File22「筋力増強」
ガゴオオオォォォン……!!
ガギイイイィィィン……!!
鋼と鋼がぶつかり合う、轟音が響く。いや厳密には鋼よりも更に強靭であったり、あるいは更に堅固であったりする、錬金金属の装甲板や武器だったりするのだが。そう言う素材でなくば、全高八メートルものサイズである巨大な機兵の機体や武具にはなかなか使いづらい。
何故ならば、物体と言うものは巨大に作れば作るほど、脆く壊れやすくなるからだ。例えて言えば、高さや幅、奥行きなどが一メートルサイズの巨大な豆腐を作ろうとすれば理解してもらえるだろうか。そんな巨大な豆腐は、自重を支えきれずに潰れてしまう。まあこれは極端な例であるが。
ピピピピピピピピピピピピピ……!!
『……タイマーが鳴った! パワーアンプ機構、切り離しします!』
『こっちもだ! 時間切れ、パワーアンプ機構、切り離しだ!』
自由都市同盟首都、中央都市アマルーナの城壁外に広がる冒険者組合の演習場に、ジェナ・スホーンデルヴルト中尉と、フーゴ・グラッツラ・ディンフィンブルム中尉の叫びが響き渡る。その声は、機装兵のコクピットである操縦槽に装備されている、拡声器を通しているために少々歪んでいた。
二人の中尉は、どちらも自由都市同盟に数多く居る亜人族、その中でも身体に獣の特徴を色濃く残した獣人、獣牙族だ。ちなみに獣人タイプ亜人であっても、猫や鼠など一部の種族は猫人族や鼠人族など、固有の種族名で呼ばれるものも多々存在するが。
そして、演習場に轟音が響く。
ガゴン! ゴゴオオオォォォン!! ガラガラガラ……!!
二人が乗っていた機兵……。機兵の内でも上位の標準的な中量級機体である機装兵という機種なのだが、それに外付けにされて肘や膝、肩や腰にくっついていた装置が切り離されて大地に転がった。
するとその装置は、地面の上で煙を吐き出して、ジュウジュウと音を立てつつ融け崩れて消滅して行く。ジェナ中尉が乗る旧式機装兵『ミーレス』と、フーゴ中尉が駆る同じく旧式機装兵『レギオン』は、そちらに機体の眼球たる魔晶球を向けて動きを止めていた。
『ふぃ~。機構の切り離しは、時間がきたら自動でされる様に作った方がいいんじゃねえかな。うかつに装置をくっつけたまま戦ってたら、装置が融解しちまう際に機兵本体がダメージ受けちまう』
『それはわたしも思うな。ただ、戦闘中に唐突に時間切れして勝手に切り離しされてしまうのも問題だ。タイマーの警告音は残して置いた方が良さそうだ』
ちなみに彼らの周囲では、同様の機構を機体に装備した雑多な機装兵が、彼らと同じように模擬戦を繰り広げていた。その機種は『ミーレス』系列機、『レギオン』系列機、『ミーリテス』や『マーセナル』など他国からの輸入機の他、『ロイヤリタート』系列機、『スペーア』系列機、『フォート』系列機、『フォッシュ』系列機、『シメオン』等などの自由都市同盟は都市同盟軍オリジナル機も見られる。
更には『バルザック』に『キャットフィッシュ』『ジュダ』と言ったアイオライト・プロダクション製の機体、『イグナイト』や『カヴァリエーレ』に『セレンザ』『エクセレンザ』と言った同盟企業カルマッド機兵工房製の機体、『リャグーシカ』系列機や『ヴェーチェル』と言ったロココ設計所の機体、傭兵協会の標準機体である『スパルタクス』、冒険者組合設計の『ブロッキアーラ』『ドランゲン・スタイン』『アーミィ・アント』『ホルニッセ』までも存在していた。
数は少ないが聖王国の軽機兵メーカー、アリアンス・ディー・アトリー社設計で同盟企業シームド・ラボラトリーがライセンス生産している『フィガロ』、そしてそのシームド・ラボラトリーが独自生産した『オートクレール』等、軽機兵の姿も見える。まあ軽機兵は軽量であるが故の機動性能が大事なので、追加装備により重量が嵩むと言うのは、あまり歓迎はできないはずだが。とりあえずその軽機兵も、数機ばかりだが在る。
