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第9話 フツー

「だから、中間テストが近いからだろ。香月ちゃんもそう言ってんじゃん」

「いや、でも……」

「俺はお前が何をそんなにパニクってるのかが分かんねぇよ」


 鬱陶しそうに言ってから、「一応、言っとくがな」と遊佐は箸でウィンナーを掴んだまま、フッと不敵な笑みを浮かべた。


「うちは公立では県北トップの進学校だからな。この辺りの奴からしたら、俺ら皆、頭良いことになってんだよ」


 赤点ギリギリだ、とかさっき言ってた奴がそんなことを誇らしげに言っても、なんとも惨めにしか聞こえないんだが……。


「何が言いたいんだ?」と不信感たっぷりに目を薄めて遊佐を睨みつけると、「だから」と面倒臭そうに遊佐は語気を強めて言う。「香月ちゃんがそうやって、お前に勉強のことを聞いてきたって不思議じゃねぇだろ、て話だよ。勉強のことで何か悩んでんじゃねぇの? お前に相談したいことがある、とかさ」

「ああ……」

「なんだよ、そのはっきりしない返事は?」と、さっきまで貼り付けていた気取った笑みをぐしゃりと崩し、遊佐はうんざりとした顔で俺を睨みつけてきた。「今まで、香月ちゃんと勉強の話とかしたことねぇの?」

「勉強の話は、あんま……無ぇな。そりゃ、試験前はそろそろ勉強しないとな、とか話すこともあったけど」

「じゃあ、いつも通り、てことじゃねぇか」

 

 舌打ちでもしそうな勢いで雑に言い捨て、


「何を悩んでんだか、さっぱり分かんねぇわ。そんなフツーのLIMEで」


 ウインナーを一口齧る寸前、腹立たしげに遊佐が放ったその言葉が、胸にぐさりと突き刺さる。

 思わず、言ってしまいたくなった。――だからだよ、て。

 がつがつと弁当を食い始めた遊佐をよそに、俺は再び、スマホの画面に視線を落とす。

 遊佐の言う通り。フツーなんだ。いたって普通だ。あまりに普段通りすぎて……だから戸惑ってるんだ。

 どんなLIMEが来るのかと震え上がっていたのに。いざ、連絡が来てみたら、いつも通りの香月らしい他愛もないLIMEで……。タックルされると思って身構えてたら、抱き締められちゃった、みたいな――もちろん、そんな経験はホッケー時代に一度もないが――思わぬ不意打ちを食らったみたいだった。ただただ困惑して、どう反応したらいいかも分からなかった。

 それで……護は? ――なんて考えてしまう。

 昨日、護に口説かれたんじゃ無いのか? GW中には香月を落とせそうだ、とまで護は言ってたんだぞ。こんなLIMEが来たってことは……何もなかった、てそう考えていいんだろうか。何か事情が変わって、護は香月に何も言わなかった? そもそも、昨日、香月は夕飯も氷上練習も行かなかった?

 分からない。分からないけど……。

 とりあえず、ホッとしていいんだろうか。今のところは――。

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