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話はつけた

それから数日後、王子に呼び出された。


あれ以来、授業はキャンセルされてたしお昼もお茶も一緒じゃなかった。だから数日振りに王子の顔を見た。


「話はつけた」


顔を合わせるなり、そう言う王子。


「俺はおまえと結婚する」


「え…?」


何を言ってるんだろう?


「俺はおまえじゃなきゃダメだと思うんだ」


「……え?」


真面目な顔の王子。

こういう顔してると、兄王子や弟王子に似てて王子っぽい。

いや、似てなくても王子だけど。


…なんてくだらない事を考えないといけないくらいに、その言葉に動揺した。


どうしよう…ちょっと…かなり凄くとても王子が格好よく見える。

…王子の癖にっ…


「俺をここまで教育できたのも、今後俺が変な事をしそうになったら止められるのも、おまえだけだと思うんだ」


「…微妙に嬉しくないんですけど…」


けれどそれは気の所為だったようだ。続けられた言葉にちょっと冷静になる。

その理由はどうなんだ。

プロポーズ的なセリフとしてどうなんだ。


「でも大事なことだろ?」


「そりゃまあ、そうですけど…」


トキメキを返せ。

いや返さなくていい。

いや、やっぱり返せ。

人の心を弄びやがって。


「そもそも俺は、他の女相手ならまたダメになる自信がある」


それを聞いて本格的に冷静になった。


うん、やっぱり王子は王子(駄犬)だ。

なのに「やっぱり王子はこうでなくっちゃ」とか頭の隅で思ってる私はかなり末期だ。

でも一応叱っておこう。


「…変な自信持たないでくださいよ」


「うん、そこだ」


「…どこです?」


「他の女だったら、「ダメだっていいじゃない」って言いそうな気がする」


「…まあ、そうかも?」


夫のやることは全肯定して、機嫌を良くした夫からお小遣いいっぱい貰って、自分は自分で好きなことやろう!っていうのが昨今の貴族女性のスタンダードらしいから。

どうせ家の都合で渋々結婚した者同士なんだから、という割りきりっぷりが凄い。


ターニャは色々、大きなものから小さなものまで噂話を拾ってきてくれる。


「俺はそれじゃ嫌なんだ」


「…楽でいいのでは?」


少し意外だ。

王子は大きなおっぱい揉んでられればそれでいいのかと…

ってそれはちょっと前までの王子か。

最近は少し、変わった気がする。


「楽は生まれてからずっとしてきたからな。楽のつまらなさはよく知ってる」


「はあ…楽のつまらなさですか」


なんだその贅沢ワード。

流石は王族。

呆れながら気のない相槌をうつ。


「ああ。おまえといると、楽ではないが今までよりずっと楽しい」


「っ……!」


不覚にも照れたじゃないか。

不意打ちは卑怯だ。

…王子の癖に……


赤くなった頬を隠す為に、とっさに俯く。


「おまえだって、俺といるの、そう嫌じゃないだろ?」


「それはまあ……」


俯いたまま頷いた。

実は楽しいですけどね、あなたといるの。

クーと遊んでる時と同じか、もしかしたらそれ以上に。

……実は私、あなたのこと好きになっちゃってますけどね!


…言ったことはないけれど…。


「父上の命令なら、俺との結婚断れないだろう?」


「それはまあ…」


っていうか王命を断れる子爵家の人間がいたら見てみたい。

はいかYESか承知の三択だよ。

…そうでなくても「喜んで!」だよ。本心で。

……もし国王が、「王子と結婚しろ」って言ってくれるのなら……。


「そういう話をしてきた」


「………え?」


思わず顔を上げた。

向けられる真っ直ぐな眼差しにドキリとする。

「そういう話」ってつまり……


え………?


それって……このまま王子と…?

私…このまま王子と一緒にいられるーー?



心拍数が跳ね上がる。


私は今、私史上最高に乙女になっていた。

天に召されそう、というのはこんな気持ちかもしれない。いや、天にも昇る心地か。

死んでどうする。


…とにかく、自分でも引くくらい乙女になっていた。

トキメキが天井知らずだ。

けれど




「だからもう俺でいいよな」




という王子の言葉に、思わず崩れ落ちそうになった。



「…………何ですかその雑なまとめ」



…もう少し何とかならなかったのか。

肩透かしというか、ガックリきてしまったじゃないか。


それでも嬉しいけど。

王子が私と結婚する為に動いてくれて凄く嬉しい。

簡単ではなかったろうに、国王の許可を得てきてくれてもの凄く嬉しい。

だからこの程度で気持ちが変わったりなんてしないけど。


でも、たまにはちゃんとトキメキたいと望むのは贅沢なのか…。


「いや、真面目に説得しようかとも思ったけど、どうせおまえに選択肢がないなら別にいいかと」


…………。

雑にも程がある。

でも…


「…本当にそれでいいんですか?」


「何がだ?」


「…私には選択肢ないですけど、王子にはあるんですよ?」


そうなのだ。今の王子はよりどりみどりとまではいかなくても、多少は選べる立場なのだ。

選べるのに私でいいのか。


「…そうだな」


「今なら、サリ嬢ほどではないとしても、そこそこ胸の大きな令嬢と結婚できるチャンスですよ?」


毎日私の胸を見ては、ため息吐いてたじゃないか。

とても腹は立つけれど、やっぱり王子にとって胸は大事なポイントなのだろう。


「…それはちょっと惜しいが」


「…………」


ほら、やっぱり惜しいんじゃないか。

変えるなら今だぞ。


「でも俺はおまえがいい」


「っ………」


「おまえといる方が、毎日ずっと楽しく過ごせると思うんだ」



…これは……ちょっと…本気で嬉しいかもしれない。

あの巨乳が好きすぎて、その理由一つで婚約破棄までやらかした王子が、大きなおっぱいより私の方がいいと言ってくれるなんて。

それは私を、中身で選んでくれたって事だから。


嬉しすぎて、思わず目が潤んでしまう。

王子が私をじっと見つめ返す。


「それにな、知っているか?」


ひどく真剣な眼差しにドキっとする。

本当、こういう顔してる時の王子って凄く王子っぽーー









「巨乳はな、歳をとると垂れるんだ」











「…………………………………」










思わずジト目になって、立ち去りたくなってしまった私は悪くない。

そんなの、このタイミングでキリッとキメ顔で言うことじゃない。

一度ひっぱたいた方がいいんじゃないだろうかこの駄犬(ひと)



「まあそれは、おまえと婚約した頃に父上から聞いたんだがな」



と付け加えられて、やっぱり一度あの国王(クソじじい)はグーで殴った方がいいんじゃないかと矛先を変えた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭からの王子の行動略を伴った言葉に、しようとする王様のような成った感覚に打ち震え…る、ところでした。危なかった。 > 「巨乳はな、歳をとると垂れるんだ」 …ぇぇ、ぇぇ、最初に読み始めた時か…
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