もっとも機体を動かす操手の数が足りない事もあり、それら機兵の大方は、操縦槽の扉を開けて駐機姿勢を取っていたのだが。
と、そこへ新たに三機の機装兵が姿を見せる。一機は今現在模擬戦を繰り広げている実験部隊の隊長、アレクシア・アーレルスマイヤー大尉の乗機である、『ロイヤリタートTypeⅣ』だ。そして一機は試作実験機で『ドランカード・タイガー』と呼ばれる機体であり、都市同盟軍中央軍参謀本部所属の士官、ララ・エルナンド中尉が今現在借り出している。
最後の一機は、実験部隊の直接の上官であり都市同盟軍研究所より冒険者組合へ出向中の技術中佐、機兵技師ダライアス・アームストロングが自身の専用機として用いている『アーチャー・フィッシュⅡ』だ。ちなみに初代『アーチャー・フィッシュ』はかつての惨禍、バフォメット事変の際に撃破されて喪失している。この機体はその初代『アーチャー・フィッシュ』の代替として、ダライアス師が用意した機体であった。
アレクシア大尉が『ロイヤリタートTypeⅣ』から叫ぶ。
『ああ、手を休めるな! 敬礼は不要だ! 全員パワーアンプ機構の試験を続けろ!』
『『『『『『了解!!』』』』』』
実験部隊の面々は、引き続き模擬戦を続けた。そんな中、とりあえず試験項目を完了してパワーアンプ機構を破棄していた、ジェナ中尉の『ミーレス』とフーゴ中尉の『レギオン』が歩み寄って来る。
フーゴ中尉とジェナ中尉は、ダライアス師たちに報告を行った。
『親分、たいちょー、『レギオン』と『ミーレス』の、パワーアンプ機構に関する一通りの試験は終わりましたぜ。一応は想定された試験項目については問題なしですな。けれど……』
『はい、時間切れになったパワーアンプ機構を切り離し措置をするのは手動ではなく、自動装置によって行われるべきかと愚考いたします。ただ、突然に切り離しされると操手側が混乱する可能性もあるので、警告音は残しておいた方が良いかと』
『うむ、その件は他からも上申を受けているよ。次の試作品からは、その様に修正が為される予定だ』
やはり皆、考える事は同じだと見える。ジェナ中尉もフーゴ中尉も、問題点が既に改善されている事に安堵した。
ここでフーゴ中尉が、ぽつりと疑念の言葉を漏らす。
『しかし……。この機兵の筋力を短時間だけとは言え劇的にパワーアップさせる、パワーアンプ機構……。これ、効果のほどは物凄いとは思うんスけどね。
でも、こんな旧式の『レギオン』や『ミーレス』、あっちにあるⅡ型系列の『リャグーシカ』とかに対応できるかまで、検証する必要あったんで?』
『あるんだ』
『あるんスか』
この『レギオン』と『ミーレス』という機装兵は、それぞれアルカディア帝国と、カーライル王朝・聖王国における、第五世代機兵の走りとも言える機体である。厳密に言えば、聖王国においての初の第五世代機兵は、『ミーレス』の原型となったプロトタイプ、伝説的な戦果を為した機装兵『ノヴレス』シリーズなのであるが。
更に言えば、『レギオン』は帝国だけでなく聖王国や自由都市同盟まで含めた三国、それどころか全世界的に見ても初の第五世代機兵である。この『レギオン』は、それまでの戦術ドクトリンをひっくり返した画期的な機装兵であった。
『レギオン』登場前の時代、機兵には噴射推進装置の類は搭載されておらず、基本的に機動力はその両の足による主脚移動によるものであった。そのため、聖華暦三〇〇年代初頭から半ばにかけて、遠距離砲撃が可能でなおかつ機兵よりも航続距離が長い当時は理想の兵器、陸上艦が出現すると、それまで戦場の王者であった機兵はその王座を滑り落ちる事になる。
