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第12話 陸太くん

「へ」と目を丸くして振り返った香月に、俺はぎこちなくなりながらも笑って見せる。

「小一から一緒だったのは、あとはヨシキだけだろ。せっかく、皆で集まるなら、ヨシキも呼びたくね?」

「ああ……」どこか気の抜けた生返事をして、香月は戸惑いながらも「確かに」と笑った。「ヨシキにも会いたい」

「どこにいるんだろうな。護たちなら分かるかな」


 ぼんやり言うと、


「北海道だって」


 すんなりと隣で香月が答えた。


「ほ……北海道!?」

「護が言ってた。ヨシキ、今、北海道の高校でホッケーやってるんだって。寮で一人暮らしして」

「マジか……」


 信じられん。

 ヨシキといえば、俺らと一緒に小一のときにヴァルキリーに入った奴だが……どこか不真面目さのある、のらりくらりとした奴だった。ホッケーにもそこまで真剣に取り組んでいる様子はなくて、練習中よりも俺らとふざけあっているときのほうが全力で、そのためにクラブに来ている感じさえあった。

 多分、俺らの中で一番、ホッケーに興味がなさそうだった奴で……だから、意外だった。そんな奴が、日本のアイスホッケーの本場と言える北海道の高校にわざわざ進学して、ホッケーやってるなんて。


「中学に入ってから、いきなり目覚めたんだって」と香月はクスリと笑って言う。「急にやる気になったと思ったら、あっという間にうまくなったんだ……って、護が呆れながら言ってたよ」

「へえ……」と、つい、感心したような声が漏れていた。「か……変わるもんだな」


 人ってのはほんと分からないもんだ、と感動さえ覚えていると、


「毎年、お盆休みには帰ってくるらしいよ。だから……会えるとしたら、そのときかな」


 そう続け、香月は躊躇うような間を開けた。それから、ちらりと俺を心許なげに見つめ、


「ヨシキに言うときも、また……傍にいてくれる? カブちゃんのときみたいに」


 不安げに頼ってくるようなその声に、ずくんと胸が疼いてしまう。それだけで必死に引き締めていた気も緩みそうになって、うっかり、胸の奥に押し留めた気持ちがあふれそうになる。今にも「好きだ」なんて言葉が口からこぼれてしまいそうで……俺は慌てて、「任せとけ」と笑って見せた。

 そして、覚悟に楔でも刺す思いで、


「友達だろ」


 と言い添えた。

 

 護が具体的にどうしようとしてるのかなんて俺にはさっぱり分からないけど、デートに誘ったことは間違いないわけで。関係を進めたい、て……一線を越えたい、て思っていることは確実だ。香月もそのうち、護の気持ちに気づくんだろう。そんなときに、俺まで『好きだ』なんて言い出したら……。

 考えただけでもゾッとする。

 俺と護が自分を巡って揉めるなんて、香月にとっては悪夢でしか無いだろう。きっと苦しめる。その先には、もう『皆』も無い。香月が大事にしてきた『良い思い出』だって台無しにしてしまうかもしれない。

 そんなことを香月にしたくなかった。

 だから……香月のために『いい友達』でいよう、と思った。たとえ、フリだろうと――。


「ありがとう」


 しばらく何も言わずに俺を見つめ、香月はふっと力なく笑んだ。懐かしむようで切なげな、嬉しそうでいて呆れたような、どこか翳のある笑みを浮かべ、


「変わらないね、陸太は。ずっと……『()()()()』のままだ」


 そう静かに呟いた。

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