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File19「試作実験機をテストしてみよう」

 全高十メートルはある、巨大な人型の機械が大地を疾走する。魔力によって駆動する人型戦闘兵器である機兵(きへい)……。その内でも大型の部類に入る、重機兵(じゅうきへい)だ。


 だがそれには、通常の機兵(きへい)とは大きく異なる点がある。通常の機兵(きへい)は、操縦者たる操手(そうしゅ)が搭乗する操縦席、操縦槽(そうじゅうそう)が胴体の中に収められているのだが……。


 この重機兵(じゅうきへい)『フェルジンバーグ』に限っては、それが当てはまらない。



「くっそ、なんだっての! 無理だろコレはよ!? 操縦槽(そうじゅうそう)を頭に持って来るってのは、無茶だろ! 高くて怖えよ! そして揺れるっつの!! Gがキツイっつの!!」



 チェスターは身体にかかる強烈なGに弱音を吐きつつも、重機兵(じゅうきへい) 特有の大パワーで幅広の長剣を振り回し、小型魔獣(まじゅう)アレナイトテイルの群を切り払い、叩き潰す。そう、この重機兵(じゅうきへい)の頭部は透明な強化ガラス製の天蓋(キャノピー)になっており、そこから操手(そうしゅ)であるチェスターは、映像盤(えいぞうばん)では無く自分の目で外部を見て、この機体を操縦しているのだ。



「そりゃ理屈はわかるぜ!? 自分の目で外見て操縦すりゃ、映像盤(えいぞうばん)とか魔晶球(ましょうきゅう)とかいらんもんな!? そして胴体から頭に操縦槽(そうじゅうそう)移せば、胴体に色々新型装置を搭載する余裕できるもんな!?

 けどよ! 頭に座席押し込んだら、いくら重機兵(じゅうきへい)でもよ! 狭いっつの!!」



 チェスターの叫びと共に、アレナイトテイルの肉片が千切れ飛ぶ。彼は必死で操縦桿(そうじゅうかん)足踏板(ペダル)を操作する。過剰なGで操縦操作を誤らない様にするには、細心の努力が必要だった。


 何故ここまで大きなGが、彼の身体にかかっているのか。それは操縦槽(そうじゅうそう)が頭部にあるという、ただそれだけの理由である。


 本来人間の動きが、もっとも少なくなるのは胴体中央部である。それ故に、人間の形を模した機兵(きへい)の操縦席、操縦槽(そうじゅうそう)は、本来は胴体中央という最も安定した場所に置かれているのだ。


 しかしこの試作品の重機兵(じゅうきへい)においては、そうではない。よりによって頭の天辺(てっぺん)という非常に動きの激しい場所に、操縦槽(そうじゅうそう)が置かれているこの機体は、その操手に極めて大きな負担を与えていたのだ。



「ちくしょう……。まだ動きの鈍い重機兵(じゅうきへい)で助かったぜ。……ぐうっ!!」



 また一体のアレナイトテイルが吹き飛ぶ。しかしその際の機動で、激しいGがチェスターを襲う。


 何故彼がこの様な機体に乗って、こんな荒野の真ん中で魔獣退治をしているのかと言うと、彼がそう言う依頼を受けたからだ。もう少し詳しく言うならば、冒険者であるチェスターはバフォメット事変での奮戦ぶりを買われ、冒険者組合より新型実験機の試験操手(テストパイロット)を任されたのである。


 彼の脳裏に、開発者であるダライアス・アームストロング技師の語った言葉が蘇る。



『いや、わたしの下にはこういう実験的な機体をテストするための『実験部隊』も配されてはいるんだがね。彼らは皆、技量が高すぎるのだよ。彼らにもテストは頼むつもりだが、一般的な中堅操手(そうしゅ)の意見が、是非とも必要なんだ。試作実験機の参号機を、是非とも君に試験してもらいたい』