陸上艦側からすれば、鈍重な機兵など遠距離からの集中砲火で潰してしまえば良く、敵が接近を試みてもしょせんは足で歩くしか無い機兵はこちらが退き撃ちをすれば簡単に対処できる。故に陸上艦、それも巨大な陸上戦艦は陸戦の花形であり、戦場の覇者であったのだ。……大艦巨砲主義の時代の、幕開けであった。
だがしかし、聖華暦六一〇年、第三次聖帝戦争開戦。この戦争に、アルカディア帝国はそれまでの第四世代機兵に代わり、第五世代機兵『レギオン』を投入する。これは強力な噴射推進装置を搭載しており、凄まじいまでの機動力と移動力を兼ね備えていた。
カーライル王朝・聖王国の陸上艦は、ホバー推進システムによる高機動が売りの新型艦艇で統一された、強力な艦隊であった。しかしながら細かい機動性は望むべくもなく、まるで軍隊アリにたかられる獲物の様に、高機動性を誇る『レギオン』にことごとく叩き潰されたのである。これが大艦巨砲主義の時代の、幕引きであった。
だが聖王国も黙ってはいない。第五世代機兵『ノヴレス』でデータを取って、その生産型である『ミーレス』を完成させてなんとか戦況を持ち直したのだ。そして『レギオン』と『ミーレス』はその派生機まで合わせて莫大な数が生産された。
閑話休題。ダライアス師は語る。
『『レギオン』と『ミーレス』は、既に二百年前に初号機がロールアウトした旧式機ではあるんだがね。第三次聖帝戦争が終戦して、ダブついた中古機体が大量に同盟へと流れて来た。まあ、その結果として『ロイヤリタート』系列機とかが同盟で生まれたりもしたんだがね』
『『はぁ』』
『その結果、時代遅れになったはずの八三五年現在に於いても、近代化改修された『レギオン』や『ミーレス』は都市同盟軍の正規軍からこそは姿を消したものの、冒険者や傭兵には未だに使用されている。……未だに使われているんだ。』
ダライアス師の機体、『アーチャー・フィッシュⅡ』の眼である魔晶球が、フーゴ中尉の『レギオン』、ジェナ中尉の『ミーレス』を走査する。『アーチャー・フィッシュⅡ』は、器用に肩を竦めた。
『だからこそ、冒険者組合としてはこの機兵の筋力を一時的にではあるが爆発的に向上させるパワーアンプ機構を実売前に試験するにあたり、色々な機種で対応できるかどうか確認しておく必要があるんだ』
『なるほど、親分』
『まだ使われてたんですね……』
納得したジェナ中尉とフーゴ中尉は、試験する機体を乗り換えると、再度パワーアンプ機構のチェック作業に戻った。
*
『……で、トライアルの操手が俺ですかい? 『ロイヤリタートTypeⅢ』を使うんなら、その発展機である『TypeⅣ』に慣れてるアレクシアたいちょーの方がいいんじゃないスかね? いや、既にトライアル会場に来てまで文句言うのも何だと思いますがね』
「アレクシア大尉は、ちょっとばかり腕が立ち過ぎるとの事で、都市同盟軍の方から却下された。かと言って、並の操手だとパワーアンプ機構の利点を上手く引き出した戦いぶりができるかどうか、不安だからなあ」
「ジェナ中尉か、貴官か、どちらかの選択肢しか無かったのだ。で、ジェナ中尉はちょっと心持ち体調不良だったからな。自信を持て! 胸を張れ!」
ここは自由都市同盟首都、中央都市アマルーナ東側城壁外に存在する、都市同盟軍演習場である。ちなみに都市本体を挟んで西側の城壁外には、冒険者組合の演習場が広がっている。
今、都市同盟軍演習場では、先日ほぼ完成のレベルまで出来上がったばかりの、機兵用の外付けパワーアンプ機構を都市同盟軍の装備として採用するかどうかの、トライアルが行われるところである。トライアルの相手は都市同盟軍の現役機。それに対し、旧式機である『ロイヤリタートTypeⅢ』で善戦できれば合格であった。
