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転生  作者: 狛
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1話 転生転生

僕は杖を思い切り地面に打ち付けた。

 その瞬間、ビリビリと空気が揺れ、突風が吹き荒れ、そして………















 「法とは社会規範の一つであり、社会的強制力をもつものだ。

 社会規範は他にもあり、道徳や慣習もその一つである。

 えー、このプリントじゃ紹介されてないが、社会規範はまだあるんだぞ。

 誰か分かるやついるかー?」


 37人のクラス、誰も手を上げない。


 「はぁ、もう少し積極性をだなー。

 まぁ、いいか。えっと、日本人である君たちには分からないことかもしれないが、宗教も立派な社会規範の一つだ」


 ホワイトボードに、プロジェクターによって映し出された写真を指しながら、先生はだるそうに言った。







 僕は小学校、中学校、高校と、宗教について聞くたびに、必ずと言っていいほど考えさせられることがある。


 「天国とか地獄とか、極楽浄土とか、本当にあるのかなぁ」


 帰路につくサラリーマンや、学生が多く乗っている電車内でそんなことを呟いてしまい、前に座っている女子高校生に訝しげな眼で見られてしまった。

 女子高生はすぐにスマートフォンに目を落としたが、僕はいたたまれなくなり、電車のドアの横に少しずつ移動した。

 車窓を流れる景色を見ながら、今度は口に出さないように気を付けて考えた。


 神様がいるとしたら、おかしな世界だよな。不条理は平気で起こるし、一生を苦しんだまま息を引き取る人もいる。神様はそれを放っておいているのか、はたまた一種の試練として人間に与えているのか。

 死んだらどうなるんだろう……

 最近「死」について考えることが多くなった気がする。

 もう少しで死ぬのかもしれないな。


 僕は鼻で笑うようにして、その不吉な考えを頭から消した。


 

 電車を降り、改札を通って駅を出た。

 駅の外にはすぐ駐輪場があって、その奥に3、4階建ての建物が並んでいる。

 銀行、立ち飲み屋、肉屋、太陽はだいぶ前にすっかり沈んでいるので、それらの店の灯りが変に明るく感じる。

 自転車に乗って目の前を通り過ぎる男子高校生、お母さんに連れられて、楽しそうに歩く女の子、疲れた様子で足早に歩くスーツ姿の男性。面白いのが、みんな沢山の小さな物質で構成されているということだ。言うならば大きな物質であり、それらが独立した意志をもって動いている。

 神様はすごいものを作ったな。


 道を右や左に曲がり、駅の前とは違って、人の少ない暗い道を歩いていく。

 通りに出た。

 この街には、背の低い建物が多く、住宅が広がっている。駅から離れると、小さな畑が点在していて、落ち着いた雰囲気を感じられる。

 信号もそんなに多くないので、家までの信号はここともう一つだけだ。

 制限速度なんて気にしていないような車達が僕の目の前を走っていく。排気ガスの臭い。僕の苦手な臭いだ。




 驚きだ。

 今僕の頭のほとんどを「驚き」が占めていた。

 死は突然やってくるというが、本当なんだなぁ。そう思ったのも、今の僕の状況を見れば皆が納得するだろうと思う。

 ものすごい速度でトラックが向かってくる。

 避けるのは確実に無理。

 時間がゆっくりに感じ、頭の奥が冷えているのが分かる。

 トラックの運転手の顔まではっきり見える。

 顔赤いなぁー。

 酔ってるのかなぁー。

 僕は今この瞬間死ぬのだろう。

 こんな時にまで、またあの疑問が浮かんできた。


 ”僕たちは天国にいけ―――――”


 時間がいつも通り動き出した……






 

 体がふわふわする。


 やっぱり死んだのかな。


 てことは、今は魂の状態とか?


