File1「其の名はジャック」
ジャックは自分の従機の中で、必死に死んだふりを続けていた。従機とは全高4~5メートルほどしか無い、廉価版の機兵である。その能力は低く、一般からは機兵扱いされないほどなのだ。
その操縦槽に設置してある、性能のあまり良くない映像盤に、自分に興味をなくした敵機……。ジャックの従機とは比べ物にならないほど強力な、陸戦の王者、戦場の覇者たる全高八メートルの機装兵がよぎっていくのが映る。
……その行く手には、抵抗できない徒歩の仲間達がいる。
映像盤に映る照準を、ジャックは一生懸命に敵機の脚間接に合わせる。チャンスはこれしかない。この従機を作ってくれた、冒険者組合の技師であるダライアス師の言葉が、脳裏によぎる。
『魔導制御回路を書き換えて、わたしの使ってる照準プログラムを載せておいた。あとは君の腕しだいで、わたしが機兵相手にやってる技……。敵機の関節を貫いて行動不能にする『間接貫き』が可能だ。あくまでも理論上だがね』
ジャックの機体は従機である。その反応性は低く、動作の精度も甘い。敵機の関節部を狙うのは至難と言うレベルでは済まない。
また射撃武器である『魔導砲』は普通、装甲の無い魔獣相手の武器である。装甲を施された機装兵相手では、関節部以外に命中したところで、効果は望めない。
勝てる可能性はほとんど無い。しかし、彼と仲間が助かる可能性もまた、これしかないのだ。
ジャックは残る魔力を機体に漲らせると、死んだふりをやめて全砲門を撃ち放った。