鬼の副委員長
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パン、と一回の拍手が朝の教室に響く。朝の喧騒であちこちに散らばっていた集中が一点に集まる。拍手をして視線を集めたのは、我がクラスの副委員長、水鳥ヒナだ。
「はいみんな、今日は月一回の持ち物検査の日だよ。ハンカチとティッシュは外に出して、カバンを開いて机の上に置いてくださーい。」
さあっと僕の頭から血の気が引いていくのがわかった。悪いことは続くものという通説を思わず盲信してしまうほどの間の悪さ。僕のカバンの中には、先ほど春家から取り上げたエリンギが入っている。まさかこんな日に持ち物検査があるなんて。
「多田君、なんてひどい顔しているの。顔色が悪いわ。顔面蒼白、ブルーマンも鏡を見てお色直しをしそうなほどよ。」
春家は頬杖をついて口元を緩めている。姿勢が悪い。
「何呑気なこと言ってんの、僕のカバンには今、お前がよこしたキノコが入ってるんだぞ。キノコなんて代物、見つかったら生徒指導どころじゃ済まないぞ!?」
僕は口に手を添えて、なるべく声を抑えて春家に話す。
「大丈夫、カバンのサブポケットの下に入れとけば見つからないよ。」
「バカ、水鳥の持ち物検査の怖さを知らないのか?あいつ、持ち物検査の時は人が変わったみたいに勘が冴えるんだよ。携帯だろうがガムだろうがすぐに検挙してしまう。女の勘かな、いや、副委員長の勘ってやつか。先月だって、カバンの二重底にエロ本を隠してた男子があっという間に検挙、芋づる式に男子の半数がお気に入りのお宝を奪われたんだ。」
僕はそう捲し立てながら、体で覆うようにカバンを隠してキノコをサブポケットに移動させる。
「ああ、そういえばそうだったのかな。」
「どんな仕掛けも見抜き、有無を言わさぬ検挙、同情のない持ち物検査をする水鳥に付けられたあだ名は鬼の副委員長、略して鬼の副長だ。」
がくん、と春家は頬杖から頭を滑らせた。
「なんだか歴史の偉人みたいね。」
「あの勘の鋭さなら、偉人と言われてもおかしくない。」
「なーんかこそこそ話してるかと思ったら、多田くん、春家さんと仲よかったっけ?」
顔を上げると、水鳥が満面の笑みを貼り付けて仁王立ちしていた。鬼の副委員長、鬼の副長だ。
「水鳥さん、今日もお勤めご苦労様です、いやあ、ちょっと春家と会話が弾んじゃってさあ、なんで今まで話さなかったんだろう、気の合うのなんのって。」
僕は早口で捲し立てながら、春家に目をやる。春家は姿勢を正して前をまっすぐ向いていた。っておい。
「そうなんだあそうなんだあ、それはいいことだよね。じゃあ、持ち物検査だからカバン見せてもらおうかなあ。特にそのサブポケットとか。」
ぎくぎくぎくぅ。もし漫画上で描かれていたなら、そんな擬音が僕の頭上に踊っていただろう。
水鳥の顔がゆっくりと近づいて、僕の耳元で止まった。水鳥の生温かい吐息が僕の耳にかかる。鬼の副長、水鳥ヒナは僕の耳元でこう囁いた。
「没収するね、このカバン。」
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