カウントスリー その2
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「次弾が自動的に装填されるセミオートタイプ。トリガーを引き続けると連射されるフルオートタイプもあるけど、私はこれが一番好き。」
撃たれた足が動かない。立ち上がることができない。上手く呼吸ができない。スポンジ弾が当たった痛みではない。まるで、本当に足に弾丸を撃ち込まれたみたいだ。
「だって、一人に向かって何発も打つなんてナンセンスだと思わない?自分は下手な鉄砲ですって言っているようなものだよ。」
下手な鉄砲も、数打ちゃ当たる。三橋先輩は一発で当てた。僕の右太ももにスポンジ弾を命中させた。三橋先輩は引き金を引く前、カウントスリーと言っていた。バスケのスリーポイントシュートも、銃も同じだというのだろうか。
ダン、と体育館の床を踏み締めた振動が僕の頬に伝わる。崩れ落ちた僕の前に現れたのは春家だ。春家は三橋先輩の手元の銃を目掛けて足を振り上げた。180度に開いた春家の足は、三橋先輩の銃をはじき飛ばした。
「シュートの腕には自信があるみたいですが、キープ力がありませんね、スティールです。」
小さな黒い塊が体育館の床を滑る。春家が銃を蹴飛ばした。
「君は多田後輩と違ってバスケにはあまり詳しくないみたいだね。スティールは相手からボールを奪う行為だよ。スティールと言うなら、私から銃を奪わないと。」
そう言って三橋先輩は飛んでいった銃のところに歩いていく。
「多田君、逃げるよ。」
気づくと、春家がそばにきていた。僕の肩を持ち上げて、立ち上がるように促す。
「彼女は規能を持っている。逃げるぞ。」
規能。聞き覚えがあった。そうだ、春家と別れる前、確か言っていた。規則に従わず、規則を従える者。
僕はほとんど引きずられる形で、体育館を後にした。僕と春家は、背後から三橋先輩に撃たれることはなかった。その代わり、三橋先輩は僕たちに一言、
「最後の弾丸は、必ず自分に使う。」
と言った。
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