「いや、こいつぁ駄目じゃねえのか? ダライアス師……。俺みてえな中堅どころにゃ、ちょっと扱いきれねえよ」



 最後の魔獣(まじゅう)を叩き斬ったチェスターは、大きく溜息を吐く。はるか彼方から、蒸気トレーラーを改造した移動基地が、ゆっくりと近づいて来るのが見えた。




*




 まったく機体にはダメージを受けなかったが、精神的にはかなり疲弊したチェスターは、重機兵(じゅうきへい)『フェルジンバーグ』を移動基地へと戻す。この移動基地は、蒸気トレーラーのコンテナ部分を大改造し、機兵(きへい)の運用や整備ができる様に最低限の設備を詰め込んだ物だ。


 移動基地では、蒸気トレーラーの運転手他を兼ねた整備員が待っていて、チェスターが頭部のキャノピーを開いて機体を降りると、一斉に機体に取りついて行く。当然ながらこの整備員たちは、冒険者組合のお抱えだ。チェスターはとりあえず、コンテナ内の片隅に設えてある椅子に深々と腰掛けると、大きく息を吐いた。


 そこへ整備班長のブルドッグ顔の獣牙族中年男性が、ドリンクを差し出して来た。



「ようチェスター、ご苦労さん」


「おやっさんか、サンキュ。あくまで実験用だって話だが、この機体。でもこんな扱いづらいんじゃ、売り物にならねえぞ?」



 そう言ってチェスターは、ドリンクをガブ飲みした。苦笑しつつ整備班長は、肩を竦める。



「まあ、そうだな。ダライアス師直属の『実験部隊』からも、そう言う意見は上がってきてるって話だ。ダライアス師も、これをそのまんま実用化しようとかは考えちゃいねえだろうさ。

 けれどお前が実機をテストして上げられたデータに、ダライアス師は満足してるみたいだぞ? 流石に直接この機体を量産に回すつもりはなさそうだが、たとえば操縦槽(そうじゅうそう)を胴体じゃなくランドセルに移すとか、胴体中央を空けてそこに別の機器を組み付ける事を考えてるとか言ってたな」


「だったら最初からそう言う機体造って欲しい気もするが」


「そう言うな。物事にゃ、試行錯誤ってのが付き物なんだ」



 ちなみにこの『フェルジンバーグ』が重機兵(じゅうきへい)として造られたのは、通常の中量級の機装兵(きそうへい)では、頭部に成人が乗れるだけの余裕が無かったためだ。無理に頭部に操手(そうしゅ)を乗せようとするなら、13~14歳の子供でも連れてこない限りは無理だろう。



ビーッ、ビーッ、ビーッ……。



 そのとき、移動基地内に緊急事態を表すブザーが鳴った。整備班長のブルドッグ顔が(しか)められる。チェスターも表情を引き締めた。


「なんだ!? 何が……」


「わからん! とりあえずお前も運転席まで来い!」


 チェスターと整備班長は、移動基地を牽引している蒸気トレーラー運転席まで走った。




*




「……やれやれ。緊急依頼かよ」


 重機兵(じゅうきへい)『フェルジンバーグ』の頭部で、チェスターは盛大に溜息を吐く。先ほどのブザーは、冒険者組合からの緊急連絡によるものだった。そして緊急連絡の内容は、彼に対する緊急依頼である。


 その内容はと言うと、先ほど都市同盟軍(としどうめいぐん)から、緊急の協力要請があったのだ。それによると重犯罪者が中量級機装兵(きそうへい)に搭乗し、アルカディア帝国との国境線に向けて逃亡中だとの事。だがしかし、今現在その重犯罪者が逃亡する方向に展開している部隊はいなかった。


 そこで都市同盟軍(としどうめいぐん)は冒険者組合に、近場に居る冒険者への緊急依頼を行う様に要請する。目的は、重犯罪者機体の足止めだ。無理に敵機を撃破しなくても良い。時間さえ稼げれば、近隣部隊を呼び集めて包囲網を完成させられるのだ。


