遠い決意 【月夜譚No.143】
商店街の福引きで、豪華寝台列車の旅が当たった。特賞なんて当たるとは思ってもみなかったので、大当たりのベルの音と偶々居合わせた客の歓声の中、暫く放心してしまった。
それにしても――と、手の中にあるペアチケットを見下ろして、彼は思案する。
正直、こんな豪華な列車の旅に一緒に行くような友人は持ち合わせていない。実家の両親にプレゼントしても良いが、こういうものには興味がない二人だ。
遠回りをしてそんなことを考えるが、実は真っ先に思い浮かんだ顔は、たった一人の女性だった。それを自覚して、顔が熱くなる。
ポケットからスマートフォンを取り出して、メッセージアプリを開く。その人のアイコンを見て、手が止まった。
別に、やましい思いなんてない。偶々チケットが当たったから、一緒に行く人がいないから、試しに訊いてみるだけで――。頭の中で言い訳が交差して、思考がこんがらがって、半ばパニックに陥る。
深呼吸をして心を落ち着け、とりあえず、誘いの文句を打ち込む。
そして、送信ボタンを押そうとした親指が止まる。ただタップするだけ――それだけが、今の彼には難しいことだった。
頭を抱え、画面を見つめ――彼が寝落ちて触れた指が送信するまで、それが繰り返されるのだった。