔をする俊樹…頭を書きながら…。
「お前が青嶋と身体が入れ替わったときに…悪いとは思いながらも、これは運命だと思ってな…」
「つい、我慢できなくて…お前に告白してしまったんだ」
そう、自分の思いを告げる俊樹…みんなそれぞれ思い悩み、頑張っているんだな…と。
それに引き換え、私はどうなんだろう…青嶋さんと身体が入れ替わって、
泣き叫ぶだけで、自分では何も考えずに行動してこなかった…。
いったい、私は、これからどうして行きたいのだろう…か。
俊樹からの本当の気持ちを聞いて、嬉しい気持ちがある…。
むしろ嫌な気持ちは、少しもない…これで良いのだろうか?
自分の思うままに…生きていても…。
それなら…過去の自分と決着をつかなければならない…前に進むためにも!
「…うん、分かったよ、俊樹の告白の返事は、必ずするから、少し待っててね」
「…おう、良い返事を待っているよ」
俊樹に家まで送ってもらって、別れた。
青嶋さんともう一度、話し合おう…これからの自分のために…。
その夜…私は、夢の中で…幼いころの自分の出来事を思い出していた…。
そう…初めて俊樹と出会ったのは、同じ小学校に通っていたころだった…。
「やーいやーい、もやしっこ!」
「女みたいで、気持ち悪いなー!」
「何か言ったらどうなんだよ、おかま野郎!」
僕の周りに、いつものイジメっ子たちが囲んで、いつもの言葉で罵ってくる…。
やめてよ…僕は…女じゃない…男なんだから!
でも…怖くて怖くて…何も言えずに、泣く事しか出来なかった…。
そんな時に、彼がやってきたんだ…。
「おい!やめろよー泣いてるじゃないか!!」
「あっ!?何だよお前は?おかま野郎をどうしようが…俺らの勝手だろう?」
「おかま野郎!?…どう見ても女の子じゃないか」
「そうだろ?見た目は女なんだよな~こいつは!でも男なんだぜ?」
「男だろうが女だろうが、集まってイジメるのは良くないぞ!」
「なんだと!?やっちまおうぜ、こんなやつ!」
「おう!」
そう言って、僕の周りからいなくなって…俊樹の方に向かうイジメっ子たち…。
そのイジメっ子たちは、簡単に返り討ちにする俊樹…とてもカッコ良かった…。
ああ…そうだった…思い出した…僕は…青嶋さんになりたかったんじゃない。
俊樹のように…なりたかったんだ…彼の隣に並べるような男に…なりたかった。
それは…今は叶うことのない…ううん、今でも彼の隣に並べることが出来る。
僕は…ううん、私は…彼のことが好きなのだから。
『ようやく…気付いたね…本当の気持ちに…』
「え!?…本当の…私?」
『そうだよ…心の奥底に隠していた…本当の私』
「じゃあ今の私は…そうか、偽りの僕…なのか…」
『そう…本当の私の心が壊れないように作られた…偽りの僕』
「ありがとう…偽りの僕…私を守ってくれて…おやすみなさい…」
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「み…さ…き」
「うーん」
「起きなさい!美沙希~!!」
「はいっ!」
「…やっと、起きたわね…大丈夫?時間ないわよ」
「ふぇ!?…おはよう…ママ」
「ほら!シャキッとしなさい!!本当に時間ないわよ?」
「えっ!?ヤバイ、遅刻しちゃう!!」
今から急いで着替えて、走れば何とか間に合いそうだ!
朝ごはんも…お弁当も、今日は諦めるしかなさそう…。
「じゃあ、ママは先に行くね!…とても幸せそうな寝顔だったわよ?美沙希」
「彼氏の夢でも見たのかしら…良いわね~青春だわ~♪」
「もう!ママ、そんなのじゃないから!!」
「ふふふ、じゃあね~車には気をつけなさいよ~」
「は~い、行ってらっしゃい、ママ」
青嶋さんのお母さんは、仕事に出かけて行った…1人だと起きられなかったよ…助かった。
兎に角、制服に着替えて、髪を梳いて…顔を洗って…軽く化粧をして…よし!出かけよう!!
とても幸せそうな寝顔だった…ヤダ、今頃になって恥ずかしくなってきたよ…。
俊樹と、どんな顔で会えばいいのだろう…何を話しよう…何か楽しくなってきた~♪
やばいやばい、顔が緩んできちゃうよ…今は急がなくちゃ!
学校へ向かう交差点…ここは確か、青嶋さんと身体が入れ替わった場所だ…。
もう…何だか、かなり昔のような気がしてきたよ…そう思っていたら…。
「えっ!?」
「げっ!?」
曲がり角から、出てくる青嶋さんが…目の前に…いた…。
凄い衝撃と共に…私の意識が途切れてしまったのでした…。