 考えても無駄か。


 天国に、極楽浄土に、いけるのかな。




 ―――――弾かれた















 「いってーー!」


 あ、雄二がホバーボードから落ちた。


 「はぁ、ちゃんと足に安全装置つけとけって言っただろー。

 まだ30センチくらいしか上がってなかったからよかったけど、もしもう少し上がってたら大怪我してたぞ。

 早く遊びたいからってさ、安全装置はつけとかなきゃ危ないだろ」


 「ごめーん」


 「いや、俺に謝っても仕方ないし。

 これからは気をつけろよ」


 「うん!気を付ける!」


 雄二は今度はしっかり足に安全装置を取り付け、浮かび上がった。


 雄二は馬鹿なのかもしれない。

 安全装置を付けずにホバーボードに乗るなんて馬鹿のすることだ。そんなの幼稚園児だって分かる。俺たちはもう10歳だっていうのにな。

 俺と雄二は同い年で、誕生日も同じだ。10歳の誕生日に二人ともホバーボードを買ってもらった。買ってもらってから毎日、一か月の間二人で遊んでいる。

 

 まぁ、俺のほうが雄二よりうまい自信はある。

 

 雄二は50センチほど浮かんで、公園の芝生の上をすいすいと走っている。

 今日は天気が良くて、雲一つない。

 ずっとこんな天気が続いてくれればいいのに。


 「いっ……」


 急に頭に鋭い痛みを感じた。

 ここ一か月、頭痛が頻繁に起きる。

 ホバーボードを始めたくらいから、頭に痛みを感じるようになった。だからママとパパはホバーボードが悪いんじゃないかと言う。

 でも、そんなわけない。ホバーボードはただの空中を飛んで遊べる乗り物だし、頭が痛くなる原因にはならない。雄二と違って、一回も転落したことないし。

 前、ママに病院に連れていかれたけど、お医者さんにも特に問題はありませんと言われた。 


 「慎太郎、大丈夫?また頭痛いの?」


 雄二が、頭を押さえている俺の顔を心配そうにのぞき込んできた。


 「ああ……、うん。大丈夫」


 頭の痛みも引いてきたので、できるだけ大きな笑顔で答えた。


 「なら、いいんだけどさぁ。

 最近頭いたそうなこと増えてる気がするよ。

 また病院いってみたら?前は問題ないって言われたらしいけど、今度は何かわかるかもよ。

 慎太郎が病院嫌いなのは知ってるけど」


 「うん、ありがと。

 今度行ってみる」


 雄二は俺のことを誰よりも心配してくれる。

 雄二は馬鹿だが、いいやつだ。


 痛みもすっかり引いて、またホバーボードに乗ろうとした。


 「ぅあっ…… い」


 痛い

 いたい

 いたい


 ま、また頭痛……


 痛い


 また起きるなんて……っ


 いつもとは違う痛み。

 我慢できない痛み。

 棘だらけの虫達がが脳を食い散らかしながら這いずり回る。そんな感じ。


 い、いたい

 いたい

 痛い


 「ねぇ!大丈夫!?慎太郎!」


 うるさい

 いたい

 いた

 いたいいたい痛い痛いいたい

 やだやだ

 いたす――――――――――




 ―――――――は



 どういうことだ?

 痛みはもうない。

 まって。

 ぐっちゃぐちゃ。

 頭がうまく回らない。

 え、おかしい。

 そんなことって、あるのか……?


 「慎太郎!!」


 僕は、ハッと急に起こされたときのような奇妙な感覚を覚えた。


 「大丈夫!?慎太郎!」



 僕は……


 僕は…………


 僕は……………………






















 …………転生したのかもしれない。 












 頭の奥に突っかかっていて取れなかったものがやっと取れた気がする。

 転生したという事実は驚くほどすんなりと頭の中をすり抜けていった。

 5歳くらいから違和感は感じていたが、その違和感が晴れた。

 さっきの頭痛が嘘みたいに清々しい気持ちでいっぱいになる。

 だが、同時に混乱もする。前の記憶と今の記憶が混濁して混ざりきっていない。


 僕は確かにあの時トラックに轢かれて死んだ。そしてその後、何かに弾かれたように感じたのが最後、転生し、前世の記憶を思い出した。

 なぜ10年間も記憶を思い出せなかったのに、急に思い出したのか。それは謎だが、転生したという事実は揺るがない。

 

 あ、でももしかしたら夢みてるのかもしれないなぁ。

 

 確かめるため、自分の頬を思いっきりつねってみた。


 「いって!」


 や、やっぱり痛い……

 どうやら夢を見ているようではないようだ。


 横を見ると雄二が僕のことをじっと見ている。


 「慎太郎、大丈夫?

 見た感じ痛いのは治ったみたいだけど、急に自分のほっぺたつねるし。

 心配したんだよー」


 雄二は顔をしかめた。


 「あー、大丈夫、だよ?