今ここに、機体各所にパワーアンプ機構を装備した『ロイヤリタートTypeⅢ』が、ダライアス師、ララ中尉、アレクシア大尉と共にやって来ていた。『ロイヤリタートTypeⅢ』の操手は、先ほどのやり取りで判る通り、フーゴ中尉である。
やがて都市同盟軍研究所、一般には開発局と言われる事が多いが、そこで軍事工学研究部門を率いている技術大佐、エリベルト・エルナンド師がトライアル相手の機体を引き連れてやって来る。ダライアス師、ララ中尉、アレクシア大尉は敬礼を送った。ワンテンポ遅れて、フーゴ中尉の『ロイヤリタートTypeⅢ』も敬礼を送る。
エリベルト師と周囲の技師たち、そして彼が引き連れて来た重機兵が、答礼を返してくる。それを見て、フーゴ中尉が機上から小さな声で言葉を漏らした。
『……重機兵『フォート』。……うそーん』
「聞こえてるぞ、フーゴ中尉」
この『フォート』という重機兵は、聖華暦八一二年に初号機がロールアウトし、配備開始された都市同盟軍の主力機兵である。この機体はなんと、魔導炉に出力を増強するエーテリック・アクセラレーターと言うシステムを組み込んだ、第七世代機兵だ。
まあその内でも、比較的廉価なタイプではあるのだが、第七世代は第七世代。基本的な魔導炉のエーテル出力は第五、第六世代機兵とは段違い。そして重機兵であるが故に、そのエーテル出力を使いこなせるだけポテンシャルの高い、魔力収縮筋をも搭載している。
普通であれば、第六世代機の端になんとか手が届く程度の『ロイヤリタートTypeⅢ』では、太刀打ちする事すら難しい。それほどに、基本的な値段とそれに基づく性能の差が顕著なのである。
だがエリベルト師が、にこやかな笑顔を浮かべて言葉を発する。
「フーゴ中尉、だったな。そんなに心配するな。無理に勝つ必要は無いからな。善戦してくれれば、それで目的は達成される」
「そう言う事だ。負けてもかまわん。一矢報いるぐらいはして欲しいし、無様な負け方をしなければ大丈夫だ。……無論、勝ってしまっても構わんよ?」
ダライアス師も、にやり笑いを浮かべて『ロイヤリタートTypeⅢ』にサムズアップを送る。フーゴ中尉は、やれやれとコクピットである操縦槽の中で、肩を竦めた。
やがて、のんびりと談笑しながら都市同盟軍の高官たちがやって来る。いよいよトライアル本番が始まるのだ。
*
そして都市同盟軍高官たちは、目を見張った。ダライアス師とエリベルト師は、にこやかに笑みを浮かべる。ララ中尉は無表情だし、アレクシア大尉はいつも通りバケツ型ヘルムを被っているので表情が分からない。
何が起きたかと言うと、フーゴ中尉の『ロイヤリタートTypeⅢ』が『フォート』の叩きつけたランスを、真正面から片手半剣で抑え込んで見せたのだ。普通であるならば、『ロイヤリタートTypeⅢ』の片手半剣が『フォート』のパワーに負けて弾き飛ばされ、『ロイヤリタートTypeⅢ』の胴体にランスが叩き込まれているのが当たり前なのである。
軍高官の、驚愕の声が響き渡った。
「こ、これは!」
「『フォート』のパワーに真っ向から対抗している!? 対抗できている、だと!?」
いや、『ロイヤリタートTypeⅢ』は『フォート』のパワーに対抗するどころか、そのランスを逆に弾き飛ばす。まるで万歳をするかの様な姿勢になった『フォート』に、フーゴ中尉は自機の手に持たせた片手半剣の切っ先を突き付けた。
そして、バシュン、バチュン、バシューッと音がすると、『ロイヤリタートTypeⅢ』機体各所に装備されていたパワーアンプ機構が切り離しされてガラガラと轟音と共に落下、融解して溶け崩れた。
軍高官たちは、呆然自失状態だ。
「どうでしたか? ダライアス技術中佐の新型装備は」
