三角関係
リューンと結婚して、新居に引っ越した。
王の直轄領の、雇われ領主的な扱いで。王都からは結構遠い地に。
父上には「地方で王族として睨みをきかせながら適当に暮らせ」と言われた。
何もせずとも「ここに王族が住んでいる」事実が大事らしい。
実務は今まで通り専任の代官がやるから、領地経営に関して俺のやることはほとんど無い。
リューンは温めてたアイディアがあるとかで、相変わらずの男装で『領主夫人の代理』という体で動いている。
俺は「暇なら手伝ってください」と言われて近隣の領主との調整とかに駆り出されている。
まあ、そっちは別にいいんだ。
そこそこ面白いし。
リューンに褒めてもらえるし。
問題は別にある。
犬だ。
リューンがクーという名の犬を可愛がっていることは、前から聞かされていた。
流石に王宮に連れてくる訳にはいかないから今までは実家にいたらしいが、結婚を機にそいつがうちに来たのだ。
リューンと俺の新居に。
実家から到着したクーを目にした時の、リューンのあの喜びに満ちた表情。
リューンの腕の中に飛び込んでいく犬っころ。
遠慮なくリューンの顔を舐め回す犬と、嬉しそうにされるがままになるリューン。
嫉妬とはこういうものかと理解した。
それからというもの、夜の寝室への立ち入りは断固阻止したが、昼間はリューンの足元にベッタリだ。
俺は新領主としての肖像画の所為で面が割れているから気軽に町には行けないが、男装したリューンは行くしその護衛のようにクーも付いていく。
そしてどうやらあの犬っころも、この複雑な関係を理解しているようなのだ。
俺を見る、勝ち誇ったような表情。
腹立たしい。
おまけに、俺とリューンのキャッチボールにあの犬は割り込んだのだ!
…というか、リューンが俺ではなくあの犬を誘ったのだ。
…俺ではなく、あの犬を!
「クー、おいで!」
嬉しそうに笑ってボールを手に駆けて行くリューン。
それを追う犬っころ。
リューンが芝生につき楽しそうに投げ始めたところで、我に返って後を追いかけた。
「リューン、ちょっと待て!何やってる!?」
「ボール遊びですよ?」
不思議そうに首を傾げるリューン。
可愛いな。
そして今日も胸がないな。
「俺は!?」
「え…今はクーと遊びます」
「………え?」
当然のことのように言われて、思わず固まった。
いや、そんなバカな話があるか!
リューンと遊ぶのはこの俺だ!!
悔しかったので、リューンが投げたボールを俺も追った。
…当然のように、四足歩行の犬っころには勝てなかったが。
だが、疲れて芝生に転がる俺を呆れたような目で見ながらも、リューンは膝枕をしてくれたからそれでいい。
呆れながらもリューンの目の奥には微かな愛情が見えるから、俺はそれでいい。
ふふん。どうだ。
俺だってリューンに愛されている。
きっと俺の方がリューンに愛されている。
絶対に俺の勝ちだ。
ざまあみろ。犬っころめ。