 そして目標の重犯罪者の機体が逃走する先に居たのが、チェスターたち重機兵(じゅうきへい)『フェルジンバーグ』の試験部隊であった、というわけだ。間に合う位置に居るのは、チェスターたちのみ……。いや、試験部隊は彼以外は整備員とかだけなので、戦力外だから、戦えるのは彼しか居ない。



「やれやれだぜ……。けれど、これだけ軍が躍起になって追うからには、重犯罪者ってのは……。脱走軍人とかか? いや、同盟の機密を盗んだ間諜(スパイ)とかもありそうだな。

 ……!? 来たか!!」



 チェスターの視界の端、荒野の地平線近くに土煙が見えた。彼は透明な強化ガラスの天蓋(キャノピー)ごしに、双眼鏡を使ってそちらを確認する。間違いなくその土煙は、疾走する機装兵(きそうへい)が立てた物だ。



「……機種は『スパルタクス』。カラーリングは濃緑色をベースにグレイとカーキ。間違いなく目標の機体だな。ただ、情報では第五世代型『スパルタクス』か、新型の第六世代型『スパルタクス』かは不明、か」



 この『スパルタクス』とは、冒険者組合の傘下にある傭兵管轄組織、傭兵協会が正規の傭兵に提供している機装兵(きそうへい)で、極めてローコストである代わりに性能はやや低目の機体だ。しかしあくまでそれは標準機体の話であり、『スパルタクス』はあくまで傭兵各自によるカスタマイズを前提にされた機体なのだ。


 限界までカスタマイズされた『スパルタクス』は、かなりの強敵である事は間違い無い。また八〇〇年代にマイナーチェンジされた後期型『スパルタクス』は、未カスタマイズの素体のままであっても旧態依然とした第五世代機兵ではなく、強力な部類である第六世代機兵と認められるだけの能力を誇っている。



「第六世代型の更にカスタマイズ機だとか言う冗談は、勘弁してくれよ……?」



 チェスターは機体をその土煙に向けて走り出させる。主脚走行は頭部にある操縦槽(そうじゅうそう)が揺れるので、彼はあまりやりたく無いのだが、仕方なく機体を疾走させた。重機兵(じゅうきへい)にしては基準をかなり超える速度で、『フェルジンバーグ』は爆走する。


 そして敵機の姿が視界に捕捉される。チェスターは小銃型魔導砲(まどうほう)を機体の腕に構えさせると、無警告で発砲した。砲弾が、敵機の足元に着弾。敵機は足を止める。



「こちら冒険者組合所属、冒険者チェスター! 自由都市同盟(じゆうとしどうめい)都市同盟軍(としどうめいぐん)の委託を受け、貴様を逮捕す……おわっ!!」


『……』



 敵機は無言で斬りかかって来る。チェスターは機体の左腕に持たせた大盾で、その攻撃をかろうじて受けた。その瞬間、彼の血が凍る。


 ……敵機は、『フェルジンバーグ』の頭を狙って攻撃して来たのだ。



(そ、そりゃそうだろ!! こっちは頭部がガラスの天蓋(キャノピー)!! 頭に操手(そうしゅ)乗ってるの丸見えじゃねえか!! 頭が弱点だって、モロバレじゃねえかよ!! こっちゃ重機兵(じゅうきへい)だから普通に攻撃しても潰すのは面倒となりゃ、弱点狙うの当然だろ!?)



 チェスターは牽制にしかならない小銃型魔導砲(まどうほう)を捨てると、腰の長剣を抜き放ち斬りかかる。敵は自らの長剣でそれを受けた。圧倒的と言っていいパワー差で、敵機がよろめく。


 しかし敵機『スパルタクス』はその反動を利用して機体をくるりと回転させると、空いている左手で腰にあった小剣を抜き打ちする。当然ながら狙いはチェスター機の頭部、彼の座る操縦槽(そうじゅうそう)だ。