 ちょっと、ね。うん。

 …………帰るか」


 「え!?どうしたの?

 本当に大丈夫?」


 「うん、大丈夫。

 僕ももう疲れたし、帰りたいなっておもって」


 「まぁ、慎太郎おかしいし、帰るのには賛成だけど……

 どうしたの?急に」


 僕は突然の質問に首を傾げた。

 雄二は僕が質問の意味が分かってないことに気づいたのか、はっとして詳しく質問の内容を言う。


 「いつも慎太郎自分のこと俺って言ってんじゃん。

 なんで急に僕になったの?」


 「あー、確かに」


 確かに前世の記憶を取り戻すまでは自分のことを俺って呼んでいた。でも今は僕って呼んでいる。それに気づけた。

 直感的に転生したと感じていたが、このことは僕が転生したということを、事実としてはっきりさせてくれる。

 もし転生ではなく、後から魂だけがこの慎太郎の身体に入ったのだというなら、慎太郎の記憶はなく元の高校生時代の記憶だけがあるはずだ。

 だから、僕は間違いなく転生している。

 異世界転移でもなく、魂だけが異世界の人間に乗り移ったのでもなく、異世界転生。

 前世の世界でも異世界転生の物語は沢山あった。でも、僕が転生したのは中世ヨーロッパの街並みが広がる場所じゃない。森の中でもない。

 ”未来の世界”

 未来とは違うかもしれないが、科学が前世よりも進んでいる。

 空を飛ぶ車、色々な施設にあるワープポイント、さっきまで遊んでいたホバーボード。見慣れているが、見慣れていない妙な感じ。

 僕はこれからこの世界で生きていくのか……。

 いや、これからも、か。


 「慎太郎…またなんか考えてるし…」


 雄二がかまってもらえない子犬のような顔をしてこっちを見てきた。


 「あ、あぁ。ごめん。考えこんじゃった」


 「別に謝らなくていいけどさー。本当に大丈夫なの?」


 「うん、大丈夫そう。

 でも、大事をとって今日はもう帰りたいな。

 空も赤くなってきたし」


 地面を見ると、僕たちの影が大分長くなっていた。

 日が暮れて、空に浮かぶビル群がオレンジ色の暖かい光を帯びていた。

 この世界の僕はこの風景が当たり前だと思っていたけど、前世の記憶を思い出した僕からしてみると全然普通じゃない。

 周りも見渡すと、空には浮かぶ建物があり、空を飛ぶ車もある。この広い公園のところどころにワープポイントがある。

 本当に圧倒されるな。


 「慎太郎、帰らないの?」


 「あぁ、そうだった。帰るか」


 家まではホバーボードでひとっ飛びだ。

 雄二に声をかけ、ホバーボードに乗る。


 「じゃあね」


 「うん。病院行くんだよ!」


 「わかってる」


 僕と雄二の家は逆方向なので、手を振って別れた。




 地上3メートルを、ホバーボードで進みながら考えた。

 前世でトラックにはねられて僕は死に、転生した。

 僕以外の撥ねられた人はどうなんだろう。

 転生するのかな。もしかしたら、この世界にも転生した人いるかもしれない。

 いるんだったら会ってみたいな。会って話を聞きたい。


 「おっと、あぶね」


 深く考え込んでいて周りが見えていなかった。

 他のホバーボードにぶつかりそうになってしまった。

 ホバーボードはただの遊び道具ではなく、大人も使用する立派な移動手段だ。不注意でぶつかる事故もあり、最近はそういった事故も増えてきているらしい。

 

 あ、そういえば。今朝ママが、今日の夕飯は豪華だから早く帰ってきなさいって言ってたな。ちょっと早めに帰ろ。

 少しくらいならスピード上げても大丈夫だろ。

 今さらだけど、ママって呼ぶのなんかおかしな感じするなぁ。前世では母さんって呼んでたし。でも、それこそ今さら母さんって呼ぶのもおかしいしな……。

 まぁいいや、家に急ごう。

 ママは豪華って言ってたけど、今日の夕食なんだろな。



 ドガァァァアアアアンッ!!!!


