表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/112

第7話 連絡

「聞き違いかもしれませんし、ただの冗談かもしれませんよ!?」


 そう絢瀬は何度も念を押すように繰り返した。

 いくら俺の恋路の行く末を心配に思ってくれていたとはいえ、護の発言を俺に言う気などさらさら無かったのだろう。あたふたと動揺して狼狽え、「こういう告げ口みたいなこと、するつもりなかったんです」と口を滑らせたことをひどく後悔している様子だった。

 それでも、あそこまで聞いてしまっては、俺も引き下がれるわけもなく。問い詰めるようで気は引けたが、詳しく聞かせてほしい、と絢瀬に迫った。

 口を滑らせた負い目もあったのだろう。予鈴も鳴り終わり、早く教室へ戻らないと……という焦りもある中、絢瀬は渋々といった様子で話してくれた。

 俺と香月が部屋を出たすぐあとのことだったらしい。

 ちょうど、倉田くんと梢さんが中断していた歌を再開し、護の隣に――香月が去って空いたスペースに――絢瀬が腰を下ろしたとき。カブちゃんが護に、香月を誘ったのか、と訊いてきて、それに答えるかたちで護が軽く笑って言ったらしい。――GW中には口説き落とせそうだ、と。

 密かにギョッとする絢瀬をよそに、カブちゃんが、そうか、と満足げに相槌打って、その話は終了したのだという。

 ――と、そこまで端的に話し、「でも」と絢瀬は必死に縋るような面持ちで付け足した。


「もし、本当にGW中に香月さんと日比谷くんが付き合うことになったんだとしたら、絶対、センパイに連絡来てます! だから、何も連絡ないなら、《《そういうこと》》にはならなかった、てことですよ。だから、気にしないでくださいね!?」


 そう……なのかもしれない、とは思った。

  便りがないのは良い便り――とは、少し意味合いが違うかもしれないが。何の連絡も無い、てことは、特に何も起きなかった……て考えてもいいのだろう。

 ただ……一つ。絢瀬は知らないことがある。

 香月が護に誘われ、氷上練習を見に行くことになったのは八日。GW最終日である昨日の夜だ。

 つまり、《《まだ》》連絡が来てない、てだけなのかもしれない。これから報告がある可能性だって十分考えられるわけで。


 しんと静まり返った教室に、お経でも唱えるかのように、淡々と古文を読み上げる初老の教師のしゃがれた声が響いていた。そんな中、俺はひっそりと深呼吸して、ちらりと机の下でスマホの画面を見る。

 絢瀬と別れ、教室に戻ってから今まで、何度、スマホを確認したか分からない。

 いつ、香月からLIMEが来るのか、と気が気じゃなかった。

 そういえば、GWに入ってから『お土産何がいい?』てLIMEが来て、何回かやり取りをしただけで……それ以来、なんの連絡もない。

 今まで、毎日連絡を取り合っていたわけじゃないけど……それでも、やっぱり物足りない感じがして、今どうしてるんだろう、なんて気になってしまう。そうして香月からのLIMEを恋しく思いながらも、どんな文面が来るのかと戦々恐々としている自分がいた。

 いきなり、『大事な話があるんだ』とかパッとスマホの画面に出てきたら、心臓が止まる自信がある。

 いや、小さいわ。肝も器も小さいわ。情けなくて、いっそのこと、ミジンコみたいに身体も縮んでしまえばいいのに、なんて自嘲が溢れた、そのときだった。

 机の下でぱっとスマホの画面が明るくなって、そこにLIMEの通知がポンと浮かんだ。

 予期していた通りというか、恐れていた通りというか。

 香月からだった。

 ぎくりとして息を呑む間もなく、勝手に目がそのメッセージを瞬時に読み取って――俺は思わず、「は?」と惚けた声を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