 小剣の切っ先が、天蓋(キャノピー)(かす)める。チェスターは叫んだ。



「うひいいいぃぃぃ!?」



 いくら強化ガラスと言えど、ガラスはガラスだ。錬金金属レイヴァスキンと高硬度パッテリートの複合装甲材で護られた胴体部と、ガラスの天蓋(キャノピー)では防御力も違い過ぎる。先ほどまで相手をしていた低級な小型魔獣と違い、機装兵(きそうへい)の攻撃を一撃でも受ければ、チェスターは絶命必至だ。


 二度、三度と敵機はチェスターの乗る操縦槽(そうじゅうそう)を狙って攻撃を仕掛けて来る。このままでは命が危険だ。迫りくる死の予感に、彼は腹を括る。



「く、くそ! こうなりゃヤケだ!」



 チェスターは一歩自機を下がらせると、操縦桿を操ってその右手に長剣を構えさせる。敵の『スパルタクス』は、右手の長剣と左手の小剣を閃かせて躍りかかって来た。



「うおりゃあああぁぁぁ!!」



 そしてチェスターは必殺の気合を込めて、『フェルジンバーグ』に長剣を突き出させた。




*




「それで敵機の胴体中央、操縦槽(そうじゅうそう)を貫き通して、一撃で勝利を決めた、か」



 頭部の天蓋(キャノピー)が砕けた重機兵(じゅうきへい)『フェルジンバーグ』を前に、この機体の開発者であるダライアス師はうんうんと頷いていた。その脇に立っていた、包帯でぐるぐる巻きのチェスターがダライアス師に噛み付く。



「いや、この機体駄目だろ!? かろうじて天蓋(キャノピー)を掠る程度で敵の攻撃間一髪で(かわ)したけどよ!? その掠った一撃で天蓋(キャノピー)砕けて、その破片で俺は大怪我!! こっちの一撃が敵の操縦槽(そうじゅうそう)貫くのに失敗してたら、俺は死んでたぞ!!」


「ふむ。格闘戦や白兵戦をする機体に、天蓋(キャノピー)方式の操縦槽(そうじゅうそう)は危険か。法撃型魔導砲(まどうほう)での火力支援機にのみ、採用すべきだな。感謝する。貴重なデータが取れた。例の重犯罪者を生かして捕らえられなかったのは、都市同盟軍(としどうめいぐん)からボヤかれたが……」


「そう言う問題じゃねえーーー!!」



 絶叫するチェスターに、苦笑を向けたダライアス師は頷く。



「いや、言いたい事は重々わかっているとも。ただ、今回の緊急依頼に関しては、わたしは一切関与していなかった事も理解して欲しいな。試作実験機で無理をさせた件については、組合の上の方にしっかりとネジ込んで報酬増額を確約させる。というか、既にやった」


「はぁ、はぁ……。まあ、アンタに怒っても仕方ないんだろうけどよ。何にせよ、この形式の機体はアブな過ぎる。少なくとも、俺ぁコイツが発売されても、買おうとは思わんね」


「だろうな。こちらとしても、これをそのまま製品化するつもりは更々無い。ただ少なくとも、胴体を空けてそこに各種機材を搭載する方式が有力なのは、今回の実験で確定した。そしてお前さんが試験操手(テストパイロット)として有能なのも、な」



 そしてダライアス師は言葉を紡ぐ。



「次の試作実験機も、お前さんにテストを依頼する事にしよう。何、次のは発売間近なタイプの追試験だ。今回みたいな事は無いから、安心しろ」


「……」



 チェスターは、冒険者組合から強制依頼が行われない様に、できる限りたくさん先約依頼を受けておこう、自由都市同盟(じゆうとしどうめい)首都である中央都市アマルーナからは離れておこうと、そう心に決めたのだった。まあ普通、先約依頼があれば無理に組合からの強制依頼は発生しない。


 けれど、冒険者組合がその気になれば、先約依頼を別の冒険者に代替させる事で、チェスターに強制依頼を発する事も不可能ではない。さすがにそこまでやらんだろう、と彼は思いたかった。しかしダライアス師の笑顔に、彼は不安を抑えきれないのであった。

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