 ホバーボードが爆発した。

 体が宙を舞う。

 地上3メートルを飛んでいたので、地面に頭を強く打ち付けた。

 ぶつかった衝撃は感じたが、痛みは不思議と感じない。

 足がものすごく熱い。

 体がピクリとも動かないので確認することはできないが、足がすごいことになっているのは容易に想像できた。なにせ爆発に巻き込まれたのだから。

 足の熱さとは裏腹に、頭は芯から冷えきっていて、冴え渡っている。

 この感じ、久しぶりだ。


 少し経つとだんだんとボーっとしてきた。

 サイレンの音がくぐもったように小さく聞こえる。

 救急車が空から近づいてくるのを目の端にとらえ、僕は目を閉じた。







 体がふわふわするー……。


 この感覚は二回目だ。


 あっけなく死んだなぁ。


 僕はまた転生するのだろうか。


 それとも次こそは天国にいけるのだろ――――――――――





 ………………弾かれた。















 俺は闇に生きる暗殺者、トム・アーキングだ。

 この暗殺という仕事を始めてから早30年という年月が経った。この業界で俺の名を知らねぇやつはいねぇと断言できる。

 まぁ、だからと言って誇れることではないがな。

 人間としてやってはいけないことをしてきた自覚はある。子の前で親を殺したことも何度もある。

 

 はぁ、最近感傷的になっちまうな。そろそろ俺も潮時か……。

 この歳になってよく聞かれることがある。暗殺は楽しいかって聞かれるんだ。

 俺はそれを聞かれるたびに思う。楽しいわけあるか!仕方なくこの道を歩き、ずるずると続けちまっている。

 俺の人生の楽しみなんて2つしかねぇ。

 酒とタバコだけだ。

 

 酒はいい……。夜飲んで朝起きたら嫌なこと全部忘れてる。

 タバコもだ。心のもやっとしたもんがタバコの煙とともに、ふっと消えるんだ。


 俺はタバコに火をつけ、暖炉の近くのソファーに座った。

 暖炉の暖かい光が人のシルエットを映し出している。


 「ふぅ~~~、今日もタバコはうめぇなぁ」


 俺はタバコを暖炉の中へと放った。

 タバコがチラチラと燃える。







 ――――――――弾かれた。




















 ある円形闘技場でのこと……




 僕はたった今前世の記憶を思い出した。

 

 はぁ、でもなんで今思い出しちゃうかな。

 まぁ、何度も何度も転生を繰り返してきた経験から言って、僕はもう少しで死ぬんだろう。

 もう30回以上転生してきたが、そのすべてに共通するのが、死ぬちょっと前に記憶を取り戻す。逆に言えば、記憶を取り戻してからちょっとすると死ぬ。

 

 僕は今13歳。奴隷だ。

 目の前には気持ちの悪い猛獣。闘技場は観客の熱狂の渦に包まれている。

 そう、僕は戦わされているのだ。

 記憶を取り戻したということは、多分こいつに殺されるんだろう。


 猛獣は乗用車くらいの大きさで、強いて言うならリスみたいな見た目をしている。だがリスのような可愛らしさはこれっぽっちもない。2本の小さな角を持っていて、体全体から粘液を分泌している。よだれがダラダラと垂れた口元からは、薄黄色の鋭い牙が顔をだしている。


 本能的に助けを求めようとして、周りを見ると、これまた気持ちの悪い目で沢山の人々が僕のことを見下ろしていた。

 今まで転生してきた中で一番最悪かもな。

 生まれた時から見世物にされるため飼われ、汚い場所に置かれる。それも全部、今この場にいる僕以外の人間のため。

 周囲では猛獣が現れてから、ずっと歓声が上がっていて、その声に押されるかのようにジリジリと猛獣が近づいてくる。


 これはもう死んだな…………。

 もうすぐ死ぬことはわかっていたけど、でもやっぱり悔しい。

 猛獣が近づいてくるにつれ、猛獣に向けられた声援も大きくなっていく。そしてその声援がまた猛獣の足を速めているような気がする。


 「早く殺れーー!!」


 「頭をかみ砕けーーーー!!!」


 周りが一層騒がしくなる。


 うるさいなぁ。

 本当にうるさい。

 なんでこんな腐った人間ばかりなんだろう。

 一体僕が何をしたっていうんだ。

 はぁ…………。

 こんな気持ちになるくらいなら今すぐに死んだほうがマシかもな。

 でも、だからこそ、死にたくない。こんな気持ちにしたやつに、死ぬような思いをさせるまでは死ねない。

 そして、転生をなんどもしてきて気づいたんだが、命を粗末にしてはいけない。

 また記憶を取り戻したときにもっと辛くなるのは自分だった。

 ふぅ……………………、足掻くか。


 「やあぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」





 