「あ、ああ……。い、いや、素晴らしい以外に、言葉も無い」
「しかしながら、欠点もありましてね。確かに普通の機装兵の筋力を、『フォート』並にパワーアップできるのですが……。短時間だけしか保たない、しかも使い捨ての装備だと言う事です。」
軍高官の賞賛の言葉に、しかしダライアスは残念そうに言う。彼としては熟練者を更に強化する装備を作りたかったのは確かなのだが、未熟者を補助するシステムにもなれば、と考えていたのだ。だがしかし、やはり未熟な操手には荷が重い模様だ。
「操手が熟練の練達の腕利きであれば、見ての通り使いどころを間違える事なく、的確に使用できるでしょうが……。並以下の一般操手では、上手く使いこなせずに無駄に消費してしまう可能性も高いですな」
「いや! だがこれを『フォート』そのものに搭載すればどうだ!? 『フォート』の乗員は、もとより練達の腕利き揃いだ! ただでさえ強力な『フォート』のパワーが更に増強されるとならば!」
ダライアス師の言葉に割り込んで、軍高官の一人が叫ぶように言う。他の軍高官も、激しく頭を上下させ、頷く。ダライアス師とエリベルト師は、苦笑しつつ顔を見合わせた。
*
一方その頃、『ロイヤリタートTypeⅢ』の操縦槽で、フーゴ中尉は大きく溜息を吐く。
「はあああぁぁぁ~。や、やっべぇ、やっべぇ。パワーアンプ機構の時間切れ前に、ぎりぎり間に合ったぜえ……。
俺が機構の運用試験とかで、こいつの使い方に慣れてなかったら、勝てなかったどころか無様に負けてたかも……。負けても善戦すりゃいいって言ったって、この装備の性質上、勝つかはたまた無様に負けるか、だろうに……」
フーゴ中尉の視線の先では、駐機姿勢になった『フォート』から、その操手が降りて来るところだった。相手もまた、獣牙族の様である。その青年士官の頭には狐耳が生え、尻には大きなフサフサした狐の尻尾が存在していた。
フーゴ中尉もまた、自機を駐機姿勢にさせて機体を降りる。相手操手は、フーゴ中尉に敬礼を送って来た。フーゴ中尉もまた、答礼を返す。
「……お見事です。まさか『フォート』で『ロイヤリタートTypeⅢ』に負けるとは……」
「あ、いや。俺も勝てるとは思わなかったけどよ。ダライアスの親ぶ……い、いやダライアス師の作った新装備のおかげだから。えーと、ちゅ、中尉?」
「あ、失礼しました。僕はジェローム・ジャッジ中尉です。気軽にJ・Jと呼んでいただければ」
「あ、おう。俺はフーゴ・グラッツラ・ディンフィンブルム中尉だ。フーゴでいいぜ、J・J中尉」
「了解です、フーゴ中尉」
二人は互いに右手を差し出し、それを握り合った。
*
後日、フーゴ中尉とジェナ中尉は日課の訓練後、清涼飲料水を片手に語り合っていた。話題は先日の、パワーアンプ機構トライアルについてだ。
「ほう、フーゴ中尉。あのパワーアンプ機構があったとは言え、『フォート』に勝つとはな。見直さなければいけないか」
「いやいや、ジェナたん。装備のおかげを自分の実力だと勘違いするほど、図に乗っちゃいねえよ」
「たん言うな。いや、あれは使いこなすのに相応に技量が必要だ。卑下や謙遜する事は無い」
日頃手厳しいジェナの賛辞に、フーゴは失笑する。
「あんがとよ。さて、んじゃあ俺ぁ寮に帰るわ」
「そうか。わたしは一休みしたら、もう少し機兵に乗って行く」
「ん」
フーゴ中尉は頷くと、右手を挙げて挨拶代わりにして、その場を立ち去った。ジェナ中尉は、椅子に腰かけたまま呟く様に言う。
「やれやれ。実力はわたし以上に確かなのだが。もう少し規律正しくなってくれればな。さて、わたしも奴に追いつけるよう、努力せねばならん」
そして彼女もまた立ち上がると、訓練用に用意されている機装兵『アーミィ・アント』の方へ歩き出したのだった。





