キノコを僕の靴に敷き詰めた犯人は、春家というクラスメイトだった。
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翌日の朝、僕は予備の靴を履いて鹿野山高校に登校していた。昨日、靴がキノコで敷き詰められるという恐怖体験をした僕は、恐ろしさのあまり上履きのまま走って帰宅した。おかげで上履きは汚れ、帰宅後に上履き洗いという仕事をしなければならなくなった。
上履きで登校するわけにもいかないので、サイズが合わずに靴箱に置きっぱなしにしていた靴を引っ張り出し、登校している。
高校に着き、正面玄関を通り、すのこにあがる。下から三番目の靴箱を恐る恐る開ける。
「―ない。」
そこには何もなかった。そう、何もなかったのである。怪しげなキノコも、僕の靴さえも消えていた。僕が昨日おいてきたはずのキノコ入りの靴が消え、もぬけの空となっていた。
そのとき、誰かが僕の背中をツンツンと突つく。空っぽの靴箱を見て固まる僕の背中に、何者かが声をかける。
「こんにちマツタケ。多田くん。」
こんにちマツタケ。
そんな奇妙な挨拶は聞いたことがなかった。しかし、マツタケ。この言葉は知っている。キノコの種類だ。
僕はこのとき確信した。間違いない。こいつが犯人だ。勢いよく振り向くと、彼女はにっこりと笑ってそこに立っていた。
―春家光香里。
彼女のことを僕は知っていた。春家はクラスメイトである。出席番号までは覚えていないが、番号が近い。確か僕の斜め後ろにいたはずだ。
「ごめん、やっぱり靴に入れるのはよくなかったよね。はい。」
そう言って僕に渡してきたのは、昨日靴に入っていたキノコだった。
「おい!何してんの!」
僕はとっさにキノコを取り上げて、カバンの中に放り込んだ。誰かに見られたら通報ものだ。犯罪者、未成年逮捕…。
「春家さん、だよね。僕の靴にキノコを詰め込んだのは君?」
「さん付けなんてしなくていいよ、多田くん。クラスメイトじゃない。ええ、キノコは私が入れたわ。」
「そうかよ。春家、このキノコは一体なんだ。お世辞にもいい趣味とは言えないぞ。」
僕はカバンにちらりと視線を落とす。普段は開けっぱなしのチャックを、しっかりと閉める。
「何って、エリンギだよ。聞いたことないの?」
「エリンギ…名前は聞いたことあるな。小学校の教科書に載ってたよ、物凄い中毒性があるんだとか。」
「中毒性?そんなのないよ。ただの野菜だもん。あ、でも美味しくて病みつきになるっていう意味なら、中毒性はあるかもね。」
中毒性はなく、ただの野菜。同じ高校生の言葉とは思えなかった。
僕は春家を置いて、教室へと向かった。
このキノコを処分する方法を考えなければならない。
「ああ、待ってよ、ごめんって。謝ってるじゃない。私も昨日は興奮してて…食べ物を靴の中に入れるなんて、そりゃあ怒るよね。」
春家はどうやら見当違いの勘違いをしているようだ。奴は僕の靴箱に、チョコレートでも入れたつもりなのか!?
走って教室に入り、自分の席に座る。
―しまった。春家は同じクラスじゃないか。
そう気づいた時にはすでに遅く、春家は息を切らしながら僕の隣の席に座る。
―こいつ、僕の隣に座っていたのか、全然気付かなかった。
「はあ、多田くん、はあ、先週誕生日だったでしょ。プレゼントだよ、プ、レ、ゼ、ン、ト。」
春家は顔を真っ赤にしている。腰まで伸びた細い髪が肩と一緒に上下に動いている。
わけがわからない。どこから処理していいかわからなかった。今日まで話したことのないクラスメイトが突然僕の靴にキノコを詰め込んでいた。それを彼女はプレゼントだと言う。キノコは食用で、中毒性はない。否、そんなことはありえない。キノコが違法薬物であることなど、小学生でも知っていることだ。このエリンギというキノコは処分し、警察にまでは突き出さずとも、事情聴取は必要だろう。とりあえずキノコのことは詳しく聞くとして、今は、目の前の誤りについて強く否定したい。
僕は呼吸を整えて、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「僕の誕生日は半年前だ!」
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