 頭を一噛み。



 はぁ、もう死にたくないなー……







 

 ―――――――――――――弾かれた。
















 俺は今ものすごい悔しい。

 14歳になって初めて人を好きになった。

 だけど、その女の子には振られてしまった。


 「俺もギフトが分かればなぁ」


 『ギフト』それは神に与えられた力。この世界の人間は生まれた時から『ギフト』を所有している。『ギフト』の種類は無限ともいわれている。


 ・炎を手のひらから出す力

 ・金属を溶かす力

 ・瞬間移動

 ・透明化

 ・サイコキネシス


 このようにみんなが異なった能力をもっているのだ。  

 『ギフト』の力を使う方法はただ一つ。

 どんな能力を使うか強く念じることだ。

 自分で使おうと思わないと使えないし、『ギフト』の内容を調べる手段もないので、地道に、


 「水よ出ろ!俺の本、目の前にいでよ!高くジャンプ!!見えざる刃!!!はぁ……」


 こんな風に、能力を使おうと思いながら色んなことを試していくしかない。

 一生『ギフト』を使えずに死ぬ人もたくさんいる。


 俺も『ギフト』が使えればなぁ。あの娘を振り向かせることができたかもしれないのに……。

 まぁ、地道にやっていくか。


 「コンビニいってジュース買ってこよーっと」




 あの猫かわいーなー。


 俺は家からコンビ二までの道の途中にある、ペットショップに目をやった。

 猫いいよなー。飼いたいなー。でもお母さんダメっていうだろうし。まぁ、仕方ないか。

 俺はペットショップから目を離し、再びコンビニへと足を進めた。


 しばらく歩いていると後ろから黄色い声が聞こえてきた。すぐ後ろにカップルが歩いている。


 さっきからイチャイチャしやがって。

 つい最近失恋したこっちの身になってくれよ。


 「ほら見ててよー。よっと、はい、君のためだけに出した宝石だよー」


 「わ~、すご~い。キレーだねー」


 すぐ後ろを歩いているカップルの彼氏のほう。会話から察するに、宝石をだすことのできる『ギフト』を持っているんだろう。

 なにか条件があるのかもしれないが、当たりの『ギフト』だ。


 「やっぱりユートはすごいねー。

 ユートの彼氏で本当によかったよ。ちゅっ」


 「こんな場所で、恥ずかしいなぁ~」


 うわぁ、間近で聞いてるこっちが一番恥ずかしいわ。

 すぐ前に人いるだろ!ほんとに場所を考えろ!

 最近頭痛もするし、イライラさせるなよ。

 もし、俺に人を爆発させる能力があったら、リア充爆発しろって言って、爆発させてやれるのに。

 まぁ、あってもしないけど!というかできん!

 肝心なとこで踏みとどまってしまうのが俺の悪いところだ。

 もし俺が二重人格で、もう一つの人格の方がこいつらをやってくれればなぁ。

 

 「俺に眠りし闇よ。もう一人の僕よ。その有り余る力をもって、後ろの二人をどうにかしてくれ」


 少し経って後ろを見てみたが、何も起こらない。ただ、俺のことをぎょっとした目で見ていた。

 

 何も起こらない。 

 まぁ、だよな。起こるわけがないし、起きたら起きたで困る。

 もし、本当にそんな『ギフト』が俺にあったら、二人を殺していたかもし−––−−。


 

 

 「…………やろうかぁ」


 

 目の前が明るくなった時、そこには血が広がっていた。





 ーーーーーーーーーーーーーーーー



 「『ギフト』の不正使用および、殺人の罪により、被告人を死刑とする」


 死刑が決まった。

 『ギフト』を使用しての犯罪は、使用していない罪よりも数倍重くなる。

 神への冒涜だといわれ、死刑になることも多い。


 「いって…!!」


 鋭い痛みが頭を走る。


 ……はぁ。

 ……思い出した。





 死刑が執行された。



 ふわふわする。

 この感覚も何度目だろうか。

 正確な数字は分からないけど、500はとっくに超えてるはずだ。

 いつまでこんなことを繰り返すのか。

 もう死にたくないよー。

 どうせまた転生だろ。

 つらっ。





 ――――――――弾かれた。

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