パーティー1
今日は王宮でパーティーがある。
慣れてないし気も進まないけど、出ろと言われたら参加しない訳にはいかない。
何せその開催場所に住んでいるのだから。
…本当は今までにも何度かパーティーは開かれていたんだけど、王子がやらかした婚約破棄の謹慎中だったので私も参加しなくて済んでいた。
でもとうとう謹慎が解けたらしく、私も王子と出るように言われてしまった。
………はあ
鏡を見て、思わずため息を吐く。
今日の私は女装仕様だ。
いや、私は女だから女装と言うのはおかしいのか。
でも私にとってはあっちがデフォルトだから、どうにもこの格好は落ちつかない。
おそらく世の男性がドレスを着せられて化粧をされたのと大差ない気分だと思う。
…そしてどうしてもある一部に目がいく。
………はあ…
「お綺麗ですよ」
ターニャはそう言ってくれた。
確かにドレスは綺麗だ。
化粧も綺麗だ。
でもね、
肝心の…
肝心の………
……………………はあ…
胸部を凝視して、まるで王子のような重い重いため息を吐くと
「すみません」
とターニャが沈痛な面持ちで謝ってきた。
「……え?」
「私がちゃんと、リューン様にパッドを入れていれば……」
そうか。気にしてたのか。
確かに服装は、割とターニャ任せだったから…。
でも、屋敷の誰も。他のメイドもお母様も、二年前に亡くなったお祖母様も含めて、ただの一人もパッドについて言及しなかった。
だからこれはもう連帯責任だ。
多分私も、言い出せない雰囲気を出していたのだろう…。
「今さらよ。気にしないで」
そうか。ターニャも気にしていたのか。
「ですが……」
「大丈夫」
笑ってみせる。
そう、大丈夫。
私はこうして広く貧乳として名を轟かせた事を、今ではあまり後悔していない。
…目の前に現実を突きつけられると、流石に落ち込むけれど。
でも王子と会えたのは、悪い出会いだとは思っていないのだ。
この乳が無ければ一生縁のなかった、雲の上の存在。
……多分、婚約破棄されても、たまには文通とか…連絡とか…取れるんじゃないかな。
何せ王子は、私が丹精込めて育てた犬だから。
それがダメでも、ちょっとくらいは私を懐かしんでくれると……いいな……
◇ ◇ ◇
「男どもの視線が、おまえの胸にいってる気がする。気に食わん」
王子が何か言い出した。
「……普通とは逆の意味ですけどね」
思わず死んだ眼差しを返す。
大きな胸を思わず二度見するのはたまによくあることだけれど、私の場合はあまりの平らさに…ってやかましいわ!
王子だって、さっきから大きな乳の女性にチラチラ視線をやってる癖に。まあそれは私もだから、わからなくはないけれど。
だって気になる。
何をしたらあそこまで大きくなるのか。
パッドで盛るにしても限界がある。ドレスの胸は、完全に覆うのじゃなくて上側は生乳を見せるデザインだから。
私じゃあの三分の一も…ってやかましい。
…今、三分の一どころか五分の一もあやしいって言った奴、前に出ろ!
その通りだよ!ちょっと見栄張ったよ!!悪いか!!
…あれ?王子が従者に何か言って、従者がターニャにコソコソ話してる。何だ?
「リューン様。ちょっとだけ離れますね」
うん、まあいいけど。
「リューン様、これを」
しばらくして、ターニャが戻ってきた。今日のドレスと同系色の、ふわっとした薄手のスカーフを手に。
…そんなのあったっけ?
ターニャがそれを私の肩にかけて整えた。
貧相というのもおこがましいほどにささやかな胸元が隠れる。
王子が満足そうに頷いた。
「よし、これで直接は見えなくなったな」
「…そんなに見苦しかったですか?」
思わずいじける。
そこまで貶さなくたって…。
「いや。単に他の男がおまえの胸を見るのが、気に食わなかっただけだ」
…何だそれ。
ちょっと難しめの球をキャッチできた時の、クーみたいな顔。
…こんなセリフを少し格好いいと思ってしまう私は、どこかおかしいんじゃないだろうか。
そうは思うけれど、ちょっとだけ嬉しかった。